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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 斜面防災 > 法面分野におけるICT活用の試み

 

はじめに

2015年度に国土交通省は,建設現場の生産性向上を目指し,建設工事における測量,設計・計画,施工,検査の一連の工程において3次元データなどを活用する「i-Construction」の導入を表明した。
この「i-Construction」の導入は,ICT土工から始まりICT舗装工,ICT浚渫工を経て2019年度にはICT地盤改良工,ICT法面工へと拡大しており,2021年度までには舗装修繕工,基礎工・ブロック据付工(港湾),構造物工へとさらなる工種の拡大と,これに伴う基準類が拡充されている。
 
本稿では,こうした「i-Construction」導入による生産性向上の取組みに対し,2019年に実施した法面工におけるICT施工の事例について紹介する。
(※国土技術政策総合研究所の登録商標)
 
 

1. ICT施工とは

ICT施工では,調査,設計・計画,施工,維持管理という実施プロセスの中から「施工」に注目して,各プロセスから得られるさまざまな情報を活用した高効率・高精度な施工の実現を目的としている。
ICT施工における各作業の情報化は,他のプロセスにも活用できるため,作業間連携を可能とし,また,施工プロセス全体の生産性向上や工期短縮,品質の確保,安全性の向上などにつながることが期待されている。
 
ICT施工の範囲は,機械の遠隔操作技術,観測・計測技術,ロボット技術,情報収集技術,情報蓄積・通信技術など工事施工の全般にわたっている。
これらは,基本となる技術標準・データ標準にのっとることが原則とされており,施工に伴う出来形管理や維持管理の効率化に関するものも含まれている。
 
具体的には,測量情報と計測機器などとの連動による建設機械の運転制御やネットワーク化による出来形および品質向上につながる一元的な施工管理などが挙げられる。
 
また,施工中における任意箇所での計測作業や帳票の作成,発注者による立会・検査業務の効率化なども該当する。
 
図-1にICT施工のイメージを示す。
 

  • ICT施工のイメージ
    図-1 ICT施工のイメージ

  • 2. ICT施工の取組み

    図-2に当社のICT施工の取組みを示す。
     
    地盤改良分野では,2015年に地中での施工結果を3次元可視化させた情報統合システム「3D-ViMa」,2016年には,地盤改良機などの施工機械を計画改良位置へ高精度で誘導する位置計測システムと施工情報の表示システムを統合して一元管理する「GNSSステアリングシステム」をそれぞれ開発した。さらに2017年には,高圧噴射撹拌工法で使用する地盤改良機などの施工機械から収集した施工情報を専用の施工管理装置に集約させる「ICT-JET」,2018年には,これらの成果となる「i-Construction大賞 i-Construction推進コンソーシアム部門」において,「3D-ViMa」と「GNSSステアリングシステム」の組み合わせによる「道路盛土直下の地盤改良工事におけるICTの利活用」の取組み事例が優秀賞を受賞した。
     
    法面分野においては,2015年に開発した機械化吹付システム「Robo-Shot」を皮切りに,2017年にはセメントサイロ,ミキサー,モルタル吹付機などをオペレーター1人で稼働させる自動吹付プラントシステム「Automatic-Shot」を2018年には,法面における苦渋作業の軽減,作業の効率化,安全性の確保などを目的として,40kg未満の菱形金網や鉄筋などを運搬する「UAVによる資材運搬システム」を開発した。また,無線による遠隔操作で削孔位置への削孔機誘導や削孔角度および深度などの施工管理を可能にした「リモートスカイドリル(バックホウタイプ)」の開発などに取り組んできた。
     
    2019年からは,人の立ち入りが危険な急斜面などにおいて,UAVによる写真測量および地上型レーザースキャナーなどで取得した3次元点群データを利用した施工管理の効率化と計測時における安全性向上の検証を重ねてきた。
     

  • ライト工業株式会社におけるICT施工の取組み
    図-2 当社におけるICT施工の取組み

  • 3.写真測量による吹付法枠工の出来形計測について

    先述の通り,当社のICT施工への取組みは,関連する事業分野である地盤改良分野と法面分野を中心に推進し,現在もこれに伴う基準類の拡充に必要な検証などを重ねている。
     
    特に,法枠工については,2020年度に3次元計測技術を用いた出来形計測要領に関する基準の改定が予定されていたため,これを満足するための要求精度や精度の確認方法および作業時の留意点などについて整理すると同時に,その検証が急務となっていた。
     
    一般的に,法枠工の出来形計測に用いられる3次元計測技術には,トータルステーション(以下,TS)もしくはノンプリズム方式TSなどの光波測距技術やRTK-GNSSおよび無人航空機による写真測量技術,地上型レーザースキャナーなどが挙げられる。
    しかし,法面が長大であり,起伏が著しい場合などには,TSを用いた光波測距方式やRTK-GNSS方式では,起伏による障害回避のためのプリズムおよび移動局の頻繁な盛り替えや据え付け直しが生じるなど作業効率の低下が否めない。
     
    そこで,法面の起伏や傾斜などに影響されにくいと考えられる空中写真測量(無人航空機)を用いた吹付法枠工の出来形精度の向上について,「空中写真測量(無人航空機)を用いた出来形管理要領(土工編)(案)」1)(以下,UAV要領)を参考に,独自に撮影方法を決定し,精度検証を行った。
    以下に,測定方法および測定基準などについて示す。
     
     

    3-1 撮影方法

    UAV要領には,写真の撮影方向に関する記述は明確に記されていない。
    しかし,傾斜や不陸などが著しい法面における撮影方法は,出来形精度を左右する重要な要素となる。
     
    UAV要領によると,「所定ラップ率,所定地上画素寸法を満足する飛行経路,飛行高度にて且つ出来形の地形面が露出している状況で撮影しなければならない」とされている。
     
    そのため,土工における出来形計測では,効率を優先し,土工面に対して直下方向となるように飛行して撮影する方法が一般的となっている。
    ところが法面の場合は,傾斜があるため,直下方向での撮影では法面の上端と下端で撮影距離に差が生じることとなる。また,起伏の大小およびオーバーハングなどによって不可視部が形成されている場合も少なくない。
     
    こうした点について勘案した結果,吹付法枠の出来形計測を可能とするデータの取得には,法面に「正対」して撮影することが最も適した撮影方法であると判断した。
     
     

    3-2 計測性能

    UAV要領によると,「空中写真測量(UAV)による出来形計測で利用するUAVおよびデジタルカメラは,地上画素寸法が1cm/画素以内を確保できる画素数を有しており,その測定精度は±5cm以内であること」とされている。
     
    吹付法枠工の出来形管理に求められる管理項目は,法枠長,法枠断面(梁高,幅),法枠延長などである。吹付法枠のような構造物で上記の管理項目を高精度で計測するためには,計測端を明瞭にできる画素寸法とすることが出来形精度向上には必須条件であると判断した。
     
    そこで,1cm/画素では3次元点群データとして復元した際に法枠のエッジが丸みを帯びてしまい高い精度での計測ができないことが予想されたため,地上画素寸法を0.5cm/画素以内として検証を行った。
     
     

    3-3 ラップ率

    UAV要領によると,撮影計画立案時の留意点として,「進行方向のラップ率は,実際のラップ率を確認しない場合は,最低90%以上で評価すること。
    実際のラップ率を確認する場合は,最低80%以上で評価すること。また,隣接コースとのラップ率は60%以上とすること。」とされている。
    しかし,法枠の内側に面する梁の上下左右面,いわゆる梁高となる部分は法面に対してほぼ直角方向となっているため,法面に対して正対方向から低いラップ率で撮影しただけでは梁の表面しか撮影できないこととなり,梁高の出来形として不十分なデータになる可能性が高い。
     
    そこで,進行方向のラップ率90%以上,隣接コースとのラップ率90%以上で検証を行った。
     
     

    3-4 標定点

    UAV要領によると,「空中写真測量(UAV)の計測結果を現場座標系に変換するために使用する位置座標である標定点は,計測対象範囲を包括するように外側標定点として撮影区域外縁に100m以内の間隔となるように設置するとともに,内側標定点として天端上に200m間隔程度を目安に設置する」とされている。
    しかし,吹付法枠施工箇所の外縁は自然斜面で,樹木の繁茂や用地境界となっている場合が多いことから,撮影区域外縁に所定間隔で標定点を設置できるケースは少ないと判断した。
     
    そこで,撮影区域の内周付近に100m以内の間隔で内側標定点だけを設けた際の空中写真測量の計測結果と測量の基準点および工事基準点を対応付けることが可能か検証を行った。
     
     

    3-5 検証結果

    上述した撮影方法や測定基準の適正性を確認するために,吹付法枠工の出来形管理項目である法枠長,法枠延長,法枠断面,法枠面積について,巻き尺やテープロッドなどによる実際の現場の出来形管理値2)(以下:実測値)およびこれらICT活用の効果について比較を試みた。
     
    各測定項目別の測定方法および測定基準について整理したものを表-1に示す。
     

  • 各測定項目別の測定方法および測定基準
    ※空中写真測量(無人航空機)を用いた出来形管理要領に示す測定方法および基準
    表-1 各測定項目別の測定方法および測定基準

  • ①法枠長(枠寸法)

    法枠長とは表-1に示すように,敷設された1枠における縦,横の寸法である。
    検証を行った現場の設計法枠長は縦1,200mm,横1,500mmである。
    写真測量による計測値と実測値を比較した結果,その差違は±10mm以下であった。比較結果を図-3に示す。
     

  • 法枠長比較結果
    図-3 法枠長比較結果

  • ②法枠延長

    法枠延長とは表-1に示すように,法枠敷設箇所における全体の法長(横断方向)および延長(縦断方向)を指す。
    起伏による法枠の変化点等に人を配置し,巻き尺を利用して複数人で計測する一般的な計測手法による実測値と写真測量による計測値を比較した。
    比較の結果,差違は±数十mm以内(±1%未満)であった。比較結果を図-4に示す。
     

  • 法枠延長の比較結果
    図-4 法枠延長の比較結果

  • ③法枠断面

    法枠断面とは表-1に示すように,金網型枠で造成された梁の幅および高さの寸法である。
    検証を行った現場の設計法枠断面は幅(W)200mm,高さ(H)200mmである。
    写真測量による計測値と実測値を比較した結果,幅(W)で±10mm以下,高さ(H)で±10mm以内となった。
    ちなみにラップ率80%としたときの差違は,幅(W)で±10mm以下,高さ(H)で最大-55mmであった。比較結果を図-5に示す。
     

  • 法枠断面比較結果
    図-5 法枠断面比較結果

  • ④法枠面積

    法枠面積とは,法枠敷設箇所全体の面積を指し,従前は巻き尺による三斜法にて算出していた。
    そこで,巻き尺による測定箇所と同位置で写真測量による計測値との比較を行った。
    併せて1枠ごとの面積を集計した結果との比較も行った。
    写真測量による計測値と実測値を比較した結果では,差違は-1%以内となった。
    これに対し,1枠ごとの面積を集計した結果では,実測値に対して約2%の増加が生じた。
    これは,法面を包括する三角形を法枠単位で細分化し,累積させたことによって生じた増加と推察される。
    比較結果を図-6に示す。
     

  • 法枠面積比較結果
    図-6 法枠面積比較結果

  • ⑤ICT活用の効果

    ICT活用の効果として,今回試行した3次元計測技術の導入による効率化について整理した結果,測量などの作業は従前の巻き尺などによる測量と比較して1/3程度まで短縮されたことが確認された。
    反対に,取得した3次元計測データの解析に要した時間については,従前に比較して1.7倍程度増加に転じている。
    今回実施したUAV写真測量(約1500m2当たり)による活用効果について整理したものを図-7に示す。
     

  • UAV写真測量の活用効果
    図-7 UAV写真測量の活用効果

  • 5. まとめ

    「i-Construction」の導入による生産性向上の取組みに対し,当社におけるICT施工の事例について紹介し,吹付法枠工に関する3次元計測技術を用いた出来形計測要領を満足するための要求精度や留意点などの整理と検証結果について取りまとめた。
     
    検証の結果,
     
    ①撮影方法は,法面に対して正対
    ②計測性能は,0.5cm画素以内
    ③ラップ率は,進行方向90%以上,隣接コース90%以上
    ④標定点は,撮影区域の内周付近に100m以内
     
    とすることで吹付法枠工の出来形管理(法枠長,法枠延長,法枠断面,法枠面積)が,従前の巻き尺などによる方法と差違を生じさせることなく効率的,かつ安全に実施可能であることが確認された。
     
    一方,こうしたICT技術の導入には,専門的な知識に加え,必要なデータを効率的に得るための経験や取得データの解析および結果の取りまとめが可能といった一定のスキルを有した人材が不足しているという課題も明確にした。
     
    そこで,全国の現場における計測作業や計測データの処理および解析などを専属的に行う「空間情報処理センター」を新設することで一元管理を試みている。ここでは,
     
    ①分業による現場負担の軽減,柔軟な対応
    ②専任技術者の解析による生産性の向上
    ③ICT施工に関するノウハウの蓄積
    ④高度化する解析技術への先駆的対応
    ⑤現場職員からの問い合わせ対応
     
    などの効果を得るとともに,人材育成にも取り組んでいく。
     
    当社では,引き続き,こうした社内体制の構築によって「i-Construction」の導入を推進し,専業分野における現場担い手不足の解消や作業の効率化に努めていく所存である。
     

  • ICT施工の全国展開に向けた取組み
    図-8 ICT施工の全国展開に向けた取組み

  • 参考・引用文献
    1)国土交通省:空中写真測量(無人航空機)を用いた出来形管理要領(土工編)(案),平成30年3月
    2)小島崇幸,平尾裕斗:UAVを用いた吹付のり枠工出来形計測の報告,土木学会誌,年次学術講演会講演概要集,Vol,75,CS9-42,2020.

     



     
     
     

    ライト工業株式会社 R&Dセンター
    平尾 裕斗
    宮川 充
    二見 肇彦

     
     
    【出典】


    積算資料公表価格版2021年6月号


     
     

    最終更新日:2023-07-07

     

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