- 2025-01-14
- 積算資料
1.はじめに
荒川は、埼玉県秩父山地の甲武信ヶ岳(標高2,475m)を源流とし、東京湾までを流れる幹川流路延長173km、流域面積2,940k㎡の一級河川です。
源流から秩父盆地を北へ流れ、長瀞渓谷を通った後、埼玉県大里郡寄居町で南東に流れる向きを変え関東平野に入ります。
途中、都幾川や越辺川、高麗川、入間川など多くの支川と合流しながら埼玉県中央部の平野を流下し、東京都区部と埼玉県の低地を流れ、東京都北区志茂で隅田川を分け出し、東京湾に注ぎます。
中流部は日本一の川幅を有し、下流部は人工の放水路(荒川放水路)であることが大きな特徴です。
流域は、東京都と埼玉県にまたがり、流域内の人口は、約1,020万人で、その多くは、沖積低地、台地、丘陵に集中しています。
下流部は、人口や資産が極度に集中していることから、日本の政治・経済の中枢を支える重要な河川となっています。
2.明治43年の洪水から荒川放水路の建設まで
かつての荒川は、その名のとおり「荒ぶる川」として、江戸時代から明治時代にかけて沿川で洪水被害が頻発していました。
特に大きな被害をもたらした1910(明治43)年の洪水では、死者・行方不明者399人、浸水及び全半壊・流出戸数約28万戸の甚大な被害をもたらしました。
この大洪水を契機に、明治政府が東京都北区岩淵の下流から中川の河口方面に向けて、全長約22km、幅約500mの荒川放水路を建設することとなりました。
全長22kmにもわたる放水路は、必要とされる用地も広大であり、移転を余儀なくされた住民は約1,300世帯、民家や田畑をはじめ、鉄道や寺社も含まれた大規模なものでした。
工事は地面が平らでない箇所については人手による人力掘削が主流で、その後、蒸気掘削機による機械掘削や、機械掘削で取り除けない低水地は、浚渫船による掘削が行われました。
工事中には何度も台風や高潮により、工事用の機材や船舶が流出することもありました。
さらに関東大震災では工事中の堤防に亀裂が入り、完成したばかりの橋が破損するなど大きな被害を受けました。
この大規模な工事を乗り越え、1924(大正13)年に通水し、1930(昭和5)年に荒川放水路として完成しました。
3.荒川放水路通水100周年
荒川放水路は、2024(令和6)年10月12日に通水から100周年を迎えます。
これまで一度も決壊することなく水害から人々の命と暮らしを守り、大都市に残る貴重なオープンスペースとして、多くの人々の憩いと安らぎの場として、動植物の生息・生育・繁殖の場として、地域の発展を支え続けてきました。
通水100周年を機に、地域住民をはじめとする多様な主体が、荒川流域の未来像を考え、流域治水の重要性を広く啓発するとともに、河川と共に育んできた文化について考えるため「荒川放水路通水100周年記念事業」を実施しています。
具体的には、荒川下流部沿川の2市7区(埼玉県 戸田市、川口市、東京都 板橋区、北区、足立区、葛飾区、墨田区、江戸川区、江東区)の首長及び東京都、埼玉県、荒川下流河川事務所長で構成された「荒川放水路通水100周年記念事業実行委員会」を立ち上げ、ロゴマークやキャッチコピーを作成し、行政機関や市民団体等と連携した100周年記念事業・広報イベントを実施しています。
通水100周年の約100日前となる7月7日(日)には、(江戸川区・江東区)の河川敷において、水辺で乾杯や音楽ライブ、スカイランタンを夜空に浮かべ、イベントを盛り上げました。
また、2024(令和6)年8月15日に旧岩淵水門(通称「赤水門」)が、国の重要文化財に指定されることとなり、通水100周年に花を添えました。

【荒川放水路通水100 周年記念事業実行委員会
後列左から、埼玉県県土整備部長、川口市副市長、北区長、事務所長、墨田区長、東京都河川部長
前列左から、戸田市長、板橋区長、足立区長、葛飾区長、江戸川区長、江東区長】
4.最近の取り組み~デジタル技術等を活用した河川管理高度化への挑戦~
荒川下流河川事務所では、建設生産プロセスの変革による生産性向上を図り、魅力ある建設現場を目指すため、インフラ分野におけるデジタルデータと情報技術を活用したDX(デジタル・トランスフォーメーション)を推進しています。
2023(令和5)年度より業務を始動した全国初の河川系DX出張所の小名木川出張所において、河川管理業務の高度化及び河川利用者の利便性向上等を目的にDX関連施設を整備、情報通信技術を活用した行政サービスの高度化やあらゆる関係者の働き方改革に挑戦し、インフラ分野のDXの取組を積極的に推進しています。
例えば、河川点検時に、リアルタイム映像伝送装置であるウエアラブルカメラを導入し、ウエアラブルカメラで撮影したリアルタイムの現地映像を関係者がクラウド上で共有することで、異常箇所の確認、診断、措置等、対応の迅速化(その場で判断)を図りました。
従来、現場状況や点検の進捗状況は電話で把握し、出張所に報告していましたが、これにより、点検員・職員の対応時間が削減され、負担の軽減と働き方改革につながっています。
これらの取り組みは、河川管理の現場における工夫が評価され、「第7回インフラメンテナンス大賞」では河川・ダム・砂防・海岸の分野で優秀賞を受賞しました。
また、当事務所ホームページ上にチャットボットを導入したことで、利用者が24時間「いつでも」「どこでも」問い合わせ可能となり、行政サービスの向上と職員の問い合わせ対応への業務負担軽減に取り組んでいます。
チャットボットの導入後は、災害時の膨大な問い合わせにも職員の対応なく即時回答することができるようになり、平時の平均稼働数は200~300回程度ですが、2023(令和5)年台風第2号の出水時には約9万回稼働し、水位情報やライブカメラ映像など地域住民等への情報提供に寄与しています。
さらに、質問に対して即時回答することができるため、利用者が欲しい情報をすぐに手に入れることができ、行政サービスの向上・窓口業務の改善に寄与しています。
5.おわりに
荒川放水路周辺は自然が豊かで、そこに定着した生物がいたり、河川空間を利用したりと日常的にさまざまな恩恵を受けていますが、人工の放水路だと知らない人も多いと思われます。
通水100周年の節目をきっかけに水害と闘い苦労した過去を振り返り、災害をわがこと化して意識し、いざという時のために自分で行動できるよう備えてもらう機会とするとともに、荒川放水路通水100周年記念事業実行委員会において発表した「荒川放水路通水100周年行動宣言」にあるように、“流域治水”の取組、高台まちづくり、魅力ある水辺整備の推進のほか、河川管理高度化への挑戦、防災・避難行動等の実現に向けた取組や流域が一体となった地域づくりなど、これからも安心して暮らしていける強靱で持続可能な地域としてより良い形で将来に引き継いでいくことを目指して取組を進めてまいります。
【出典】
積算資料2024年10月号
最終更新日:2025-01-14
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