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1. トンネルの現況

平成26年に国土交通省令において道路の維持または修繕に関する技術的基準が定められ,トンネルや橋梁等において一定の知識および技能を有する者によって定期点検を行うことが義務付けられた。
また,基準に基づき,定期点検要領が発出されたとともに,研究開発や調査研究から得られた知見等を反映した各種の技術図書類の改訂・発刊も行われてきた。
その後,定期点検要領は平成31年に改訂が行われるなど,維持管理に関しての取組みは徐々に進んできているといってよい。
 
中でもトンネルは一般に地形に制約をもった箇所にある場合が多い。そのため,通行が困難となった場合に適切な迂回路が少なく,交通や物流に与える影響が非常に大きい。
トンネルは,これまで社会の要請も踏まえて,その建設数が増加してきており,それと相まって技術的な知見の蓄積も進んできている。道路トンネルを例に挙げると,図-1に示すように1960年以降急激な伸びで建設が進められてきている。
それだけ社会が成熟し,交通や物流に対する要請も高まってきた証左であると言える反面,供用から相応に経過するトンネル数の割合も徐々に増加していることになる。
今後もさまざまな用途で利用されているトンネルの箇所数や供用延長,それと同時に老朽化するトンネル数は増加することになり,既設トンネルの高齢化も進むと考えられる。
加えて,トンネルを含むインフラ構造物は,さらに高度な役割やサービス水準の高い機能が必要とされる場面も見られてきており,構造部としての機能を維持するにあたってはこれまで以上にきめ細かい配慮が必要になると考えられる。
 
トンネルの維持管理に関しては,ある一定程度の画一的な考え方を提示すれば,管理が合理的に進められる面がある。
その一方で,個々の現場で異なる多様な条件にも対応することが求められ,解決すべき課題は数多く残されているといってよい。
本稿では現場で遭遇するトンネルの変状をひとつの切り口として,現状の取組みや今後の展望を述べる。

道路トンネルの総延長と箇所数の変遷

図-1 道路トンネルの総延長と箇所数の変遷



 

2. トンネルに発生する変状

トンネルの維持管理としては,管理者によって名称の違いはあるが,国土交通省によって示されたメンテナンスサイクル,すなわち,点検→診断→措置→記録によるサイクルをもとに,継続的に行われている。
通常は供用後にトンネルになんらかの変状が発生する場合が多いと考えてよく,その代表的なものは覆工コンクリートに現れることが多い。原因としては,外力の作用等の外因(外的要因)と,使用する材料等の内因(内的要因)に大別できると考えられている。
また,変状の機構や変状区分,変状現象といった観点で変状を分類することができ,それらの分類については既に書籍類によって示されている。顕在化した現象を整理すると,変状区分として「外力による変状」「材質劣化による変状」「漏水による変状」の3つに集約されると考えられている(※1)。
特に,これらの変状について,現場において問題となっている現象を考えると,うき・はく離による覆工コンクリート片の落下,または過度な漏水によるトンネル内の湿潤が,利用者の安全性に大きな影響を及ぼしている場合が多い。
 
一方でトンネルの変状については,データの蓄積に伴い,変状の発生やその特性について徐々に分析が進んでいるところもある。図-2は2014~2018年の直轄道路トンネル約1500本の定期点検の結果を分析し,変状の発生個数をとりまとめたものである。
変状としては代表的なもののみとして,「うき」「豆板」「ひび割れ」「漏水」のみを考えている。
速報値の位置づけであることから,個々の数字は今後検証が進むことによって変動する可能性はあるが,マクロに捉えた場合,変状の発生傾向については大きく分けて3つの局面があると考えられている。
1つめの局面は,矢板工法時代に作られたトンネルであり,「漏水」が他の年代に比べて多く見られていること,また,2つめはNATMが導入された初期の頃として1987~1997年と仮定した場合,工法が成熟していたとは言い難いことから,覆工の品質が現在に比較して悪く,「うき」が出やすい傾向が見られていること,さらに,3つめには近年のNATMとして,漏水」と「うき」が以前よりは減少してきており,変状の全体に占める割合としては結果的に「ひび割れ」が多いように見えることなどが分かる。
 
変状の箇所数を概略的にまとめたことや,トンネルの場合,都度補修等が行われている場合もあることから定量的な分析が難しいところもあるが,図-2の解釈として,完成年度が古いほど変状が多いという一般的に理解されている知見に加え,変状の種類・傾向が完成年度によって少しずつ変化していることが言える。
そのためには,過去のトンネルに関する設計・施工技術や維持管理技術の変遷を理解することが不可欠であり,それを踏まえて今後の方策を考える必要がある。

変状の発生傾向(提供:国土技術政策総合研究所・土木研究所)

図-2 変状の発生傾向(提供:国土技術政策総合研究所・土木研究所)



 

3. トンネルの維持管理における取組み

メンテナンスサイクルを念頭に置いた場合,過去または現状で行われている主な取組みは点検と措置に関するものが多いと考えられる。
これらに関しては既に技術的な要領や考え方が示されてきている。
点検に関しては近接目視と打音検査が主体で行われており,また,トンネルでは対策と称されることが多い措置に関しては,過去の知見に照らし合わせて工法の選定が行われている。
しかしながら,近年の流れを受けて例えば点検作業に関してはその効率化を目的として,新技術の積極的な活用が求められつつある。
そのひとつに点検作業の合理化に資する新技術の検証を行うとともに,新技術を選定する際に参考となる点検支援技術が記載された性能カタログ案が作成され,公表されてきている(※2)。
特に,異業種や他分野の技術,これまでその分野では用いられることがなかった材料の採用など,必ずしも連携が十分ではなかった可能性のある技術分野も含めて導入を促進していくことも念頭に置かれている。
あらかじめ定められた項目に対する性能値をカタログ形式で取りまとめたもので,点検業務の発注者と受注者ともに新技術の性能等を確認するための資料として利用されることを目指している。
 
また,例えば高速道路においては大規模更新事業として,さまざまな変状への対策を含むリニューアルプロジェクトの計画が平成26年度末に定められ各地で進められてきている(※3)。
もともとトンネルの変状に関しては補修や補強の対策の考え方が示されてきてはいるが,特に盤ぶくれに対する対策が急務であると考えられており,写真-1に示されるような車線規制や通行止めを伴う後施工の本インバートを基本とし,極力交通渋滞を避け,対策期間を選定して施工が進められている。
 
これらに関しては,現時点でもさまざまな検討が進められている。
例えば,性能カタログ案に関しては,今後も技術の登録は続けられる予定で,技術数も徐々に増えていくことになると考えられる。
また,インバート施工に関しては,一般車の安全対策と非常用施設の確保が必須となることや,従前の通行止めの施工と比べ進捗が低下することから,設計の合理化と施工法の効率化に資する検討も行われている。

インバート施工の状況(高速道路総合技術研究所 提供)

写真-1 インバート施工の状況
    (高速道路総合技術研究所 提供)

インバート施工の状況(高速道路総合技術研究所 提供)



 

4. 今後の展望

これまでメンテナンスサイクルの位置づけ,すなわち永続的な維持管理の必要性や,また,技術の変遷を知識として有することの重要性,さらに近年行われている取組みについて述べてきた。
今後さらに有効な維持管理を行っていくにあたっては点検,診断,対策等でそれぞれの固有の課題があるものの,総じてまとめると以下の方策が必要ではないかと考えられる。

①ばらつきを極力少なくするための方策

特に点検や診断において当てはまることが多いが,都度の判断を合理的に実施するためには,その原因を推定する精度が重要になる。
既に現場の点検の実情や特性を十分踏まえた形での自動化・省力化・システム化等が行われつつある。
ただし,例えば覆工に生じる「うき」を考えた場合,何らかのシステムを用いても,その発見は現時点では人力による打音検査の精度を上回っているとは言い難い面も多く,また,途中の監視で発見できるとも限らず,システムの敷居値の設定によりばらつきが生じてしまうことになる。
また,発見できたとしても,その状態の判定は,携わる技術者の判断に委ねられることになり,そのスキルにもばらつきが大きく存在すれば,結果的に得られた評価もままならないものになる。
結局,技術導入分のコスト増にとどまる可能性が高くなるどころか,場合によっては結果の信憑性にも疑問符がつく場合もあるかもしれない。
限界を認識しつつ,広義のサービスを提供する側と提供される側の意識と技術のマッチングが求められている。

②新たな技術を取り入れるための方策

供用中のトンネルで変状原因を究明すると,土圧の作用,コンクリート覆工の材質による影響,そして漏水に関する原因に大別され,対策を考えれば用いられる補修・補強工もそれぞれ異なる。
手法の適用にあたってはその力学的な特性にとどまらず,現地への適用性,中長期的な耐久性の検証も必要であり,初期工事費のみならず長いスパンでの費用対効果の評価が必要になる。
その結果,場合によっては,大規模な更新を行うことが望ましい場合もある。
上述①と相反する面が存在することは否定できないが,技術は使われて磨かれていく側面も多分にある。
基本として押さえるべき点,実際に扱いながら検証すべき点,そして当初の想定と異なる場合のリカバリーをどのようにすべきかといった点を考慮する必要がある。

③結果を残していくための方策

①と②を合理的に行うためには,適切な記録を参照できることが重要になる。
例えば,前回までの点検記録等を確認することが容易となったうえで,点検の実施とその判定が行われれば,より正確な判断を下すことが可能となり,また,それによりさらなるデータの蓄積が図られ,以降の維持管理がさらに有効なものとなっていく好循環をもたらす。
トンネルは何らかの事象が発生した際に地山を見て判断することが概して出来ない,ある意味不確実性を許容しなければならない構造物であるから,その事象の原因を推定出来る資料が多いほうが良い。
そのためには計画段階,設計段階,施工段階,そして日々の点検等の維持管理段階のデータが一括して取り扱うことができることが望ましい。
ただし,これらのデータをどこにどのような形で存在させるべきなのか,トンネル本体の維持管理にとどまらず,「データの維持管理」が極めて重要になる。各段階で得られたデータはその質を確保しながら引き継がれていかなければならない。
概してデータの作成者と,そのデータが存在することによる受益者は異なることが多いが,そのことが障壁になり維持管理が機能しないことはすべての立場に対して不利益をもたらす。
よって本方策は管理者やその組織のみならず,トンネルが存在することで便益にあずかることができる者全体で考えるべきものではないだろうか。

④判断出来るための方策

そして,最も重要であり,①~③の方策すべてに共通するとも言えるのが,判断出来るための方策のさらなる深度化,すなわち,診断の技術の確立ということになる。
近年では画像の解析やAIを用いた技術の開発が維持管理に限らず種々の分野で進んできており,かなりの精度で判断できる材料が提示される場面も見受けられるようになってきた。
しかしながら,維持管理でいう診断に関してその精度を確保するためには,診断が適切に行われるために必要な知識および技能を有する技術者が求められることは言うまでもない。
すなわち,技術者の育成が何よりも重要になってきていることが見逃されないようにしなければならない。
あくまでも,維持管理における技術は我々が「利用する」ものである。これまでに社会的に報告されている事象の多くに「想定外」と称されているものも少なからずあった。
人の手を経たとしても,優れた技術をもってしても,その想定外は防げなかったのかもしれないが,それを踏まえ,限界を乗り越えられる体制・システム作りも併せて行われるべきであり,それは利用する側の知識と技能があってこそではないかと考えられる。

 
 

おわりに

トンネルの維持管理において解決すべき内容は,設計,施工,対策等が行われるその時代時代において,その時の最新の知見を駆使して総合的な検討が求められるということに尽きる。
供用年数の長いトンネルが増加していくということにとどまらず,社会情勢の変化も踏まえて,上記の課題を見据え,一過性の活動にとどまることなく,トンネル,ひいてはインフラ構造物の合理的な維持管理を進めていく必要があるのではないかと考えている。
 
【謝辞】
本稿でのデータの提供に関して,国土交通省国土技術政策総合研究所,国立研究開発法人土木研究所および株式会社高速道路総合技術研究所の関係諸氏に謝意を表する。
 
 

参考文献
(※1) 道路トンネル維持管理便覧【本体工編】 令和2年版,日本道路協会,令和2年8月
(※2) 伊藤良介,トンネル点検支援技術の性能カタログ作成における技術検証,建設機械施工,Vo.73,No.8,2021年8月
(※3) 中野清人,高速道路の更新事業におけるトンネル大規模修繕の計画上の留意点,基礎工,2020年5月

 
 
 

東京都立大学 都市環境学部 都市基盤環境学科 教授
砂金 伸治

 
 
【出典】


積算資料公表価格版2022年2月号
積算資料公表価格版

最終更新日:2023-07-07

 

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