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1. 橋梁の現状と維持管理

1-1 橋梁の現状

2020年現在の橋長2.0m以上の橋梁は約72万橋であり、地方自治体が管理する橋梁は全体の約90%を占めている。
また、橋梁の多くは、高度経済成長期に建設され、50年以上が経過する橋梁も25%以上であり、年々増加することになる。
 
老朽化した道路橋の維持管理対策は、2009年に国土交通省による「道路橋長寿命化修繕計画1)事業の策定により、地方公共団体では「道路橋長寿命化修繕計画」が立案され、従来の「事後的な維持管理」から計画的に修繕する「予防保全型維持管理計画」へと移行した。
これによって、橋長2.0m以上の橋梁を点検し、早期に低コストで長寿命化が図れる修繕を実施するなどの道路橋の維持管理手法が構築され、既に10年以上経過している。
よって、50年が経過する橋梁においても、適切に修繕が実施されている。
 

1-2 道路橋長寿命化修繕計画
(1)事後保全計画と予防保全計画の関係

「道路橋長寿命化修繕計画」では橋梁を点検し、健全性の判定区分を行い、修繕を実施している。図-1は事後保全型維持管理と予防保全型維持管理における健全性と時間の関係である。例えば、以前は損傷が顕在化した時期に大規模な修繕および架け替えを行っていたが、予防保全型維持管理計画では、健全性の判定区分ⅢあるいはⅡで修繕を行うことから、ライフサイクルコストの縮減が図られると同時に長寿命化が図られる。
 

 事後保全計画と予防保全計画

図-1 事後保全計画と予防保全計画

 

(2)橋梁のマネジメントサイクル

橋梁のマネジメントサイクル2)図-2に示すように「橋梁定期点検要領」2)に基づいて橋長2.0m以上の橋梁を5年ごとに「点検」する。
その後、「診断」では部位ごとに損傷度・対策区分・健全性を判定し、全体の健全性を判定する。
そして、「措置」では、修繕計画に沿った修繕を実施し、修繕後は経過観察が必要となる。
最後の「記録」では「点検」、「診断」、「措置」で全てを記録し、確実な情報の更新など当該橋梁が供用されている期間はこれを保存する。
 

橋梁のマネジメントサイクル

図-2 橋梁のマネジメントサイクル

 

1-3 道路橋RC 床版の損傷状況

「道路橋長寿命化修繕計画」における橋梁点検結果によると、最も損傷が著しい部位はRC床版であり、その損傷は建設地域の環境条件によっても大きく異なる。
RC床版の損傷状況は、交通量の多い首都圏のRC床版と、交通量が少ないものの積雪寒冷地域および海岸線に建設されたRC床版に分類される。
写真-1(1)は高速道路の床版下面の損傷状況である。
ひび割れ発生状況は疲労による2方向ひび割れが伸縮継手を通過した端床桁から中間床桁付近まで及んでいる。
 
次に、写真-1(2)は、海岸線に建設された橋梁RC床版であり、飛来塩分によって鉄筋に発錆が見られ、一部に漏水が見られる。写真-1(3)は、積雪寒冷地域に建設された橋梁RC床版であり、横断勾配により、融解水や雨水が滞水し、地覆側の橋面コンクリートが圧縮鉄筋下面まで土砂化している。
この他の地域環境によってもコンクリートの中性化による劣化が見られる。
 
以上のように、建設された地域によって床版の損傷状況も大きく異なっている。
 

RC床版の損傷の事例

写真-1 RC床版の損傷の事例

 

1-4 健全性の判定区分における補修・補強対策2)

「道路橋長寿命化修繕計画」では図-3に示すように、健全性の判定区分に応じた補修・補強対策が講じられている。
 

RC床版の補修・補強対策

図-3 RC床版の補修・補強対策

(1)判定区分Ⅱ(予防保全段階)

「構造物の機能に支障は生じていないが、予防保全の観点から措置を講ずることが望ましい状態」であり、ほとんどが軽微な損傷であることから補修の対象となる。道路橋RC床版においては、建設後10年ほどで漏水が発生した事例もあり、橋面防水工が施されていない床版は、次回の舗装打ち換え時までの性能を維持するために、ひび割れ注入工法が検討される。
また、舗装打換え時にRC床版の上面に損傷が発見された場合は、損傷したコンクリート上面に部分補修を施し、あわせて橋面防水工の検討も行う。
 

(2)判定区分Ⅲ(早期措置段階)

「構造物の機能に支障が生じる可能性があり、早期に措置を講ずべき状態」であり、補修・補強対策が必要となる。
補修・補強対策には、交通規制が必要となる上面補修・補強と交通規制を必要としない下面からの補強に区分される。
 
RC 床版の上面からの補修については部分補修、上面損傷や「道路橋示方書・同解説」3)(以下、道示とする)の変遷に伴う耐荷力性能の向上を図るためにはコンクリートで上面を増厚する補強が検討される。
一方、下面からの補強法については、2方向ひび割れの発生を抑制するために炭素繊維連続シートあるいはアラミドシートを用いた下面接着補強、鉄筋の露出やコンクリートのはく落などの下面損傷や耐荷力性能の向上を図るためには、引張補強筋を配置したセメントモルタル吹付けによる下面増厚補強が検討される。
 

(3)判定区分Ⅳ(緊急措置段階)

「構造物の機能に支障が生じている、または生じる可能性が著しく高く、緊急に措置を講ずべき状態」であり、これらについては、基本的にはコンクリートによる上面補強および下面増厚補強が検討されている。
しかし、鉄筋の露出、かぶり不足、さらに設計厚が確保されていない床版に疲労によるひび割れと漏水・遊離石灰が発生した場
合は、上面および下面からの複合補強が必要となる。
さらに、塩害・凍害の複合劣化を受け、上面損傷と下面に2方向ひび割れや漏水・遊離石灰の発生などが見られるRC床板は、プレキャスト化した床版取替も検討される。
 
以上のように、健全性の判定区分によりそれぞれの補修・補強対策を検討するとともに、道示3)の変遷過程に基づいて、補強設計を行う必要がある。
 
 

2. RC床版の上面補修法(健全性Ⅲ、Ⅱ)

2-1 RC 床版上面補修における維持管理

RC 床版の劣化・LCC と寿命の関係を図-4に示す。
実橋のRC床版橋面の点検では、アスファルト舗装が舗設されていることから損傷状況の早期発見が困難である。
点検で発見された場合の損傷は健全性ⅢあるいはⅣに相当する損傷の場合が多い。
よって、早期に発見し、直ちに補修することが長寿強化に繋がるものと考えられるしたがって、RC床版の上面の補修は、健全性ⅢあるいはⅡで補修対策が必要となる(図-4)。
 
「道路橋長寿命化修繕計画」では、5年ごとの点検を行い、早期の修繕が望まれる。
よって、健全性Ⅲが判定された後は直ちに補修する必要がある。
 
劣化曲線・LCCと寿命の関係(図-4)より、健全性Ⅲで1次補修し、再劣化により健全性Ⅲが判定された後、2次補修を行う。
再々劣化が発生した場合は、既設RC床版の内部診断、特にコンクリートの強度を適切に診断し、3次補修が可能であるかを判定する必要がある。
内部損傷や強度の低下が見られる場合は、上面増厚補強あるいは下面増厚補強などの補強対策を検討する必要がある。
 

劣化曲線・LCC と寿命の関係

図-4 劣化曲線・LCC と寿命の関係

 

2-2 RC 床版の上面損傷および補修法

従来のRC床版橋面コンクリート補修および補強法においてはコンクリート打ち継ぎ界面がはく離している。
写真-2(1)は、国道に建設された橋梁床版であり、既設RC床版と打ち継ぎコンクリート界面ではく離が生じている。
写真-2(2)はSFRC 上面増厚補強した国道および高速道路の橋梁であり、いずれも10年程度ではく離が発生している。
そこで、接着剤塗布型補修・補強法が提案され、輪荷重走行疲労実験が行われて耐疲労性が評価されたことで実橋で採用された。補修法の概略を図-5に示す。
図-5のRC床版上面は部分的に土砂化し、これをブレーカで削り作業を終えた状況である。
このRC床版の部分補修法は、ブレーカでの削りによる新たなひび割れ補修として浸透性KSプライマーを塗布する。
次に、打ち継ぎモルタルあるいはコンクリートとの付着性を高めるためにKSボンドを塗布し、その上にRC床版の弾性係数と同等な低弾性リフレモルセットを打ち込み、最後に橋面防水工、アスファルト舗装を舗設する補修法である。この補修法に用いる材料をEQM材料とし、施工法をEQM工法と称している。
 

既往の補修・補強工事におけるはく離

写真-2 既往の補修・補強工事におけるはく離

 RC床版の上面損傷と補修法

図-5 RC床版の上面損傷と補修法

 

2-3 接着剤塗布型RC床版補修・補強に用いる材料(EQM 材料)
(1)補修・補強用セメント系材

RC床版の上面補修に用いられているセメントモルタル材の配合条件を表-1に示す。
 

上面補修材の配合条件

表-1 上面補修材の配合条件

 
本稿では8時間施工および36時間(1.5日)施工に用いる材料について述べる。
従来の8時間施工に用いられているモルタル材は、超速硬無収縮モルタルが使用されている。
しかし、この材料は高弾性であることから「割れ」「ひび割れ」の発生が懸念される。
そこで、超速硬セメントに高強度ビニロン繊維を配合し、さらに弾性係数を既設RC床版と同等な補修材、すなわち低弾性リフレモルセットSF(以下、リフレモルタルSF)が用いられている(写真-3(1))。
また、36時間施工には低弾性リフレモルセットSP(以下、リフレモルタルSP/NETIS:KT-170058-A)が用いられている(写真-3(2))。
 
一方、補修厚が30mm以上の場合は耐久性の向上を図るために低弾性リフレモルセットに5〜9mmの小粒径骨材(写真-3(3))あるいは6号砕石(写真-3(4))を配合した低弾性リフレコンクリートが用いられている。
 

表-1に示すリフレモルタルおよびリフレコンクリートの配合条件で練混ぜした場合の発現強度および弾性係数を表-2に示す。
8時間施工に用いる無収縮モルタルは、材齢3時間後の圧縮強度が45.2N/mm2、静弾性係数は43.7kN/mm2 である。
 
一方、リフレモルタルSFおよびSPは材齢3時間の圧縮強度は24N/mm2を満足するとともに静弾性もRC床版コンクリートと同等である。
また、リフレコンクリートSF およびSP においても同等である。
よって、低弾性であることから靱性に優れた材料となる。
 

セメント系補修材料

写真-3 セメント系補修材料

上面補修材の発現強度および弾性係数
表-2 上面補修材の発現強度および弾性係数

 

(2)RC床版補修・補強に用いる2 種類の接着剤

従来のRC床版の補修法は、補修界面をブレーカで切削し、研掃後、直接補修材を打ち込み、表面仕上げし、養生されている。
しかし、ブレーカ使用による新たなひびわれや補修後のはく離が懸念されている。
そこで、浸透性KSプライマーとKSボンドの2種類の接着剤を用いた補修法、EQM工法が提案された。
 
1)浸透性接着剤(浸透性KS プライマー)
浸透性KSプライマー(写真-4(1))は、削りによりコンクリート表面に発生した0.05mm程度以上の微細なひび割れに浸透させ、ひび割れ補修および浸透範囲のコンクリートを強固にする接着剤である。
付着強度は2.6N/mm2表-3)である。
ブレーカの削り作業では、微細なひび割れが発生しており、これに浸透性接着剤を塗布してひび割れ幅0.05mmに浸透させる。
 

2)付着用接着剤(KSボンド)
(NETIS:KT-160058-VE)
RC床版の上面補修においても、モルタルやコンクリート材料を打ち継ぎした場合に輪荷重走行によりRC床版コンクリートとの界面ではく離が発生する。
そこで、補修材と既設RC床版コンクリートとの付着性を高めるために高耐久型エポキシ系樹脂接着剤KSボンド(写真-4(2))を用いる。
付着強度は3.7N/mm2表-3)である。
以上より、RC 床版上面の補修、EQM 工法においては浸透性KSプライマーとKSボンドおよびリフレモルタルSFおよびSPを用いる。
 

写真-4 2種類の接着剤

写真-4 2種類の接着剤


 
表-3 接着剤の材料特性値

表-3 接着剤の材料特性値


 

2-4 接着剤塗布型上面補修の事例(EQM工法)
(1)再劣化したRC床版の損傷状況

道路橋RC床版上面の損傷の多くに再劣化による損傷が見られる(写真- 1(1))。
 
 

(2)RC床版の部分補修法

このRC床版をEQM工法により補修する。
EQM工法はRC床版の脆弱層をブレーカ等で削る(写真- 5(1))。
RC床版コンクリートはブレーカの衝撃で骨材のはく離や微細なひび割れが発生する。
このひび割れ補修として浸透性KSプライマーを0.5kg/m2塗布する(写真-5(2))。
15分程度養生し、KSボンドを0.9kg/m2を塗布する(写真-5(3))。
KSボンドの打継可能時間は60分(常温時)となり、60分以内に補強用のリフレモルタルSFを混練りし、打ち込み、表面仕上げする(写真-5(4))。
この工法がEQM補修工法である。
 
EQM工法は30〜60mm程度の部分補修から橋面全面の大規模補修まで対応可能である。
 

写真-5 接着剤塗布型部分補修(EQM)の事例

写真-5 接着剤塗布型部分補修(EQM)の事例


 
 

3. RC床版の上面・下面増厚補強4)

3-1 劣化予測概念

RC床版の疲労損傷に対する劣化と性能低下および維持管理計画の概念を図- 6に示す。
 
国土交通省の「橋梁定期点検要領」2)ではひび割れ幅、漏水・遊離石灰、はく離・鉄筋露出について、それぞれの損傷状況と損傷度を区分し、その損傷区分からRC床版の健全性を判定して、補修・補強するかについての対策区分を設けている。
予防保全型修繕計画では図- 6に示すように、健全性Ⅲ〜Ⅳで1回目の補強(1次補強)対策を講じ、その後再度、健全性Ⅲに達した時点で2回目(2次補強)対策を講じて100年(または50年)間維持させるための計画がなされている。
なお、 2次補強後は、既設RC床版の劣化が急激に進行することから、要診断し、取替床版の検討を行う必要があると考えられる。
 

図-6 劣化曲線・LCCと寿命の関係

図-6 劣化曲線・LCCと寿命の関係


 
 

3-2 RC床版の上面・下面増厚補強法

RC床版は「道路橋長寿命化修繕計画」により既に1回目の補強対策が行われている。
RC床版上面補強としてSFRC上面増厚補強、下面からは炭素繊維連続シート(CFS)による接着補強、鋼板接着補強、PCM吹き付けによる下面増厚補強が施されている。
 
例えば、1次補強にSFRC上面増厚補強したRC床版が再劣化により健全性Ⅲで次の対策が必要となる。
2次補強には、下面にCFS接着補強、あるいはPCM下面増厚補強が検討される(写真-6(1))。
一方、1次補強で下面に補強したRC床版は2次補強にはSFRC上面増厚補強が施される(写真-6(2))。
 
「道路橋長寿命化修繕計画」では、損傷が顕在化した時点、健全度がⅢで補強が施され、再劣化後に健全性Ⅲで再補強が計画されるが、上面補強および下面補強を交互にすることで、長寿命化が図られる結果となる。
なお、筆者の研究においては2次補強後の再劣化では、既設RC床版コンクリート内部の損傷に伴うコンクリートの強度低下により、3次補強は困難な結果が得られている。
よって、2次補強後の再劣化が生じた場合は取替床版の検討を提案する。
 

写真-6 1次・2次補強サイクル

写真-6 1次・2次補強サイクル


 
 

3-3 RC床版の上面増厚補強寸法

(財)高速道路調査会における「上面増厚工法設計施工マニュアル」5)における増厚寸法を図- 7に、標準的な増厚寸法を図-7(1)に示す。
補強法は既設RC床版上面を10mm切削し、その上にSFRCを60mm増厚し、アスファルト舗装を舗設している。
しかし、このSFRC上面増厚補強法は10数年で打ち継ぎ界面ではく離が発生している。
そこで、ひび割れ補修に浸透性KSプライマー、 SFRC増厚界面にはく離抑制のためにKSボンドを塗布し、SFRC上面増厚補強されている。
補強寸法は図-7(2)に示す。
次に、塩害による鉄筋の腐食に伴う断面欠損や鉄筋量不足の床版に対する補強として鉄筋を格子状に配置する。
よって、増厚寸法は100mm、その上に舗装を40mm舗設することとしている(図-7(3)1))。
増厚が100mmとなり、死荷重の増大が懸念されている。
 
そこで、鉄筋に替わるグリッドメタル筋が開発された。
これは、一面加工されていることから図-7(3)2)に示すように60mmの増厚層内に配置することが可能であり、鉄筋を配置した場合と比較して厚さ40mmを減少することができ、死荷重の軽減が図られると同時に、工場で加工されることから施工においては設置するのみとなり、工期の短縮が図られる材料である(NETIS:QS-150039-A)。
 

図-7 SFRC上面増厚補強寸法

図-7 SFRC上面増厚補強寸法


 
 

3-4 接着剤塗布型SFRC上面増厚補強法(EQM工法)

2種類の接着剤を塗布した接着剤塗布型SFRC上面増厚補強法(EQM工法)は健全性ⅢあるいはⅣで補強対策が講じられている。
補強法は、コはⅣで補強対策が講じられている。
補強法は、コンクリート床版上面をショットブラスト研掃機(投射密度150kg/m2)で表面を研掃し、浸透性接着剤を0.5kg/m2程度で塗布し(写真-7(1))し、直ちにKSボンドを0.9kg/m2(平均1.0mm厚)で塗布する(写真-7(2))。
SFRCの混練り混ぜにはジェットモービル車を用いる。
SFRCを打ち込み(写真-7(3))、専用フィニッシャを用いて平滑に仕上げる。
コンクリート設計基準強度24N/mm2以上が確保されるまでシート養生する。
最後に橋面防水工、アスファルト舗装を舗設して、補強完了とする。
 
以上のように、EQM増厚工法はRC床版の劣化および設計基準の変遷に伴う設計厚不足に伴う増厚補強法として採用されている。
 

写真-7 接着剤塗布型SFRC上面増厚補強法

写真-7 接着剤塗布型SFRC上面増厚補強法


 
 

3-5 グリッドメタル筋を配置した接着塗布型PCM下面増厚補強法
(1) グリッドメタル筋

グリッドメタル筋(以下、グリッド筋)は、展張鋼板格子筋と格子鋼板筋の2種類が製作されている。
グリッド筋の概略寸法を図- 8に示す。
 
展張鋼板格子筋の製作方法は、鋼板にレーザでスリットを挿入し、これを専用のジャッキで配力筋方向に展張することで一面加工された格子筋が製作される。
また、格子状にカットされた格子鋼板筋も製造されている。
グリッド筋は構造物に合わせて折り曲げ加工し、防錆処理を行うことで、建設現場では設置のみとなり、現場で大幅な工期の短縮がなされる材料である。
 
 

(2) 上面・下面増厚に用いる引張補強材

引張補強筋として図-8(1)に示す展張格子筋を用いる。
展張格子筋は一般鋼板および縞鋼板が用いられ、格子間B1、B2、厚さt、幅b1、b2は自由に設計が可能である。
展張角度は基本的には60°である。
突起は4mmであるが、レーザ加工であることから自由に設計できる。
防錆剤は亜鉛メッキとエポキシ系が用いられている。
 

図-8 グリッドメタル筋の形状および寸法

図-8 グリッドメタル筋の形状および寸法


 
 

(3) セメント系モルタル

本下面増厚に用いるPCMにはリフレモルタルSPが用いられている。
 
 

(4) 付着用接着剤

展張格子筋を配置した下面増厚補強においては、KSボンド(表- 3)を塗布し、打ち継ぎPCMとの付着力を向上させることから耐疲労性が向上する結果が得られている。
よって、実橋の下面増厚補強法においてもKSボンドを用いる。
 
 

(5) 下面増厚寸法および施工法と特徴

グリッド筋を用いたPCM下面増厚補強法の概略寸法を図- 9に示す。
既往のPCM下面増厚補強の増厚寸法はD13の鉄筋を格子状に配置することから50mm程度となる(図-9(1))。
一方、厚さ9mmのグリッド筋(D13相当)を配置した場合は増厚30mmとなり、20mm減少させることができ、コストの縮減が図られる(図-9(2))。
 
施工法は、グリッド筋を設置し、KSボンドを塗布してPCMを吹付け補強する増厚工法である。
接着剤はリシンガン等で吹付け、あるいはハケ等で塗布し、直ちに乾式あるいは湿式吹付け工法により、吹付け増厚する。
一般的にはグリッド筋配置位置付近まで吹き付けし、コテ等で仕上げる。
その後、2層目も吹付け補強する。
 

図-9 PCM下面増厚補強寸法

図-9 PCM下面増厚補強寸法


 
 

3-6 グリッド筋(展張)を用いた接着剤塗布型下面・上面併用増厚補強事例
(1) RC床版下面の補修および補強法

RC床版下面の損傷状況は、2方向ひび割れから漏水・遊離石灰が発生しており健全性Ⅲに相当する損傷である(写真-8(1))。
下面増厚補強する前に樹脂注入によるひび割れ補修を実施する。
ひび割れ補修後に、展張格子筋を用いて接着塗布型PCM下面増厚補強法を行う。
 
あらかじめ折り曲げ加工した展張鋼板格子筋をコンクリート表面から10mmの位置に展張鋼板格子筋を取り付けし、継手長を300mmとし、コンクリート表面から10mmの隙間を設けた。
設置後、KSボンドを全面に塗布する(写真-8(2))。
塗布作業と同時にリフレモルタルSPの練り混ぜ作業を行い、1層目および2層目を吹付けし(写真-8(3))、コテ作業による表面仕上げをする。
 
以上のように、増厚界面にグリッド筋を配置した接着塗布型PCM下面増厚補強法は、工場でグリッド筋を製作し、施工現場では設置のみとなり、施工の合理化・省力化が図られ、接着剤の効果による一体化により耐疲労性の向上が図られる補強法である。
 
このように劣化が著しい再劣化したRC床版は、交通規制が必要としない下面増厚補強が優先される。
また、RC床版の上面補修が著しい場合や耐荷力が要求されるRC床版においてはグリッド筋を配置した接着剤塗布型上面増厚補強と併用した補強工事も実施されている。
 

写真-8 展張格子筋を配置した接着剤塗布型PCM下面増厚補強法

写真-8 展張格子筋を配置した接着剤塗布型PCM下面増厚補強法


 
 

4. 取替RC床版の取替工事4)

老朽化したRC床版は、小規模から大規模までの修繕が実施されているものの、その後、再劣化が生じているRC床版も多く、その補修・補強対策が課題となっている。
一方、道路橋RC床版の設計基準の変遷によって、設計荷重が増加されている。
道示3)では245kN、B活荷重へと改定された。
再劣化や設計荷重の増大に対応するためにプレキャスト床版を工場で製作し、橋梁で設置する取替床版が進められている。
取替床版の多くはPC構造である。
 
しかし、地方公共団体が管理する道路橋RC床版は都市部の道路橋と比較して交通量が少ないことからコストの縮減効果が得られ、取替RC床版が望まれている。
よって、本稿では取替RC床版について、構造および施工事例を述べる。
 
 

4-1  取替RC床版の継手構造(NETIS:TH-220003-A)

取替RC床版の継手構造を図- 10に示す。
一般的に取替RC床版の継手は、橋軸直角方向が主筋、橋軸方向の配力筋となり、主筋と配力筋で継手構造の突起が異なる。
主筋の突起は図- 10(1)に示すように三角形状であり、D16を用いた場合の突起断面積は430mm2である。
床版に配置した場合のかぶりは従来の鉄筋と同様に確保できる。
主筋配力筋は主筋の内側に配置されることから突起形状は円形である。
 
D16を用いた場合の突起断面積は870mm2である。
この継手鉄筋を「タフ鉄筋」と称している。
継手長は道示3)の規定に基づいて設計されるが、ここでは280mmとした。
 
タフ鉄筋を用いた取替RC床版は、耐荷力実験および疲労実験が実施され、耐荷力性能および耐疲労性が評価された。
特に、機械式継手構造を有する間詰部構造は弱点とならず、実橋で採用された。
 

図-10 取替RC床版の継手構造

図-10 取替RC床版の継手構造


 
 

4-2 実橋取替RC床版の施工事例

取替RC床版は山形県上山市が管理する橋梁で採用された。
道路橋RC床版の下面には鋼板接着補強が施されており、目視点検では損傷状況の調査が困難であり、コア採取等を行った結果、健全性Ⅳに相当する損傷であった。
よって、取替RC床版が検討された。
橋梁支間は16.1m、幅員7.0m、斜角83°の橋梁であり、A活荷重で設計された。
 
 

(1) プレキャストRC床版の製作

プレキャストRC床版の製作には、鋼製型枠3タイプを製作し(写真-9(1))、軸直角方向2.0mごとに間詰部を設け、幅員の1/2、すなわち中央主桁上の軸方向に間詰部を設ける構造とした。
本来は幅員7.0mでのプレキャスト版の製作は可能であるが、多くの技術の検証を行う目的で軸方向に間詰部を設けた。
さらに斜角83°の橋梁であることも特徴である。
プレキャストRC床版はA活荷重で設計3)し、鉄筋にはSD345D16、コンクリートの要求性能として材齢28日の圧縮強度が40N/mm2以上となる配合とした。
 

写真-9 プレキャスト床版製作

写真-9 プレキャスト床版製作


 
 

(2) 老朽化したRC床版の撤去

老朽化したRC床版の撤去には、一般的に採用されているセンターホールジャッキを用いた。
撤去時間は6時間程度である。
劣化したRC床版を撤去した後、鋼桁の補修および取替床版設置に伴い、安全性を確保するために鋼桁に仮桁を設置した。
仮桁は取替RC床版設置後撤去した。
 

(3) 取替RC床版の施工

取替RC床版の施工手順を写真- 10に示す。
本工事は、片側交通規制を行い、既設RC床版を撤去し、鋼構造の劣化部の補修およびジベルを取り付ける。
その後、トラック輸送されたプレキャスト床版(写真-9(2))をクレーン作業により端部から順次設置する(写真- 10(1))。
この橋梁では、片側車線にプレキャスト版9枚を6時間で設置した。
次に、軸直角方向の間詰部のコンクリートには超速硬セメント用いて要求性能を3時間で圧縮強度24N/mm2以上となる配合条件とした。
練り混ぜには移動式プラントを用い、練り混ぜ後、間詰部に打設して(写真- 10(2))平滑に仕上げる。
伸縮継手を設置した後、橋面防水工を施し、アスファルト舗装を施して交通解放した(写真- 10(3))。
 
次に、反対車線側の既設RC床版を撤去し、プレキャスト版を設置する。
本橋梁は3主桁であることから、負曲げ作用により、プレキャスト版と間詰部コンクリートとの打ち継ぎ界面がはく離する可能性を考慮し、付着力を高めるために付着用接着剤を用いた。
軸方向間詰部上を輪荷重が走行した場合においても間詰部は弱点とならず、耐疲労性が向上する結果が得られている。
その後、直ちにコンクリートを打設する。
なお、橋面防水工、アスファルト舗装、伸縮装置の新設も併せて5時間程度で終了した。
 

写真-10 取替RC床版の施工事例

写真-10 取替RC床版の施工事例


 
 

5. 伸縮装置の取替工事4)

5-1 伸縮装置の概要

道路橋の伸縮装置は、大型車両の荷重変動に伴う衝撃により損傷を受け、伸縮装置の損傷(写真- 11(1))および荷重変動によりRC床版上面が損傷し、雨水の浸透により土砂化へと発展する(写真- 11(2))。
伸縮装置の寿命は平均で10年〜15年であるが、早いもので2〜3年で取り替えられた事例もある。
伸縮装置は荷重支持型、突き合わせ型、埋設型に分類されている。
本稿では輪荷重をRC床版に分布させて作用させる荷重分布型伸縮装置および遊間部からの漏水対策としてSMジョイントについて述べる。
 

写真-11 伸縮装置の損傷およびRC床版の土砂化

写真-11 伸縮装置の損傷およびRC床版の土砂化


 
 

5-2  荷重分布型伸縮装置(NETIS:QS-200045-A)
(1) 荷重分布型伸縮装置の特徴

荷重分布型伸縮装置の特徴は、図- 11に示すように既往の伸縮装置の底面に荷重分布鋼板を設けた装置であり、輪荷重はこの荷重分布鋼板を介してRC床版に分布させることからRC床版に優しく伸縮装置の材料は鋼材、ジベル筋および鉄筋を溶接した構造である。
設置においては、既設RC床版上面には撤去時に発生する微細なひび割れ補修に浸透性KSプライマー、打ち継ぎモルタルとの付着を考慮してKSボンド、そして写真- 12に示すフィルコンSスーパーおよび超速硬性コンクリートのジェットパックを用いる。
 

写真-12 伸縮装置の設置に用いる材料

写真-12 伸縮装置の設置に用いる材料


 
 

(2) 荷重分布型伸縮装置の設置工法

荷重分布型伸縮装置の設置方法は写真- 13に示すように、旧伸縮装置を撤去した後、伸縮装置を仮設置して、アンカーボルトおよびアンカー筋位置に孔を開け、浸透性KSプライマーを塗布する(写真-13(1))。
次に、浸透性KSプライマー上面および伸縮装置の荷重分布鋼板にKSボンドを塗布する(写真- 13(2))。
伸縮装置設置後10mm程度の隙間にフィルコンSスーパーを充填する(写真-13(3))。
再度、伸縮装置のKSボンドを塗布して(写真- 13(4))ジェットパックを打ち込み(写真- 13(5))、平滑に仕上げる。
最後に遊間部に止水材、SMジョイントで仕上げる(写真-13(6))。
 

写真-13 荷重分布型伸縮装置の設置工法

写真-13 荷重分布型伸縮装置の設置工法


 
 

(3) 伸縮装置付近のRC床版の補修法

鋼製の伸縮装置位置から数メートルは荷重変動の影響を受け、土砂化する事例が多い。
また、抜け落ちも伸縮装置付近の床版で発生している。
従って、伸縮装置の取り替え工事と同時にRC床版の部分補修が必要となる。
 
RC床版の部分補修法は2-2で述べたEQM工法で補修することを提案する。
 
 

5-3  SMジョイント(NETIS:QS-180049-A)
(1) 伸縮装置の止水材の水劣化に伴う損傷

伸縮装置の遊間の止水材の劣化により、橋面に滞水した雨水や融雪剤の散布に伴う融解水が遊間部から流出し、橋梁部材を介して橋台へと流れるため、伸縮装置遊間部の漏水対策として用いられているゴムが劣化している(写真- 14(1))。
これを放置すると漏水した雨水が鋼主桁支承を腐食させる原因となる(写真-14(2))。
 
以上より、伸縮装置の遊間部には漏水対策が設けられているにも関わらず劣化し、水が主桁を通して支承へと流れ、腐食する。
これらのことから、遊間部の漏水対策として止水層の設置、あるいは老朽化した止水材の交換が必要となる。
 

写真-14 止水材の劣化および支承の損傷事例

写真-14 止水材の劣化および支承の損傷事例


 
 

(2) 遊間部の止水対策および材料

国土交通省の「橋梁伸縮装置止水部の補修に関する技術」に「ゴム劣化取替工法(SMジョイント)」が選定された。
SMジョイントに用いる遊間部および地覆間の止水材料は「特殊ウレタン樹脂材料」および「ポリブタジエン系樹脂材料」である。
この材料は主剤と硬化剤で構成され、ハンドミキサーで練り混ぜが可能である。
主剤と硬化剤を混合すると、60分程度で弾性ゴム状になる。
適用範囲は、設計伸縮量を60mm以下とする。
SMジョイントの概略を図- 12に示す。
 

図-12 遊間部および地覆間のSMジョイント

図-12 遊間部および地覆間のSMジョイント


 
 

(3) 遊間部の止水対策および補修事例

SMジョイント止水用材料を用いた施工方法では、遊間部の損傷(写真- 14(1))を修繕し、老朽化したゴム材および不純物を完全に撤去する。
また、止水層がある場合はこれも撤去し、遊間部にバックアップ材を挿入する。
次に、遊間部側面にプライマーを塗布する。
ここで、ウレタン系樹脂材料の止水材(写真-15(1)、1))を遊間部および地覆間の隙間に充填する。
充填終了後、養生して工事終了となる(写真- 15(1)、2))。
この施工手順はポリブタジエン系樹脂材料を用いた工法(写真-15(2))においても同様である。
 

写真-15 SMジョイント工法

写真-15 SMジョイント工法


 
 

6. まとめ

道路橋RC床版の長寿命化対策は、「橋梁定期点検要領」に基づいて5年ごとに点検し、前回の点検結果を基準に損傷の進行状況を確認する。
そして、補修・補強対策を検討し、早期に修繕を実施する。
 
RC床版は老朽化等により損傷し、雨水が浸透することで土砂化する。
見た目は健全でもコンクリート強度の低下や内部コンクリートにひび割れなどが生じている場合も多い。
よって、点検時にしっかり損傷状況を調査する必要がある。
 
次に、補修・補強法においては、その場しのぎではなく、長寿命化が図られる対策を講じる必要がある。
本稿で述べた補修・補強材(EQM材料)および補強法(EQM工法)は、全て材料試験および輪荷重走行疲労実験が行われ、耐疲労性が評価されたものである。
また、補強対策をした後年に現地調査を実施して、健全であることが確認されている。
 
下面増厚補強や伸縮装置については建設後数年しか経過していないことから、今後は経過観察を行っていく。
 
荷重分布型伸縮装置は、輪荷重を荷重分布鋼板を介してRC床版に作用させる特徴があり、RC床版に損傷を与えにくい装置である。
また、SMジョイントの止水性は良く、施工性にも優れた材料および施工法である。
 
本稿で述べた材料および工法は一部であるが、 RC床版の長寿命化対策は、損傷が軽微な段階(RC床版コンクリートの強度が道示3)の基準を満足している状態)で早期に補修・補強を施すこと
が最善であると考える。
 
 
参考文献
1)国土交通省:地方自治体の長寿命化修繕計画に関する最近の動向、
国土交通省道路局国道・防災課道路保全企画室、2010.
2)国土交通省:橋梁定期点検要領、2019.
3)日本道路協会:道路橋示方書・同解説、2002.
4)阿部忠:道路橋床版の健全性評価と長寿命化対策、建設図書、2021.9.
5)(財)高速道路調査会:上面増厚工法設計施工マニュアル、1995.
 
 
 

一般社団法人 日本橋梁メンテナンス協会 代表理事
日本大学 名誉教授(博士(工学))
中国科技大学講座教授(台湾)
阿部 忠

 
 
【出典】


積算資料公表価格版2022年10月号

文書名積算資料公表価格版2022年10月号

最終更新日:2023-06-26

 

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