地中熱利用の普及拡大に向けた利用実績調査と「公開シート」
はじめに
2026年2月3日の閣議決定で「地中熱システム」が「国等による環境物品等の調達の推進に関する基本方針」(通称「グリーン購入法」)の設備に新たな項目として加わりました。
日本では、「再生可能エネルギー」という言葉は2009年8月の「エネルギー供給事業者による非化石エネルギー源の利用及び化石エネルギー原料の有効な利用の促進に関する法律」(略称「エネルギー供給構造高度化法」によって初めて法制化されました。
そして2010年6月には「エネルギー基本計画」が発表され「(1)目指すべき姿」の中に「ⅳ空気熱や地中熱等利用」として「地中熱」が登場します。
実際には「地中熱」自体もいまだ一般的ではないように感じますが、実は私たちが使うエネルギーの約半分は「熱」として最終消費されています。
特に給湯や冷暖房は生活に無くてはならない「熱エネルギー」なのです。
そして「地中熱」は「再エネ・熱」として定義され、「再エネ・電力」とは異なり、地中の温度(熱)をそのまま熱として生活に役立てる地産地消型のエネルギーです。
地中熱利用促進協会(以下、「協会」)はこの「地中熱」利用の普及拡大を目指して活動するための非営利団体です。
現状でも補助金などでは、再生可能エネルギー(以下、「再エネ」)の一つとして、優遇されてはいますが、普及拡大しない最大の課題は認識度の低さとコスト高、そして地下水規制だと捉えています。
地下水の規制緩和に関しては、法制化が絡むため、当協会の制度施策部会が、関連する国の官公庁や自治体に対し、データを示しながら協議をお願いしている段階ですが、認知度やコストに関しては協会独自の活動も貢献できると考え、ENEXなどの環境イベントと同時開催の「地中熱フォーラム」などを通じて大々的に広報しています。
その中でCO2削減率や省エネ率を調査し、データを実績として紹介するのが経済調査部会の使命になります。
以降、実績データ収集に関するこれまでの歩みと2030年までの目標そして現在地を述べたいと思います。
1.これまでの歩み
協会は2025年「2050年のカーボンニュートラルな社会の再生可能エネルギー熱利用の10%を地中熱で賄う」というロードマップを発表しました。
その中に2030年までに実現すべき目標が掲げられています。
経済調査部会が収集し協会のホームページに公開する「利用実績データ」が会員各社のボランティア精神によって収集された実績の「公開シート」です。
この「公開シート」は施主と会員各社との信頼関係の賜物です。
「地中熱利用」の計画や設計施工などの実績を報告する情報は、一般社団法人日本建築学会や公益社団法人空気調和・衛生工学会の学会誌や講演論文集などにも多く取り上げられていますが、これを協会のホームページに公開するという段階になると多くの発表者は施主の了解が得られないという理由などで、公開に至らないことが大半です。
また、官公庁などの補助金事業ではモニタリングを義務付けてはいますが、公開に至らなかった時期がありました。
環境省などのデータは公開されていますが、補助金の条件に3年間のモニタリングと報告が義務付けられている期間だけに限定する施設が多いことがあろうかと思います。
協会は補助金の条件に縛られず、なおかつ独自に温度や流量を計測し、集めたデータの解析にご協力いただけた施設を選びデータの公開をお願いして「公開シート」としてきたため、物件数が集まらずに地域別、用途別、規模別などのモデルを構築するまでに至っていないのが現状です。
とは言え、実績データを欲する建築設計者や設備設計者からの要望に応えられていない歯がゆさもあり、あらゆる方法を用いて実績データを増やそうとしていますが、次の課題は収集したデ ータをまとめるためには、ボランティアとしての限界があるということです。
たくさんのデータをまとめる際、物件によってデータ収集の場所や単位などを確認することから始めるため、第三者にデータを渡してすぐにまとめるということは不可能です。
そのため、協会としての実績データは会員が関わった施設で、なおかつモニタリングが可能なセンサーが装備されていて、実際にデータを収集している施設に限られています。
筆者が関係する(一社)建築学会や(公社)空気調和・衛生工学会では毎年論文発表会があり、論文梗概集の中には「地中熱」に関する論文も数多く発表されてはいますが、企画や計画時点の評価に関する発表が多く、特にランニングコストに関しては皆無に近いのが現状です。
経済調査部会の前身の普及戦略分科会では当初は初期コスト回収期間の短縮を目的として事業等で公開されている物件情報のデータベースの充実を図り、その情報を比較・分析することが初期コスト低減に寄与するとして取り組みました。
当時公開されていた事業とは『環境省クールシティ推進事業』・『環境省 環境技術実証事業』・『NEDO再生可能エネルギー熱利用計測技術実証事業』、『北海道大学地中熱利用システム工学講座 執筆「地中熱ヒートポンプシステム」』、『日本地熱学会Vol.29,No.3』、『NEDO熱計測技術実証事業』などです。
しかし、結果的にデータが集まらず、データの内容、収集方法などに捉われ過ぎているという反省から、先ずはA4版一枚の実績シートを作成して「公開シート」として掲載することに方向転換しました。
その限られた紙面を見る人が理解できる情報を表現するために必要な項目から検討を重ね、
① 施設の写真
② 地中熱利用システム図
③ 年間エネルギーデータ
④ 地中熱利用システムを採用する施設の概要
⑤ 地中熱利用システムの概要
⑥ 新築の場合の比較システム
⑦ 比較計算を月別に年間で表すグラフ
などを決め、完成しました。
それが2024年までに13例集まりましたが会員の協力もそれが限界ということで、しばらくはこの13例をダウンロード可能なPDF版として協会ホームページに公開していました(図- 1)。
2.ロードマップ改訂版での役割
2024年にロードマップを更新するに当たり、経済調査部会として改めて目標設定することになり、部会で議論を重ねた結果、2026年までに合計100件を公開目標にし、その目標に向けた活動を開始しました。
結果的には2024年度でプラス12件の合計25件、2025年度も現在までにプラス13件ということになりそうです。
なお、この「データシート」に記載されているCO2発生量を計算する換算係数は、全てその施設が契約している電力供給会社の換算係数を元とし、経済産業省が毎年発表している電力会社毎の換算係数の調整後換算係数を用いています(図- 2)。
そしてその数値を検証するタスクフォースを組織し、協会として責任あるデータとして公開しています。
さて、一方では物件数が増えるとホームページでの検索のしやすさがなければ誰も見ないという懸念がありました。
ちなみに、それまでの協会のホームページではデータが13件ということもあり、順番に羅列されていましたので、物件数が増えるデータを公開するに当たってはより検索しやすいように改善する必要性に迫られていました。
当面は事務局で対応が可能な範囲で改修していますが、これから増え続けると条件付きでないと真面目に検索してくれないことは明白なため、これも2026年度に修正することとし、具体的な検討を始めています(図- 3)。
3.地中熱利用実績の紹介
現在までに25件の「公開シート」を「利用実績データ」として協会のホームページに公開しています。
そこから見える省エネ性やCO2削減率についての傾向を探ってみました。
図- 4、図- 5に公開している施設の所在地と省エネ率とCO2削減率を示します。
これらの施設の省エネ率とCO2削減率をヒストグラムで表したのが図- 6、図- 7です。
先ず言えることは、北海道の施設のデータがなく、まだまだ標準モデルの作成が困難ではありますが、今後のモデル化に向けて北海道のデータを提供していただける努力を続けたいと考えています。
そのことを別として、データは本州の各地域に分散しており、用途も冷暖房から融雪まである中では、やはり融雪の効率が省エネ率もCO2削減率も高い位置に存在していること、またイニシャルコストが安価なオープンループが割高と言われるクローズドループに比較して必ずしも省エネ率やCO2削減率が高くないことなどが言えるかと思います。
また、比較対象が空気熱源の施設では省エネ 率もCO2削減率も小さめの傾向がありますが、これは空気熱源ヒートポンプの省エネ性が高いことを物語っていると言えるかと思います。
4.2030年に向けて
改定ロードマップでは中期目標として2030年の達成目標を掲げています。
経済調査部会の達成目標は実績データの収集で集まったデータからランニングコストを算定し、投資回収年数を10年以内となるイニシャルコストを目指すことにしています。
標準モデルでは、投資回収期間を短縮することを目指して、地域(北日本・東日本・西日本)、用途(官庁施設・教育施設・商業施設)、規模(1,000㎡・5,000㎡)などを設定することとしています。
おわりに
世界に向けて2030年に2013年比46%削減を目標にしている日本は、これからの目標達成に向けた速度が一段と上がりそうです。
2026年2月の衆議院選挙では自由民主党が有史以来の議席数を獲得しており、更なる施策を打ち出していく予感でもありますが、そういうこととは関係なく地中熱利用の普及拡大に向けて、考えられる可能な限りの手法を講じて世界標準を目指し、まだ先は長いとは言え、2030年に向けてハードルの高い目標ではありますが、経済調査部会員一丸となって取り組んでいく所存です。
【出典】
積算資料公表価格版2026年5月号

最終更新日:2026-04-20







