ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料 > 2025年の建設産業を振り返って─ 国土強靱化実施中期計画が閣議決定問われる持続可能なマネジメント ─

1月28日に埼玉県八潮市で発生した道路陥没事故は改めてインフラの潜在的なリスクを顕在化し、全国規模での維持管理体制の再構築を促すきっかけになろうとしている。
インフラの老朽化は日常生活では見えにくい場所で静かに進行しており、今回の事故でも管路という地下の危機が浮き彫りになったかたちだ。
一方で少子高齢化も進む中、インフラメンテナンスに充てる人材や予算を確保するのは容易ではない。
特に市町村では技術系職員がいない団体もあるなど、老朽ストックへの対応が後回しになっているケースも少なくない。
次世代に安全で持続可能な社会基盤を引き継ぐためには、行政を中心とするインフラ管理者に任せきりにせず、企業や市民一人一人などがより主体的に参加する「総力戦」が不可欠になる。
今こそインフラ全体の持続可能なマネジメントが問われている。
 
政府は6月6日の閣議で、国土強靱化基本法に基づく初の「第1次国土強靱化実施中期計画」を決定した。
事業規模は「おおむね20兆円強程度」で、2026年度からの5カ年で326施策と推進が特に必要な114施策に取り組んでいく。
資材価格や人件費の高騰を毎年の予算編成で「適切に反映する」としている。
事業費が従来の補正予算で措置されるのか、あるいはより安定的な確保が見込まれる当初予算に計上されるのか。
中長期視点での施工体制の確保が求められる建設業界は注視している。
各地で豪雨などの災害が相次ぐ中、必要な施策を推進するうえで20兆円強をどれだけ積み上げられるかが焦点になる。
 
10月21日に積極財政を主張する高市早苗首相率いる新政権が発足した。
建設業界の期待も大きく、日本建設業連合会の宮本洋一会長は「高市総理が掲げる『成長投資』『令和の国土強靱化』の政策方針は、社会資本の整備・維持管理を通じて、安全・安心で豊かな国土づくりを支える建設産業の使命と軌を一にするものであり深く賛同いたします。
新内閣には、デフレ経済からの脱却を確実なものとするため、物価上昇を上回る持続的な賃上げと活発な投資がけん引する活力のある成長型経済の実現に向けた取り組みを期待しております」とコメント。
全国建設業協会の今井雅則会長も「高市内閣におかれましては、大胆な『危機管理投資』と『成長投資』で、『暮らしの安全・安心』の確保と『強い経済』の実現を掲げており、国民の生命と財産を守る令和の国土強靱化対策のさらなる推進のため、持続的かつ安定的な公共事業予算の確保など、わが国の社会資本整備に関わる諸課題に着実に取り組んでいただくことを期待しております」と発信した。
 
引き続き資機材価格の高止まりや労務費の上昇などの影響で事業量は実質減少しており、地方の中小を中心とする建設会社の経営を圧迫している。
人口の減少や高齢化によって担い手のさらなる不足も見込まれる中、大手・準大手ゼネコンのM&A(企業合併・買収)も相次ぐなど業界再編の号砲も鳴らされた格好だ。
 
いつの時代も災害に強い国土を築き、持続可能な暮らしや成長を支える基盤を整えることは政治の最も重い責務であり、建設業が守り手として求められる役割に変わりはない。
そのためにもまずは2025年度補正予算の早期成立と必要かつ建設コストの上昇を適切に織り込んだ公共事業関係費の確保、中長期視点ではより安定した当初予算での公共事業関係費の確保・増加が求められる。
 
 

インフラ管理 八潮市事故踏まえ管理体制転換急務

1月28日に埼玉県八潮市で老朽化した下水管が原因となった道路陥没事故が発生した。
単なる個別事象ではなく、改めてインフラマネジメントの在り方を抜本的に問い直す契機となった。
事故の原因究明が進む中、国土交通省の有識者会議では下水道に限らず広く老朽化対策も議論されている。
教訓を踏まえた管理体制の転換が速やかに求められる。
 
埼玉県が設置した「八潮市で発生した道路陥没事故に関する原因究明委員会」(委員長・藤野陽三 城西大学学長)が9月4日、調査報告を公表した。
1983年に敷設された下水管が経年劣化し、硫化水素によってコンクリートが腐食。
隙間から土砂が流入し、空洞が発生して陥没に至ったとした。
 
事故は埼玉県内12市町の下水処理を担う幹線で発生した。
周辺で生活や仕事をしている約120万人に影響した。
処理能力が一時的に低下し、節水や入浴・洗濯の自粛要請が出るなど支障が生じた。
特に現場の地盤はシルト質で、水分を含むと強度が著しく低下する特性がある。
こうした脆弱な地盤条件が崩落の規模拡大を招いたとみられる。
国交省は事故を受け、「下水道等に起因する大規模な道路陥没事故を踏まえた対策検討委員会」(委員長・家田仁政策研究大学院大学特別教授)を設置した。
3月の第1次提言では大口径下水管の全国一斉調査「全国特別重点調査」の実施を要請。
5月の第2次提言では省力化と無人化による点検の高度化、リダンダンシー(冗長性)の確保、維持管理しやすい設計への見直しなどが提案された。
 
9月に公表された下水道管路の全国特別調査結果によると、調査対象約813kmのうち「緊急度Ⅰ(1年以内の対応が必要)」のストックが約72km、「緊急度Ⅱ(5年以内)」が約225kmと判明。
老朽インフラへの対応の遅れが改めて浮き彫りとなった。
 
今回の事故は下水道だけでなく他のインフラ全般にも共通するリスクを示すものとなった。
10月下旬時点で検討中の第3次提言では「見える化の徹底」「点検・調査のメリハリ」「現場職員の意欲向上」「国民の理解と協力のモーメンタム(機運醸成)」の4点を柱に議論されている。
11月5日に、下水道だけでなくインフラ全般も対象にした第3次提言案をまとめた。
第1次国土強靱化実施中期計画を踏まえた重点的な財政支援や、計画から設計、整備、修繕、改築までを一体的に考える「統合的なマネジメント」体制の構築などを求めている。
 
 

20兆円強の国土強靱化実施中期計画が決定

政府は6月6日の閣議で、「第1次国土強靱化実施中期計画」を決定した。
2026~30年度の5カ年を事業期間とし、実施すべき326施策と、その内推進が特に必要な114施策を示した(表-1)。

【表-1 第1次国土強靱化実施中期計画「推進が特に必要な施策(ハード関係)」】
【表-1 第1次国土強靱化実施中期計画「推進が特に必要な施策(ハード関係)」】

 
事業規模は「おおむね20兆円強程度」とし、資材価格や人件費の高騰を毎年の予算編成で「適切に反映する」としたほか、災害発生などに応じて「機動的・弾力的に対応」するとも明記した。
政府・与党内には「20兆円強は最低水準。規模は毎年積み上げることになる」との見方もある。
 
114施策について、目標達成に要する事業規模のめどを示した。
計画に定める5本柱の内訳は▽防災インフラの整備・管理=5.8兆円▽交通・通信・エネルギーなどライフライン強靱化=10.6兆円▽新技術の活用による国土強靱化施策の高度化=0.3兆円▽官民連携強化=1.8兆円▽地域防災力の強化=1.8兆円とした。
 
毎年度の予算措置は災害発生や経済社会情勢を踏まえ「機動的・弾力的に対応する」と明記し、人件費や物価高騰には予算編成で「適切に反映する」とした。
「計画初年度は、速やかに必要な措置を講ずる」としており、政府内には「補正予算を活用した前倒し計上」との見方もある。
さらに「財源確保方策の具体的な検討を開始する」と盛り込み、補正だけでなく当初予算への計上にも含みを持たせた。
 
「推進が特に必要となる施策」は、八潮市の道路陥没事故の対策検討委員会の提言を踏まえ、一部見直した。
具体的な目標として損傷リスクが高く、事故時の影響が大きい大口径下水道管路は、全国特別重点調査の対象約5,000kmの健全性を30年度までに100%確保するなどとした。
このほか複線化・連絡管整備の完了率、リダンダンシー(冗長性)確保計画の策定率などの指標も加えた。
 
道路ネットワークの機能強化や道路施設の老朽化対策、住宅建築物の耐震化、国や都道府県管理河川の整備をはじめ流域治水対策などの推進も盛り込んだ。
 
計画策定を先導した自民党国土強靱化推進本部長を務める佐藤信秋前参議院議員は「今起きても不思議ではない大災害に対し、最大限の努力をしなければならない。
20兆円強は最低の数字だ。
物価高騰の影響などを反映し、毎年必要な分をプラスアルファで積み上げる。
できるだけ毎年度の当初予算の上積み分とし、補正予算でも措置する。
これから毎年毎年の闘いだ。
物価上昇を乗り越えながら経済も回す。
公共投資、強靱化投資をやって初めて民間投資が動く。
公共から手を差し伸べ投資を誘発し、民間も一緒に強靱化に取り組んでほしい」とコメント。
今年も各地で相次いだ豪雨などの災害に対し、必要な事業費の積み上げによる適切な対処を訴えている。
 
 

改正業法・入契法が12月12日全面施行

適正な労務費の確保と行き渡りに向けた新たな取引ルールなどを盛り込んだ改正建設業法・公共工事入札契約適正化法(入契法)が12月12日に全面施行される。
このタイミングに合わせて中央建設業審議会(中建審)が「労務費に関する基準(標準労務費)」を勧告する予定。
標準労務費をベースに著しく低い労務費の見積もり・契約を禁じるなど、改正法で規定した規制措置がすべて発効となる。
24年6月施行の改正公共工事品質確保促進法(公共工事品確法)と25年4月施行の測量法と合わせた「第3次担い手3法」としても全面施行されることになる。
 
改正業法・入契法では、標準労務費を著しく下回る額での受注者の見積もり提出と注文者の見積もり変更依頼を禁止。
これまで注文者に対象を限っていた「不当に低い請負代金」と「著しく短い工期」の禁止を受注者に導入する措置も施行となり、価格と工期のダンピング規制を強化する。
注文者のうち建設業者ではない発注者にも、労務費の見積もり変更規制に違反して建設業者と請負契約を締結した場合、国交大臣などが勧告・公表できる規定を設けた。
「建設工事を施工するために通常必要と認められる費用の額」が500万円未満の請負契約は、勧告対象から除外する。
ただし建築一式工事の場合は1,500万円未満で除外となる。
勧告対象を一定額以上の請負契約に限定することで、個人住宅の新築やリフォームを発注する一般の消費者への影響を最小限にとどめる。
改正業法の全面施行に合わせて国土交通省が決定する「労務費に関する基準(標準労務費)」の具体的な数値は14職種・分野になる見通しだ。
いずれも国交省と各専門工事業団体などで進めていた意見交換会で調整を終えた。
法施行後も準備が整った職種から順次、具体値を決定する方針。
ただ決定前の職種でも、法施行後は共通して労務費の見積もり規制が適用されることに注意が必要になる。
 
10月27日に開かれた中建審のワーキンググループ(WG)で国交省が説明した、法施行前に中建審が勧告する標準労務費は、基本的な考え方をまとめた文書だけが対象となる。
鉄筋や型枠など工種別の具体値は、業界団体などの関与とWGからの意見聴取を前提に国交省が決定、公表することになる。

 
10月下旬時点で具体値の意見交換に入ったのは24職種・分野。
WGの前回会合があった9月時点では、▽鉄筋▽型枠▽左官▽潜かん▽橋梁▽造園の6職種で調整を終えている。
加えて今回の会合までに、▽住宅分野▽電工▽とび▽空調衛生▽土工▽鉄骨▽切断穿孔▽警備の8職種・分野で協議がまとまった。
 
具体値を建築と土木で別々にするなど、各職種の現場実態に応じ細分化の程度は異なる。
「とび・土工工事」だけでも足場など仮設工事の種類や、土工事のバリエーションに応じ具体値は57パターンある。
「住宅分野」は一戸建て住宅を対象とした歩掛かりの調査結果を反映し、建て方や解体など12工程ごとに具体値を固めた。
「交通誘導警備」も具体値を設定したが、警備業務の請負契約は建設業法の対象外で改正法の規制が及ばない。
ただし、それがしわ寄せとなる事態を防ぐため、警備業を所管する警察庁と連携した実効性確保策を別途講じる方針だ。
 
 

業界再編へ号砲 大型M&A相次ぐ

今年は5月14日にインフロニア・ホールディングスが三井住友建設の買収、8月8日に大成建設が東洋建設の買収をそれぞれ発表した。
いずれも得意分野を補完し合い、人手不足対策や事業領域拡大に向けたシナジー(相乗効果)施策を展開する。
インフロニアHDの三井住友建設に対する株式公開買い付け(TOB)は9月18日に成立し、三井住友建設は同26日にインフロニアHDの連結子会社になった。
インフロニアHDの岐部一誠社長は「エンジニアリング力をより強固にし、さまざまなインフラで(設計から施工管理、運営など事業全般を)ワンストップで手掛ける唯一無二の企業集団に近づける」とコメントした。
三井住友建設はプレストレストコンクリート(PC)橋梁や、独自の工期短縮技術を使った超高層マンションなどで業界トップクラスの技術力がある。
インドやフィリピンなど海外事業の実績も豊富だ。
両社は経営統合を機にコンセッション(公共施設等運営権)などの脱請負を中心に、従来の請負も含めた幅広い領域でエンジニアリング力を生かし、シナジーを創出していく。
買収総額は約940億円。

 
大成建設の東洋建設に対するTOBは9月24日に成立し、東洋建設は同30日に大成建設の連結子会社になった。
相川社長は「ここからが本番。迅速かつ着実にシナジー施策を実行する」とコメントした。
経営統合により従来はすみ分けられてきた陸上・海上の施工領域にとらわれない幅広い分野での協業が可能になる。
土木事業はJV組成による落札率の向上とともに、民間大型案件で陸海共同提案による受注増加を目指す。
建築事業はより大型で高収益な案件、設計・施工一括(DB)案件の受注増加もにらむ。
洋上風力発電事業では両社がそれぞれ開発、実証している浮体式の実用化を推進。
陸上系統工事と洋上風力ケーブル敷設の共同受注も視野に入れる。
買収総額は約1,600億円に上る。
 
建設業界では、多くの関係者が人口減少の影響で国内建設投資の先細りは避けられないとの見方を示す。
地方でも新たなモデルケースが誕生した。
6月にはみずほ銀行と東北6県の地域建設業7社が共同出資会社「東北アライアンス建設」(陰山正弘社長)を設立。
「競争」ではなく「共創」の姿勢を打ち出し、従来のM&Aの枠組みとは一線を画した広域連携に取り組む。
まず民間建築を照準に下請などで受注実績を積み上げ、最終的には各社から社員を出向するなどして新会社単体での受注を目指す。
 
26年以降もM&Aの動きは加速する気配が強そうだ。
 
 

建設投資、政府・民間非住宅で堅調

建設経済研究所と経済調査会が建設投資予測の最新推計を10月10日発表した。
2025年度の投資総額は名目値で4.7%増の76兆6,700億円(7月時点の前回推計は2.5%増)、物価変動の影響を取り除いた実績値で2.1%増(0.7%増)と予測する。
国土強靱化対策の継続・拡大が見込まれる政府分野、旺盛な設備投資意欲に下支えされる民間非住宅分野の堅調さが反映された。
 
改正建築物省エネ法・建築基準法施行前の駆け込み着工の反動で民間住宅分野は25年度に実質値でマイナスとなるが、26年度には持ち直してプラスに転じると見る。
26年度の投資総額は名目値で5.3%増、実質値で3.2%増と予測し、増加基調がさらに強まる見通しを示す。
 
分野別の投資予測は名目値ベースで▽政府建設投資=25年度5.1%増と26年度8.9%増▽民間住宅投資=0.9%増と4.6%増▽民間非住宅建設投資=5.9%増と5.5%増▽民間建築補修投資=7.0%増と1.2%減。
 
政府分野は国・地方自治体ともに予算規模が前年度並みで、26年度以降は第1次国土強靱化実施中期計画で大幅な予算拡大を見込む。
民間住宅分野は着工戸数が減っている割に投資額は維持しており、物価上昇の影響に加え、1戸当たりの高付加価値化や大型化の傾向が見て取れる。
民間非住宅分野は米国の関税を巡る先行き不透明感がやや払拭され、堅調な設備投資意欲の反映が期待される。
 
 
 

株式会社 日刊建設工業新聞社 編集局編集部
片山 洋志

 
 
【出典】


 積算資料2025年12月号
積算資料12月号

最終更新日:2026-03-02

 

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