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歩行者利便増進道路(ほこみち)の今後の方向性

はじめに

人口減少・少子高齢化の進展や、ライフスタイルの変化、脱炭素や健康志向の高まりなどを背景として、道路空間に求められる役割は大きく変わりつつある。
かつては自動車交通の円滑化が主目的であった道路も、いまや「居心地が良く歩きたくなるまちなか」の形成や、地域の賑わい・交流、防災・環境といった多様な価値を担う公共空間として再定義されている。
 
こうした変化を踏まえ、国土交通省では令和2年の道路法改正により「歩行者利便増進道路(ほこみち)」制度を創設するとともに、「多様なニーズに応える道路ガイドライン」や事例集の策定を通じて、道路空間の再編と利活用を後押ししてきた。
 
本稿では、制度創設の背景と趣旨、これまでの展開、現時点で見えてきた課題を整理した上で、今後の方向性について概説する。
 
 

1. 制度創設の背景

(1) 道路空間を取り巻く社会情勢の変化

高度経済成長期には、モータリゼーションへの対応として道路ネットワークの整備と自動車交通の処理能力の向上が政策の中心となっていた。
しかし、人口・経済成長が横ばいとなり、人口減少・超高齢社会を迎えた今日、都市構造は「自動車中心」から「公共交通・歩行者中心」へと転換が求められている。
 
また、中心市街地の活性化や観光地の賑わい創出への対応として、道路空間を活用したイベントやオープンカフェ等の取組が全国で広がってきた。
加えて、電動キックボードや自動配送ロボットなど新たなモビリティの登場も、道路空間の「通行」機能の在り方を問い直している。
 
こうした多様なニーズに対応するため、令和4年3月に「多様なニーズに応える道路ガイドライン」が策定され、道路の機能分担や道路空間の再配分、時間帯別の使い分けなどの考え方が整理された。
同ガイドラインでは、歩行者優先空間、歩車共存空間、公共交通空間等のデザインパターンを示し、その中核的な施策の一つとして「ほこみち」を位置付けている(図-1)。

図-1 道路局が目指すみちづくり
図-1 道路局が目指すみちづくり

 

(2)「線」から「面」へ

道路・広場・公園・民有地を一体的に活用し、歩いて楽しいまちなかを形成する「まちなかウォーカブル推進事業」が展開されている。
「ほこみち」が道路上の「線的な空間」に焦点を当てるのに対し、ウォーカブルは街区全体の「面的な空間」を対象とし、官民連携によるまちづくりを進めるものである(図-2、3)。
 
今後は、道路の利便性向上の取組を地方創生につなげる観点から、「線の整備から面の整備へ」という方向性の下、両制度の連携を図っていくことが重要となる。

図-2 歩行者利便増進道路(ほこみち)のイメージ
図-2 歩行者利便増進道路(ほこみち)のイメージ
図-3 まちなかウォーカブル区域のイメージ
図-3 まちなかウォーカブル区域のイメージ

 
 

2. 歩行者利便増進道路(ほこみち)制度の概要

(1) 制度の位置付け

ほこみちは、道路法に基づき、歩行者の利便増進や滞在・交流の促進に資する道路として指定されるものである。
歩道部や歩道と一体となる路肩部等を対象として、ベンチやテーブル、植栽、オープンカフェ、キッチンカーなどの利便増進施設の設置や、マルシェ等のイベント開催を可能とする制度である(図-4、写真-1)。

図-4 歩行者利便増進道路(ほこみち)の道路断面
図-4 歩行者利便増進道路(ほこみち)の道路断面
写真-1 東京都港区/新虎通りのほこみちの事例
写真-1 東京都港区/新虎通りのほこみちの事例

 
指定にあたっては、当該道路が歩行者の利便増進に寄与すること、沿道の土地利用や交通状況等から見て適切であることなどを総合的に判断する。
指定後は、利便増進誘導区域の設定や、占用許可の特例を活用することで、日常的な利活用を後押しする。
 

(2) 関連ガイドラインとの関係

「多様なニーズに応える道路ガイドライン」本編では、ほこみち等の概要や活用のポイント、道路管理者・警察との調整の考え方を整理している。
さらに、令和7年9月には「歩道と路肩等の柔軟な利活用に関するガイドライン」および別冊・事例集を策定し、パークレットや時間帯別の使い分け、ほこみち制度を活用した歩道と路肩部分の一体的な利活用など、より実務的なノウハウを取りまとめた。
これにより、社会実験段階から恒常的な運用へ移行する際の検討プロセスや、バリアフリー・維持管理・効果計測といった論点についても整理が進んでいる。
 
 

3. これまでの取組と指定状況

(1) 普及啓発の展開

制度創設以降、「ほこみちホームページ」(ほこみちプロジェクト)による情報発信や、産官学の関係者を対象とした「ほこみちフォーラム」の開催、ガイドライン・事例集の公表などを通じて、全国の地方公共団体や民間事業者に対する普及啓発が行われてきた。
令和3年度以降、フォーラムには延べ2,000人を超える参加があり、各地の先進的な取組や課題が共有されている。
 

(2) 指定路線の広がり

令和7年3月末時点で、全国64市区町で171路線のほこみちが指定されている。
北海道から九州まで幅広い地域に広がっており、政令市・中核市等の大都市圏だけでなく、観光地や地方都市の中心市街地など、多様な地域で活用が進みつつある(図-5)。

図-5 ほこみちの指定状況(令和7年3月31日)
図-5 ほこみちの指定状況(令和7年3月31日)

 
一方で、人口10万人以上の都市が指定路線の9割以上を占めるなど、都市規模による偏りも見られる。
小規模な地方公共団体では、制度の認知や体制面・財政面の制約から、具体的な検討に着手できていないケースも少なくない。
 

(3) 道路空間再編やウォーカブルとの連携事例

「多様なニーズに応える道路の事例集」では、札幌市「さっぽろシャワー通り」や神戸市「三宮中央通り」、姫路市「大手前通り」など、歩行者空間の拡充や車線減少により、賑わい創出と交通機能の両立を図った事例が紹介されている。
 
ほこみちのとりくみ事例集では、全国のほこみちの取組を紹介しており、例えば、仙台市・定禅寺通のマルシェやオープンテラス、福井市・中央大通りにおけるベンチ・キッチンカーの活用、狛江市での子育て世帯や高齢者の憩いの場づくりなど、地域の実情に応じた多様な利活用が整理されている。
これらの多くは、まちなかウォーカブル推進事業と併せて進められており、道路空間と周辺公共空間を一体的に活用する動きが広がっている。
 
 

4. 現状の課題

制度創設から5年以上が経過し、ほこみちの「量的な広がり」は着実に進んだ一方で、運用 段階における課題も顕在化している。
 
ここでは令和6年に行ったアンケート結果から見えた課題について示す。
 

(1) 活動の定着・継続

アンケート結果によれば、占用まで移行している路線は約6割であるものの、そのうち日常的な活動が行われているのは約6割にとどまり、全体としては「日常的に活動が定着しているほこみち」は3割程度である(図-6)。

図-6 ほこみちの活動状況,占用の頻度
図-6 ほこみちの活動状況,占用の頻度

 
社会実験やイベントとしては成功しても、維持管理費の確保や担い手の継続的な関与といった点で課題を抱え、活動頻度が低下してしまう例も見られる。
 

(2) 手続き・体制・財源

プロジェクト実施時の障壁として、各主体の役割分担が不明確であること、占用許可等の手続きが煩雑であること、維持管理・運営のための資金が不足していること、といった項目が回答団体の半数以上を占めている。
 
特に、大都市圏では「手続きの煩雑さ」が、地方都市では「財源確保」がより大きな課題として挙げられており、地域特性に応じた支援策が求められる。
 

(3) 制度・予算の重複と連携

ほこみちとまちなかウォーカブル推進事業の区域は約4割が重複しており、両制度の趣旨や対象は大きく重なっている。
その一方で、予算支援の面ではまちなかウォーカブル推進事業のメニューが充実しているなど、制度ごとの運用に差異がある。
 
現場レベルでは、「どの制度を使えばよいのか」、「支援をどのように組み合わせればよいのか」 といった戸惑いが生じる場面もあり、制度・予算の連携強化が重要な課題となっている。
 
 

5. 今後の方向性

こうした課題を踏まえ、ほこみちを新たなステージへと進めていくため、次の3つの方向性を重視している。
 

(1) ウォーカブルとの連携

まず、まちなかウォーカブル推進事業との制度面・予算面の連携を図る。
具体的には、交付金等による支援メニューの連携・整理などにより、現場の実務者が「線(ほこみち)」と「面(ウォーカブル)」を組み合わせて使いやすい環境を整えていく。
 

(2) 普及啓発から現場実践へ

次に、これまでの普及啓発段階から今後は現場での実践を後押しする。
 
「歩道と路肩等の柔軟な利活用に関するガイドライン」では、計画検討から利活用方法の検討、コンセンサス形成、効果計測に至るまでの一連のプロセスを整理するとともに、パークレットや時間帯別の使い分け、バリアフリー対応などの設計ポイントを示した(図-7、写真-2)。

図-7 パークレットの空間構成イメージ
図-7 パークレットの空間構成イメージ
写真-2 神戸市のパークレットの例
写真-2 神戸市のパークレットの例

 
今後は、これらのガイドライン・事例集を活用した取組を継続的に支援していく。
 

(3) 新たな分野との融合と地方創生への貢献

3つ目は、ほこみちを通じて、社会課題の解決と地方創生に貢献していくことである。
既に各地では、キッチンカーやマルシェによる賑わい創出と、災害時の食支援機能の両立、子育て世帯や高齢者のためのベンチ・テラスの設置、緑化やシェアサイクル等を通じた脱炭素・健康づくりなど、ほこみちを起点とした多様な取組が始まっている。
 
これらを単発の事業にとどめず、地域ビジ ョンや都市計画と結び付けていくことで、ほこみちが「道路事業」であると同時に、「まちづくり・地方創生のプラットフォーム」として機能することを目指していく。
 
 

おわりに

ほこみち制度は、道路法改正を通じて「道路空間を人中心へと転換する」ことを正面から掲げた、我が国における新しい試みである。
制度創設から5年以上が経過し、全国各地で多様な事例が生まれ、道路空間再編の機運は着実に高まりつつある一方で、活動の定着や財源確保、制度間の連携など、解決すべき課題も少なくない。
 
しかし、人口減少・高齢化、災害リスクの増大、脱炭素といった大きな潮流の中で、道路空間の再編と利活用は、今後ますます重要性を増していくと考えられる。
 
関係部局や地方公共団体、民間事業者、地域住民の皆さまと連携しながら、「線」としてのほこみちと、「面」としてのウォーカブルを組み合わせつつ、人々が安心して歩き、滞在し、交流できる魅力的な道路空間の実現に向けて、引き続き取組を進めていきたい。
 
 
 

国土交通省 道路局 環境安全・防災課
山本 健司

 
 
 
【出典】


積算資料公表価格版2026年4月号


積算資料公表価格版2026年4月号

最終更新日:2026-03-19

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