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道路土工構造物技術基準の改定〜「令和6年能登半島地震による被害を踏まえた対応」及び「性能規定の充実」〜

はじめに

道路土工構造物は、様々な技術進歩により大型化や多様化が進み、安全性に関する明確な基準の必要性の高まりを踏まえ、平成27年3月に、道路土工構造物の新築又は改築に関する一般的技術基準である「道路土工構造物技術基準(以下「技術基準」という。)」が道路法に基づき制定され、既存の指針等は、技術基準の記述に基づいて適宜読み替え等を行い活用されるものと整理された。
技術基準及び各指針類の体系を図- 1に示す。

図-1 技術基準と各指針類の体系
図-1 技術基準と各指針類の体系

 
今回、道路機能を確保する観点からの性能規定の充実や令和6年能登半島地震による被害を踏まえた対応を目的として、令和7年6月26日に本技術基準を改定した1)
本稿では、本技術基準の改定に至る検討経緯及び概要について紹介する。
 
 

1. 技術基準改定の目的

従来の技術基準(以下「旧基準」という。)は、道路土工構造物の技術基準として初めて制定されたものの、設置目的、構造形式及び配置が異なる複数の土工構造物(盛土、擁壁等)の組み合わせにより道路土工構造物として一括りに構築されている場合、構造物ごとに求められる性能やその具体的な性能照査の方法が明確でないという課題があった。
さらに、令和6年1月1日に発生した令和6年能登半島地震(最大震度7、マグニチュード7.6)により、橋梁、トンネル、土工等の各道路構造物に様々な被災が生じた。
これら各道路構造物の被災状況を踏まえ、旧基準の妥当性を覆す事象や新たな知見は確認されなかったものの、今回の地震被害により、現場で生じている課題に対応するため、技術基準の充実や整備が必要となった。
 
以上より、同年3月26日の社会資本整備審議会道路分科会 道路技術小委員会(以下「小委員会」という。)において、能登半島地震を踏まえた道路構造物の技術基準の方向性が審議され、その後、同年7月22日の小委員会で対応案、同年12月25日の小委員会で改定案が審議された2)
 
 

2. 道路土工構造物の技術基準の方向性

令和6年能登半島地震を踏まえた道路土工構造物の技術基準の方向性は、以下のとおりである。
 

1) 能越自動車道(土工)

○旧基準の妥当性を覆す事象や知見は、現時点では確認されていないが、今回の地震被害も踏まえ、次の事項を含めて技術基準の充実や整備を検討すること。
 

  • 地形と地質、過去の被災に対する対策履歴、被災リスクを踏まえ、構造物の形式及び配置、また排水等の対策に配慮すること。
  • 要求する性能を確実に達成するために、より具体性のある設計、施工、維持管理に関する技術的事項を充実すること。

 
○土工の耐震設計に当たっては、旧基準を基本とするが、既存盛土に対しては、重要度に応じ、適宜、修復性も含めた道路機能に係る性能確保に配慮し、計画的に耐震性の照査や必要な対策を検討すること。
○土工構造物の形状・材質の多様性及びそれらの時間経過による変化を鑑み、多くの不確実性を内在していることを前提として、過去からの災害より得られる知見を通じて、技術基準の継続的な改善を図ること。
 

2) 国道249号沿岸部(土工)

○被災規模が大きく、その形態が多様であることから、被災メカニズム等について更なる調査分析を進めた上で、技術基準への反映に当たっては次の検討をすること。
 

  • 被災規模が大きい一方で、道路構造による対策には限界があるものもあり、道路構造物の技術基準で達成すべき事項と路線計画の段階で配慮しておくべき事項の整理を行うこと。
  • その上で構造物を配置する場合は、残存する被災リスクの軽減策について検討すること。

 
 

3. 技術基準の主な改定概要

1) 令和6年能登半島地震による被害を踏まえた対応(現場で生じている課題に対する具体的な対応方策)
(1) 道路土工構造物の設計初期段階における配慮事項の明確化

【課題】

  • 道路周辺の地形(地すべり、沢筋が複雑に存する集水地形等)、地質等に起因した災害に伴い、道路機能の損失に至るケースが発生(写真-1、2)。
写真-1 地すべりの影響を受けた道路
写真-1 地すべりの影響を受けた道路
写真-2  平成19年復旧箇所を含む令和6年盛土崩壊事例(複雑な集水地形かつう回路の確保が困難な橋台取付部)
写真-2  平成19年復旧箇所を含む令和6年盛土崩壊事例
(複雑な集水地形かつう回路の確保が困難な橋台取付部)

 
【改定内容】

  • 道路土工構造物の設計初期段階において、道路機能確保のための配慮事項(周辺地形、地質、地域の防災計画並びに連続又は隣接する構造物等の計画との整合性等)を考慮した道路土工構造物の配置の検討及び構造形式の選定を規定(図- 2)。
    (例) 集水地形、う回路の確保、路肩幅の確保等を考慮した道路土工構造物の配置の検討及び構造形式の選定
図-2  活用可能な情報・技術等(3次元点群データによる微地形表現図(例))
図-2  活用可能な情報・技術等
(3次元点群データによる微地形表現図(例))

 
【期待される効果】

  • 災害リスクの高い地形、地質等においても、連続又は隣接する構造物等の計画や地域の防災計画等に整合し、道路機能の損失が限定的になることが期待される。

 

(2) 地質及び地盤等の不確実性への対応の明確化

【課題】

  • 道路土工構造物における主測線方向(一般的な標準断面)と異なる方向で盛土崩壊が発生。
  • 事業の初期段階で複雑な地盤の性状を把握することが困難な道路土工において、各段階で地質・地盤等の不確実性を低減し、随時見直す考え方が規定されていないため、実務上、適切な対応が取られず、被災又は不具合が発生した事例が認められた。

 
【改定内容】

  • 設計の際には地形、水理、過去の災害履歴等を考慮して、荷重の組み合わせは、想定する範囲内で同時に作用する可能性が高い荷重の組み合わせのうち、最も不利となる条件を考慮して設定。
    また、荷重は、想定する範囲内で最も不利となる条件を考慮して作用させることを規定(図-3)。
  • 道路土工構造物の適切な設計、施工及び維持 管理を行うために、事業の各段階で地質・地盤等の不確実性を低減することに資する必要な調査の実施を規定。
図-3 想定する範囲内で最も不利となる条件を考慮した荷重の作業の検討例
図-3 想定する範囲内で最も不利となる条件を考慮した荷重の作業の検討例

 
【期待される効果】

  • 複雑な周辺地形等の条件においても道路機能の損失が限定的になることが期待される。
  • 道路土工構造物の適切な設計や施工等が可能になることで、その性能が確保されることが期待される。

 

(3) 排水対策の明確化

【課題】

  • 令和6年能登半島地震において、排水対策が強化された箇所では軽微な被害に留まった事例が確認されたが、排水対策の強化に関する具体的な対応が明確となっていなかった。

 
【改定内容】

  • 雨水や湧水等を速やかに排除できる構造とするよう、原則として、表面排水施設及び地下排水施設の設置を規定(図- 4)。
    (例)谷埋め高盛土等の基礎地盤における 基盤排水層、のり尻排水施設、砕石置換等
図-4 排水対策が強化された輪島道路の例
図-4 排水対策が強化された輪島道路の例

 
【期待される効果】

  • 排水対策を強化することにより、道路機能の損失が限定的になることが期待される。

 

2) 道路機能を確保する観点からの性能規定の充実
(1)性能規定の具体化(性能に応じた限界状態・照査)

【課題】

  • 道路の構造物設計は、それぞれ構造物ごとの要求性能及び設計方法を設定し実施しているが、旧基準では設置目的、構造形式及び配置が異なる様々な土工構造物が道路土工構造物として一括りになっており、具体的な性能照査の方法が明確になっていなかった。

 
【改定内容】

  • 道路機能確保の観点から要求される性能(構造物の健全性、道路機能への影響等)に応じた限界状態を、構造物ごと、また構造物の組み合わせに応じてきめ細かく設定(図- 5、6)。
  • 図-5  構造物ごとの限界状態のイメージ(一例)
    図-5  構造物ごとの限界状態のイメージ
    (一例)
    図-6  性能2に対する限界状態※のイメージ(盛土と擁壁の限界状態の組み合わせの一例)※ 道路土工構造物の損傷は限定的なものにとどまり,当該道路土工構造物の存する区間の道路機能の一部に支障を及ぼすが,速やかに回復できる限界の状態。
    図-6  性能2に対する限界状態※のイメージ
    (盛土と擁壁の限界状態の組み合わせの一例)
    ※ 道路土工構造物の損傷は限定的なものにとどまり,
    当該道路土工構造物の存する区間の道路機能の一部に
    支障を及ぼすが,速やかに回復できる限界の状態。
  • 原則として、想定する作用によって生じる 道路土工構造物の状態が限界状態を超えないことを照査(性能照査の方法を規定)(図- 7)。
図-7  性能2に対する限界状態の例(配置計画及び損傷した場合の道路機能への影響に応じた限界状態の一例)
図-7  性能2に対する限界状態の例
(配置計画及び損傷した場合の道路機能への影響に応じた限界状態の一例)

 
【期待される効果】

  • 道路土工構造物の構造形式、配置計画、組み合わせ、損傷した場合の道路機能への影響等に応じた限界状態を設定することにより、適切な性能照査が可能になることが期待される。

 
 

おわりに

我が国では、これまで全国各地において、大規模地震により甚大な被害を受けてきたが、その都度、技術者たちは苦難を乗り越え、被災から得られた知見等に基づき、道路構造物の各技術基準の整備や改定がなされてきた。
それらの成果として、大規模地震に対しても、多くの道路構造物において甚大な被害を防ぐことができたのも事実である。
 
一方で、令和6年能登半島地震により、盛土の大規模崩壊や道路構造物間の耐震性能の違いや構造物のみでの対応に限界があることなど、新たな課題も確認された。
 
今回の改定後においても、これまでの経験と知見をもとに、更なる技術基準の改良と技術開発を進め、全国の道路構造物の一層の改善につなげていく。
 
 


<参考文献>
1)令和7年6月26日 報道発表資料
「道路土工構造物技術基準」の改定について
2)社会資本整備審議会 道路分科会 第21~25回道路技術小委員会
 
 
 

国土交通省 道路局 国道・技術課 課長補佐
谷本 尚久

 
 
 
【出典】


積算資料公表価格版2026年6月号


積算資料公表価格版2026年6月号

最終更新日:2026-05-20

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