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建築物の長寿命化、資源循環の必要性とカーボンニュートラルの実現

はじめに

1970年代の初頭、世界的に環境汚染や資源枯渇に対する危機感がクローズアップされ始めた。
その後、これらが経済発展との表裏一体の問題として認識され始めたのは1990年代に入ってからである。
この頃、世界的には「Sustainability(持続可能性)」という言葉が普及し始め、1997年12月のCOP3(気候変動枠組条約第3回締結国会議)以降の経済活動における目標となった。
 
環境汚染について我が国における関心の中心は、1970年代まで起こった各種公害対策であったが、1990年代以降は、資源問題や地球温暖化問題、すなわち資源循環の促進や二酸化炭素排出量の抑制が重要な課題となっている。
 
建築物の生産行為には、多様かつ大量の資源が消費され、建築物を利用する際には大量のエネルギーが利用される。
そこで我が国では、世紀が変わる2000年前後に、さまざまな法律が整備された。
資源問題に対しては「循環型社会形成推進基本法」、「建設リサイクル法」が、地球温暖化問題に対して「地球温暖化対策推進法」、「建築物省エネ法」、「建築物木材利用促進法」などが施行された。
また、制度が整備される一方で、企業等においてはさまざまな技術開発も進んでいる。
 
これらの取り組みは、近年、カーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーといった言葉で語られることが多い。
特集の巻頭テーマは「カーボンニュートラルと建設」であるが、本稿では資源問題に焦点を当て、建築物の長寿命化や資源循環の必要性について解説する。
また、カーボンニュートラルとサーキュラーエコノミーを実現するための技術開発の例を紹介する。
 
 

1. 建設分野における再資源化の現状

建設分野は、我が国の資源消費量や廃棄物排出量の多くを占めている。
輸入資源の多くがエネルギー資源であるのに対し、国内で採取する資源の80%以上は岩石・砂利等で、ほとんどは建設工事に消費されている。
また、産業廃棄物排出量(年間約4億トン)の約2割は建設廃棄物である1)
 
資源問題は世界的な課題でもあり、世界各国における国内資源消費の総計推移を図- 1に示す。
1970年に約300億トン資源消費されていたものが、2014年には約3倍となり、さらに2060年には1900億トンに増加するといわれている。
これらの資源消費には、それを輸送や加工するエネルギーの消費、消費し終えた後の廃棄物処理などが必ず付加されることから、将来的にも建設分野における資源循環、それに伴うエネルギー消費やCO2排出の削減への取り組みの重要性がわかる。
わが国の建設分野においては、「建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律(通称:建設リサイクル法)」があり、これによって、3R「廃棄物の発生抑制(Reduce)、再使用(Reuse)、再生使用(Recycle)」の意義とそれぞれの位置付けが明確となり、資源循環型社会形成に向けた積極的な取り組みが行われるようになった。

図-1 世界の資源採掘量の推移2)
図-1 世界の資源採掘量の推移2)

 
その後、20年経った現在では、建設廃棄物に関しては、建設リサイクル法によって再資源化率の向上と最終処分量の低減効果も認められ始めている。
図- 2に示すように国土交通省の建設副産物実態調査結果3)によれば、平成30年度の建設廃棄物の再資源化・縮減率は約97.2%と前回調査(平成24年度)より1.2ポイント上昇し、品目別でもアスファルト・コンクリート塊、コンクリート塊は横ばいであるが、建設発生木材、建設汚泥、建設混合廃棄物は向上している。
ただし、コンクリートや木材などの特定建設資材以外の建材については、必ずしも再資源化が進んでいるとは言い難い状況もある。

図-2 建設廃棄物の再資源化率の推移
図-2 建設廃棄物の再資源化率の推移

 
また、国土交通省では、建設リサイクルの推進に向けた基本的考え方、目標および具体的施策をとりまとめた「建設リサイクル推進計画2020」を策定している4)
このなかで示している2024年度における再資源化等は、表- 1に示すように建設廃棄物のほとんどで量的には高い水準を維持することが目標となっている。
今後は「量」よりも資源化の「質」の向上が重要な視点とされ、より付加価値の高い再生材へのリサイクルを促進するなど、利用方法に目を向けることも示されている。
その主要な課題として、以下の3点に関する施策があげられている。

表-1 建設リサイクル推進計画における目標4)
表-1 建設リサイクル推進計画における目標4)

 


1) 建設副産物の高い再資源化率の維持等、循環型社会形成へのさらなる貢献
2) 社会資本の維持管理・ 更新時代到来への配慮
3) 建設リサイクル分野における生産性向上に資する対応等
 
 

2. 建築物の長寿命化による資源削減効果

2.1 建設廃棄物発生量の将来予測

筆者らは、建設混合廃棄物となりやすい建材を中心に、廃棄物量予測および再資源化率向上による廃棄物量削減効果について試算し、建設廃棄物における再資源化の重要性について検討した5)
この試算は、合板、石こうボードなど出荷量の統計データが収集可能な87種類の建材を対象として、簡易な計算で廃棄物量予測を行ったものである。
その結果は図- 3に示す通りであり、各種建材の廃棄物排出量は今後増加し、着工面積のピークである1980年頃に建設された建物の多くが解体時期を迎えるため、2030年頃にピークがくると予想される。
なお、この試算は今後も新築・除却される建築物の量に変化がないことを条件としており、やや大きめの数値となっている。

図-3 各種建材の廃棄物発生量予測5)
図-3 各種建材の廃棄物発生量予測5)

 

2.2 建設廃棄物発生量の削減方法とその効果

次に、石こうボードを例に将来的な廃棄物発生量を減じるための方策について検討した。
方法は2つあり、リサイクルを進める方法と建築物を長寿命化する方法である。
 
まず、現状よりもリサイクルを進める方法、すなわちリサイクル率向上によって、廃棄物発生量をどの程度減らせるか試算したものを図- 4に示す。
試算の条件として、新築系廃棄物と解体系廃棄物に分けてリサイクル率を設定している。
図中で「100-25」と書かれているものは、新築系廃棄物の100%、解体系廃棄物の25%を現在出荷されている石こうボードの原料とした場合である。

図-4 リサイクル率向上による廃棄物発生量削減効果
図-4 リサイクル率向上による廃棄物発生量削減効果

 
これによると、工事現場で残材や端材となって排出されるもののすべて、かつ解体系廃棄物の25%をリサイクルしなければ、現状の廃棄物発生量を維持できず、解体系廃棄物の50%をリサイクルして減少傾向になる。
ただし、実際に工事現場から排出される廃材を目にしたことがある方なら、このリサイクル率がいかに非現実的な数字であるかがわかるであろう。
 
図- 5は解体工事現場において内装材を撤去している様子であるが、さまざまな建材や設備が同時に発生し、特定の建材だけを分別することには、かなりの手間を要する。
また、分別したとしても汚れていたり、接着剤などの不純物が混じってしまう。
よって、工事現場における分別の徹底はもちろん、今後は易解体性を考慮した製品や構法の開発が必要となる。

図-5 解体工事現場における内装材撤去の様子
図-5 解体工事現場における内装材撤去の様子

 
次に、図-6に建築物を長寿命化した場合の廃棄物発生量の削減効果を示す。
これによると、現状の寿命を40年程度から、すべての建築物の寿命を2倍とすることで、廃棄物発生量を減少傾向にすることができる。
ただし、これは2020年以降に着工した建築物のみに当てはめた場合であり、それより以前に竣工した建築物の寿命を延ばしていけば、より廃棄物発生量を減じることができる。

図-6 長寿命化による廃棄物発生量削減効果
図-6 長寿命化による廃棄物発生量削減効果

 
3Rとは、廃棄物の発生抑制(Reduce)、再使用(Reuse)、再生利用(Recycle)のことを指すが、取り組むべき優先順位は、この言葉の順番であり、建築物に当てはめるとReduceとは長寿命化のことで、Recycleの技術開発やシステム開発以上に優先して取り組む必要がある。
20年前には建築物の寿命は30年程度といわれていたものが、昨今、1.5倍程度に増えてきているようであるが、今後も建築物の健全性の評価や維持管理システムの開発は、資源循環の実現に向けて必須の課題といえる。
 
 

3. 建築物の再資源化とカーボンニュートラル

3.1 塩化ビニル建材の例

筆者らは、塩化ビニル(以下、塩ビ)建材のリサイクル技術開発6)に取り組んでおり、壁紙や床材などから得た塩ビ廃材をリサイクルした場合の品質の例を図- 7に示す。
これは、タイルカーペットと防水シートの廃材の比率を変え、バージン原料と混合することでリサイクルシートを作製し、その品質(伸び率)を比較したものである。

図-7 塩ビのリサイクル率と伸び率の関係
図-7 塩ビのリサイクル率と伸び率の関係

 
これによると、リサイクル率を増加させると品質が低下するものの、一定のリサイクル率に抑えればJISの規格値を満足するものも製造可能といえる。
しかしながら、これは新築工事からでる比較的品質のよい廃材を用いた場合であり、不純物が混じったり、経年劣化したりしている解体系廃棄物を用いた場合は、かなりリサイクル率を下げないと所要の品質を得ることは難しいと思われる。
 
ただし、このリサイクルには別の効果もある。
図- 8は、塩ビ製品の原料にバージン材と再生原料を用いた場合で、消費エネルギー量とCO2排出量を比較したものである。
塩ビはナフサを熱分解して得られるエチレンを塩素と化学反応させて製造するため、エネルギー消費量が多くなるが、再生材を用いることで、廃材の輸送等を考慮してもCO2排出量の小さなものを製造することが可能となる。
よって、塩ビは資源循環することでカーボンニュートラルへも貢献する材料といえる。

図-8 塩ビのリサイクルによる環境影響評価
図-8 塩ビのリサイクルによる環境影響評価

 

3.2 コンクリートの例

塩ビはバージン材自体の環境負荷が大きいため、資源循環による付帯効果が期待できるが、他の建材すべてでこれが成立するとはいえない。
しかしながら、昨今、コンクリート分野ではカルシウム分にCO2を固定化したCCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)材料やコンクリートへの炭素固定技術などが開発されている7)。
 
例えば、図- 9に示すような再生骨材やスラッジにCO2を固定化し、これをコンクリートの原材料として再利用するなどの取り組みが行われている。

図-9 コンクリート廃材を利用したCCUS材料の例
図-9 コンクリート廃材を利用したCCUS材料の例

 
再生骨材とはコンクリート構造物を解体した際に排出されるコンクリート塊から製造したものであり、スラッジとは生コンクリート工場で余剰コンクリートを処理した際に排出される廃棄物である。
いずれもカルシウム分を多く含むことからCO2を固定化できる廃棄物である。
 
コンクリート構造物を解体した際に排出されるコンクリート塊は、図- 10に示すように再度コンクリートの原料(骨材)として用いることで、サーキュラーエコノミーの実現に資するとともに、これに炭素固定化技術が加わることでカーボンニュートラルにも資することが可能となる。
世界でもっとも消費されているものは水であるが、その次に消費量が多いものはコンクリートであり、これらの技術の導入や普及への期待は大きい。

図-10 再生骨材コンクリートとしての利用例
図-10 再生骨材コンクリートとしての利用例

 
 

おわりに

本稿では、筆者が取り組んでいる研究を中心に建築分野における資源循環と長寿命化の必要性について解説するとともに、カーボンニュートラルに資する技術について触れた。
資源循環とカーボンニュートラルは両立する可能性がある点を理解してもらえれば幸いである。
持続的な経済発展をし続けるために、まずは建築分野全体でこの種の課題を認識することが重要である。
また、本稿では触れていないが、すでに完成されたシステムがあるなかで、リサイクル製品が流通・普及するためには、技術者は経済的に成立する技術、あるいは魅力的な製品開発に取り組み続ける必要がある。
技術開発を担う一人としては、発注者が好んでリサイクル製品を選択する世の中になって欲しいと願っている。
 
 


【参考文献】
1) 環境省:令和3年版 環境・循環型社会・生物多様性白書、https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/r07/pdf.html
(2026年6月3日確認)
2) UNEP-IRF:「UN Environment International Resource Panel Global Material Flows Database」
3) 国土交通省:平成30年度建設副産物実態調査結果、https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001329441.pdf
(2026年6月3日確認)
4) 国土交通省:建設リサイクル推進計画2020、https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001365044.pdf(2026年6月3日確認)
5) 迫田、小山:建材のリサイクルによる建設廃棄物の排出量抑制に関する基礎的研究、日本建築学会大会学術講演梗概集、材料施工、 pp.493-494、2018.9
6) 山口、小山:多種類の新築系廃材を混合利用した再生塩化ビニル樹脂シートの品質に関する研究、日本建築学会構造系論文集、第 720号、pp.211-216、2016年
7) 日本コンクリート工学会:カーボンリサイクル特集号、コンクリート工学、2021.9
 
 
 

明治大学理工学部 教授
小山 明男

 
 
 
【出典】


積算資料公表価格版2026年8月号


積算資料公表価格版2026年8月号

最終更新日:2026-07-28

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