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カーボンニュートラルの実現に貢献するGXスチール~日本鉄鋼業の脱炭素化への取組みと国内の動向~

1. 日本のGXにおける鉄鋼業の位置付け

1-1.わが国の排出削減目標と鉄鋼業

パリ協定に基づくわが国のGHG排出削減目標では、2030年度までに産業部門で対2013年度比38%削減、2050年までにカーボンニュートラルを目指しているが、産業部門における約4割は鉄鋼業のGHG排出による。
鉄鋼業の排出が多いのは、主に高炉工程で行われる炭素(コークス)による鉄鉱石の還元(炭素還元)という化学反応によって多くのCO2が発生していることが要因である。
一方、主に鉄スクラップを主原料とする電炉鋼材の製造においては鉄鉱石の還元工程がないため製造断面におけるCO2の排出は高炉鋼材よりもはるかに少ない(図-1)。
 
ただし、鉄スクラップの有限性や不純物混入による品質維持の困難さから、単なる高炉から既存電炉への置き換えだけでは、質と量共に現在の需要を満たしつつ鉄鋼業の脱炭素化を実現することは不可能である。
すなわち、日本鉄鋼業のカーボンニュートラルの成否は、如何にして鉄鋼製造プロセスの上流(主に高炉工程)の排出を実質ゼロに近づけるかが鍵となる(図-2)。

図-1 日本の排出削減目標に占める鉄鋼業の割合1)
図-1 日本の排出削減目標に占める鉄鋼業の割合1)
図-2 鉄スクラップに関する課題(質と量)1)
図-2 鉄スクラップに関する課題(質と量)1)

 

1-2.建設業界における鉄鋼需要

わが国の鉄鋼生産量は約8,300万t/年(2024年度)であり、内需が約4,900万t/年、うち高炉鋼材の需要は約3,000万t/年である。
建設分野(建築+土木)の需要は約1,500万t/年で、これは自動車分野に匹敵する規模である。
加えて、建築物や土木構造物の建設時のCO2排出量における鉄鋼製品の占める割合は、大きいとされている。
すなわち、建築土木分野の脱炭素化には、日本鉄鋼業のカーボンニュートラルの実現が重要な役割を担っている(図-3、4)。

図-3 国内鉄鋼需要における各セクターが占める割合1) 図-4 鉄骨造事務所建設時CO2 排出量の算定例(資材別)2)
図-3 国内鉄鋼需要における各セクターが占める割合1)
図-4 鉄骨造事務所建設時CO2 排出量の算定例(資材別)2)

 
 

2. 日本鉄鋼業のGXの取組み

2-1.革新技術による高炉鋼材製造プロセスの転換

前述した課題を克服して鉄鋼業のカーボンニュートラルを実現するため、日本鉄鋼連盟(以下、鉄連)に加盟する高炉各社は、主に次の3つの革新技術による従来の高炉鋼材の製造プロセス転換によってカーボンニュートラルの実現を目指している(図-5)。

図-5 高炉製造プロセス転換に向けた革新技術開発1)
図-5 高炉製造プロセス転換に向けた革新技術開発1)

 

(1) 高級鋼製造可能な大型電炉

従来の鉄スクラップに加え、直接還元鉄(DRIやHBI)を鉄源に用い、かつ従来の生産能力を大幅に上回る電炉設備の開発により、高炉設備と量・質ともに遜色のない生産能力を構築する。
既に日本製鉄㈱九州製鉄所(八幡地区)、瀬戸内製鉄所(広畑地区)、山口製鉄所(周南)やJFEスチール㈱西日本製鉄所(倉敷地区)において、当該電炉設備の建設に向けた工事が着手されており、2029年までの稼働を予定している。
 

(2) 高炉水素還元製鉄

高炉工程で行われる炭素還元により生み出される熱エネルギーを活用しつつ、併せて水素還元も行わせる(炭素還元の割合を減らす)ことで、従来の高炉製鉄で発生するCO2の量を約半分に抑えることを目指し2008年より研究開発を進めている。
現時点で実験設備ベースではあるが、従来の高炉製法に対し約45%のGHG排出削減が確認された。
なお、高炉水素還元製鉄によって発生したCO2は、CCU/CCS技術によって回収と貯蔵/再利用が行われる。
 

(3) 水素直接還元製鉄

鉄鉱石の還元を水素のみで行うことにより、還元時にCO2を発生させない製鉄技術。
わが国は調達先の関係から直接還元に適さない低品位な鉄鉱石(生産性・安定操業・還元鉄品質に課題あり)の使用を前提とする必要があることから、技術開発と設備導入を含め2050年近くまでの期間を要する。
 

2-2.プロセス転換完了までの移行期におけるGXスチールの必要性

高炉鋼材の製造プロセス転換には、研究開発や設備導入のための膨大な時間と投資が必要となる。
そこで鉄鋼業界では、カーボンニュートラル投資の予見性確保および足元からの脱炭素ニーズに対応するため、製造プロセス転換への過程で得られるGHG排出削減実績量にGX価値を与え、その価値を反映させた鉄鋼製品(GXスチール)にプレミアを付加して販売し、これをプロセス転換に必要な投資のための原資としている(図-6)。
 
ただし、GXスチールの機能や品質自体は従来の鉄鋼製品と変わらないため、GX価値を反映したプレミアが現時点では広く浸透しておらず本格的な市場拡大には至っていない。
そこで経済産業省は2024年に「GX推進のためのグリーン鉄研究会」(以下、グリーン鉄研究会)を発足させ、GXスチールを政府支援の範囲と整理した(図-7)。

図-6 プロセス転換までの移行期に必要なGXスチール3)
図-6 プロセス転換までの移行期に必要なGXスチール3)
図-7 GXスチールの概念と政府による支援の考え方1)
図-7 GXスチールの概念と政府による支援の考え方1)

 

2-3.GXスチールに関する業界標準の整備

鉄連は上記の研究会の成果に基づき、経済産業省や環境省が整備した「カーボンフットプリントガイドライン」に準拠する形で、鉄鋼製品のCFP算定における業界共通ルールとなる「鉄鋼製品に関するCFPガイドライン」と、これに基づく排出削減量の算定や鉄鋼製品への削減量の配分ルール(マスバランス方式またはアロケーション方式)を定めた「GXスチールガイドライン」や「非化石電炉鋼材のCFP算定ガイドライン」を昨年10月に制定し、運用が開始されている(図-8、9)。

図-8 GXスチールに関連する鉄連ガイドラインの体系1)
図-8 GXスチールに関連する鉄連ガイドラインの体系1)
図-9 GXスチールにおける排出削減量の考え方1)
図-9 GXスチールにおける排出削減量の考え方1)

 
 

3. わが国のGX市場形成への動き

3-1.GX実行会議分野別投資戦略(内閣官房)

2025年12月に開催された内閣官房GX実行会議「GX実現に向けた専門家ワーキンググループ」では、GX投資促進に向けた分野別の投資戦略について議論が行われた。
その中で、鉄鋼業は産業部門の中で最も排出量の多い産業として「GX価値の見える化」とともに「GX製品の積極調達」がGX市場創造を行ううえでの課題とされた。
特に土木分野(公共工事)に関しては、2026年度からグリーン鉄の試行工事を開始してこれを順次拡大するとともに、2030年度以降は公共工事におけるグリーン鉄の本格活用を行う方向で整理が行われた(図-10)。
また、公共工事におけるグリーン鉄の調達に関しては、グリーン購入法の活用(特定調達品目への組込)も重要とされ、今後これらの議論のさらなる加速が望まれるとされた。

図-10  公共工事におけるGXスチール本格採用までの流れ4)
図-10  公共工事におけるGXスチール本格採用までの流れ4)

 

3-2.国土強靱化年次計画(国土交通省)

国土交通省が2026年6月に公表した「国土強靱化年次計画2026(案)」では、グリーンインフラ活用やGX推進に向けた取組みについて言及されており、特にグリーン鉄については、『本年度以降、公共工事における試行工事を実施し、順次拡大するとともに、GX価値が適切に評価される市場を政府が率先して形成していく観点も含め、令和12年度以降の公共工事(国および地方公共団体)におけるグリーン鉄の本格活用の実現を見据え「国土交通省土木工事の脱炭素アクションプラン」等を通じて検討方針を明確化する。
更に国直轄事業における試行工事期間においても地方公共団体等におけるグリーン鉄の積極的な活用を促進する観点から、試行工事の内容等に関する積極的な発信を進める。(抜粋)』と明記されている。
 

3-3.グリーン鉄を活用した試行工事(経済産業省および国土交通省)

2030年以降の公共工事におけるGXスチールの本格活用に向け、経済産業省は令和8年度「グリーン鉄を活用した公共工事におけるCFP算定等の調査」を国土交通省と連携して今年度から開始する。
これはまさに上記で述べた試行工事の実行を示すものであり、今後順次対象を拡大させ、2030年の本格採用につなげることを成果目標としている。
 

3-4.グリーン購入法(環境省)

「GX推進のためのグリーン鉄研究会」では、「GXスチール」市場形成に向け、まずグリーン購入法等による公共案件での優先調達が進められることが提案されている。
既に物品等においては調達判断の基準1としてGXスチールが特定調達品目化されているが(図-11)、公共工事分野での品目化はこれからとなる。
 
鉄連では、同法で規定されている公共工事分野において、GXスチール適用に関するトレーサビリティが確保できる土木分野(本設向け)の鋼管杭・鋼管矢板・鋼矢板や橋梁向け厚板を特定調達品目とするよう2024年に提案を行っている。
その後、外法一定H形鋼や、高力ボルトをはじめとした建築分野の品目について提案を続けている。
現在これらは品目化に向けたいくつかの課題が存在しロングリスト入りしているが、2030年からの本格採用に向けて2026年度から実施される試行工事の実施を通じてその解決が進められることが期待できる。

図-11  グリーン購入法特定調達品目における共通の判断の基準および配慮事項の抜粋(公共工事は除く)5)
図-11  グリーン購入法特定調達品目における共通の判断の基準および配慮事項の抜粋(公共工事は除く)5)

 

3-5.建築物LCA制度

建築分野では、現行の建築物省エネ法(2017年施行)にエンボディドカーボン、特に建設時のGHG排出(アップフロントカーボン)の削減に注力した建築物LCA制度が同法に組み込まれる形で法改正が進められている(2026年公布、2028年施行予定)。
 
建築物LCA制度は、2025年6月に国土交通省住宅局の下で「建築物のライフサイクルカーボンの算定・評価等を促進する制度に関する検討会」(以下、建築物LCA制度検討会)が発足したが、鉄連は発足当初から同検討会の委員として参画し、同制度におけるGXスチール適用の必要性を訴求した。
 
2026年1月に公表された同検討会の中間とりまとめでは、建築物のLCCO2削減に向けた施策により、GX製品の活用を含め、建築物の設計等における変革を促すとともに、建材・設備、それらの素材等における投資・イノベーションを促進し、レジリエントな脱炭素社会・循環型社会の実現を図ることが目的として明記されている。
加えて、建築生産者による低炭素製品・GX製品採用の努力が反映されることが重要との観点から、CO2等排出量原単位を整備する対象として、GXスチールが挙げられている。
 
また、建築物のアップフロントカーボンの算定に不可欠な建材製品のGHG排出量原単位は、産官学連携による会議体「ゼロカーボンビル推進会議」のデータベース検討WGで整備が進められている。
鉄連は2025年9月より本WGに参画し、GXスチールのGHG排出原単位をはじめとした同制度への適用に向けた具体的な提言を行っており、現在GXスチール適用に向けた活発な議論が進められている。
 

3-6.GXスチール適用に係る補助金制度等

GXスチールには製造プロセス転換のための原資を確保するためにプレミアが付与されるが、製品自体の機能や品質は従来と変わらないためインセンティブが働きにくい。
そこでグリーン鉄研究会では、先に述べた国による優先調達と併せて「購入支援」も行うべきとしており、その提言を受け、関係省庁でも対応が検討されており、自動車におけるCEV補助金制度の開始等、一部実行に移されているものもある。
 
環境省は、2026年度予算による建築物等のZEB化・省CO2化普及加速事業の一環として「ライフサイクルカーボン削減型の先導的な新築ZEB支援事業」を掲げ、その中の1つに「低炭素型建材活用新築ZEB支援事業」を立ち上げた。
ここでいう低炭素型建材として、鉄についてはGXスチールが対象とされており、GXスチール適用によるコストアップ分の一部補助を実施する制度がスタートしている。
 
 

4. おわりに

日本鉄鋼業は、2050年のカーボンニュートラルに向けて製造プロセスの抜本的転換を推進しており、その移行期においては、その過程で獲得したGHG削減実績量にGX価値を与え、転換推進の原動力を生み出している。
 
これに対し、国はGXスチールの優先的調達や購入支援に向けた施策を立ち上げてGX市場創造を活性化するための土台作りを行っている。
土木・建築市場におかれては、これらの施策を活用いただき、鉄鋼業ひいてはわが国のカーボンニュートラルの実現に向けてぜひGXスチールの利用によるご協力をお願いしたい。
 
 
【参考文献】
1) 図-1~3,5,7~9:日本製鉄㈱「日本製鉄のGX(グリーントランスフォーメーション)取組み状況」(2026年)
2) 図-4:国土交通省住宅局「建築物のライフサイクルカーボンの算定・評価等を促進する制度に関する検討会(第2回)」資料4-3「不動産業界における建築物のライフサイクルカーボン算定・評価等への課題・要望」(2025年)
3) 図-6:日本鉄鋼連盟「ゼロカーボンビル推進会議データベース検討WG_業界代表データ検討状況(鉄鋼)」(2026年)
4) 図-10:内閣官房GX実行推進室「分野別投資戦略における各論整理」(2025年)
5) 図-11:グリーン購入法「環境物品等の調達の推進に関する基本方針(令和8年2月)」1.共通の判断の基準及び配慮事項「原材料に鉄鋼が使用された物品」(2026年)
 
 

一般社団法人 日本鉄鋼連盟 グリーンスチール標準化アドホックチーム

 
 
 
【出典】


積算資料公表価格版2026年8月号


積算資料公表価格版2026年8月号

最終更新日:2026-07-28

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