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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 地中熱利用 > 積雪寒冷地域におけるZEBと地中熱
はじめに

 
2021年10月に閣議決定された地球温暖化対策計画では、2030年度に温室効果ガス排出量を2013年度比46%削減するという中期目標が示され、建築物については「2050年のカーボンニュートラル実現の姿を見据えつつ、2030年に目指すべき建築物の姿としては、現在、技術的かつ経済的に利用可能な技術を最大限活用し、新築される建築物についてはネット・ゼロ・エネルギー・ビル(以下、「ZEB」という。)基準の省エネルギー性能が確保されていることを目指す」ことが掲げられている。
これを受けて、現在、ZEBの建築物が普及拡大しはじめている。
 
建築物でZEB基準の省エネルギー性能を確保するためには、屋根置きなど自家消費型の太陽光発電を設置するだけでは難しく、断熱性能を向上させる必要があるほか、LED 照明や高効率換気といった省エネルギー機器を導入するなど、徹底した省エネルギー対策が必要となる。
特に建築物で消費されるエネルギーのうち、空調に係るエネルギーが大部分を占めることから、エネルギー効率の高い冷暖房を選定することが重要となる。
 
地中熱は、再生可能エネルギー熱の一つである。
地表から深さ10m以深の地中の温度は年間を通して一定であり、夏は気温より低く、冬は気温より高いという特徴がある。
地中熱は、この特徴を利用して効率的な冷暖房を行うことが可能となるため、ZEB基準の省エネルギー性能を確保するための空調として、非常に有用な選択肢の一つであると言える。
 
 

1. ZEBにおける地中熱の普及

 
ここでは、ZEBリーディングオーナー登録制度で公表されている2023年9月末時点でのZEB登録数548 件をもとに、ZEBにおける地中熱の導入状況について検討した。
 
図-1にZEBにおける地中熱導入状況を示す。
ZEB登録548件のうち、地中熱を導入している建築物は76件(14%)という結果であった。
 

 
図-1 ZEBにおける地中熱導入
 
 
図-2にZEBランク別の地中熱導入状況を示す。
ZEBランク別でみるとZEB Readyの登録が最も多く324件(59%)、次いでNearly ZEBの登録が120件(22%)、『ZEB』の登録が93件(17%)、ZEB Orientedの登録が11件(2%)という結果であった。
登録件数が少ないZEB Orientedを除きZEBのランク別の地中熱導入実績をみると、ZEB Readyの登録324件のうち地中熱を導入している建築物は38件(12%)、Ne arly ZEBの登録120件のうち地中熱を導入している建築物は17件(14%)、『ZEB』の登録93件のうち地中熱を導入している建築物は18件(19%)という結果であった。
省エネルギー性能の基準がより厳しいZEBのランクが上がると地中熱の導入割合が増加する結果となっていることから、地中熱の導入がZEB達成のための省エネルギーに寄与しているものと推定される。
 

 

図-2 ZEBランク別の地中熱導入状況
 

図-3 地域別の地中熱導入状況
 

図-3に地域別のZEBにおける地中熱導入状況を示す。
北海道・東北地方の登録78件のうち地中熱を導入している建築物は26件と最も導入件数が多く、割合が最も高い33%であったことから、北海道・東北地方など積雪寒冷地域における地中熱の導入がZEB達成のための省エネルギーに寄与しているものと推定される。
 
図-4に民間と地方公共団体別のZEBにおける地中熱導入状況を示す。
ZEBの登録548件のうち、民間の登録が485件(89%)、地方公共団体の登録は63件(11%)であり、ZEBリーディングオーナーは民間の登録が多い結果であった。
民間のZEBの登録485件のうち地中熱を導入している建築物は52件(11%)、地方公共団体のZEBの登録63件のうち地中熱を導入している建築物は24件(38%)という結果であったことから、民間よりも地方公共団体のZEB建築物への地中熱の導入が進んでいると判断される。
 


 
図-4 民間/地公体の地中熱導入状況

 
 

2. 積雪寒冷地域における『ZEB』への地中熱導入事例

 
導入が比較的進んでいる積雪寒冷地域における『ZEB』への地中熱導入事例を紹介する。
 
JESC-ZEB棟(オーナー名:日本地下水開発株式会社、所在地:山形県山形市、建物概要:S造2階建、延べ床面積562m²、写真-1参照)は、(国研)新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「再生可能エネルギー熱利用にかかるコスト低減技術開発(2019年度~2023年度)」の採択を受け、地中熱オープンループヒートポンプシステムの一つである高効率帯水層蓄熱システムを導入したZEBの実証施設である。
高効率帯水層蓄熱システムでは、ZEB実証施設における三つの熱需要(冷暖房、給湯、玄関と駐車場の融雪)に対応する一つのシステムとして導入している。
 

写真-1 JESC-ZEB棟の外観
 
この事務所では、壁厚を300mmにし、Low-E複層ガラス窓を採用するなどして高気密高断熱化を図り、人感センサー付LED照明や高効率帯水層蓄熱システムなどの高効率設備導入で省エネルギー化することで基準一次エネルギー消費量を58%削減したほか、屋上に計30.7kW(307W×100枚)の太陽光発電パネルを設置して42%の創エネルギーを実現することで、『ZEB』を達成している。
 

熱源である2本の井戸は、完成口径150mm、深度72mで、深度40m~68mの砂礫層を蓄熱対象帯水層とし、密閉式井戸構造を採用している。
この帯水層は上下を粘性土層(難透水層)に挟まれ、賦存する地下水の流速が16m/年と遅く、帯水層蓄熱に適した地層である。
井戸からの配管を専用ヒートポンプ(冷房30.0kW、暖房30.1kW、給湯30.2kWのハイブリッド型)1基と、面積416m²の(夏期)太陽光集熱器/(冬期)無散水融雪施設に接続している。
 
高効率帯水層蓄熱冷暖房システムは、夏は帯水層からくみ上げた地下水を冷房熱源として利用した後、建物前の駐車場に埋設された無散水融雪のための放熱管に通水することで太陽熱を集熱し、より高温となった地下水をもう1本の井戸から帯水層に還元することで温熱量を増強。
次の冬には温度が上昇した地下水を暖房の熱源として利用した後、建物前の駐車場の無散水融雪を行うことで、放熱してより低温になった地下水をもう1本の井戸から帯水層に還元することで冷熱量を増強する。
すなわち、2本の井戸を、一方は温熱蓄熱井、他方は冷熱蓄熱井として使い分け、夏期と冬期で揚水井と注入井を切り替えて使用するものであり、増強された冷温熱を熱源として利用することでシステム効率を大幅に向上させて省エネルギーを実現するシステムである。
 
高効率帯水層蓄熱システムの模式図を、冬期稼働と夏期稼働に分けて図-5に示した。
 


 


図-5 高効率帯水層蓄熱システムの模式図
(上段:冬期稼働、下段:夏期稼働)
 
 

3. ZEB実証施設の運用状況について

 
ZEBの前提として「快適な室内環境を実現しながら」という条件がある。
図-6に2021年度のJESC- ZEB棟2Fの事務室における日平均室温と外気温について整理したものを示す。
 

システムを停止した年末年始を除いて室温は安定しており、室内環境の快適性を維持できていたことが確認できる。
 
地下水熱を熱源とする冷暖房の利点は、エアコンのように外気を熱源とする場合に比べて、使用温度と熱源温度が近く、冷暖房の効率が良いことが挙げられる。
JESC-ZEB棟採用の高効率帯水層蓄熱システムは、蓄熱効果により熱源とする地下水温度を使用温度により近づけることで、高効率な運用を可能としたシステムである。
図-7は2021年度の熱源として利用するために揚水した地下水温度を整理したものである。
 

図-6 日平均室温と外気温(2021年度)
 

図-7 地下水の揚水温度(2021年度)
 
当該地にて実証試験前に確認した地下水初期温度は16℃である。
一般に、地下水温度は年間を通じてほぼ変動せず一定であるが、JESC-ZEB棟では前シーズンの蓄熱効果により夏期冷房時は16℃より2℃以上低温の地下水が、冬期暖房時は16℃より7℃以上高温の地下水がくみ上げられていることがわかる。
蓄熱によるこのメリットはシーズン開始時が最も大きく、終盤に向けて消費されて元の地下水温度16℃に近づいていく。
 
蓄熱メリットは、そのまま熱源機(ヒートポンプ)の運転効率向上に繋がるが、JESC-ZEB棟では冷熱蓄熱量を増強したことで地下水揚水温度を 13℃程まで低下させた結果、ヒートポンプを用いずに地下水を直接ファンコイルに送水するフリークーリング冷房が実現可能となる。
フリークーリング冷房は、ヒートポンプや冷媒循環系の循環ポンプ稼働が不要となり、大幅な消費電力量削減となる。
図-8にJESC-ZEB棟の2021年度のエネルギー収支を示す。
 

図-8 エネルギー収支(2021年度)
 

暖房期間に比べ、冷房期間の消費電力量が抑制されていることが確認できる。
 
積雪寒冷地域の場合、冬期間は降雪、積雪の影響で大きく発電量が低下する懸念があり、実際に山形県に位置するJESC- ZEB棟でも、2021年度冬期には1ヵ月以上、太陽光発電の停止期間が生じている。
しかし、ヒートポンプの高効率稼働やフリークーリングによる消費電力量の大幅な削減を実現したことで、2021年度集計で消費電力量26,502kWh、発電電力量26,819kWhと年間の発電電力量が消費電力量を約300kWh上回り、実運用での『ZEB』を達成している。
 
 
 

特定非営利活動法人 地中熱利用促進協会 制度施策部会長
桂木 聖彦
(日本地下水開発株式会社)

 
 
【出典】


 
積算資料公表価格版2024年5月号
積算資料公表価格版2024年5月号

最終更新日:2024-05-09

 

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