ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料 > 国土交通省における i-Construction 2.0の推進

1. はじめに

国土交通省では、2016(平成28)年4月にi-Construction委員会(委員長:小宮山宏 株式会社三菱総合研究所理事長)から「i-Construction~建設現場の生産性革命~」を提言いただき、建設現場の生産性向上の取組として、ICT建設機械や無人航空機(UAV)等を活用したICT施工や、設計・施工におけるデジタル技術の積極的な活用など、i-Constructionを進めてきた。
 
令和6年4月には、i-Constructionの更なる展開として「i-Construction 2.0」の取りまとめを行ったので、本稿にて紹介する。
 
 

2. 更なる建設現場の省人化対策 ~建設現場のオートメーション化~

i-Constructionに着手して以降、社会資本整備をめぐる状況は大きく変化してきている。
生産年齢人口の減少や高齢化により、特に地方都市において暮らしを支える各種サービス提供機能の低下・損失が懸念される中、気候変動の影響による自然災害の激甚化・頻発化、高度成長期以降に集中的に建設されたインフラの老朽化が進行している。
また、世界中で流行した新型コロナウイルス感染症やAI、5G、クラウド等に至る革新的なデジタル技術の開発・社会実装は、社会経済活動のあり方や人々の行動・意識・価値観・インフラに対する捉え方にも、多大な影響を及ぼした。
 
このような状況の中、建設産業はコロナ禍においても、国土の安全・安心の確保、人流・物流の確保など、地域の守り手として国民生活に不可欠であり、建設産業従事者はエッセンシャルワーカーであることが再認識された。
 
一方で、今後更に生産年齢人口の減少が進んだ場合、他産業に比べて入職率、定着率が低い建設産業は、担い手を確保することが困難になり、将来にわたって社会資本の整備・維持管理を持続し、国民生活に不可欠なサービスを提供する社会的使命を果たし続けていく上での大きな制約になりかねない。
人口減少下においても、将来にわたって必要なサービスを提供していくためには、デジタル技術やデータの活用により、少ない人数で仕事を遂行できるよう、建設産業の仕事のあり方そのものを変革していく必要がある。
 
国土交通省では、これまで進めてきたi-Constructionの取組を深化し、更なる抜本的な建設現場の省人化対策を「i-Construction 2.0」として、「施工のオートメーション化」、「データ連携のオートメーション化」、「施工管理のオートメーション化」を3本の柱とし(図-1)、少ない人数で、安全に、快適な環境で働く建設現場の実現を目指し、建設現場のオートメーション化に取り組むこととする。
 

図-1 建設現場のオートメーション化に向けたトップランナー施策
 

⑴ 施工のオートメーション化

現在、建設現場では経験豊富な技術者の指揮の下、施工計画を作成し、工事工程を定めた上で、指示を受けたオペレータが建設機械に搭乗し、操作を行っている。
今後、1人当たりの生産能力を向上させるため、各種センサーにより現場の情報を取得し、AIなどを活用して自動的に作成された施工計画に基づき、1人のオペレータが複数の建設機械の動作を管理する「施工のオートメーション化」に向けた取組を実施する(図-2)。
 
「施工のオートメーション化」に当たっては、自動施工の標準的な安全ルールなどの環境整備や、異なるメーカー間の建設機械を制御可能な共通制御信号の策定、人の立ち入らない現場において安全かつ効率的な作業を可能にする遠隔建設機械の普及促進等を実施する。
 
また、様々なシステムが活用されている建設現場において、異なる建設機械メーカーであってもリアルタイムに施工データを円滑に取得・共有することで、建設現場のデジタル化・見える化を進め、建設機械の最適配置を瞬時に判断し、効率的な施工を実現する。
さらに、海上工事における作業船の操作の自動化を実現する。
 
「施工のオートメーション化」により、建設現場の省人化に加え、生産年齢人口の減少下においても必要な施工能力を確保していく。
 

図-2 施工のオートメーション化に向けたロードマップ
 

⑵ データ連携のオートメーション化(デジタル化・ペーパーレス化)

調査・測量、設計、施工、維持管理といった建設生産プロセス全体をデジタル化、3次元化し、必要な情報を必要な時に加工できる形式で容易に取得できる環境を構築する BIM/CIMなどにより、「データ連携のオートメーション化」を推進する。
これにより、同じデータを二度入力する手間をなくし、不要な調査や問い合わせ、復元作業を削減するとともに、資料を探す手間や待ち時間の削減を進める(図-3)。
 

図-3 データ連携のオートメーション化に向けたロードマップ
 
建設生産プロセスにおいて、作成・取得するデータは多量にある一方、現時点では十分に活用できていないことから、各段階で必要な情報を整理した上で、関係者間で容易に共有できるよう、情報共有基盤を構築し、円滑なデータ連携を進める。
 
データの活用に当たっては、設計データを施工データとして直接活用することや、デジタルツインの構築による施工計画など、現場作業に関わる部分の効率化を図る。
加えて、BIツール等の活用により、紙での書類は作成せず、データを可視化し、分析や判断ができるよう、真の意味でのペーパーレス化(ASP(情報共有システム)の拡充といった現場データの活用による書類削減)など、バックオフィスの効率化の両面から進めていく。
 

⑶ 施工管理のオートメーション化(リモート化・オフサイト化)

建設現場全体のオートメーション化を進めるためには、施工の自動化やBIM/CIM等によるデジタルデータの活用に加え、部材製作、運搬、設置や監督・検査等、あらゆる場面で有用な新技術も積極的に活用していく(図-4)。
 

図-4 施工管理のオートメーション化に向けたロードマップ
 
これまで、立会い、段階確認等の確認行為において活用していた遠隔臨場を検査にも適用するとともに、コンクリート構造物の配筋の出来形確認においては、デジタルカメラで撮影した画像解析による計測技術も適用する。
また、小型構造物や中型構造物を中心に活用していたプレキャスト製品について、大型構造物についてもVFM(Value for Money)の評価手法の確立等を進めながら導入を推進することにより、リモート化・オフサイト化を進める。
 
さらに、大容量のデータを活用するには、通信ネットワークの強化も不可欠であり、日本全国を高速・大容量回線で接続し、動画や3次元モデルなどの大容量データを円滑に利用できる環境を整備する。
 
なお、オートメーション化に向けた衛星測位技術の活用に当たっては、国家座標に準拠したデータの活用を推進していく。
 
 

3. i-Construction 2.0が目指す目標

i-Construction 2.0では、デジタル技術を最大限活用し、建設現場のあらゆる生産プロセスのオートメーション化に取り組み、今よりも少ない人数で、安全に、できる限り屋内など快適な環境で働く建設現場を実現することを目指している。
 
具体的には、2040年度までに建設現場の省人化を少なくとも3割、すなわち生産性を1.5倍以上に向上することを目指す。
これにより、建設現場で働く一人ひとりの生産量や付加価値が向上し、建設産業が賃金や休暇などの就労環境の観点からも魅力ある産業となり、国民生活や経済活動の基盤となるインフラを守り続けることを目標とする。
 
なお、i-Construction 2.0の効果把握に当たっては、建設生産プロセスが広範囲に及ぶことから、多様な効果把握に努めるものとする。
 

 

4. i-Construction 2.0を推進するために

人口減少下においても、国民生活に必要な社会資本の整備・維持管理を実施していくためには、従来の手法にとらわれず、産学が開発する様々な新技術を積極的に取り入れていく必要がある。
 
しかし、建設工事等の受注者は、発注者の定めた仕様に基づき施工するため、仕様の範囲を超えて新技術を活用する場合には、発注者の承諾を必要とする。
 
一方、発注者は、仕様で新技術を指定する場合に公平性の観点から説明責任が求められるため、従来技術と新技術との比較検討に当たって、経済性に偏重する傾向があるため、従来の手法では活用される技術が限定的となりがちである。
 
将来にわたって必要な社会資本の整備・維持管理を実施していくためにも、受注者及び発注者の技術力を結集し、過度に経済性に偏重することなく、積極的に新しい手法も検討・導入し、必要な技術を活用できる環境整備を実施していくこととする。
 
新技術の活用環境とともに、有用な新技術が創出される開発環境の整備も重要である。
技術開発は、各社が独自に技術開発する競争領域と、各社の技術を結集して横断的に取り組む協調領域があり、協調領域においては、人的及び資本的投資を効率化・抑制して、余力を競争領域への投資に配分することが効果的である。
現在、東京大学にi-Construction寄付講座を設置し、協調領域を設定した上で、関係者が連携して研究開発等を実施しているところであり、産学官が連携し、引き続き取組を進めていく。
 
スピード感を持って新技術の社会実装を推進するためには、その成果が国民に還元されるまでの道筋を想定し、出口を見据えた戦略性を持って、技術開発から活用・普及に至るまでの一連の施策を総合的に推進していくことが重要である。
 
 

5. おわりに

将来的な労働力の大幅減少など、日本全体を取り巻く環境が大きく変化していく中、魅力ある建設現場を創り出すため、日々進化する新たな技術を建設現場に導入し、i-Construction2.0で目指す世界の実現に向け取組を進めていく。
 
 
 

国土交通省 大臣官房 参事官(イノベーション)グループ 施工企画室 課長補佐 
 中根 亨

 
 
【出典】


 積算資料2024年7月号

最終更新日:2024-10-16

 

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