秋田県における除雪DXの取組みについて~安定的な除雪体制の確立~
1.はじめに
秋田県における高齢化の進行は全国でもトップクラスであり、令和7年7月時点の高齢化率は全国1位の40.3%に達している。
今後の予測では令和32年に49.9%に達すると見込まれており、県民の約半分が65歳以上の高齢者となる見込みである。
こうした人口構造の変化は、人材不足が慢性化している建設業界にとって極めて大きな脅威であり、除雪オペレーターの担い手不足は、単なる労働力不足の範疇を超え、雪国の生活基盤そのものを揺るがす深刻な問題である。
特に全国有数の豪雪地帯である秋田県では、冬期間の道路交通確保が経済活動や救急医療の維持に直結するため、安定的な除雪体制の確立そのものが解決すべき喫緊の課題となっている。
このため、冬期の安全で円滑な交通を確保するための要である除雪業務においても、担い手不足に対応した新たな作業環境を構築する必要性が急激に高まっている。
日本一の高齢化県という厳しい状況下で、除雪業務をDX(デジタルトランスフォーメーション)化することによって、徹底した効率化・省力化を図り、人口減少が進む中でも持続可能で安定的な除雪体制を構築していくことが重要である。
本稿では「除雪業務の見える化」を軸に導入した「除雪稼働管理システム」および「除雪支援システム」の二つの取組み内容を紹介し、その導入効果と今後の展望について考察する。
2.除雪稼働管理システムの導入
(1)事務作業の効率化と課題
秋田県では、凍結抑制剤散布車を含め約620台の除雪機械を配備している。
従来の除雪業務では、稼働状況の集計や日報・報告書の作成を全て人力で行っており、発注者・受注者双方に多大な負担がかかっていた。
具体的には、除雪請負業者は作業終了後にタコメーターやタスクメーター等の数値を目視により読み取って集計する必要があった。
発注者側も提出された報告内容の整合性をチェックするために膨大な時間と労力を要しており、書類不備に伴う修正作業や打合せのための移動も非効率な作業であった。
これらの課題を解決するため、契約上必要な提出書類の作成を自動化・簡略化し、事務負担を大幅に低減することを目的として本システムを導入したものである。
(2)システムの導入と導入効果
本システムは、除雪機械にGPS端末を搭載し、車両の運行軌跡を自動的に記録・送信する仕組みである。
クラウド上で稼働状況をリアルタイムに管理できるため、次のような多角的な効果が得られている。
第一に、除雪日報や月報、さらには予算執行状況の管理に必要となる各種帳票が自動作成される点である。
これにより、従来の目視読み取りや手書き集計の手間が解消され、事務作業の時間が劇的に短縮された。
第二に、運行状況のリアルタイム表示により、業者間の連絡調整がスムーズになったことが挙げられる。
これは効率的な除雪作業の遂行に直結している。
また、過度な出動を防ぐ効果も期待でき、人件費や機械経費の高騰に対する抑制策としても寄与している。
第三に、地理情報との連携による安全性の向上である。
地図上に過去の事故地点や高齢者住宅、マンホール、橋梁ジョイント部、さらには過去の苦情箇所を登録・表示することで、路線の特性を熟知していない若手オペレーターでも、ベテランと同様に安全かつ確実な作業を行うことも可能となる。
(3)現場を重視した操作の簡素化
システムの導入に当たって配慮したのが、現場オペレーターの操作負担である。
具体的には、エンジンのON/OFF操作に連動してデータの記録・送信が自動で行われる仕様とし、オペレーターが複雑な端末操作を意識することなく通常業務に専念できる環境を整えた。
この簡素化により、導入初年度から操作ミスによるデータ欠落を防ぐことができ、結果として書類不備による修正作業の削減に成功した。
現場からは「膨大な時間をかけたタコメーターの読み取りが不要になり、資料作成の負担が減った」との肯定的な声が多く寄せられている。
(4)除雪作業への展望
今回このシステムを導入したことにより、システム内の地図上で運行状況を把握することが可能となったが、さらに各地域の降雪量や路面状況を把握することができれば、除雪出動の可否の判断がタイムラグなくできるため、待機しているオペレーターや情報連絡員の労力が軽減されるのではないかと考えている。
また、路面状況の情報をカメラ等で取得し、気象状況をAIで解析することで、除雪作業の出動可否を判定する機能などを追加できれば、さらなる省力化へつながることから、未来の除雪業務に対してより一層の効率化・省力化が見込まれる。
3.除雪支援システムの試験導入
(1)過酷な春山除雪における課題
積雪寒冷地が全域を占める秋田県の中でも、鹿角市八幡平地域は特別豪雪地帯に指定されており、積雪量が極めて多い。
この地域を通過する大更八幡平線(八幡平アスピーテライン)は重要な観光路線であるが、冬期通行止め区間の除雪は、平均5mに達する「雪の回廊」を形成する極めて難易度の高いものである。
この春山除雪は、吹雪や濃霧によるホワイトアウトの中、目印が消失した状況で道路位置を特定しなければならない。
崖際での作業は滑落の危険も伴い、まさに一歩間違えれば重大事故につながる繊細な作業である。
これまで、この高度な技術はベテランオペレーターの卓越した「勘」に支えられてきた。
しかし、若手がこの技術を再現するには10年以上の経験を要するため、技術継承とオペレーターの高齢化(平均年齢52歳)が深刻な課題となっている。
(2)除雪支援システムの特徴
この深刻化する高齢化と技能承継の課題を解決するため、本県初となる除雪支援システム(SRSS)を導入した。
本システムは、以下の三つの技術を核としている。
一つ目はMMS(モービルマッピングシステム)による高精度3次元地図の構築である。
3次元レーザースキャナーや高精度カメラを搭載した車両で事前走行し、道路周辺の構造物や地形をセンチ単位の精度で点群データ化したもので、自動運転レベルの精密さを備えている。
二つ目はGNSS(全球測位衛星システム)を活用した正確な自車位置の特定である。
国土地理院の電子基準点データを用いた補正情報(CLAS測位)を、準天頂衛星「みちびき」を経由して受信する手法を採用している。
これにより、山間部等のLTE不感地帯であっても、数センチ程度の誤差で自車の位置をリアルタイムに把握することが可能となった。
三つ目は上記技術による副次的な、マシンガイダンス効果である。
取得した情報を車内のモニターに表示し、雪の下に隠れた道路のセンターラインやマンホール、ガードレール等の位置を可視化する。
これにより、熟練の勘に頼らずとも、どのオペレーターでも安定した品質で安全に除雪作業を行うことが可能となる。
(3)試験導入の成果と効率化
令和6年度の春山除雪において、バックホウやブルドーザー、ロータリー除雪車に本システムを取り入れ、実証試験を行った。
最大の懸念であった悪天候下での運用については、吹雪や濃霧でホワイトアウトした状況でも、モニター上のガイドに従い問題なく作業を継続できることが実証された。
これにより作業の中断が減少し、作業時間の縮減および燃料消費の削減という直接的なコストメリットが確認された。
また、位置出し作業の精度が向上したことで、外側線までの距離を正確に把握でき、構造物への接触事故を未然に防止するとともに、オペレーターの精神的ストレス緩和にも大きく寄与した。
さらに特筆すべきは、従来設置していた膨大な目印(スノーポール等)を約7割削減できる見通しが立った点である。
これは資材費および設置手間の大幅な削減につながり、除雪費全体のコスト構造改善に向けた明るい材料となった。
4.将来に向けて
大規模な立ち往生による車両滞留が発生した場合、乗員の生命に深刻な危険が及ぶため、冬期道路交通の機能維持は道路管理者の責務である。
しかし、近い将来に懸念される深刻な担い手不足は、この機能維持そのものを危うくする。
昨年度、隣県の青森県で発生した豪雪(線状降雪帯)のような事態が起きた際、マンパワーが不足していれば、迅速な復旧は困難を極める。
今後は、各地域振興局というブロック単位での除雪から、全県的な視点で広域的にコントロールする体制への切り替えが必要不可欠である。
今回の取組により、少ない人材を全県でカバーするための基盤が整いつつある。
また、除雪支援システムで構築した高精度地図データは、通常の道路点検や維持管理業務、あるいは電子化された道路台帳の高度化にも転用が可能であり、除雪のみならず道路管理全体の効率化を支える可能性を秘めている。
5.まとめ
今回、除雪稼働管理システムによって作業の全体像を一元把握し、除雪支援システムによって熟練技術をデジタルで継承する仕組みを構築した。
現在は試験的な導入段階であるが、これが全県に普及すれば「除雪は特殊で困難な業務」というイメージから脱却し、誰もが安全かつ安定して従事できる日常的な業務へと変化を遂げるだろう。
除雪のみならず、建設業界全体で担い手の不足が予想できるこの時代、適切な維持管理によりインフラ施設を長く保たせることの重要性が増していく。
今回導入した除雪支援システムを契機とし、「道路の見える化」として道路情報の点群データ化等の電子化に舵を切っていくことで、点検や日常の維持管理業務が効率化、自動化し建設業全体の地盤を支えることができる可能性を感じた。
本システム導入を端緒として、秋田県における除雪分野のDX化を強力に推進し、建設業界全体の活性化と持続可能な社会の実現に寄与していくと同時に、安心・安全な冬の道路環境の構築につなげていきたい。
【出典】
最終更新日:2026-06-19










