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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 生産性向上 > 民間小規模現場におけるDX化に向けて

はじめに

一般社団法人日本建設機械レンタル協会は、建設機械レンタル会社を中心に構成され、建設機械器具賃貸事業に関する調査・研究を行うとともに、建設機械器具の技術開発を促進し、また国土交通省が進めている施策への協力を積極的に行っている。
 
本稿では、建設生産プロセス全体にICTを取り入れることで生産性の向上を目指すi-Constructionや民間工事現場におけるDX化について、ICT施工の変遷や建設機械メーカおよび建設機械器具レンタル会社の取組みついて紹介する。
 
 

1. 現状と課題

昨今、少子高齢化、人手不足という問題に併せて賃金水準の向上や週休2日制といった働き方改革が求められており、さまざまな業界で重要視されている。
 
また、建設業界においては、2024年4月1日より罰則付きの時間外労働の上限規制が適用されたことにより、限られた労働力で生産性の向上をどう図るかが大きな課題となっている。
 
 

2. 官民の建設業DX化に向けた取組み

2-1 国土交通省の変遷と現在

そのような課題に対し、2008年に国土交通省が主体となり、産学官それぞれの分野の有識者による「情報化施工推進会議」が設置された。
そこでは建設施工のイノベーションを実現する新しい施工方法である情報化施工の戦略的な普及方策として、「情報化施工推進戦略」がまとめられ、本格的な情報化施工への取組みが始まった。
 
建設機械メーカにおいては、ICT建設機械が開発され、オペレーターがブレードを操作せずに自動で設計面に合わせて施工を行う3Dマシンコントロールブルドーザ(写真-1)や設計面にバケットが接触すると自動で作業機が停止し、過掘りを防ぐ3Dマシンコントロール油圧ショベル(写真-2)といった建設機械が市場に導入された。
 

写真-1 3Dマシンコントロール ブルドーザ
 

写真-2 3Dマシンコントロール油圧ショベル

 

ICT建設機械の市場導入により、施工のプロセスにおいては、丁張の設置や補助作業員の削減により生産性の向上が図れた。
しかし、起工・出来形測量や立ち合い・完成検査などの施工以外の部分においては、従来手法で実施していたため、工事全体で見た場合、大きな生産性向上に寄与するまでには至らなかった。
 
そのため、国土交通省では、2016年4月に「ICTの全面的な活用(ICT土工)」等の施策を建設現場に導入することにより、起工測量~納品までのプロセスにさまざまなICTを活用することで建設生産システム全体の生産性向上を図り、魅力ある建設現場を目指す取組みとして『i-Construction』が提唱された。
 
これにより、施工以外のプロセスへのICT化が促進され、2022年度時点で土工、舗装および浚渫工(河川)の延べ作業時間は、約3割の削減効果が図られている。
 
更に次の展開として、IOTやデジタルツインなどを活用し、作業状況を分析することで建設現場のリアルタイムな工程改善、作業と監督検査の効率化を図り、抜本的な生産性向上を目的とした、「ICT施工stageⅡ」(図-1)の取組みが開始され、建設業のDX化を推進している。
 

図-1 ICT施工stage2の位置づけ 
出典:第16回ICT導入協議会 資料2 ICT施工の普及拡大に向けた取組
 

2-2 建設機械レンタル会社の取組み

情報化施工推進戦略の策定後、各建設機械レンタル会社は、ICT建設機械の提供およびICT施工の現場サポートを実施してきた。
 
i-Construction開始後は、今まで携わることがなかったGNSS測量・レーザー測量・ドローン測量などの3次元測量や施工管理、データ納品などに対するサポートを開始し、工事全体の生産性向上へ寄与している。
また、各社とも建設生産プロセスにおいて、測量データやICT建設機械、3次元データをデジタルツインで繋ぐソリューション(図-2)や、省人化または作業効率の向上に資する技術等を建設業者に対して手軽に導入できる価格帯で提供している。
 

図-2 現場のデジタルツインを実現する
Smart Construction Dashboard(㈱EARTHBRAIN社製)
 
 

3. 建設現場のDX実現に向けて

3-1 建設現場におけるICTの普及状況と課題

国土交通省が発注する実施工や施工管理に3次元データなどを活用するICT活用工事においては、年々、実施する件数が増えており、i-Constructionの開始当時である2016年度では実施率が36%(公告件数1,625件、ICT実施584件)であるのに対して、2022年度ではICT実施率が約86%と2倍以上となっている。
 
ただし、建設業者の入札参加資格の格付けで見た場合、全国規模で工事を受注する企業(Aランク、Bランク)の9割以上がICT施工を経験しているのに対し、地域を地盤とする中小企業(Cランク、Dランク)はICT施工の経験割合が低くなっている。
これは、全国企業と地域企業との間にICT普及の格差があることを示しており、中小企業に対するICT普及拡大が急務となっている(図-3)。
 

図-3 ICT施工の経験企業の割合 
出典:第17回ICT導入協議会 資料1 ICT施工の普及拡大に向けた取組
 

3-2 国土交通省におけるICT施工の対象工種の拡大

国土交通省では、ICT施工を普及させるため対象工種を順次拡大しており、2016年のi-Construction開始当時は、ICT土工のみだったものが、2023年時点では、12工種までに拡大している。
また、中小企業にもICT施工を普及させるため、土工量1,000m³未満や土工に付随する側溝工、暗渠工に適用される『ICT活用工事(1,000m³未満)』や1箇所当り100m³未満の掘削、積込みおよびそれらに伴う運搬作業に適用される『ICT活用工事(小規模土工)』などが工種拡大を図っている。
 

3-3 中小企業・地方公共団体への裾野拡大

国土交通省では、中小企業のICT施工普及拡大に向けた施策を進めており、関東・中部・九州の地方整備局においては施工者や発注者が持つ疑問点や課題等について経験者からアドバイスなどの支援を行う「ICTアドバイザー制度」を設けている。
また、東北地方整備局では管轄している県ごとに「i-Constructionセミナー」の開催をしている。
 
建設機械レンタル会社としても敷地内にてICT建機を体感してもらうデモンストレーションエリアを設け、またi-Constructionの基準について学べるセミナーやWEB会議システムを活用して、現地に赴かなくても事業所または現場事務所にて先端技術を学べるウェビナーなどを独自で開催し、さらなる普及拡大に向け積極的な活動を行っている。
 

3-4 小規模土工に対応するICT建設機械

国土交通省の『ICT活用工事(1,000m³未満)』および『ICT活用工事(小規模土工)』の実施要領において、施工に用いるICT建設機械は、マシンガイダンス(以下、「MG」と呼ぶ)技術搭載バックホウと指定されている。
 
それに適用できる建設機械または装置などを各メーカが開発しており、自動追尾型トータルステイション(以下、「TS」と呼ぶ)をマシンガイダンスシステムのセンサーとして活用したMGバックホウや従来の小型建機にも搭載可能な、GNSSを活用した後付けMGキットなどが市場で販売されている(図-4)。
 

図-4 小型建機への後付けMGキットの装着
Smart Construction 3D Machine Guidance(㈱EARTHBRAIN社製)
 

3-5 民間工事へのICT化・DX化に向けて

国土交通省が主導するi-Constructionにより、技術基準や積算基準などが整備されたことでICTを活用した公共工事が定着・一般化され、更に次のステップである「ICT施工stageⅡ」が提唱され、建設業のDX化が加速している。
 
その一方で、民間工事に目を向けるとICT施工が普及しつつあるものの、まだ従来施工が主流となっているのが現状である。
 
ICT施工の普及が進まない要因として、民間工事は収益性を第一に考えて事業を進める傾向がある。
公共工事の場合、ICT施工に必要となる3次元設計データの作成費用は、発注額に盛り込まれるが、民間工事では、その費用は工事費に盛り込まれることが少ない。
そのためICT施工を行う場合は、受注者負担で実施することになることが多いと思われ、導入にためらいが生じる。
 
しかし、ICT施工を行う上で、必ずしも3次元設計データが必要というわけではない。
ICT建設機械の中には、運転席に搭載されたモニターにて、3次元設計データを簡易的に作成することができる機能を有するものがある。
 
特にSmart Construction 3D Machine Guidance(㈱EARTHBRAIN社製)においては、ICT機器に慣れていない施工者向けに2023年8月より『簡単3D』モードを搭載し、GNSS補正情報を受信できる環境であれば、3次元設計データが無くても、4回程度の簡単なボタン操作で、任意の高さに3次元平面データが作成され、MGでのICT施工が可能になる。
 
この『簡単3D』モードを使用することでTSやレベルによる位置、高さの指示や掘削幅の位置出しが不要になるため、小規模な現場においても生産性の向上や手元作業員の手間の削減が期待できる(図-5)。
 

図-5 Smart Construction 3D Machine Guidance
(㈱EARTHBRAIN社製)の「簡単3D」操作方法
 
また、ICT施工以外に測量技術においても、市販で売られているiPhoneまたはiPadを用いることにより、3次元地上写真測量を実現し、レーザースキャナーやドローンなどを使用しなくても手軽に3次元点群データを入手できるソリューション(図-6)もリリースされており、各メーカの開発により民間小規模現場におけるDX化は、今後、着実に進んで行くと思われる。
 

図-6 Smart Construction Quick 3D( ㈱EARTHBRAIN社製)
 
 

おわりに

建設機械器具レンタル会社は、i-Constructionに係わるICT建設機械および3次元測量機器等のレンタル、施工者が円滑にICT施工を実施できるように現場サポートや施工プロセスを繋ぐソリューションを提供することで普及に貢献してきた。
 
2024年4月より、建設業でも施行された働き方改革により時間外労働の制限が設けられ、更に建設業従事者の高齢化が進む中で、「生産性の向上」は、より大きなキーワードになると考えられる。
 
一般社団法人日本建設機械レンタル協会としては、今後に拡大が見込まれる地方自治体の公共工事や民間工事のICT施工に対して、中小を問わず、さまざまな建設会社の下支えとなるようICT建設機械、測量機器等の保有など、適切な現場サポートを実施する所存である。
 
また、国土交通省が提唱する「ICT施工StageⅡ」実現に向けたIOTやデジタルツイン等、抜本的な生産性向上を実現させるソリューションを提供することが使命であると考える。
 
今後、建設業全体へのICT施工の普及と安全で生産性の高いスマートでクリーンな未来の現場の実現を願っている。
 
 
 

一般社団法人 日本建設機械レンタル協会
コマツカスタマーサポート株式会社
苅谷 秀行

 
【出典】


 
積算資料公表価格版2024年6月号
積算資料公表価格版2024年6月号

最終更新日:2024-06-12

 

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