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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 道路の安全・安心 > 生活道路対策の現在とこれから

はじめに─道路交通の現在

生活道路の交通安全や歩行空間整備に関する最近の状況について、昨年の本誌で紹介した(2022年4月号)。
今回、改めて機会を得たため、その後の進展や最新事例などをご紹介することとしたい。
 
表-1は、昨年紹介した最近の動きの、さらにその後を追加したものである。
 
表-1 道路空間と人・モビリティを巡る直近の主な動き

表-1 道路空間と人・モビリティを巡る直近の主な動き

 
まず、ユニバーサルデザインを目指した道路空間の有り方を示した目安である「道路の移動等円滑化に関するガイドライン」が策定された。
2020年に始まったほこみちを前提として、ほこみちが歩行空間の新たなバリアにならないように配慮することも盛込んだ内容となっている。
 
しかしながら、その直後の2022年4月に、視覚に障害のある方が踏切内で列車に接触して亡くなるという痛ましい事故が発生したことを受け、踏切内のバリアフリーについての言及を加えた改訂版が同年6月に発行されるに至った。
 
なお、この問題は、議論をすればするほど奥深い論点を含むことから、国土交通省道路局が設置した「道路空間のユニバーサルデザインを考える懇談会」において、さらなる検討が進められている。
 
同時期に議論が進められてきた「多様なニーズに応える道路ガイドライン」も、2022年3月に国土交通省道路局から発出された。
内容は、国土交通省のホームページからお読みいただければと思うが、ここでは、そこで紹介されている一つの事例を紹介することにしよう。
 
写真-1は、札幌の繁華街にあるシャワー通りを午前中に撮影した写真である。
写真の右から、歩道、荷捌きスペース、車道となっている。
一方、写真-2は、同じ道路を夕方撮影したものであるが、真ん中のスペースが、荷捌きスペースではなく歩道になっている。
すなわち、同じ空間を、歩行者の多い時間帯は歩道として、荷捌きの必要な時間帯は荷捌きスペースとして使い分けているのである。
このような道路の使い方はデュアルユースと呼ばれるが、道路の狭いわが国での賢い道路空間の使い方として期待が高まっている。
 

写真-1 札幌シャワー通り(午前中)
写真-1 札幌シャワー通り(午前中)
写真-2 札幌シャワー通り(夕方)
写真-2 札幌シャワー通り(夕方)

 
再び表-1に戻ると、2022年4月に改正された道路交通法にも大きな注目が集まっている。
 
とりわけ、電動キックボードをはじめとするいわゆるマイクロモビリティの扱いが大きく変更されたことにより、今後の車道や歩道の使われ方がどのように変化するのか、注意深く見守る必要がある。
 
ゾーン30プラスの導入も始まっている。
2020年8月に警察庁と国土交通省の連携によって始まったこの施策は、生活道路対策の切り札というべき施策である。
 
ここに至る経緯を、ここで簡単に振り返っておこう(図-1)。
なぜこの施策が生活道路対策の切り札と言われるのかを理解して頂くためである。
 

図-1 ゾーン30プラスに至る経緯
図-1 ゾーン30プラスに至る経緯

 
効果的な生活道路対策を確立したのは、欧州が最も早く、1980年代に遡る。
この頃、Zone30と呼ばれる対策が始まったのである。
この対策は、市街地の、幹線道路で囲まれた一定のゾーンを対象として面的な時速30km/h規制をかけるとともに、ハンプをはじめとする物理的デバイスをゾーン内に配置するというものであり、実質的かつ継続的な速度抑制に成功した。
欧州の多くの国では、市街地の多くがすでにZone30として整備されており、市街地の歩行者の事故が日本より大幅に少なくなっている国が多い。
わが国においても、Zone30とほぼ同じ整備内容を持つコミュニティ・ゾーンが1996年に導入された。
しかしながら、ハンプ等の設置基準が示されなかったことなどから本格的な普及には至らなかった。
その後、速度30km/h区域規制を主な内容とするゾーン30が2011年に始まり、全国的に普及していることは誰もが知る通りである。
 
ただ、規制をかけるだけでは、どうしても速度超過の危険運転を完全には防ぐことができないという認識が高まり、ハンプ等の物理的デバイスを併せて導入するゾーン30プラスの創設(2021年)に至ったわけである。
ハンプ等に関する国の技術基準が2016年に制定された意義も非常に大きく、各自治体が安心して物理的デバイスの設置を進める土台となっている。
さらに、交通規制と連動して地面から上下するライジングボラード(写真-3)のような新しいデバイスも登場し、施策の選択肢が広がった。
 
制度やデバイスが出揃い、ゾーン30プラスがスタートした今、われわれは、生活道路での事故根絶に向け、最大限の力を発揮する必要がある。
 

写真-3 ライジングボラード1
写真-3 ライジングボラード2

写真-3 ライジングボラード
新潟市日和山小学校前。
3本のボラードのうち、中央の1本が、通学時間帯に自動的に上昇し、終了後下降する。
 
 

1.最近の取組み事例

ここから、各地で取り組まれている最新の事例について紹介する。
 

1-1朝霞市東弁財地区

埼玉県朝霞市東弁財地区では、面的な交通安全対策が実施され、2021年に7カ所の地点でハンプが設置された。
設置場所の決定に当たっては、朝霞市主催のワークショップが開催され、ETC2.0による自動車の走行情報や住民の危険地点の指摘から検討が行われ、設置場所に合わせて、横断歩道とハンプを組み合わせたスムーズ横断歩道(写真-4、5)、交差点全体を盛り上げる交差点ハンプ(写真-6)が設置された。
事前事後調査からは、30km/hの規制を守らない自動車が問題となっていた設置箇所では速度抑制がはたらくとともに、小学校前の無信号横断歩道では、スムーズ横断歩道の設置により、自動車の歩行者に対する譲り行動が増加していることが分かっている。
 
駅前ロータリーや大通りから生活道路に接続する交差点では、生活道路への敷居の効果を期待して設置が行われており、自動車の速度が問題となっていた場所ではないものの、アンケート調査では7割以上の回答者が設置に肯定的な回答をしており、自動車への注意喚起や歩行者の安心感の向上に貢献していると考えられる。
同調査では、ハンプが設置されていない道路も含めた地区全体の安全性向上についても過半数の回答者が肯定的な回答をしており、面的な交通安全対策によりハンプ設置箇所以外でも自動車の安全走行に良い影響を与えている可能性がみられる。
 

写真-4 朝霞市立第五小学校前に設置されたスムーズ横断歩道
写真-4 朝霞市立第五小学校前に設置されたスムーズ横断歩道
写真-5 朝霞台駅前に設置されたスムーズ横断歩道
写真-5 朝霞台駅前に設置されたスムーズ横断歩道
写真-6 朝霞市で設置された交差点ハンプ
写真-6 朝霞市で設置された交差点ハンプ

 

1-2静岡市入江地区

静岡市清水区の入江地区は国道1号などの幹線道路に囲まれた住宅地であり、生活道路としては比較的幅員が大きく歩道のない道路を抜け道として利用する自動車の存在と速度の高さが問題となっていた。
地域で交通安全対策を検討するため、入江地区生活道路安全対策協議会が組織され、データによる交通状況の把握や、協議会参加者および地域でのアンケート調査による危険箇所の指摘等を踏まえて、物理的デバイスの設置を含む対策が行われることとなった。
社会実験による効果検証を経て、まず1カ所の交差点ハンプが本格設置され、その後段階的に交差点ハンプの設置箇所を増やすとともに、対策実施エリアを近隣に拡大している。
物理的デバイスの設置には地域との合意形成が必要であるが、まず1カ所の本格設置を行うことで、周辺に住む人々がハンプを間近に見て効果を感じることができ、その後の他の整備に向けた調整が円滑に進んだと考えられる事例である。
 

写真-7 静岡市清水区入江地区に設置されたハンプ
写真-7 静岡市清水区入江地区に設置されたハンプ
写真-8 静岡市清水区入江地区の交差点ハンプとスムーズ横断歩道を兼ねた交差点
写真-8 静岡市清水区入江地区の交差点ハンプと
スムーズ横断歩道を兼ねた交差点

 

1-3山梨県身延町久遠寺三門

山梨県身延町にある久遠寺三門周辺は、門前町である商店街から久遠寺やロープウェイ駅へ向かう参拝・観光のメインルートにあり、見学や記念写真を撮る人々で賑わう場所である。
周辺には歩道がなく狭い道路を歩行者と自動車が行き交う状況もあり、来訪者が安全に散策するための取組みの一部として、2021年に久遠寺三門前の横断歩道をスムーズ横断歩道にする社会実験が実施された(写真-9)。
 
社会実験中の事前事後の調査からは、スムーズ横断歩道設置後には自動車の走行速度が低下している結果が見られている。
また、この場所では観光客が思い思いに見学する中で横断歩道以外を渡ってしまうことも交通安全上問題視されていたが、スムーズ横断歩道の設置後には、横断歩道以外を渡る歩行者の割合が小さくなっている様子も見られ、横断場所の整序化の効果が見られた。
 
社会実験による効果検証を経て、スムーズ横断歩道は本格設置に至っている。
社会実験時にはハンプの傾斜部の色はオレンジ色であったが、本格設置時には周辺の歴史的景観に合わせた色調に変更されている(写真-10)。
 

写真-9 社会実験時の久遠寺三門前のスムーズ横断歩道
写真-9 社会実験時の久遠寺三門前のスムーズ横断歩道
写真-10 三門周辺の景観に合わせた色調で本格設置されたスムーズ横断歩道(写真提供:山梨県)
写真-10 三門周辺の景観に合わせた色調で本格設置された
スムーズ横断歩道(写真提供:山梨県)

 

1-4横浜市中山町

横浜市緑区の中山町地区では、ゾーン30に指定された後も通学路を高速で走行する車両が存在するなど、交通安全上の問題を抱えていた。
そこで、2018年に中山町地区交通安全対策協議会が設置され、地元の代表者や学校関係者、横浜市、警察および国土交通省などによる議論が始められた。
 
その結果、最も速度が高く問題のある道路を対象に、スムーズ横断歩道1カ所、ハンプ1カ所、および狭さく2カ所を連続的に設置する社会実験を行ったところ、車両の速度が大幅に低下した(写真-11、12)。
 
実験の結果を受け、1カ所の狭さくをハンプ併用型にするなどの変更を行ったうえで、本格設置に移行した。
結果として、4連続ハンプ(うち2カ所はスムーズ横断歩道)という稀有な道路が実現した。
その後、この地区はゾーン30プラスに登録されている。
 

写真-11 横浜市中山町 社会実験前
写真-11 横浜市中山町 社会実験前
横断歩道を渡ろうとする歩行者がいても,
ほとんどの車が停車しない状況であった。
写真-12 横浜市中山町 スムーズ横断歩道実験中
写真-12 横浜市中山町 スムーズ横断歩道実験中
多くの車が歩行者に譲るようになった。

 

2.さまざまなデバイス

先述のように、2016年に物理的デバイスの技術基準ができたが、対象は、ハンプ(凸部)、狭さく(狭窄部)、シケイン(屈曲部)の3つである。
その他では、ライジングボラードもゾーン30プラスの施策メニューとなっている。
 
ただ、世界的にみると、他にも効果的な施策が存在し、日本でも一部で取り入れられた歴史もある。
生活道路をさらに安全なものとするためには、そうした取組みにも改めて光を当てる必要があるかもしれない。
以下では、そのうちの2つを取り上げることにする。
 

2-1(斜め)遮断

道路を遮断してしまい、車両(特に4輪車)の流れを完全にコントロールする手法が存在する。
ライジングボラードは時間規制と連動することが多いが、遮断の場合は、常時の対策となる(緊急車両の通行は可能にすることが多い)。
 
写真-13、14は、昭和50年代に都市計画決定され、居住環境整備として実現した尼崎市南塚口地区の斜め遮断である。
格子状道路網の中の隣り合う交差点を逆向きに斜め遮断することにより、車両にとってはU字型の一方通行道路となり、通過は一切できなくなる。
歩行者や自転車は通り抜け可能である。
 
その後、ニュータウンでも導入の例が見られたものの(写真-15)、最近ではほぼ見られなくなっている。
 

写真-13 居住環境整備事業:尼崎市南塚口地区(図面提供:尼崎市)
写真-13 居住環境整備事業:尼崎市南塚口地区
(図面提供:尼崎市)
写真-14 尼崎市南塚口地区の斜め遮断
写真-14 尼崎市南塚口地区の斜め遮断
写真-15 宇都宮市戸祭ニュータウンの斜め遮断
写真-15 宇都宮市戸祭ニュータウンの斜め遮断

 

2-2ボンエルフ

ボンエルフも欧州では長い歴史と実績を有する施策である。
歩車道の区分を敢えてなくして道路空間全体を歩行者優先とし、道路上での歩行者の圧倒的優位性を法的に保証するものである。
道路上で遊ぶことさえ認められている。
1970年代のオランダで、道路法と道路交通法を改正して導入されたものである(写真-16)。
歩行者の安全性をどのように担保するかなどの課題はあるものの、「人中心」の道路の実現に向けての論点の一つであることは間違いないであろう。
 

写真-16 オランダのボンエルフ
写真-16 オランダのボンエルフ

 

おわりに

ゾーン30プラスの実現により、わが国の生活道路対策は明らかに新しい段階に踏み込んだ。
今後は、その流れを着実に確かなものにするとともに、従来にはない発想も取りこんで、真に豊かな生活道路を実現していくことを強く期待するものである。
 
 
 

埼玉大学大学院理工学研究科教授
久保田 尚
准教授
小嶋 文 

 
 
【出典】


積算資料公表価格版2023年4月号

公表価格版4月号

最終更新日:2023-06-23

 

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