ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料 > グリーンイノベーション基金事業CO 2 を用いたコンクリート等製造技術開発

1. カーボンリサイクル

国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、図- 1に示すようにエネルギー・地球環境問題の解決や産業技術力の強化に関し、技術戦略の策定、プロジェクトの企画・立案を行い、産学官の強みを結集した体制構築や運営、評価、資金分配等を通じて技術開発を推進し、成果の社会実装を促進することで社会課題の解決を目指すプロジェクトマネジメント組織です。

【図- 1 イノベーションアクセラレーターとしてのNEDO の役割】
【図- 1 イノベーションアクセラレーターとしてのNEDO の役割】

 
「グリーン成長戦略」で今後成長が期待される14分野が示されたことを踏まえ、カーボンニュートラルの実現に向け企業の野心的な技術開発の挑戦を後押しすべく、「グリーンイノベーション基金」がNEDOに創設されました1)
その1つに図- 2に示すカーボンリサイクル2)があります。
カーボンリサイクルは、排気ガスや大気中に存在するCO2を資源として燃料、化学製品、建材(コンクリート等)に活用する技術でカーボンニュートラルを実現するためのキーテクノロジーです。
特に本報で紹介するコンクリート、セメント、炭酸塩等へのCO2の利用は、CO2の固定ポテンシャルが高く、生成物が安定しているため、早期の社会実装による大規模なCO2削減が期待されている領域です。

【図- 2 カーボンマネジメント(CCU・カーボンリサイクル/ CCR/ CDR) のイメージ】
【図- 2 カーボンマネジメント(CCU・カーボンリサイクル/ CCR/ CDR) のイメージ】

 


※温室効果ガスの排出量と植林等による吸収量の差し引きをゼロにすること
 
 

2.CO2を用いたコンクリート等製造技術開発

コンクリート・セメント分野におけるカーボンリサイクルのイメージを図- 3に示します。
コンクリート・セメント分野におけるカーボンリサイクル技術は、廃棄物・副産物等に含まれるカルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)等のアルカリ源を抽出・再利用し、CO2を生成物に取り込む技術です。
同分野において脱炭素化を実現するためには、世界各地で利用されているコンクリートのCO2排出削減・固定量を最大化させるとともに、コスト削減等によりその利用を促していく必要があります。
このような問題意識から、コンクリート・セメント分野におけるカーボンリサイクル技術の社会実装に向け、表- 1に示す技術開発を開始しました。

【図- 3 コンクリート・セメント分野のカーボンリサイクルイメージ】
【図- 3 コンクリート・セメント分野のカーボンリサイクルイメージ】
【表- 1 CO2を用いたコンクリート等製造技術開発の実施項目】
【表- 1 CO₂
 
具体的には、2030年までにCO<sub>2</sub>排出量の削減およびCO<sub>2</sub>固定量の増大を図るとともに、コスト低減を実現するCO<sub>2</sub>排出削減・固定量最大化コンクリートの製造システムの確立に向けた開発に取り組んでいます。<br />
また、図- 4の取組概要が示すように、本技術開発では、CO ₂排出削減・固定量最大化コンクリートの開発のみならず、品質管理や標準化についても取り組みます。<br />
具体的には、事業者が展開するビジネスモデルも踏まえながら品質管理・固定量評価に関して正確性と平易性のバランスを考慮し、必要となる標準や適合性評価手法の検討を行い、2030年までに品質管理手法を確立するとともに国際標準化を実現する計画です。<br />
これらの開発により期待される成果のイメージを図- 5に示します。<br />
コンクリートは多種多様な用途に用いられており、特にCO<sub>2</sub>を吸収させる炭酸化によりコンクリート中のpHが下がる、即ち酸性化が進み鉄筋の腐食が進む等の課題も挙げられます。<br />
一足飛びに全てのコンクリートに適用しカーボンネガティブ<sup>※</sup>を実現することはできませんが、本プロジェクトで技術開発を進め適用範囲を拡大していきます。</p>
<div style = 【図- 4 革新的カーボンネガティブコンクリートの材料・施工および利用技術の開発の概要】
【図- 4 革新的カーボンネガティブコンクリートの材料・施工および利用技術の開発の概要】
【図- 5 CO2を高度利用したCARBON POOL コンクリートの開発と舗装および構造物への実装の概要】
【図- 5 CO2を高度利用したCARBON POOL コンクリートの開発と舗装および構造物への実装の概要】

 
セメントにおける取組概要を図- 6と図- 7に示します。
図- 6は、セメント製造における石灰石の脱炭酸時に発生するCO2を全量近く回収し、既存のCO2化学回収法であるアミン法と同等以下のコストに低減する技術の確立を目指しています。
図- 7は回収したCO2および多様な廃棄物から効率的かつ経済的に炭酸塩を製造し、セメント原料等で利用する技術や、品質確保のためのガイドラインの策定を行う計画を示しています。

【図- 6 革新的カーボンネガティブコンクリートのCO2削減量とCO2固定量のイメージ】
【図- 6 革新的カーボンネガティブコンクリートのCO2削減量とCO2固定量のイメージ】
【図- 7 CO2 回収型セメント製造プロセスの基本フロー】
【図- 7 CO2 回収型セメント製造プロセスの基本フロー】
【図- 8 多様なカルシウム源を用いた炭酸塩化技術の確立の概要】
【図- 8 多様なカルシウム源を用いた炭酸塩化技術の確立の概要】

 


※温室効果ガスの排出量より吸収量が多いこと
 
 

3. 取り組みの進捗

プロジェクト開始後1年半程度であり、目標達成に向け各技術の開発を進めている道半ばの状況ですが、国土交通省が実施する直轄事業において放水路トンネル工事に適用した型枠でカーボンネガティブ達成の確認3)、廃石こうボードをカルシウム源として用いたU字溝への適用4)、大阪・関西万博メッセ棟へプレキャスト材を基礎材として適用5)、など社会実装も活用して検証を進めています。
併せて国際競争力を高めていくため、品質評価、CO2吸収量の標準化に関する取り組みも加速しています。
引き続き、海外の動向にもよく目を向けながら、事業成果の社会活用を促せるような仕組みづくりを促していきます。
 
 


参考文献

1) 木下 茂、西里 友志、:グリーンイノベーション基金事業についてCO2を用いたコンクリート等製造技術開発、土木施工、Vol.63、 No.11、pp.20-21、2022
2) 経済産業省 資源エネルギー庁hp、https://www.enecho.meti. go.jp/category/others/carbon_recycling/(2023年11月 14日閲覧)
3) 坂田 昇、坂井 吾郎、取違 剛:革新的カーボンネガティブコンクリートの材料・施工技術および品質評価技術の開発~全体概要と鹿島コンソーシアムの取組み~、土木施工、Vol.64、No.11、 pp.22-25、2023
4) 大成建設hp、グリーンイノベーション基金を活用して炭酸塩化技術でセメント原料となる人工石灰石を製造、https://www.taisei. co.jp/about_us/wn/2022/221116_9146.html(2023年11月14日閲覧)
5) NEDO hp、CO2を削減・固定・吸収し、製造過程での排出量を80% 以上削減したコンクリート「CUCO- 建築用プレキャスト部材」を開発、https://www.nedo.go.jp/news/press/ AA5_101698.html(2023年11月14日閲覧)

 
 
 

国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)
環境部 次世代火力・CCUSグループ 主査 工学博士
冨田 和男

 
 

【出典】


積算資料2024年2月号

最終更新日:2024-04-30

 

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