道路事業における地質リスクマネジメント~「道路事業における地質調査あり方ガイドライン」に基づいて~
はじめに
一般社団法人全国地質調査業協会連合会(以下、全地連)は、道路事業における地質リスクマネジメントの参考資料として令和8年4月に「道路事業における地質調査のあり方ガイドライン」1)(以下、本ガイドライン)を公表した。
令和6年能登半島地震での被害や性能設計への移行動向を踏まえ、令和7年6月26日に「道路土工構造物技術基準」2)が改定され、令和8年4月以降の設計業務から適用されている。
新基準では、計画から維持管理に至る各段階において、地質・地盤の不確実性を踏まえた適切な調査の必要性が示されている。
従来の調査に加え、地質リスクマネジメントの考え方に基づき地質・地盤の不確実性を段階的に低減(図-1)し、事業の効率化につながる的確な調査の実施が一層重要となる。
本稿では本ガイドラインに基づき、道路事業における地質調査リスクマネジメントの重要性および対応方法の概要を紹介する。

図-1 段階的な地質・地盤の不確実性低減のイメージ3)
1. 道路土工構造物技術基準の改定
「道路土工構造物技術基準」では、「地質および地盤等の不確実性への対応の明確化」を改定ポイントの一つとしている。
令和7年11月に発刊された「道路土工構造物技術基準・同解説」4)に示される基本原則のうち、地質および地盤等の不確実性への対応に関する記述の概要を示す。
・道路土工構造物の性能を確保するために、段階的に地質・地盤等の不確実性を低減することを基本とする。
・地質・地盤等の不確実性を段階的に低減するため、リスクマネジメントの概念に基づいた対応が必要となる。
・各段階で目的に合致した内容および規模の調査を行うことが必要である。
以上のように、基準・同解説では、地質・地盤の不確実性を段階的に低減するための地質リスクマネジメントに基づく対応および各段階での適切な調査が必要としている。
2. 道路事業における地質リスクマネジメントの重要性
2-1 地質リスクマネジメントについて
地質リスクマネジメントとは、事業における地質リスクを抽出、分析・評価し、最適な対応を実施する継続的なプロセスであり、そのための組織・仕組みを構築・運用し、事業の進捗等に応じて改善していくための活動である5)。
土木工事では地質条件の情報不足や想定外の変状等の不確実性により、工事トラブルや費用増大、工期遅延が生じる恐れがある。
特に道路のような線状構造物は複雑な地形を横断するため、地質リスクの影響を受けやすい特徴がある。
計画から施工・維持管理に至る各段階で地質技術者の専門知見を活用し、リスクを「可視化」して関係者間で共有・継承することが、安全で効率的な事業遂行に不可欠となる。
2-2 事業段階に応じた系統的な地質調査
道路土工構造物は、地質・地盤を直接利用するため不確実性が大きいという特徴を持つ。
また、地盤情報を初期段階で完全に把握することは困難であり、事業の進行に応じて段階的に情報が蓄積される。
そのため、各段階で系統的な調査を行い、不確実性を段階的に低減していくことが不可欠となる。
図-2に道路における段階ごとの調査項目・取り扱うリスク等を示す。

図-2 道路における事業段階の検討項目・取り扱うリスク(文献6)を加筆修正)
概略設計や予備設計の段階では、ルート選定や構造物配置に影響を及ぼす不確実性を把握し、これに基づき調査計画を立案する。
詳細設計段階では、構造物の設計条件や施工性に影響する不確実性をより具体的に把握するため、追加調査を実施する。
続く施工段階では、現場の実状に応じて設計変更や手戻りを防ぐため、追加調査や計測が行われる。
最後の維持管理段階においても、残存するリスクに対して必要に応じて点検や計測等の監視を継続する。
このように、事業段階を通じて調査を行うことにより、初期調査によるリスク抽出に加えて、施工中の予期せぬ事象への柔軟な対応や供用後の経年変化を踏まえた定期点検で、施設の長期的な安全性を確保することができる。
3. 道路土工構造物の地質・地盤の不確実性
3-1 道路土工構造物に対する地質・地盤の不確実性の影響
道路土工構造物は、コンクリートや鋼材等の均質な人工材料で造られる構造物とは異なり、自然由来の土砂や岩石を主材料とし、複雑な自然地盤の上に構築されるという特性がある。
地質・地盤の不確実性には、以下の種類がある。
①地盤材料そのものが持つ不均質性
②地盤調査結果の不足やばらつき
③設計段階での地盤モデルの単純化による誤差
④施工段階における品質のばらつき等
地質・地盤の不確実性は、構造物の安全性や耐久性に直接的な影響を及ぼす。
3-2 道路土工における地質・地盤に起因したトラブルの発生例
盛土や切土に代表される道路土工構造物は、他の構造物と比べても多種多様な地質リスク要因を抱えている。
道路土工構造物で発生する地質・地盤に起因するトラブルは、対象となる地質・地盤条件や、盛土・切土等土工施設の種類によって大きく異なる。
これらの地質リスクが発現した場合、最悪どのようなトラブルへ発展するかを想定することは、事業運営上きわめて重要である。
本ガイドラインでは、道路土工における地質・地盤に起因する代表的なトラブル事例を図表の形で示している。
その一例を表-1に示す。
4. 不確実性を確認するための地質調査と地質リスクの評価
4-1 地質調査の基本方針と主な調査方法
前述の通り、事業の段階に応じて適切な調査計画を立案・実施し、地質・地盤の不確実性(地質リスク)を低減することが、地質調査の基本方針となる。
例として、表-2に盛土構造物に対する地質調査の主な内容を示す。
これらの調査の具体的な実施方法については、全地連発行の「地質調査実施要領」7)が参考となる。
地質調査はやみくもに実施するものではなく、事業段階ごとに適用可能な調査手法を適切に選択し、地質・地盤の不確実性を段階的に絞り込むことが重要である。
特に設計段階では詳細な調査や試験が行われるが、その結果を解釈する際には、地形・地質の成り立ちや地域特性を踏まえて判断することが不可欠である。
4-2 地質リスク調査検討
地質リスク調査検討とは、土木事業の各段階で懸念される地質・地盤リスクを抽出・解析し、対応策や共有事項を検討するものである。
主な目的は事業の効率化であり、予期せぬ事業費の増大、工期遅延、重大トラブルの低減に貢献する。
本検討は「地質リスク調査検討業務」として発注され、地質リスクマネジメントの標準的な手法に位置付けられる。
最大の特徴は、事業に潜在する地質・地盤の不確実性を可視化し、関係者間で情報を共有する点にある。
これは、構造物の設計・施工用データを収集する通常の地質調査業務とは明確に異なる。
具体的な実施・発注方法は、全地連による「地質リスク調査検討業務の手引き」5)に整理されている。
本ガイドラインでは、道路事業に着目した地質リスク調査検討業務の進め方を示している。
道路事業の地質リスク調査検討は、構想・計画段階の予備検討から各段階へ継続して実施される。
業務ではリスクの抽出・解析、対応案の検討、三者会議等を実施する。
地質調査業務と連携して最新情報でリスク評価を随時更新し、後続の調査計画を提案する。
不確実性の低減や調査の最適化、事業効率化には、残存リスクや対応方法を次の段階へ適切に引き継ぎ、プロセスを段階的に繰り返すことが重要となる(図-3)。

図-3 道路事業の各事業段階における地質リスク調査検討の流れ(文献8)に加筆修正)
本ガイドラインでは、概略設計~予備設計A段階、予備設計B~詳細設計段階、施工段階および維持管理段階の各段階の地質リスク調査検討の実施内容が詳細に示されている。
地質リスク調査が非適用となる比較的小規模な事業では、一般的な地質調査業務と設計業務との確実な情報共有・引継ぎが欠かせない。
現状、地質調査業務の仕様には後続調査計画の策定が明確に規定されていないため、今後は通常業務における標準仕様として位置付けることが望まれる。
さらに、事業全体を通じて残存する地質・地盤の不確実性の取扱いについて、報告書成果を標準化することも今後の重要な課題となる。
5. 地質リスクアセスメント技術における新技術の活用
地質リスクアセスメントとは、地質リスク調査検討において、地質・地盤条件等の調査、リスク特定、リスク分析およびリスク評価の一連のプロセスであり、地質リスクアセスメント技術はその中で活用する調査技術を指す。
道路事業の各段階では取り扱うべきリスクが異なるため、各段階の目的に応じて適切な調査技術を選定する必要がある。
本ガイドラインには、各段階においてリスク把握に有効となる最新の調査技術およびその適用性が示されている(表-3)。
なお、これらの最新の調査技術の詳細は、全地連の発行する「災害時に活用できる地質調査技術カタログ」9)に示されている。
おわりに
道路事業における地質リスクマネジメントは、事業の各段階で地盤の不確実性を段階的に低減し、予期せぬ事業費増大や工期遅延、重大トラブルを防止するために不可欠な取組みであり、新規道路事業においては本ガイドラインを参考に調査計画を検討いただきたい。
また全地連としては、小規模道路事業での地質リスク評価への対応、そのための地質リスクを含む報告書成果の標準化に取り組んでおり、こうした取組みを通じてさらなる安全で効率的な道路整備に貢献したいと考えている。
【参考文献】
1)(一社)全国地質調査業協会連合会:道路事業における地質調査のあり方ガイドライン.2026.4
https://www.zenchiren.or.jp/geocenter/pdf/riskmanagement_202604-2.pdf
2) 国土交通省:道路土工構造物技術基準.2025.6
https://www.mlit.go.jp/road/sign/kijyun/bunya02.html
3) 日本道路協会:道路土工の基礎知識と最新技術(令和5年度版)、2024.
4)(公社)日本道路協会:道路土工構造物技術基準・同解説.2025.11
5)(一社)全国地質調査業協会連合会:地質リスク調査検討業務の手引き.2021.7
https://www.zenchiren.or.jp/geocenter/risk/georisk_guide_2021.pdf
6)国土交通省:土木事業における地質・地盤リスクマネジメント検討委員会第2回検討委員会資料、2019.
https://www.pwri.go.jp/jpn/research/saisentan/tishitsu-jiban/iinkai-archive.html
7)(一社)全国地質調査業協会連合会:発注者・若手技術者が知っておきたい地質調査実施要領.2025.2
8)国土交通省大臣官房技術調査課・土木研究所:土木事業における地質・地盤リスクマネジメントのガイドライン,2020.
https://www.pwri.go.jp/jpn/research/saisentan/tishitsu-jiban/iinkai-guide2020.html
9)(一社)全国地質調査業協会連合会:災害時に活用できる地質調査技術カタログ.2025.10
https://www.zenchiren.or.jp/geocenter/pdf/dr_technology_202510.pdf
基礎地盤コンサルタンツ株式会社 技術本部
【出典】
最終更新日:2026-09-18

