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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 軟弱地盤・液状化対策 > 高圧噴射撹拌工法を用いた杭基礎の補強技術

はじめに

2024年1月1日に発生した能登半島地震では、地盤の液状化や多数の住宅および建築物に倒壊・傾斜等の被害が生じた。
今後、発生の切迫性が指摘される南海トラフ巨大地震や首都直下地震等による人的被害・社会的損害の軽減は重要であり、災害に強い国土形成への社会的関心は高まっている。
 
軟弱地盤対策は、地盤改良の原理(置換、圧密・排水、締固め、固結)ごとに施工法の開発、設計法の確立、工事事例が蓄積されている。
固結工法の一つである高圧噴射撹拌工法は、セメント系固化材を用いた地盤改良工法である。
本稿では、2016年の熊本地震により杭体が損傷した建物について、高圧噴射撹拌工法の一つであるJETCRETE工法を用いて杭基礎の耐震性能を現行の建築基準法レベルに修繕することで、建物の継続利用を可能にした事例と、工法の採用過程で実施した実大の載荷試験について述べる。
 
 

1. 杭基礎の補強工法の概要

杭基礎の補強に当たって、既存建物が存在する状態でも基礎下の地盤改良が可能なJETCRETE工法を用いた。
杭基礎の補強は、単杭(1本杭)を例にとると、図-1に示すようにフーチングの180度対角位置の地表から先行削孔を行い、杭頭部の周囲を覆うように地盤改良する。
この改良形式では、杭体の水平地盤反力を高めること、フーチングに作用する鉛直力を地盤改良体も一部負担すること、の2点による鉛直支持力の増強を期待している。

図-1 高圧噴射撹拌工法による杭の補修・補強概念図
図-1 高圧噴射撹拌工法による杭の補修・補強概念図

 

2. 施工実績の紹介

2016年に発生した熊本地震により熊本市内のとある集合住宅(1985年竣工、RCラーメン造)の既製コンクリート杭に被害が確認された。
ただし、上部構造に目立った被害はなく、杭の目視調査により、建物の一部の杭の杭頭部におけるひび割れ程度の損傷であった。
従って、集合住宅の継続使用を可能とするために地盤改良により損傷した杭基礎の補強工事が行われた。
以下に、工事に先立って確認した杭基礎周囲の地盤に地盤改良を施した際の鉛直支持力、水平抵抗力に関する実大載荷試験と、地盤改良工事について示す。
 

2-1 鉛直支持力に関する検討

杭基礎の補強を実施した建物と同じ敷地内にて、地震により杭頭部がせん断破壊していた杭(写真-1)を対象に検討を行うため、地盤改良後に鉛直載荷試験を実施した。
鉛直載荷装置の概要として、杭体、フーチング、地盤改良の形状を示す(図-2)。
載荷方法は、地盤工学会基準(JGS1811-2002)に準拠し、設計用の長期鉛直荷重(110t/本)の3倍以上の荷重とする計画とした。
 
鉛直載荷試験の結果、載荷荷重(P)-鉛直変位(S)関係(図-3)は、最大荷重3600kNの段階載荷まで弾性的挙動を示し、フーチング端部沈下量は8.7mmであった1)
地盤改良後の杭基礎の鉛直荷重は、杭体の設計用鉛直荷重の3倍である3234kNを上回っており、変位量は極限支持力の判定における杭径(500mm)の10%の沈下量より小さいことから、十分な補強効果を発揮することを確認した。

写真-1 鉛直載荷試験対象の杭の損傷状況
写真-1 鉛直載荷試験対象の杭の損傷状況
図-2 鉛直載荷試験概要
図-2 鉛直載荷試験概要
図-3 載荷荷重(P)-鉛直変位(S)関係
図-3 載荷荷重(P)-鉛直変位(S)関係

 

2-2 水平抵抗力に関する検討

鉛直載荷試験と同様に、実大の水平載荷試験により、地盤改良を施した杭基礎の載荷試験を実施した。
また、補強対象とした建物と同じJIS規格品のPHC杭に対して、対象建物における表層の地層構成とN値の深度分布が類似している別の試験場所にて水平載荷試験を実施した。
水平載荷試験は、PHC杭の杭体のみ(No.1)と、杭体の頭部周囲に地盤改良を施したケース(No.2)、杭体に損傷を模擬した後に地盤改良を施したケース(No.3)の3ケースとした。
No.3について、杭の損傷状況の再現のために、杭打設後のはつり作業により杭頭部のコンクリートに切り欠きを施し、その範囲における杭体内のPC鋼材およびらせん状鉄筋を切断した。
 
載荷方法は、地盤工学会基準(JGS1831-2010)に準拠し、設計用の短期水平荷重(180kN)の1.5倍以上まで、加力する計画とした。
水平載荷試験装置の概要図を図-4に、水平載荷試験の水平荷重(H)と水平変位(y)の関係2)を図-5に示す。
疑似的に損傷を模擬した杭に地盤改良を施したNo.3(黒線)は、最大荷重492kNで地盤改良体にせん断破壊が生じたと見られる耐力低下により試験を終了した。
No.2とNo.3試験体において、最大荷重到達以降(ここでは仮にy=45mm)の水平抵抗力は、それぞれ416kN、376kN程度を保持しており、試験体No.1の最大水平抵抗力よりも大きい。
これは、杭もしくは地盤改良体にひび割れが発生した後も、地盤改良体が消失しないことにより、地盤への水平力伝達機能を発揮し続けているためと考える。

図-4 水平載荷試験概要
図-4 水平載荷試験概要
図-5 水平荷重(H)ー水平変位(y)関係
図-5 水平荷重(H)ー水平変位(y)関係

 

2-3 実建物の地盤改良工事について

実施工にあたっては、地盤改良体の品質確保のために、「2018年版 建築物のための改良地盤の設計及び品質管理指針」((一財)日本建築センター・(一財)ベターリビング、以下「改良指針」と略す)に記載のとおり、試験施工による品質および施工性の確認後に本施工を行った。
本施工に当たり、損傷が確認された杭は建物の杭のうち一部のみであったが、損傷が認められなかった杭を含めて全ての杭に地盤改良を実施した。
全ての杭を対象とした理由は、補強技術による杭頭部の水平剛性を各フーチングで同等とするためである。
JETCRETE工法による改良体の配置図は図-6に示すとおりである3)

図-6 JETCRETE工法の平面配置図
図-6 JETCRETE工法の平面配置図

 
実施工の施工管理方法は、試験施工の結果を踏まえて設定し、所定の施工管理項目で一連の施工を無事に完了することができた。
集合住宅の建屋内からの施工時の状況を、写真- 2に示す。
施工後の品質検査は、改良指針に示される「改良径」、「強度」、「連続性」について、設計要求される品質を満足していることを確認した。
ボーリングコアによるコア採取率の検査の一例を写真- 3に示す。

写真-2 建物内の施工状況
写真-2 建物内の施工状況
写真-3 ボーリングコア(一例)の写真
写真-3 ボーリングコア(一例)の写真

 
 

おわりに

基礎構造の地震被害は、上部構造物の被災が軽微でも上部構造の傾斜などが生じた場合、修復・復旧が求められる。
ただし、調査・復旧コストは極めて高く、復旧できずに取壊し・建替えとなる場合もある。
それは、杭など基礎構造は地中にあり、損傷を確認することが難しいためであり、調査技術の開発が望まれる。
それと同時に、損傷した杭基礎の補修・補強技術も求められており、その一つとして、高圧噴射撹拌工法による地盤改良を用いた杭基礎の補強技術を紹介した。
 
本補強技術により損傷した杭基礎を有する建物の継続使用、長寿命化を可能とした。
この技術は、損傷した杭に加えて、現行の建築基準法で規定される耐震性能に満たない杭にも適用が可能と考えられ、高度経済成長期に建てられ、今後の更新が迫られる建物(ストック)、基礎の耐震性に劣る建物等の利活用を可能とする技術と考えられる。
なお、ケミカルグラウト株式会社は、国立研究開発法人建築研究所の委託事業「革新的社会資本整備研究開発推進事業(BRAIN)」にて、「高圧噴射撹拌工法による杭補強工法の研究開発」という課題名にて採択され研究開発を進めている。
 
 


参考資料

1) 井上波彦、島村淳、田井秀迪、楠浩一、二木幹夫、柏尚稔、久世直哉:高圧噴射撹拌式の地盤改良による損傷杭の補修・補強に関する研究(その3)載荷試験結果、日本建築学会大会学術講演梗概集(東北)、構造-Ⅰ、pp.511-512、2018
2) 久世直哉、島村淳、鎌田敏幸、楠浩一、井上波彦、柏尚稔、二木幹夫:高圧噴射撹拌式の地盤改良による既存杭の補修・補強に関する研究(その3)水平載荷試験結果、日本建築学会大会学術講演梗概集(北陸)、構造-Ⅰ、pp.647-648、2019
3) 鎌田敏幸、山上幸、島村淳、一坪慎吾、久世直哉:杭の補修・補強のための高圧噴射撹拌工法による地盤改良とその適用、第14回地盤改良シンポジウム論文集、pp.455-462、2020
 
 
 

ケミカルグラウト株式会社 技術本部 技術部 課長
鎌田 敏幸

 
 
【出典】


積算資料公表価格版2024年10月号


公表価格版10月号

最終更新日:2024-09-20

 

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