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東京都における橋梁メンテナンスの取組み

はじめに

生活や社会経済活動を支える重要な都市基盤施設の一つである橋梁は、全国的に高度経済成長期を中心に整備されており、建設後50年以上を経過する橋梁の割合が急速に増加している。
東京都建設局(以下「都」という。)が管理する橋梁についても、全国的な傾向と同様に高齢化が進行しており、今後、一斉に更新時期を迎えることが懸念される。
これまでも、都では、全国に先駆けて昭和62年に橋梁点検要領を策定し、長年にわたり点検データを蓄積してきた。
さらに、これらのデータを活用し、劣化予測やアセットマネジメント手法による維持管理の高度化に取り組んできた。
これらの取組みは、計画的な維持管理を実践する先導的な試みであり、インフラの予防保全の重要性が広く認識される契機となった。
 
都は、こうした取組みを基盤として、平成21年3月に「橋梁の管理に関する中長期計画」を策定し、予防保全型管理への転換を進めてきた。
その後、令和3年3月に「橋梁予防保全計画」を策定し、さらに令和8年6月には「第二次橋梁予防保全計画」を策定した。
現在の橋梁予防保全計画には、これらの取組みを通じて蓄積された知見が活かされている。
 
本稿では、都における橋梁予防保全計画に基づく予防保全型管理の考え方と、インフラメンテナンスの取組みについて紹介する。
 
 

1. 管理橋梁の現状

1-1 管理橋梁の特徴

都が管理する橋梁は約1,200橋あり、使用材料や構造形式は多岐にわたる。
また、歴史的価値を有する橋梁や、長大橋、鉄道・道路を跨ぐ橋梁、交通量の多い幹線道路上の橋梁など、立地条件や利用状況もさまざまである。
 
このため、橋梁を「歴史的価値」「橋長」「桁下利用状況」「交通量」「周辺環境」などの観点から整理し、表-1に示す区分を行っている。
これらの区分は、橋梁ごとの特性を踏まえた点検・補修計画の検討や、維持管理方針の設定に活用している。
 
また、著名橋のうち、清洲橋、永代橋、勝鬨橋の3橋は、平成19年6月18日に、都道府県が管理する道路橋として初めて国の重要文化財に指定された(表-2)。
重要文化財に指定された橋梁の維持管理に当たっては、安全性や耐久性を確保することに加え、文化財としての価値を損なわないよう十分に配慮した対策を講じる必要がある。

表-1 管理する橋梁の区分
表-1 管理する橋梁の区分
表-2 国の重要文化財に指定された道路橋
表-2 国の重要文化財に指定された道路橋

 

1-2 橋梁の建設年次

管理橋梁の建設年次は、図-1に示すとおり、主に関東大震災からの復興期と、東京オリンピックを契機とした高度経済成長期の二つの時期にピークが見られる。
特に、高度経済成長期に建設された橋梁の割合が大きい。
このため、同時期に整備された橋梁の高齢化が一斉に進むことから、計画的な維持管理が重要となっている。
 
また、高度経済成長期以前に建設された橋梁は、既に供用期間が50年を超えている。
供用年数が50年を超える橋梁の割合は、令和8年4月時点で55%と半数を超えており、10年後には69%、20年後には8割を超える見込みである。
今後は、経年劣化による損傷の増加や維持管理費の増大が懸念される。
このため、管理橋梁の高齢化への対応が重要な課題となっている。
 
このような状況を踏まえ、都では、橋梁の状態を的確に把握するための点検を確実に実施するとともに、損傷や劣化が進行する前に対策を講じる予防保全型管理を推進している。

図-1 管理橋梁の建設年次分布
図-1 管理橋梁の建設年次分布

 
 

2. 管理橋梁の点検および予防保全型管理の概要

2-1 点検
(1) 概要

都は、一部の管理橋梁について昭和46年から点検を開始し、昭和62年には、全国に先駆けて「橋梁の点検要領」を独自に策定した。
以降、全ての管理橋梁を対象に、日常点検、異常時点検および5年に1度の定期点検を実施してきた。
一方、国においては、平成24年の笹子トンネル天井板落下事故を契機として、道路施設に対する5年に1度の定期点検が法定化された。
 
なお、図-2に示すとおり、国と都の点検要領では判定区分が異なる。
国の判定区分は道路法に基づく健全性の診断として、構造物の状態を全国共通の尺度で把握するものである。
一方、都の判定区分は、損傷の程度や措置の必要性をより詳細に整理し、補修の優先度や今後の維持管理方針の検討に活用するものである。
このため、都では、両者の判定区分の特徴を踏まえ、国の判定区分と都の判定区分を併用して判定を行っている。

図-2 国判定区分と都判定区分
図-2 国判定区分と都判定区分

 

(2) 定期点検結果の推移

昭和62年から実施している管理橋梁の定期点検について、都の判定区分による総合健全度割合の推移をみると、点検結果に基づく措置を講じているものの、「判定区分C」および「判定区分D」の割合が増加している(図-3)。
 
このような点検結果を単なる状態把握にとどめず、補修の優先順位付けに活用することで、計画的な予防保全型管理につなげている。

図-3 都の判定による総合健全度割合の推移
図-3 都の判定による総合健全度割合の推移

 

2-2 予防保全型管理
(1) 概要

管理橋梁については、損傷や劣化が進行する前に適切な対策を講じる予防保全型管理を計画的に推進することで、事故の発生を未然に防ぎ、利用者の安全・安心を確保することが重要である。
 
また、高度経済成長期に建設された多くの橋梁は、既に建設後50年を超えており、近い将来、一斉に更新時期を迎えることが懸念される。
特に、歴史的価値を有する著名橋や、架替えに多大な費用を要する長大橋などについては、長寿命化事業を計画的に推進することにより、更新時期の平準化と総事業費の縮減が期待される。
 
以上を踏まえ、都は、令和3年3月に「橋梁予防保全計画」を、令和8年6月に「第二次橋梁予防保全計画」を策定し、予防保全型管理に基づくインフラメンテナンスを推進している。
本計画では、予防保全型管理を着実に進めるため、「グループA」と「グループB」の2つの維持管理区分に分類している。
 

(2) グループA(長寿命化事業)

グループAの橋梁は、予防保全型の維持管理を行いながら、建設時を上回る性能を確保し、延命化を図ることを目指している。
 
対象橋梁は、将来にわたり貴重な土木遺産として残すべき重要な橋梁(著名橋)や、架替え時に多額の費用を要し、周辺への影響が大きい橋梁(長大橋、跨線橋、跨道橋、主要幹線道路に架かる橋梁など)としている。
対策後は、適切な維持管理を継続しながら、100年以上使い続けることを目指す。
なお、長寿命化対策が完了した橋梁は、グループBの橋梁と同様に「定期点検に基づく補修事業」に取り組む。
 
長寿命化事業では、現行の道路橋示方書など、橋梁構造に関する技術基準に基づき性能照査を行い、対象橋梁が現在保有する性能を把握する。
その上で、目標年数までの延命化に必要な要求性能を満足させるため、特定部位の補強等にとどまらず、橋梁全体として照査・検討を行い、ライフサイクルコストの最適化を図る対策を講じる。
 

(3) グループB(補修事業)

グループBの橋梁は、グループAに含まれない橋梁を対象とし、予防保全型の維持管理を行いながら、建設時と同等の性能を維持することを目指すものである。
 
最新の定期点検結果を踏まえ、グループBの橋梁のうち、「国の判定区分Ⅲ」および「国の判定区分Ⅱかつ都の判定区分D」に該当する橋梁を対象に、建設時と同等の性能まで回復させることを基本とする。
 
なお、本事業は定期点検結果に基づく補修事業であるため、具体的な補修計画は、5年に1度実施する定期点検の終了後に見直すこととしている。
 
 

3. 長寿命化事業の現状と取組事例

3-1 長寿命化事業の進捗状況

長寿命化事業の対象となるグループAの橋梁は212橋である。
各橋梁の健全度は、5年ごとの定期点検結果に応じて変化することに加え、今後、長寿命化技術の進展も見込まれる。
このため、第二次橋梁予防保全計画における具体的な事業計画は、令和8年度からの10年間を対象としている。
 
なお、令和7年末までに153橋で事業に着手している。
 

3-2 長寿命化事業の取組事例

長寿命化事業における代表的な取組みとして、3橋の事例を紹介する。
いずれの事例においても、橋梁の構造特性や架橋条件、交通への影響等を踏まえ、必要な性能を確保しつつ、施工時の安全性や維持管理性に配慮した対策を講じている。
特に、既設橋梁を供用しながら対策を実施する場合には、限られた施工空間や時間的制約の中で、構造安全性を確保しつつ、交通や周辺環境への影響を最小限に抑える工夫が求められる。
以下では、部材取替え、床版取替え、支承取替えの各事例を通じて、長寿命化事業における具体的な施工上の工夫や留意点を示す。
 

(1) アーチリブ取替え

一級河川を渡河するアーチ橋において、橋台部周辺のアーチリブに鋼材腐食が確認されたことから、当該部材の取替えを実施した(写真-1、2)。
 
取替えに当たっては、アーチリブに仮支持材を設置し、ジャッキアップにより既設アーチリブに作用している応力を仮支持材へ移行させた。
その上で、切断対象部の応力を除去した状態で既設部材を切断し、新たなアーチリブに取替えた。
 
また、橋面の交通を規制せずにアーチリブを取替えるため、複数の補強材や鉛直材が配置された狭隘な空間内において、既設部材を損傷させることなく仮支持材を設置する必要があり、施工管理上、難易度の高い工事であった。
 
施工管理に当たっては、アーチリブに作用していた応力が確実に仮支持材へ移行していることを、応力測定装置により計測・確認した。
また、仮支持材の搬入前には、原寸大模型による設置試験を繰り返し実施し、既設部材を損傷させることなく施工箇所へ搬入・設置できることを確認した。

写真-1 施工状況
写真-1 施工状況
写真-2 工事完了後
写真-2 工事完了後

 

(2) 既設RC床版の鋼床版への取替え

主要幹線道路に架かり、鉄道を跨ぐ陸橋において、耐荷性能照査の結果、床版や主桁の一部で許容値を超過することが確認された。
このため、経済性、施工性、将来の維持管理性等を総合的に勘案し、既設RC床版を鋼床版に取替えた(写真-3、4)。
 
鋼床版はRC床版に比べて軽量であることから、取替えにより死荷重を大幅に軽減でき、既設桁の補強等を行うことなく、必要な耐荷性能を確保することができた。
 
なお、鋼床版への取替えに当たっては、1日5万台を超える交通量を有する現道に常設作業帯を設置し、4車線を2車線に規制する必要があった。
さらに、鉄道上空で行う工種の多くは、軌電停止後に限定されたため、実質的に1日当たり約2.5時間という厳しい施工時間の制約下で工事を実施した。

写真-3 既設床版撤去
写真-3 既設床版撤去
写真-4 鋼床版架設
写真-4 鋼床版架設

 

(3) 支承の取替え

主要幹線道路に架かり、都道および鉄道を跨ぐ箱桁橋において、支承の取替えを実施した(写真-5、6)。
 
既設支承は鋼製ピン・ローラー支承であり、レベル2地震動に対する対策は未実施であった。
ピン・ローラー支承は、ローラーを介して変位を吸収する機械的な構造であるが、ローラー部の腐食や摩耗に起因する機能障害が発生する事例が多く確認されている。
耐震性向上の観点からは、既設支承を存置した上で水平力分担構造を追加設置することも考えられたが、上下部接続部の維持管理性が現況より著しく低下することが課題であった。
このため、レベル2地震動に抵抗可能な密閉ゴム支承板支承(BP・B支承)へ取替えることとした。
 
取替えに当たっては、ピン・ローラー支承とBP・B支承で支承高が大きく異なるため、取替え後はコンクリート台座を設ける計画とした。
その際、レベル2地震動に抵抗可能な台座部となるよう、設計方法および配筋方法に配慮した。

写真-5 支承取替え前
写真-5 支承取替え前
写真-6 支承取替え後
写真-6 支承取替え後

 
 

4. 点検における新技術の活用

予防保全型管理を計画的に進めるためには、橋梁の状態を継続的かつ的確に把握することが不可欠である。
このため、都では、点検作業の効率化・高度化および安全性の向上を図る観点から、新技術の活用にも取り組んでいる。
 

4-1 斜張橋ケーブル点検ロボットによる点検

斜張橋ケーブルの点検は、高所作業車やロープアクセスによる従来手法では、作業時間やコスト、安全対策の面で課題があった。
 
このため、点検作業の効率化および安全性の向上を図るため、斜張橋ケーブル点検ロボットを活用した試行的な点検を実施した(写真-7、8)。
 
これにより、高所作業に伴う危険性の低減や、ケーブルの損傷状況の把握が可能となることから、点検作業の効率化および安全性の向上が期待される。

写真-7 ロボット近景
写真-7 ロボット近景
写真-8 ケーブル点検状況
写真-8 ケーブル点検状況

 

4-2 ドローンによる点検

橋梁が高所や河川上に位置するなど、厳しい条件下におけるドローン点検技術の有効性を検証するため、実橋梁において試行的な点検を実施した(写真-9、10)。
 
ドローンの活用により、高所作業に伴う危険性の低減や、足場設置・交通規制の省略が可能となることから、点検作業の効率化および安全性の向上が期待される。
 
一方で、都市部においては、周辺建物や道路交通、電線等の支障物、飛行に係る安全確保などの制約があるため、適用に当たっては現場条件を踏まえた十分な検討が必要である。

写真-9 ドローン近景
写真-9 ドローン近景
写真-10 床版点検状況
写真-10 床版点検状況

 

4-3 水中ドローンによる点検

橋脚基部の洗掘状況を効率的かつ安全に把握するため、水中ドローンを用いた試行的な点検を実施した(写真-11、12)。
 
水中ドローンの活用により、潜水作業が困難又は危険を伴う箇所においても、作業員が直接水中に入ることなく点検を行うことが可能となる。
さらに、濁水等により目視確認が困難な場合であっても、ソナー等を用いて河床形状や洗掘の状況を面的に把握できることから、点検作業の効率化および安全性の向上に有効な技術であることが確認された。
 
一方で、水中ドローンは、使用する機材によって、流速や水深、濁度、浮遊物、河床や橋脚周辺の障害物等の影響を受ける場合があり、現場条件によっては機体の安定性や操作性、取得データの精度に留意が必要である。
また、取得データの評価方法についても課題があることから、適用に当たっては、従来の潜水調査等との役割分担を含め、現場条件に応じた機材の選定や点検方法を検討することが重要である。

写真-11 水中ドローン
写真-11 水中ドローン
写真-12 ソナーの映像
写真-12 ソナーの映像

 
 

おわりに

都が管理する橋梁は、今後さらに高齢化が進行することが見込まれており、限られた財源や人員の中で、効率的かつ効果的に維持管理を進めていくことが求められている。
 
このため、引き続き定期点検により橋梁の健全度を的確に把握するとともに、損傷や劣化が進行する前に適切な対策を講じる予防保全型管理を着実に推進していく。
 
また、長寿命化事業や補修事業を計画的に実施するとともに、点検ロボットやドローンなどの新技術を積極的に活用し、点検作業の効率化や安全性の向上を図っていく。
 
今後も、橋梁を将来にわたり安全かつ良好な状態で維持し、都民生活や社会経済活動を支える重要な都市基盤としての機能を確実に確保していく。
 
 
 

東京都建設局 道路管理部 橋梁構造専門課長
古賀 善久

 
 
 
【出典】


積算資料公表価格版2026年10月号


積算資料公表価格版2026年10月号

最終更新日:2026-09-18

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