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道路の未来を変える次世代ICT「M-CIM Pilot」

はじめに

道路インフラの老朽化が進む中、維持管理の現場では人手不足や技術承継といった課題が顕在化している。
本稿では、こうした背景を踏まえ、 ICTシステム「M-CIM」および建機制御アプリ「M-CIM Pilot」の開発経緯と、その実装によって得られた成果について紹介する。
 
両システムは、第6回知恵-1グランプリ(京都商工会議所主催)チャレンジ部門においてグランプリを受賞しており、現場実務に寄り添ったICT活用として高い評価を受けている。
 
また本稿では、開発の背景にある「DA型開発」や「トリ・ゲームイテラシー(Tri-Game Iteracy:TGI)」といった手法にも触れながら、建設DXにおける“人間中心”のあり方について考察する。
 
 

1. 道路インフラ維持管理を取り巻く環境

1-1 道路インフラ維持管理の現状と課題

わが国の道路インフラは、いま一斉に更新期を迎え、老朽化のピークに差しかかっている。
ただし現場で働く技術者にとっての課題は、単にインフラが古くなっていることではない。
むしろ深刻なのは、それを支える「人」が足りていないという現実である。
 
管理すべき道路は増え続ける一方で、現場の担い手は減少している。
この状況の中で、現場の負担は大きく三つに分けられる。
 
一つ目は、出来形管理の負担である。
 
施工そのものよりも、「設計通りにできていることを証明する書類作成」に多くの時間と労力が割かれているのが実情である。
検査当日まで結果が分からない不安や、やり直しへのプレッシャーは、現場に大きなストレスを与えている。
 
二つ目は、技術承継の問題である。
 
路面のわずかな凹凸を読み取り、最適な施工を判断する熟練技術者の感覚は、いまだ属人的な技能に依存している。
しかし人手不足により、こうした技術を時間をかけて習得する機会は確実に減っている。
 
三つ目は、データ活用の断絶である。
 
近年、点群計測などICTの導入は進んでいるものの、それらは主に「検査用データ」として使われるにとどまり、施工中の意思決定には十分に活かされていない。
 
つまり現場が求めているのは、「管理のためのICT」ではなく、「施工を楽にするためのICT」である。
作業の結果を後から確認するのではなく、施工の段階から“確信を持って進められる状態”をつくること。
それこそが、これからの維持管理に求められる方向性だと考える。
 

1-2 既存ICT施工の構造的制約

これまでi-Constructionの推進により、ICT施工は着実に普及してきた。
しかし現場目線で見たとき、いくつかの課題も見えてくる。
 
まず、データの分断である。
点群データは主に成果品作成のために使われており、施工中のリアルタイム制御に活用されるケースは限られている。
 
次に、現場の柔軟性とのミスマッチがある。
実際の現場では、交通状況や天候などによって計画の変更が日常的に発生する。
しかし既存のICT施工は、事前に設定されたデータに依存するため、こうした変化に対応しづらい。
その結果、ICTを外して手動に戻るというケースも少なくない。
さらに、自動化の進展によって、施工の「納得感」が失われているという側面もある。
数値の根拠が見えないまま機械に従うだけの作業は、技術者の誇りや判断力を弱めてしまう恐れがある。
 
こうした状況を見ると、従来のICTは「管理のための道具」としては機能していても、現場で使い続けられる“手に馴染む道具”にはなりきれていないと言える。
 
 

2. M-CIM系システムの実装と特性

2-1 舗装修繕特化型ICT基盤「M-CIM」

「M-CIM」は、地上レーザースキャナー(TLS)やUAVによって取得した3D点群データを、道路の点検や補修といった実務にそのまま活かせる形に変換する解析システムである。
ポイントは、「形状」と「見た目」の情報を同じ座標上で重ね合わせている点にある。
TLSは路面の凹凸といった形状を高精度で把握できる一方、境界の判別には弱い。
逆にUAVの画像は視覚的な判断には優れるが、高さ方向の精度には課題がある。
 
M-CIMでは、この異なる特性を持つデータを同一座標上で統合することで、「この位置はどの高さで、どんな状態か」を一体として把握できるようにした。
その結果、路面のわずかな凹凸やひび割れの分布、わだち掘れの状態などを自動で抽出し、色分けして可視化できる。
これにより、ミリ単位での切削量の算出や仕上がりの予測を、施工前の段階で行うことが可能となった。
 
この仕組みは、単なる効率化にとどまらない。
例えば、施工範囲の面積や延長だけでなく、道路標示の復元量まで正確に把握できるため、より精度の高い予算策定につながる。
また、マンホールの高さ調整や排水勾配の設計といった細かな検討も、事前にデジタル上で完結できる。
 
さらに特徴的なのは、「通常は使われないデータ」を活かしている点である。
従来は施工範囲外の点群データは不要として扱われることが多かったが、M-CIMでは周辺の地形情報も保持する。
これにより、新旧舗装のつなぎ目の処理や、排水の流れといった“現場で効いてくる部分”の精度を高めることができる。
 
つまり、これまで「検査のために取っていたデータ」を、「施工の判断に使えるデータ」へと変換している点に、このシステムの本質がある。
 

2-2 現場主導型建機制御システム「M-CIM Pilot」

「M-CIM Pilot」は、M-CIMで作成したデータを、実際の施工に直接つなげるためのシステムである。
特徴は、「現場で使い続けられること」を徹底的に重視している点にある(図-1、2)。

図-1 M-CIM Pilotの使用状況
図-1 M-CIM Pilotの使用状況
図-2 M-CIM Pilotの使用状況
図-2 M-CIM Pilotの使用状況

 
まず、専用の高価な機械を前提としていない。
 
市販のタブレット端末とGNSSセンサーを組み合わせることで動作するため、導入のハードルが低く、既存の建機にも後付けで対応できる。
 
また、機械を切り替えてもデータが途切れない設計になっている。
現場では用途に応じて複数の建機を使い分けるが、従来のICT施工では機械ごとに対応が分かれ、結果としてアナログに戻る場面が生まれていた。
 
M-CIM Pilotでは、同じデータをそのまま引き継げるため、施工全体を通してICTを使い続けることができる。
さらに、現場の変化にリアルタイムで対応できる点も大きい。
 
施工中に進行方向の切削量を自動で再計算するため、事前のマーキング作業が不要となり、急なコース変更にも柔軟に対応できる。
安全面でも効果は大きい。
 
3Dデータ上に建機の位置を重ねて表示することで、夜間や視界の悪い現場でも状況を把握しやすくなる。
電線や障害物といった危険要素も事前に可視化されるため、事故のリスク低減につながる。
 
また、廃材量の管理にも対応している。
積載量のばらつきや回収のタイミングまで含めて把握できるため、運搬効率の向上だけでなく、過積載の防止や環境負荷の低減にも寄与する(図-3)。
 
このようにM-CIM Pilotは、単なる自動化ではなく、「現場が本来持っている判断力を支える仕組み」として機能している。

図-3 廃材量管理アルゴリズムの一例
図-3 廃材量管理アルゴリズムの一例

 

2-3 開発指針:トリ・ゲームイテラシー(TGI)

これらのシステムを支えているのが、「トリ・ゲームイテラシー(TGI)」という開発の考え方である。
ここでいう「イテラシー」とは、知識を持っていることではなく、「現場で繰り返し使いながら身につける力」を意味している。
技術と現場の経験を切り離すのではなく、両者を行き来しながら磨いていく、反復(Iteration)重視の発想である。
 
TGIは、大きく三つの要素で構成される。
 
一つ目は、ゲームニクス(Gamenics)由来の直感的に使える操作性である。
 
複雑なICT機器であっても、説明書を見なくても使えるようなインターフェースを目指して設計されている。
 
二つ目は、ゲーム理論(Game Theory)を基盤とした現場全体の最適化である。
 
発注者、施工者、オペレータの各者が、最小の労力で最大の利得を得られ、全体として効率が上がるような仕組みを組み込んでいる。
 
三つ目は、ゲーミフィケーション(Gamification)による継続的に使いたくなる仕掛けである。
 
作業の進捗や成果を可視化することで、自然と精度やスピードが上がっていくような設計になっている。
 
これら三つの先行研究を統合し、現場での検証と改善を通じて磨き上げたことで、高価な専用機に頼らずとも、実用に耐える精度と操作性を両立することができた。
 

2-4 第6回知恵-1グランプリにおける評価

こうした取組みは、第6回知恵-1グランプリにおいて高く評価され、チャレンジ部門においてグランプリを受賞した。
評価のポイントは、単なる技術の新しさではない。
人手不足や技術承継といった、建設業界が抱える根本的な課題に対し、現場の視点から解決策を提示している点にある。
特に、職人の経験や感覚を否定するのではなく、それを支える形でICTを活用している点は、多くの産業にも通じるモデルとして評価された。
 
 

3. 現場実装を支える設計論理

3-1 なぜ「高機能」だけでは現場に普及しないのか

建設業界におけるDXがうまくいかない理由の 一つは、「いいものを作れば使われる」という前提にある。
たしかに、機能が多く精度の高いシステムは一見魅力的に見える。
しかし現場では、それがそのまま受け入れられるとは限らない。
なぜなら、現場で求められているのは「正しさ」だけではなく、「納得感」や「使いやすさ」だからである。
 
どれだけ高性能なシステムでも、現場の感覚とズレていれば使われない。
むしろ「使いにくいもの」として敬遠され、結果的に現場から外されてしまう。
 
これまでのICT施工で見られた、コース変更への対応の難しさや、数値の根拠が見えないブラックボックス化といった問題も、こうした“現場とのズレ”が原因である。
 
つまり、DXを現場に根付かせるためには、「機能を増やすこと」よりも、「現場に合っているかどうか」が重要になる。
 

3-2 デザイン思考並走型アジャイル開発(DA型開発)

こうした課題を解決するために採用したのが、「デザイン思考並走型アジャイル開発(DA型開発)」である(図-4)。

図-4 DA型開発の概念図。開発力とUXのバランスが最も良いとき,ユーザーに強く響き,市場の反応が最大となる。
図-4 DA型開発の概念図。
開発力とUXのバランスが最も良いとき,ユーザーに強く響き,市場の反応が最大となる。

 
これは簡単に言えば、「作る力」と「考える力」を同時に走らせる開発手法である。
 
上流には、設計・開発・テストといった技術中心のプロセスがある。
ここではスピードが重要であり、近年はAIの活用によって開発速度は飛躍的に向上している。
 
しかしその一方で、「本当にそれが必要なのか」という視点が置き去りにされがちになる。
 
技術的には作れてしまうが、現場では使われない―そうしたミスマッチが起きやすくなっている。
 
そこで重要になるのが、デザイン思考のプロセスである。
 
現場を観察し、使う人の立場に立って考え、「何が本当に必要なのか」を問い続ける。
この二つの流れを並走させることで、開発の暴走を防ぎながら、現場に合った形に調整していく。
特に重要なのは、「違和感」を見逃さないことである。
 
操作はできるが、なんとなく使いにくい。
理由は説明できないが、しっくりこない。
そうした小さな違和感こそが、改善のヒントになる。
 
従来であれば見過ごされがちだったこうした声を、あえて開発の中に取り込むことで、システムは現場に馴染む形へと進化していく。
 

3-3 インピーダンス整合という考え方

DA型開発の考え方を一言で表すと、「インピーダンス整合」に近い。
少し専門的な言葉になるが、これは「送り手と受け手のバランスが合っている状態」を意味する。
 
ここでは、作り手の「できること」と、使い手の「ほしいこと」を一致させることを指している。
 
どれだけ優れた技術でも、現場が求めていない方向に進んでいれば価値は生まれない。
逆に、現場のニーズにぴったり合えば、シンプルな仕組みでも強い効果を発揮する。
 
そのためには、開発の途中で出てくる「反発」や「違和感」を無視しないことが重要である。
むしろそれを、方向修正のためのサインとして活用する。
 
M-CIM Pilotにおいて、機械を切り替えても使える仕組みや、直感的に理解できる表示が実現したのも、こうした現場の声を繰り返し取り入れてきた結果である。
一見すると開発の手間が増えるようにも見えるが、このプロセスこそが、最終的には“使われるシステム”を生み出す近道となる。
 
 

4. 実装を通じて見えてきた価値と今後の展望

4-1 現場にもたらした変化

M-CIMおよびM-CIM Pilotの導入によって、現場にはいくつかの明確な変化が生まれている。
まず大きいのは、「不安の減少」である。
従来の施工では、出来形が合格するかどうかは検査の段階にならないと分からなかった。
そのため、常に「やり直しになるかもしれない」という不安を抱えながら作業を進める必要があった。
しかし本システムでは、施工の途中で結果を把握できる。
そのため、作業を進めながら確信を持てるようになり、精神的な負担が大きく軽減された。
 
次に、「判断の質」が変わった。
これまで経験に頼っていた判断が、データによって裏付けられるようになったことで、若手でも一定の水準で作業を進められるようになっている。
ただし重要なのは、熟練者の役割が失われたわけではないという点である。
むしろ、データと経験が組み合わさることで、より精度の高い判断が可能になっている。
 
さらに、「現場全体の流れ」も改善されている。
事前準備の削減や、手戻りの減少により、作業の無駄が減り、全体の効率が底上げされている。
 

4-2 技術承継のあり方の変化

本システムの導入によって、技術の伝え方にも変化が生まれている。
従来の技術承継は、「見て覚える」ことが中心だった。
しかしそれは、習得に時間がかかるだけでなく、個人差も大きいという課題があった。
 
M-CIMでは、施工結果や操作ログがデータとして残る。
これにより、「なぜその操作をしたのか」「どうすればうまくいくのか」を可視化できるようになった(図-5、6)。

図-5 ICTによる職人技継承の例
図-5 ICTによる職人技継承の例
図-6 モニタ表示例
図-6 モニタ表示例

 
つまり、これまで言語化が難しかった熟練者の感覚が、共有可能な形に変わりつつある。
一方で、すべてをデータに置き換えることが目的ではない。
 
重要なのは、データを通じて理解を深めることであり、最終的な判断力そのものは人に委ねられるべきである。
 
このように、デジタルと人の役割を切り分けるのではなく、両者を補完関係として捉えることが、これからの技術承継の鍵になる。
 

4-3 建設DXにおける位置づけ

M-CIMおよびM-CIM Pilotは、単なるICTツールではなく、建設DXの方向性を示す一つの事例といえる。
これまでのDXは、「効率化」や「自動化」に重きが置かれてきた。
しかし現場においては、それだけでは十分ではない。
本当に求められているのは、「使い続けられること」である。
どれだけ高機能でも、現場に定着しなければ意味がない。
 
そのためには、技術そのものだけでなく、「使う人」を中心に据えた設計が不可欠になる。
 
M-CIM Pilotが評価されたのも、この点にある。
 
現場の実態に合わせて設計されているからこそ、実際に使われ、結果として価値を生み出している。
 

4-4 今後の展望

今後、建設業界におけるD Xはさらに加速していくと考えられる。
AIや自動化技術の進展により、できることはますます広がっていく。
 
しかしその一方で、「何を作るべきか」を見極める重要性は、これまで以上に高まる。
技術が先行しすぎると、現場とのズレが大きくなる。
だからこそ、現場の声に耳を傾けながら、必要なものを見極めていく姿勢が求められる。
 
M-CIM Pilotの開発を通じて得られたのは、単なるシステムではない。
現場と技術をeスポーツのような熱量でつなぐ新しい建設DXのあり方である。
eスポーツ人材による建機オペレーター拡大の研究は、現在、国土技術政策総合研究所(国総研)が本格化させており、まさに「国が推奨する、建設業界の担い手不足解消の切り札」といえる。
 
この考え方をもとに、従来リソースを基盤にして現場に寄り添ったD Xを積み重ねていくことが、持続可能なインフラ維持管理につながっていくと考える。

 

おわりに

本稿では、道路インフラ維持管理の現場における課題を出発点として、「M-CIM」および「M-CIM Pilot」の開発と実装、そしてその背景にある考え方について述べてきた。
これらの取組みを通じて見えてきたのは、技術そのものの重要性だけではない。
むしろ本質は、「技術をどう使うか」、そして「誰のために使うか」にある。
 
建設業界においては、これまで数多くのICTやシステムが導入されてきた。
しかし、それらが必ずしも現場に定着しているとは言い難い。
 
その理由は、技術が現場の感覚や実情と噛み合っていなかったことにある。
どれだけ優れた仕組みであっても、使う人が納得できなければ、継続的に使われることはない。
 
今回の取組みでは、現場の違和感や声を起点にしながら、開発と改善を繰り返してきた。
その結果として、「使われるシステム」に近づけることができたと考えている。
また、技術承継のあり方についても、新たな可能性が見えてきた。
データによって熟練者の判断が可視化されることで、経験と知識を共有しやすくなりつつある。
 
本プロジェクトの完遂にあたり、その有用性を深く認め、終始忍耐強く信頼を寄せてくださった松本建設株式会社 代表取締役 松本佳之氏に心より感謝申し上げます。
また、現場の微細な違和感を丁寧に掬い上げ、多面的なヒアリングに尽力いただいた松本建設株式会社 ICT事業本部長 西川泰輔氏をはじめ、検証にご協力いただいた全ての関係各位に、厚く御礼申し上げます。
 
 


参考文献
国土技術政策総合研究所「評価対象研究開発課題一覧『生産年齢人口減少下における遠隔施工オペレータの多様化に資する研究』」
『令和7年度 研究評価書』p.11、2025年、https://www.nilim.go.jp/lab/bcg/hyouka/R7/hyoukasyo/hyoukasyo1.pdf
(参照2026年4月27日)
早川克美「拡張するデザイン思考」京都芸術大学 東北芸術工科大学出版局 藝術学舎、2025年
都市美研究会編、井口勝文ほか「都市のデザイン――“きわだつ”から“おさまる”へ」学芸出版社、2002年
黒川文雄「ビデオゲームの語り部たち」DU BOOKS、2023年サイトウアキヒロ「ゲームニクスとは何か」幻冬舎、2007年 田尻智「新ゲームデザイン」エニックス、1996年
 
 
 

松本建設株式会社Special Advisor
森 誉光

 
 
 
【出典】


積算資料公表価格版2026年6月号


積算資料公表価格版2026年6月号

最終更新日:2026-05-20

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