はじめに
NTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com)では点検、巡回、物流、農業など幅広い領域でお客様のビジネス支援をし、さまざまな産業におけるドローンの活用を推進している。
2021年7月にはレベル4時代における目視外飛行の社会実装に向け日本初のドローン向け料金プラン「LTE上空利用プラン」の提供を開始し、セルラードローンを実用化した。
NTT Comではインフラ分野へのドローン導入支援に精力的に取り組み、現場の課題を解決しながらより多くの現場で広く用いられるよう活動している。
1.橋梁現場での活用
橋梁現場では劣化の早期発見や維持管理に点検が重要な役割を果たしており、従来は地上点検、橋梁点検車、ロープアクセスなど人力による点検を実施してきた。
しかし、多くの橋梁において高所作業や遠隔地での点検を行うには安全上の課題や作業員への負担が大きく問題となっている。
また、コスト面での課題やメンテナンス人材の不足についても橋梁点検に大きな影響を及ぼすことが考えられる。
そこで従来の手法では近づけない点検困難箇所を中心に、ドローンを活用した橋梁点検が早期の劣化発見や安全性の向上に大きく寄与する可能性があると期待されている。
ドローンを活用する最大のメリットとして安全性の向上が挙げられる。
具体的には点検作業者による高所作業を削減し、リスクや負担の大きい作業をドローンへ置き換えることで安全性の確保が可能となる。
同時に、従来の点検では撮影が困難であった狭隘部もドローンの活用により記録できるようになってきた。
その他にもデータ解析との連動や効率化などのメリットを有しており、インフラ点検分野でのドローン採用が急速に拡大している。
中でも、北米に拠点を置くSkydio、Inc.(以下、Skydio社)のドローンは橋梁現場での実導入が進んでおり、現場から高い評価を受けている。
Skydio 社は北米を拠点にするドローンメーカーで2014年に米国で設立され、開発から生産までを米国で行っている。
2020年7月に株式会社NTTドコモ・ベンチャーズを通じSkydio社へ出資を発表し、同年11月より日本市場でSkydio社ドローンの展開を開始し、資本・事業で連携している。
Skydio社のドローンの特徴は機体の上下6つに備え付けられた魚眼レンズのカメラで周囲を認識し、認識した情報をもとに障害物などを自律的に回避できる自律飛行技術であり、「Skydio Autonomy」と呼ばれる。(図-1、2)
これまで、GPSでは取得しづらい橋梁下などの環境でドローンを用いた自動巡回飛行を実現するためには、Li DARなどで自己位置を推定する技術や、飛行環境にマーカーなどを設置し、読み取りながら自動飛行する技術の組み合わせが必要であった。
Li DARなどを搭載すると機体が大型化する傾向があり、飛行環境にマーカーなどを設置する必要が生じ、狭所が多く日々環境が変わる建設現場などでの利用は難しい場合もあった。
一方Skydio社のドローンはこの上下6つのカメラで取得した情報をもとにGPSが取得しづらい屋内や橋梁などの環境でも自己位置推定をしながら3次元空間で位置を記憶することができる。
そのため撮影箇所を的確に捉える手動飛行から複雑な自律飛行まで安定して対応可能である。
次項から橋梁現場での活用について紹介する。
2.NTT Com現場での活用に向けた取組み
Skydio社の製品であるSkydio2/2+™は小型、かつ接近できる特徴を活かし支承部のひび割れやサビの確認を実現している。(図-3)
また箱桁内など進入が困難、かつリスクの高い箇所も安全に飛行することができる。
搭載されている障害物回避機能を活用することで、狭隘部へ安全性を保ちながら侵入を可能としている。(図-4)
また橋梁の床版などでドローンを活用するには上向き撮影に対応したカメラおよびジンバルが不可欠であり、Skydio社のドローンはカメラ角度を上下90°まで拡張できるため安全に老朽化した箇所の確認ができる。
(図-5)
2-1 活用事例
NTT Comでは2020年11月からSkydio2/2+™を提供しており、これまで多くの実証実験や設備保有者への実装をサポートしてきた。
例えば、首都高技術株式会社とは2019年度より定期点検前スクリーニングの共同研究を開始し、2021年6月1日にSkydio社ドローンの活用も含めた大小2種類のドローンでくまなく橋梁点検する技術を発表した。
また神奈川県とは、橋梁点検業務の負担軽減に向けSkydio社ドローンを用いた実証実験に2022年2月に成功している。
従来の点検手法では通行止めを実施し橋梁点検車での確認が必須となる支承部の確認やGPSが取得しづらい橋脚において自動撮影による点検時間短縮などの有効性を検証した。
2-2 橋梁点検支援技術としての掲載
NTT Comでは点検現場でドローンのような新技術の活用を促進するためにSkydio2/2+™を用いた画像計測技術を国土交通省点検支援技術性能カタログに「360度周囲を認識するドローンを用いた橋梁点検支援技術(Skydio)」として掲載している。
例えばSkydio2/2+™を用いて一定の条件下で撮影を行うことで、ひび割れ幅0.2mmに対して計測精度0.06mmが標準試験値として記録されている。(図-6)
※掲載されている画像計測技術は、一定の照度、適切な離隔、ラップ率などの前提条件下で飛行・撮影した場合においてのみ性能カタログに掲載されており、計測精度が保証された技術ではない。
2-3 自動飛行・撮影(Skydio 3D Scan™)
また手動飛行に加えてSkydioのオプションソフトウェアであるSkydio 3D Scan™を用いることで複雑な構造物をさまざまな角度から網羅的に自動・自律飛行しながら撮影を行うことができる。
撮影対象物の上面、下面、幅を設定する簡単な操作のみで自動飛行・撮影を開始する。
撮影中のパイロットの操縦は最小限に抑えることで安全管理に集中できるため、パイロットの技術に依存せず、効率的に対象物を撮影できる。
さらにSkydio 3D Scan™を用いて撮影した静止画を画像解析ソフトで解析処理を行うことで3Dモデルの作成も容易となる。
本稿ではSkydio3D Scan™を用いて撮影を行い、3Dモデル化とオルソ画像化した橋脚を紹介する。
撮影枚数は全506枚、解析後のデータは形状変化や全体の可視化支援に活用ができる。(図-7、8)
非常に有効なツールである一方で点検現場での活用促進に向けて大きなハードルがある。
現在は対象物からの離隔距離は1.5mが限界となっており、狭隘部への対応や接近撮影に対応していない。
しかし、部分的な活用のみでも点検作業者の負荷を大幅に軽減することができ、今後期待されている分野の一つである。
3.今後の課題、開発方向性
ドローンを用いた点検の活用例や利点を多く述べてきたが、ドローンの導入障壁となる課題も現時点ではまだ残されている。
適切なドローン点検の遂行には操作スキルの習熟やメンテナンスの知識が求められる。
NTT Comではドローン講習に加え、現場導入サポートを行い、利用ハードルを下げることを目指している。
また橋梁点検特有の課題も多く存在する。
低照度になりやすい橋梁下は撮影データの劣化が生じやすく、Visual-SLAMの精度低下を招く可能性がある。
Skydio2+™を用いた橋梁点検では、対象物に安全に接近しながら撮影をする。
これらは定期的なソフトウェアアップデートでの性能向上を見込んでいる以外に障害物回避距離を改良するなど、開発元のSkydio社と連携し、国内現場のニーズをフィードバックしながら実装につなげている。
また、撮影データの有効活用・促進も期待されている。
ドローンは効率的に広い範囲を撮影できるが、これらのデータを適切に処理・解析することが課題となる。
AI技術の活用やアプリケーション間の自動連携による効率的なデータ管理や解析手法の開発が求められる。
おわりに
今後日本全体で橋梁の老朽化が加速することが懸念されている。
同時にメンテナンス就業者の減少も深刻化しており、対策が不可欠となる。
NTT Comではこの大きな難問を解決する方法としてドローンによるデジタル化や効率化を促進し、橋梁点検を含めたインフラ業界に「希望のある現場」を増やし日本の暮らしを守るために引き続き取り組む。
参考動画リンク
ドローンは実際に飛行している様子を確認することが最も理解しやすいと考えているため参考までに活用事例の動画を共有させていただく。
Skydio 基本機能の紹介
●Skydioの紹介 – 点検 × 巡回
神奈川県との実証実験の様子(動画)
●橋梁点検でのドローン活用の実証実験
床版裏の自動飛行の様子
●自律飛行型ドローンを用いた橋梁下の自動飛行・撮影
橋梁含む構造物の自動撮影例
●Skydio 3D Scan™の飛行撮影事例
ドローンサービス部門 第二グループ 担当課長
奥村 康生
【出典】
積算資料公表価格版2023年10月号

最終更新日:2023-09-22
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