建設情報クリップ

職人たちの未来予想図~労務費に関する基準 持続可能な建設業 商慣行の改革~

1.はじめに

(一社)建設産業専門団体連合会(建専連)は、専門工事業、設備工事業および建設関連業団体で構成する職種横断的な団体です。
イノベーションの意思をもって業界内の意識改革に取り組むとともに、建設専門業界を代表する政策提言集団としての役割を果たすことを目指しております。
 
いま、建設業界では若手の人材確保が困難になっています。
日本は出生数の低下に伴い、少なくとも向こう20年間は生産労働人口の減少がみえています。
このような中、全産業で新卒者の獲得競争が始まっていますが、入職する側からみれば、建設業の労働環境は他産業と比べて魅力的とは言い難く、親御さん方も推奨しにくいのが現状でしょう。
建設会社への入職希望者であっても、設計や監理を希望するケースが多く、職人への希望者はかなり貴重な存在です。
 
建設業は、東日本大震災や近年の気象変動による洪水等の災害のたび、復旧や復興工事に携わり、多くの方々が人のために必要な分野であると認知されています。
しかし、建設業に入職して頑張ろうと志す若者がいても、現状の雇用条件や福利厚生などを比較して、将来を見据えた時には敬遠されがちな職場に映るのはやむを得ないと思います。

日本の人口の推移

 
 

2.専門工事会社の経営維持

国内では、労働者に対する給与を上げるよう政府が自ら発信していますが、現在の建設業の請負契約では、受注額が上がらないと給与に反映させることができません。
 
昭和の高度経済成長期には、社会資本となる道路や河川整備等の公共工事や民間事業での都市開発などが急速に進み建設業全体に活況があり、稼げる職場として雇用の受け皿となっていました。
しかしながら、元号が平成に変わり、バブルの崩壊とともに建設業にも大不況の時代が到来し、廃業・倒産する会社が数多く発生しました。
 
この原因のひとつとして、業界が好景気でも不景気でも建設業の請負金額は、下請契約を含めて「安い」を評価軸に請負競争をしてきたため、仕事量の減少時には必要な経費と人件費をその原資とせざるを得なかったことにあります。
結果、職人の給与は上げられないまま、我が国の技術を継ぐべき入職者を確保できない時代を作ってしまいました。
中小零細企業では、若手を採用できない状況も踏まえ、自分の代で店じまいを考える経営者もいます。
しかし、こうした規模の会社にこそ熟練工が存在しているのです。
 
 

3.建設業を持続させるためには

東日本大震災を契機に、災害に強い国土への強靱化計画の下、計画的に予算が組まれ、公共工事設計労務単価は上昇を続けているにも関わらず、職人の給与は相応には上がってきていません。
バブル崩壊後の教訓が基本給の上昇をためらわせているために他なりません。
会社の業績が良い年は、賞与で調整してきました。
安い方が良いが請負価格形成の常識と考えているままでは、ヒット商品を開発して自ら業績を上げられる業態ではない建設業はいつまでも給与を上げられません。
 
こうした業界環境の中で社会資本の整備・維持を担う建設業を持続可能な産業とするため、国の呼びかけの下、発注者や学識経験者および建設業界が議論を重ね「労務費に関する基準」の制度が創設されました。
 
特に、私たち下請業種は、常に時の最安値との競争で仕事をいただいてきましたが、業界に技能の継承者を呼び込み、熟練工を育て建設業を持続させるためには、創設された「労務費に関する基準」の意義を理解して、旧3Kを伴う建設業の労働環境を踏まえた相当額で競争して、欧米並みの給与を支払い、優遇された処遇と働き手のニーズに合った働き方を提示できる会社経営が可能になるように変わらなければなりません。
 
 

4.労務費に関する基準

担い手確保のため諸々の議論が始まり、社会保険適正加入を推進するなど処遇改善の動きとなりましたが、先んじて対応した会社が苦難に立たされました。
業界内が「安い方」に仕事が行く商慣行の中での競争であり、仕事量が減り、請負額を下げざるを得なくなった時に、処遇改善のために増加している経費を計上すると競争に勝てないためです。
請負を生業とする建設業は、仕事の繁閑に左右されない安定した請負額を確保するために、必要な労務費や経費は積み上げた額を競争の外において確保する必要があり、このための仕組みとして「労務費に関する基準」の考え方が創設されたと認識しています。
 
賃金に回る労務費は、適正水準が示され、安値受注が禁じられ、請け負った工事の労務量なりの労務費と経費が確保できることとなり、雇用主が労働者の技量に見合った賃金に変えていく原資とすることが安定的にできる仕組みです。
 
これを機能させるためには、業界全体で商慣行の当たり前を変えることが必要となります。
すなわち、「安い」を評価して成立させるのではなく、業界を持続させるために職人を処遇して継承者を育てていることや、信頼できる技術力を有していることなどが受注者選定の評価軸となる商慣行へと意識改革をしなければなりません。
この意識改革をするための仕組みを適正に機能させるのは、私たち業界の契約当事者の役割であり、関係者が意義や必要性を共有して一緒に商慣行のマインド改革に取り組むことが、持続可能な建設業となるための鍵となっています。
 
仕事が減っても増えても確保するべき労務費の目安として機能する「労務費に関する基準」の下での契約により適正な請負額を確保し、労働者の技量に応じた賃金に反映していけば、スタートラインが低いところにある現在の賃金は上昇し、これが建設業全体の処遇改善を加速させ、払えば上がるアップスパイラルでつながっていくはずです。
 
実現に向けて不安の声が大きいことは承知しています。
しかし、これを業界全体で導入できないと、将来に向けて建設業が維持できなくなることは想像に難くないと思います。
 
 

5.憧れの未来予想図のための礎

建設業の現場では、機械化の導入により大きな作業効率化が図られてきました。
今後もDXや更なる効率的機械が導入されてくるはずですが、私たち職人域の作業は人が必要不可欠な領域です。
技能が途絶えて持続しないことは許されません。
だからこそ、担い手となる若者の入職が絶対必要であり、魅力ある職場だということを見せて、介護業界の資料で示すように、入職しやすいよう担い手のすそ野を拡げる必要があります。
そのためには、早急に、現在活躍している職人の給与を上げて、休暇を他産業並みにした上で、次世代の職人を育てられる経費を確保して、熟練工の技術を継承させられる環境を整えなくてはなりません。
 
「労務費に関する基準」は、こうした環境整備のための基本的な仕組みであり、この施行を端緒として商慣行のマインドを大きく変えて、業界全体で正しく運用すれば、安定した経営の中で魅力ある条件で募集を行えるようになるはずです。
 
現場の職人が、「建設業に入職してきなさい。厳しいけれども他産業より高い給与がもらえて、やりがいはもちろん、技術を磨いて熟練工に向かって向上心を持てるおもしろい業界なのだ」と後輩や入職前の若者に語れるための礎となる「労務費に関する基準」に大きな期待をしています。
職人たちが未来予想図を描けるための入り口に立ったところです。

介護人材確保の目指す姿

 
 
 

一般社団法人 建設産業専門団体連合会 会長 
岩田 正吾

 
 
【出典】


 積算資料2026年1月号
積算資料2026年1月号

最終更新日:2026-04-06

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