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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 斜面防災 > ベースプレート式支柱を有する従来型落石防護柵の重錘衝突実験

 

はじめに

従来型落石防護柵は,ひし形金網とワイヤロープで構成される阻止面と,H形鋼の支柱を組み合わせた自立支柱式の落石防護柵であり,落石エネルギーが100kJ程度までの小規模な落石への対策工として,これまでに数多く採用されてきた(写真-1)。
一方,従来型落石防護柵の損傷事例として,落石衝突に起因する支柱基部の局部座屈による横倒れや,ワイヤロープのゆるみ,ひし形金網の破網等が報告されている※1
寒地土木研究所で実施した北海道における落石防護施設の損傷事例調査でも,支柱の腐食や変形が確認されており(写真-2,3),腐食等の環境作用による劣化に比べて,支柱やワイヤロープの変形や金網の破網等といった落石が原因と考えられる損傷の割合が大きいことも確認されている※2
既設の防護柵を効率的に維持管理するためには,こうした劣化や損傷状況に応じた適切な補修・補強方法を適用する必要がある。
 
従来型落石防護柵の支柱に着目すると,支柱は,一般的に土中コンクリート基礎やコンクリート製擁壁に埋め込まれている。
このため,新規に支柱を追加する場合や,劣化あるいは損傷した支柱を取り替える際には,コンクリート基礎や擁壁の一部除去を伴う工事等が必要となる。
その一方で,支柱をアンカーボルトで固定するベースプレート式の支柱を用いる場合には,コンクリートのはつり,切削等が不要で,供用環境等によっては,工期の短縮等も期待できる。
ただし,支柱の塑性変形によって落石エネルギーを吸収する従来型落石防護柵では,支柱が塑性変形するまでの荷重にベースプレートを固定するアンカー等が十分に耐えられなければならない。
 
本稿では,ベースプレート式の支柱を有する従来型落石防護柵の耐衝撃性能を検証するために実施した重錘衝突実験※3。の結果の一部を紹介する。
 

  • 従来型落石防護柵の一例
    写真-1 従来型落石防護柵の一例
  • 支柱の腐食
    写真-2 支柱の腐食

  • 支柱の変形
    写真-3 支柱の変形

  • 1. 実験概要

    1-1 試験体概要

    試験体は,柵高2m,延長9mの3スパンの規模でベースプレート式支柱を有する従来型落石防護柵である。
    試験体の主たる構成部材の一覧を(表-1)に,概要図を(図-1)に示す。
    端末支柱および中間支柱はH形鋼(SS400)であり,支柱間隔を3mとして設置されている。
    なお,本実験で使用した中間支柱では,支柱基部の亀裂の誘発を防ぐために,4φの吊り線用孔は設けていない。
    控え材は溝形鋼(SS400)を,1本の端末支柱に対して挟み込むように2本設置している。
    本実験では,試行として,ベースプレートとコンクリート基礎の固定には(根入れ深さ300mm)D25(M24)の樹脂カプセルアンカーを採用し,支柱1本当たり4カ所,控え材1本当たり2カ所でコンクリート基礎に固定している。
     
    阻止面は300mm間隔で配置した7本のワイヤロープと金網によって構成されており,間隔保持材として平板(SS400)を各スパンの中央に配置している。
    金網には線径3.2mm,網目寸法50×50mmのひし形金網を用いている。
    ワイヤロープの公称直径は18mmであり,ソケット式の索端金具を介して端末支柱に固定されている。
    なお,片方の索端金具は,ワイヤロープの張力を測定するために引付棒にひずみゲージを貼付し,曲げ変形が生じないように,ターンバックル,ジョーボルト,アイボルトを介して端末支柱に接続されており,また,ワイヤロープおよび金網は,Uボルトを用いて各支柱および間隔保持材に固定している。
    衝突実験の直前には,落石対策便覧※4に準拠して,ワイヤロープに5kN程度を目標に初期張力を導入している。
     

  • 支柱の変形
    表-1 試験体の主たる構成部材一覧

  • ベースプレート式試験体の概要図
    図-1 ベースプレート式試験体の概要図

  • 1-2 衝突実験概要

    衝突実験は,振り子式で重錘を試験体に水平に衝突させる方法を採用している(図-2)。門型フレームに吊り下げた重錘をトラッククレーンによって所定の高さまで吊り上げてから落下させ,試験体に衝突する際に重錘を吊り下げロープから切り離すことにより衝撃荷重を試験体に作用させている。
    重錘には,直径0.5m,長さ0.62mの円筒型で先端が丸みを帯びた890kgの鋼製重錘を使用した(写真-4)。
     
    重錘の衝突位置は,試験体の中央スパンの高さ1.4mの位置に設定し,重錘の落下高さは,重錘作用位置から6.0mの高さとしている。
    これは重錘の衝突エネルギーが,落石対策便覧※4の慣用設計法に準じて算定した試験体の可能吸収エネルギー52.2kJと同程度となるように設定したためである。
     

  • 重錘衝突実験の概要図
    図-2 重錘衝突実験の概要図
  • 鋼製重錘
    写真-4 鋼製重錘

  • 2. 実験結果

    2-1 ワイヤロープ張力

    ワイヤロープ張力の時刻歴応答波形を(図-3)に示す。
    なお,凡例は(図-1)に示しているワイヤロープ位置と対応しており,T-1であれば上段から1本面のワイヤロープを表している。
    また,波形の横軸は重錘が試験体に衝突した時刻をゼロとしている。
    重錘衝突に伴なって衝突位置近傍のワイヤロープT-2,T-3の張力が増加している。
    T-2の波形がやや不安定な挙動を示している点については,阻止面への衝突後重錘の回転や支柱の変形等が原因と考えられるが,本検討の範囲においては明らかにされていない。
    また,ワイヤロープの索端金具からの引抜けは生じなかったものの,実験終了時にはワイヤロープのすべり出しが認められた(写真-5)。
    落石作用時にワイヤロープが引抜ける場合や,ワイヤロープが引き抜けている状態で落石が作用する場合には,防護柵に期待されている捕捉性能を十分に発揮できず,落石災害に直結する恐れもある。
    このため,索端金具へのワイヤロープの取り付け部の扱いについては,この点に留意する必要がある。
     
    また,ワイヤロープの張力は,重錘衝突後の50ms程度で最大となり,落石対策便覧※4に参考として示されているワイヤロープの降伏張力118kNを越える張力が作用していることが分かる。
    慣用設計法による可能吸収エネルギー相当の落石が防護柵に作用する場合の端末支柱の設計においては,端末支柱にワイヤロープを介してこの程度の荷重が作用しうるため,この点についても留意しなければならない。
     

  • ワイヤロープ張力の時刻歴応答波形
    図-3 ワイヤロープ張力の時刻歴応答波形
  • 索端金具からのワイヤロープのすべり出し
    写真-5 索端金具からのワイヤロープのすべり出し

  • 2-2 損傷状況

    写真-6)に重錘衝突実験後の試験体の全景を示す。
    試験体中央付近の重錘衝突部において金網と間隔保持材が大きく陥没するとともに,2本の中間支柱が塑性変形していることが分かる。
    ただし,金網の破網は認められず,重錘が試験体を貫通することはなかった。
    このように,本実験の範囲においては,ベースプレート式支柱を有する試験体は,慣用設計法による可能吸収エネルギー相当の衝突エネルギーを有する重錘を捕捉することが確認できている。
     
    写真-7)に中間支柱の基部の損傷状態を示す。
    重錘衝突によって弱軸方向にねじれるように中間支柱が塑性変形していたものの,支柱基部に亀裂等は生じていないことが分かる。
    なお,中間支柱と同様に,端末支柱,控え材についても塑性変形が生じていた。
    ベースプレート式の支柱のようにリブプレートがある場合には,埋め込み式の支柱とは塑性ヒンジの形成位置が異なる可能性があるため,設計時には留意する必要がある。
    また,(写真-8)に示すように控え材のベースプレート部のすべりも確認されたものの,端末支柱や中間支柱においてはアンカーボルトの引き抜け等は認められなかった。
    実験終了後に支柱を撤去した後のアンカーボルトの様子を(写真-9)に示す。
    実験時に支柱に塑性変形が生じたにもかかわらず,支柱撤去後にナットを再装着できる程度にアンカーボルトの健全性は保たれており,本実験において試行的に実施したベースプレートの固定方法によるコンクリート基礎への固定(前述1-1参照)についても,慣用設計法による可能吸収エネルギー相当の衝突エネルギーを有する重錘が作用しても,十分な性能を有していたと考えられる。
     

  • 重錘衝突実験後の試験体の全景
    写真-6 重錘衝突実験後の試験体の全景
  • 中間支柱基部の変形
    写真-7 中間支柱基部の変形

  • 控え材のベースプレート部のすべり
    写真-8 控え材のベースプレート部のすべり
  • 基部の損傷状況
    写真-9 基部の損傷状況

  • おわりに

    本稿では,ベースプレート式の支柱を有する従来型落石防護柵の重錘衝突実験の結果として,ワイヤロープ張力および衝突実験後の損傷状況を示した。
    本実験で用いた部材構成の従来型落石防護柵では,慣用設計法による可能吸収エネルギー相当の衝突エネルギーを有する重錘を捕捉できることを確認できている。
    その一方で,重錘衝突時にはワイヤロープの降伏張力以上の荷重が端末支柱に作用しうることや,重錘が衝突したワイヤロープでは索端金具からのすべり出しが生じる可能性があることが示された。
    また,本実験による検証の範囲外ではあるものの,支柱基部は滞水しやすい箇所となりうるため,ベースプレート式の支柱を採用する際には,コンクリート基礎との接合部の耐久性についても注意が必要である。
     
     

    謝辞

    本研究における実規模衝撃荷重載荷実験は,寒地土木研究所の共同研究「落石防護網・柵の性能評価および補修・補強技術に関する研究」の一部として実施されたものであり,関係各位には本実験に際して部材提供等のご協力をいただきましたので,ここに付記し,感謝の意を表します。
     
     

    参考文献
    ※1 土木研究所耐震技術研究センター動土質研究室:平成9年度落石に関する実態調査報告書,土木研究所資料,第3556号,1998.
    ※2 中村拓郎,今野久志,山澤文雄,寺澤貴裕,西弘明:北海道における落石防護施設の損傷形態に関する事例調査,寒地土木研究所月報,No.786,pp.33-38,2018.
    ※3 中村拓郎,今野久志,高橋利延,小室雅人,岸徳光:ベースプレート式落石防護柵の重錘衝撃実験,土木学会北海道支部論文報告集,第76号,A-05,2020.
    ※4 日本道路協会:落石対策便覧,2017.

     



     
     
     

    国立研究開発法人 土木研究所 寒地土木研究所
    中村 拓郎
    今野 久志
    安中 新太郎

     
     
    【出典】


    積算資料公表価格版2021年6月号


     
     

    最終更新日:2023-07-07

     

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