- 2024-09-06
- 積算資料
1. はじめに
首都高速道路の高速1号羽田線(東品川桟橋・鮫洲埋立部)は、1963(昭和38)年に供用し、供用後50年以上が経過した区間である(図-1)。
東品川桟橋は、路面高さが海面に近い桟橋構造であるため、コンクリートの剥離および鉄筋の腐食等の損傷が多数生じている(写真-1)。
鮫洲埋立部は、現在では仮設で用いられる鋼矢板による構造であるため、土中内部のタイロッドが腐食・破断し、鋼矢板が海側にふくらむことで、路面にひび割れや陥没が過去に発生している状況にある
(写真-2)。
これまで部分的な補修、補強を行っているものの、長期にわたる耐久性、維持管理性の課題が残されることから、大規模更新事業として造り替えを行っている。
本稿では、全国の高速道路に先駆けて着手した、高速1号羽田線(東品川桟橋・鮫洲埋立部)の大規模更新事業の全体計画および施工ステップ、設計・施工概要について紹介する。
2. 全体計画
当該区間の交通量は約7万台/日であり、首都高速道路および周辺の一般道路への交通影響を考慮して長期の通行止めはせず、図-2に示すようにう回路を構築し、交通を段階的に切り回しながら施工を進めている。
なお、更新後の構造物は、メンテナンス性を考慮して海面からの離隔を確保するため、交差する都道(大井北埠頭橋)、大井水管橋を上越しする構造としている。
また、既設の大井JCTは既存より高い位置の更新線に接続するため、一時的に通行止めし、桁を造り替える必要がある。
2020年東京オリンピック・パラリンピックの円滑な開催に支障をきたさぬよう、東京五輪開催時には損傷した既設高速1号羽田線を通行させないことを工程上の目標としているため、東京五輪開催前にう回路の設置および更新上り線(暫定下り線運用)の構築を完了させる計画である。
その後、更新下り線を構築し、う回路を撤去することで、約10年にわたる事業を完了させる計画である。
3. 設計・施工の概要
3.1 う回路の設計・施工概要
(1)う回路の設置
う回路を構築する護岸と高速1 号羽田線の間の京浜運河水域は幅10〜20mと狭隘なうえ、高速1号羽田線の海側には東京モノレールが全区間で並行している。
また、陸側からの工事動線が5箇所に限られ、かつ護岸機能確保およびその背面用地の条件により、車両が直接入場できない箇所がある等の制約条件が数多くあった(写真-3)。
また、東京五輪開催前にう回路の設置および更新上り線(暫定下り線運用)の構築を完了させるため、う回路は2016(平成28)年2月の工事着手から約1年半で完成させることを工程上の目標としていた。
このような厳しい施工条件と工程のもと、急速施工を可能にするために着目した点は「十分な工事動線の確保」「現場作業の最小化」の2つであった。
まず、施工ヤード内の十分な工事動線を確保するため、図-3、4に示すように、う回路の基礎を2×2列の鋼管杭とし、その上にピアキャップを設置するパイルベント橋脚構造とした。
これにより、う回路直下を陸側工事用道路の工事動線として使用することができ、海側工事用道路を含めると2系統の工事動線の確保が可能となった。
次に、現場作業を最小化するため、プレキャスト部材など多くの工場製作品を採用した。
これまで現場で行っていた作業を工場でも並行して行うことにより、施工ヤードが狭い中でも急速施工が可能となった。
具体的には、ピアキャップ、床版、壁高欄についてプレキャスト部材を採用している。
橋脚柱頭部となるピアキャップには、3つのプレキャストRC部材(杭頭部のキャップ部材2つ、キャップ部材を連結する横梁部材1つ)をPC鋼材にて結合する構造を採用した(写真-4)。
床版には、標準サイズ幅2m×長さ9.2m、厚さ210mmのプレキャストRC 部材を採用した(写真-5)。
壁高欄には、施工性・維持管理性に優れた新型のプレキャスト壁高欄「EMC壁高欄」を採用した。
EMC壁高欄は工場で製作されたプレキャスト製品を現地でクレーン等により架設し、壁高欄どうしおよび壁高欄と床版をボルトにて接合する構造となっており、優れた施工性を有するものである。
また、ボルト接合とすることで取替える際も容易な構造となっている(写真-6)。
以上のように、「十分な工事動線の確保」「現場作業の最小化」に着目した設計施工により、2016(平成28)年2月の工事着手から約1年半でう回路を完成させ、工程上の目標であった2017(平成29)年9月14日に上り線の交通を切替えている。
(2)大井水管橋の架替え
更新線の縦断線形や既設構造物等の制約条件から、大井水管橋の1号羽田線上のアーチ橋部分をトラス橋に架替え、更新線の高さを極力低く抑えることとした。
この工事は、更新線工事の支障とならないよう、う回路施工中に行うこととし、水管橋の下を通る東京モノレールのき電停止および高速道路の夜間通行止めを実施し、2016(平成28)年10月に撤去、同年11月に架設を行った。
トラス橋に架替えた結果、高さを約6m低くすることができ、更新線の勾配を抑えることができた(写真-7)。
3.2 更新線(東品川桟橋部)の設計・施工概要
東品川桟橋部の構造諸元は表-1のとおりである。
次に各種構造の概要を示す(図-5)。
(1)上部工
上部工には、主に維持管理(点検・補修・改良等)の容易性等から鋼鈑桁形式を採用した。
また、当該地は海上部であり、通常時の維持管理性の向上を図るため、恒久足場を設置することとした。
また、主桁ウェブ厚を厚くすることで水平補剛材を設けないとともに、全ての中間横桁は主桁ウェブと高力ボルト接合とし、溶接継手を少なくした構造とすることで、維持管理性および耐久性の向上を図っている(写真-8)。
(2)橋脚工
橋脚には、現場での工程短縮、施工性を考慮し鋼製橋脚を採用した。
海上部という腐食環境を考慮し、橋脚の耐久性を向上させるために、海上大気部は合金溶射と重防食塗装との組み合わせ、飛沫帯から海中部は高耐食性ステンレスライニング工法を採用した(図-5)。
(3)基礎工
基礎工には、近接構造物への影響を考慮し、基礎寸法が縮小可能な柱状体基礎とし、水上での施工実績が多く施工性も優れる鋼管矢板井筒基礎を採用した(写真-9)。
また、上り線側基礎の施工後に下り線側基礎を施工する段階的な半断面施工となる基礎を一体化することで、半断面完成時における常時偏心荷重の影響を改善し、不等沈下による影響もなくすことを可能とした(図-6)。
(4)床版工
床版工には、耐久性・供用性を有し、床版下面のコンクリートを直接目視できることから維持管理性に優れ、現場工期の短縮も可能となるプレキャストPC床版を採用した。
(5)高欄工
壁高欄には、う回路と同じく施工性・維持管理性に優れた新型のプレキャストRC壁高欄「EMC壁高欄」を採用した。
(6)大井JCTの一時撤去
大井JCTは既存より高い位置の更新線に接続するため、一時的に通行止めし、桁を造り替える必要がある。
そのため、2016(平成28)年6月より長期通行止めを実施して桁の撤去等を行っている。
2017(平成29)年10月には東京モノレールおよび高速横断部の桁撤去を行った。
この工事も東京モノレールのき電停止および高速道路(下り線)の夜間通行止めを実施しての作業となった
(写真-10)。
今後、新たな桁に架替え、2019年9月には上り線う回路に暫定的に接続し、長期通行止めを解除する予定である。
3.3 更新線(鮫洲埋立部)の設計・施工概要
鮫洲埋立部の構造諸元は表-2のとおりである。
鮫洲埋立部については、高架構造とした場合、維持管理性に必要な海水面との離隔が確保できないこと、密に配置された既設のタイロッド等に影響を与えずに基礎の施工を行うことが困難であること等から、高架構造は選定しないことを前提に構造を決めた。
以下に各種構造の概要を示す(図-7)。
(1)土工部の嵩上げ
高潮高さ以上への土工部の嵩上げは、基盤面上へのリブ付U型セグメントとPC合成床版(PC床版+場所打ち床版)から成るプレキャストU型ボックス構造を採用した。
また、プレキャスト部材を縦断方向にPC鋼材で連結し、躯体に地震時挙動に応じたプレストレス力を導入することで、躯体縦断方向の耐久性を向上させている。
なお、躯体は十分な鉄筋のかぶり厚の確保、エポキシ被覆鉄筋の採用等により、海際での耐久性を向上している。
ボックス内部の空間確保や維持管理孔の設置により、ボックス内部の維持管理性を確保する構造とした(写真-11)。
(2)地盤改良工
プレキャストU型ボックス構造に対する支持力、安定性の確保および鋼矢板に代わる山留機能を確保するために、海側の既存鋼矢板背面およびボックス下の地盤を路面から必要な深さまで柱列状に地盤改良を行う構造としている。
また、地盤改良工は、重管式高圧噴射攪拌工法を採用し、タイロッド等の地中支障物への影響や半断面施工時の隣接する供用中の下り線への影響を抑制することとした。
4. おわりに
未来を見据えて日本の高速道路で最初に開始した大規模更新事業となる高速1号羽田線(東品川桟橋・鮫洲埋立部)更新事業は、厳しい制約条件、工程のもとで、2020年東京オリンピック・パラリンピックまでの更新上り線(暫定下り線)の完成を目指している。
事業の開始から現在に至るまで、地元の方々をはじめ、関係機関、公共交通事業者等の多大なる協力に対して、この場をお借りして改めて感謝を申し上げたい。
今後も、早期の事業完成に向け、安全着実に工事を進めてまいりたい。
【出典】
積算資料2018年12月号
最終更新日:2024-09-06
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