- 2025-06-19
- 特集 雪寒対策資機材 | 積算資料公表価格版
1. はじめに
国土交通省による、令和4年度「建設現場の生産性を飛躍的に向上するための革新的技術の導入・活用に関するプロジェクト」に採択された堀口組コンソーシアムの取組み「AI・IoTを活用した除雪予想と遠隔臨場導入による雪見巡回の解消・メンタルヘルスを踏まえた除雪作業環境改善・3次元計測技術による排雪量・積載量測定のリアルタイム化」を、「深川留萌自動車道 留萌市 留萌道路維持除雪外一連工事」において試行した。
試行結果を踏まえ、本報告では、除雪作業に おけるメンタルヘルス対応とDX化による生産性向上についてまとめた。
2. 除雪事業の課題
北海道留萌地方は全国有数の豪雪地域であり、地域の物流や医療搬送機能維持のため、12月から3月までの4カ月に除雪作業が集中しており、深夜の巡回や早朝の除雪、昼夜の排雪作業と長時間作業が常態化している(図-1)。
また、除雪の有無は降雪量に左右されるため、12月から2月までの最盛期には休日取得も難しく、休日出勤も含めて残業時間が100時間を超えることもあり、作業員全体の50%を占める高齢者にとっては肉体的、精神的負担が非常に大きい。
担い手の高齢化に伴い若手の育成が急がれるが、他の世代と比べ事故の被災率が高く、ヒヤリハットの発想率が低い傾向にあることが課題となっている(図- 2、3)。
3. 除雪技術継承のDX化
3.1 VRを用いた疑似体験
除雪作業を安全に行うための知見を得るため、また、除雪技術の継承と技術の向上を目的にデジタルツインによる除雪空間の3次元モデル化とVRによる除雪作業の疑似体験(図- 4)を行った。
3.2 除雪研修
疑似体験では、バックホウによる除雪作業中に電柱や看板が認識できた際、積雪下の構造物を思い出そうとするヒヤリハットポジションを体感させることができる(図- 5、6)。
VRを活用することで、除雪重機が進行方向に進むにつれて、注視して いたリスクの目安となる看板の接近感を空間量の変化として体感できるようにした(図- 7)。
4. 除雪作業のリスク管理
4.1 建災防方式「新ヒヤリハット報告」
堀口組では建災防方式「新ヒヤリハット報告」をスマートフォンで手軽に入力し、自動集計できるシステムを開発し導入している(図- 8)。
除雪作業の後に、ヒヤリハットがなくてもその日の体調や感想を入力することで、本人も気付かない職場の雰囲気や体調の変化といった異常値の可視化を迅速かつ効率的に行える(図- 9)。
これは、災害の減 少率が鈍化している建設業界において、人そのものに着目してヒヤリハット対策を検討する新たなアプローチであり、ヒヤリハット体験を通じて、事故や災害を未然に防ぐための取組みである。
4.2 職場環境の評価
新ヒヤリハット報告に表れる統計量は、全国平均(建設業労働災害防止協会による調査)に比べて高い方が良好、低い方が不良を評価するものである(図- 10)。
ヒヤリの有無による職場環境の違いでは、ヒヤリなしのグループがヒヤリありのグループに対して不安感、抑うつ感、身体愁訴を感じていることが確認された。
ヒヤリハットは、事故や災害には至らなかったものの、一歩間違えれば重大な事故につながっていた事象を示している。
このヒヤリハットの共有は、職場の安全意識を高め、リスクを未然に防ぐために非常に重要であり、ヒヤリなしのグループに対するリスクアセスメントになると推察できる。
4.3 レジリエンス能力の評価
新ヒヤリハット報告は、回避できた成功体験を記録し共有することで除雪部隊のレジリエンス能力を向上させ、ストレス耐性や適切な対応力を育成するものである。
除雪職場においては、レジリエンス能力は全国平均に近い傾向を示しレジリエンス能力が低いことが確認された(図-11)。
5. 除雪重機作業の生産性向上
5.1 バックホウ試験概要
バックホウの操作試験(表-1)では、マシンガイダンス(以下、MG)機能の有無による機械操作における熟練者(経験が豊富な高齢者)と未熟練者(経験が浅い若年者)の施工精度とストレス状態を計測した(図-12、13)。
操作試験では、30mの前方・後方の停止精度および走行時間、目標高さへのバケット停止精度試験を測定し、それぞれ誤差を求めた。
5.2 試験結果
操作試験結果(表- 2)では、走行距離30mでの停止精度について練度の違いを示している。
停止操作の精度は、MG機能の有無にかかわらず、練度の違いによる差が表れていなかった。
バケットの停止精度では、MG機能を使用しない時に、熟練者は未熟練者に比べて相対的に良好な精度を示していた。
また、MG機能を使用することで、熟練者は高い精度(1cm程度)を維持し、未熟練者は運転操作の動作の動きが大きかったものの、MGなしに比べバケットの停止精度が向上し(2.92cm→1.87㎝)、熟練者に近い数値を示していた。
5.3 練度の違いとバイタル反応
被験者には、心電センサー、体温センサー、姿勢センサーなどが搭載されたベルト装着型ワイヤレス生体センサー(Vitalgram®)を装着し、①緊張度、疲労度、睡眠の質、②熱中症等による体調異変、③不整脈や心不全の兆候、④歩数計測、運動量、活動量、カロリー消費などを測定している(図-14)。
5.4 バイタル測定結果
練度によりストレス指標LH/HFに影響が表れている。
LF/HF比は、交感神経と副交感神経の活動のバランスの指標となる。
低いLF/HF比は副交感神経が優位でリラックスしている状態を示し、高いLF/HF比は交感神経が優位でストレスや緊張状態を示すとされている(平常時はLF/HF:1~2程度以下)。
練度が低い未熟練者(新規入職者)はストレス指標が6~8程度高くなる傾向があり、ストレスの増加により安定した運転ができていなかった。
特に、不慣れなことから慎重になり、急加速や急ブレーキが多く、作業の円滑さや効率に影響を与えていた(図-15)。
一方、熟練者はLF/HF比が2~3程度低く、より良好なストレス管理と安定した操作を示し、スムーズでコントロールされた動きで、リラックスして自信を持って作業できており、作業効率と全体的なパフォーマンスの向上につながっているものと考えられる(図-16)。
5.5 MG導入とバイタル反応
未熟練者は、MGの使用によって使用前に比べてLH/HFが低くなる傾向がありストレスレベルが下がることが確認された(LF/HF:8 → 2図-17)。
一方、熟練者は、MG使用の有無に関係なくLH/HFが2に安定する傾向が観察できる(図-18)。
同時に心拍数においてもMGの使用によって低くなることが確認された。
そのため、MGの使用が練度の低い作業員への負担軽減になっていることが考察できる。
6. まとめ
① 重機操作において、後方停止など熟練を要する作業では、未熟練者のバイタル値(LH/HFなど)から緊張状態やストレス状態が確認された。
従って、熟練者のバイタル状態に近づけることで、練度の向上が期待される。
② 職場で実施した新ヒヤリハット報告から、会社全体でモチベーションを高める職場風土や雰囲気が醸成されていることが確認された。
特に、ヒヤリハット発想の弱いグループでは施工に対する不安感が大きく、周囲への依存性が高いことが考察された。
③ 建災防方式「新ヒヤリハット報告」は、除雪作業に従事する作業員のレジリエンス向上につながり、作業の安全性向上が実現できると考えられる。
今後、非除雪期間に除雪技術の継承を目的として、ヒヤリハットの発生位置をメタバースやデジタルツインによる仮想空間で表現し、疑似体験などの教育装置として活用することが期待される。
④ 未熟練者にとって、MGの導入は作業中の緊張感を和らげる効果があり、対象者によってはメンタルヘルスとしての効果も期待できる。
7. 最後に
今回の試行成果は、雪国の宿命ともいえる除雪問題を取り上げ、AIやDX化による作業改善とともに、働く人たちのメンタル面での有益性のある方法を模索するものである。
今後、本試行の成果を社会実装化していく上で、(株)堀口組をはじめ多くの中小建設業の参加を得てサンプル数を多くしていく予定である。
また多くの中小建設業のネットワークを構築し、より実用性が高く、働く人の負担やストレスが少ない新しい働き方を求めていきたいと考えている。
なお、本試行には、北海道大学、環境風土テクノおよび建設IoT研究所の協力を得ている。
【出典】
積算資料公表価格版2025年7月号

最終更新日:2025-06-19
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