環境省における地中熱利用の普及促進について
はじめに
現在の地球は、人間活動による温室効果ガスの排出に伴って温暖化が進行し、気候変動が生じています。
気象庁によると、日本国内においても、2025年は各地で観測史上最高気温を記録し、国内最高気温が連続で更新される非常に厳しい暑さとなりました。
また、消防庁によると、5月から9月までの熱中症による救急搬送人員の全国累計は100,510人に達し、調査を開始した2008年以降で最も多い搬送人員となり、気候変動は私たちの生命にも影響を及ぼす喫緊の課題となっています。
一方で、技術の進歩に伴いエネルギー需要は増え続けています。
国際通貨基金によると、2030年における世界のデータセンターおよび電気自動車それぞれの電力消費量は、2023年時点の日本の電力消費量を上回る予測としています。
また、資源エネルギー庁では、国内においてもデータセンターや半導体工場の新・増設等により、最大需要電力は増加し続けると想定しています。
気候変動対策のための脱炭素と持続的な経済成長を両立させるために、太陽光や風力等の再生可能エネルギー発電の普及による「創エネ」が重要であることは言うまでもありませんが、同時に、消費エネルギーを削減する「省エネ」を最大限行っていくことも必要不可欠です。
各建物におけるエネルギー使途別消費内訳を見ると、消費エネルギーのうち、空調のための冷温熱を作り出す「熱源」、その熱を運ぶ「熱搬送」、お湯や蒸気を作り出す「給湯・蒸気」の熱利用が全体の4~6割を占めることが分かります(図- 1)。
これら熱利用において、大きな省エネ効果をもたらすのが、自然界に存在する熱をそのまま利用する、地中熱をはじめとした「再生可能エネルギー熱(再エネ熱)」であり、環境省では地産地消、かつ国内で生じている環境面の諸課題にも対応可能な地中熱の利用に着目しています。
1.再生可能エネルギー熱「地中熱」について
地中熱は、地面があるところではどこにでも存在する再エネ熱です。
深さ十~数百m程度の地中温度は、その地域の年間平均気温とほぼ等しくなり、年間を通じて10~20℃程度と一定で、夏は外気温より低く、冬は外気温より高くなります(図- 2)。
この温度差を効率的に利用することにより、年間を通じて、広く普及する空気熱源のエアコンに比べ、より省エネ・低炭素での空調や給湯が可能になると共に、他の再エネ熱である太陽熱やバイオマス熱等に比べ、その温度帯から冷房・暖房の両方に利用可能であることが大きな特長です。
また、地中と熱交換を行うため、夏期に排熱を大気中に放出することが無く、近年高温化が進むヒートアイランド現象の緩和にも貢献します。
地中熱には、さまざまな利用方式があります(図- 3)。
最も普及が進んでいるのが地中熱ヒートポンプです。
地中にボアホールと呼ばれる深さ100m程度の穴を掘り、地中熱交換器を埋設して水や不凍液等を循環させることにより、地中と熱交換を行う「クローズドループ」、井戸を掘削し、地下水を揚水して熱交換を行う「オープンループ」の2つの方式があります。
その他にも、放熱管に地下水等を循環させて冷房や融雪等を行う水循環や、地中に埋設したダクト等を介して室内に外気を導入する空気循環、土間床を介して地中の熱を室内に伝える熱伝導、路面に埋設した放熱管の中で冷媒が蒸発と凝縮を繰り返すことで動力を使わずに融雪を行うヒートパイプがあり、場所や用途に応じて使い分けられています。
環境省が2010年度から隔年で実施している「地中熱利用状況調査」の最新結果では、国内では2023年度末で9,188件の地中熱設備導入が確認されています(図- 4)。
主に北海道や東北といった寒冷地での導入が盛んですが、九州地方においても農業ハウスの空調に地中熱が用いられるなど、西日本でも導入が増加しています。
また、近年ではZEB等のエネルギー消費性能が高い施設での導入が目立っており、一般社団法人環境共創イニシアチブが公表する「ZEBリーディングオーナー」に登録されている事例では、2025年2月時点で登録されているZEB化された公共施設の約3割に地中熱が導入されています。
2.再生可能エネルギー熱「地中熱」に関する懇談会の開催について
地中熱利用の普及が進まない課題として、知名度の低さがあります。
環境省では、地中熱の知名度向上に向けて、2024年度より「再生可能エネルギー熱「地中熱」に関する懇談会」を開催しています。
全3回開催した2024年度の懇談会では、対象施設や地域等を絞らず、地中熱の全般的な普及促進策について議論いただきました。
その中で、地中熱の導入効果が高い施設として、「病院等の稼働率が高く、常に熱需要がある施設」や、「規模が大きく、他の熱源と併用できる施設」が挙げられました。
これを受けて、2025年度の懇談会では、各回毎に地中熱導入を検討する対象施設を設定し、全4回開催しました。
1回目は、「地中熱ではじめる工場のゼロカーボン」と題し、中京圏の産業界向け展示会「AXIAEXPO2025」のメインステージにてフォーラムを開催しました(図-5)。
本フォーラムでは、環境省からの現状報告に加え、中京圏に拠点を置く企業や有識者等に委員としてご参加いただき、工場の空調用途における地中熱の活用について議論いただきました。
2回目は、「地産地消の再エネ熱[地中熱(地下水熱)]の活用」と題し、地中熱による地域課題の解決をテーマに、秋田県、大阪府、高知県、島根県における地中熱利用についてのご紹介、パネル討論を実施しました。
600名を超える方々からの参加申し込みがあり、地中熱に興味を持っていただける方が増えてきていることを感じています。
3回目は、医療施設における地中熱の役割をテーマに、地中熱事業者および普段あまり関わることの無い医療関係者間で、医療施設への導入可能性について議論いただきました。
4回目は、庁舎への地中熱導入モデル検討をテーマに、脱炭素に向けた「ZEB」、近年頻発・激甚化している「防災対応」の観点から、防災拠点としても機能が求められる庁舎を対象にした地中熱の導入可能性や促進策についての検討会を実施しました。
昨年度および今年度の懇談会資料は、環境省ホームページ内の地中熱ポータルサイトに掲載しており、今後も各種会議を開催し、知名度の向上や、導入に際しての知見等の収集・蓄積を行ってまいります。
3.環境省パンフレット「地中熱利用システム」について
環境省では、地中熱の普及促進のため、地中熱に関する各種パンフレットを発行しています。
その中のひとつで、地中熱の概要や国内における導入件数等についてまとめている「地中熱利用システム」について、より見やすく、分かりやすい内容に刷新し、再発行しました(図- 6)。
本パンフレットは、環境省ホームページ内の地中熱ポータルサイトで、閲覧・ダウンロードが可能です。
工場や物流施設、温水プールにおける導入事例、ZEBに有効な地中熱として、長野県川上村役場の事例を追加し、海外の導入事例として、オランダにおける大規模な帯水層蓄熱の事例を取り上げています。
帯水層蓄熱は、オープンループ(地下水熱利用)の一種で、温熱井と冷熱井の1対の井戸を用いて季節間で効率的に冷暖房を行うものであり、国内では10件程度の導入数ですが、オランダでは豊富な地下水賦存量を背景に、3,000件以上の帯水層蓄熱が導入され、2024年時点で年間約25.1万トンのCO2削減に貢献しています。
個別事例として、オランダ中部にあるワーヘニンゲン大学では、最大13対(深度90m)の井戸で地下水の揚水・還元を行うことで、キャンパス内の研究施設や事務棟、温室やデータセンター等30施設に対する空調を行い、年間約2.4千トンのCO2削減を見込んでいます。
また、地中熱の安定利用には、冷房と暖房の熱バランスを調整し、地中温度の過剰な上下変化を防ぐ必要がありますが、本大学では、異なる熱需要の建物を冷温水のネットワークで接続することで、建物間での冷熱需要と温熱需要のバランスを確保しています。
国内では個別の建物空調に用いられることが多い地中熱ですが、今後、地域熱供給等によって、地中熱を面的にも活用することで、更なる脱炭素につなげていくことが期待されます。
4.地下水採取規制制度に関する検討について
現在、地中熱利用方式のうち、地下水を揚水して熱利用を行うオープンループ方式は、工業用水法や建築物用地下水の採取の規制に関する法律(ビル用水法)、条例により、採用は難しくなっています。
過剰な地下水揚水による地盤沈下の防止を目的とするビル用水法は、環境省が所管しており、東京都・千葉県・埼玉県・大阪府の一部が指定地域になっています。
近年、帯水層蓄熱をはじめとした地下水を熱利用後、再度地下に還元する技術が確立してきたことから、2019年8月に国家戦略特別区域法に基づくビル用水法の規制を緩和しました(帯水層蓄熱技術を活用した冷暖房に対する地下水の採取に関する特例措置)。
特区認定を受けた大阪市で行われた実証試験では、揚水した地下水の全量還元によって、地盤沈下を発生させずに地下水の熱利用ができることが示されており、帯水層蓄熱を導入した商業施設が2025年に開業しています。
こうした流れを踏まえ、環境省では、地下水還元型の地中熱利用システムについて、ビル用水法の技術的基準に関する検討を進めており、本検討によって脱炭素と地下水・地盤環境の保全を両立する地中熱利用の普及に貢献することを目指しています。
おわりに
環境省が行っている地中熱の普及促進に向けた取組みについて、利用時の効果も交え、紹介しました。
地中熱は、地面があれば普遍的に利用できる再生可能エネルギー熱であり、導入実績はまだ少ない一方、全国の一般家庭の年間消費電力量を上回る賦存量の試算値もあるなど、利用に伴う有効性・有益性は高いと期待しています。
政府目標の「2050年ネット・ゼロ」を目指して、引き続き啓発活動や補助事業等を通して、地中熱利用のより一層の普及・促進に努めてまいります。
【出典】
積算資料公表価格版2026年5月号

最終更新日:2026-04-20






