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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 雪寒対策資機材 > AI技術を活用した次世代の雪氷体制判断システムの開発

1.はじめに

NEXCO中日本では図-1のような流れで雪氷体制を構築している1)
雪氷体制構築にあたり、作業計画を立てるには、作業員のリソースや雪氷設備の配備状況、地形や気象条件等多岐にわたる知識をもとに、適切な人員配置と作業量を想定した体制判断が求められる。
気象状況、気象予測によって、その判断を迅速に行い、必要な準備を開始しなければならないことから、個人の経験・技能差による影響が大きくなる可能性がある。
そこでNEXCO中日本では作業計画を立てるための体制判断ツールとしてAIシステムによる雪氷体制判断システムの開発を行っている。
 

図-1 雪氷体制構築のフロー図
図-1 雪氷体制構築のフロー図

 
 

2.雪氷体制判断システム

2.1雪氷体制

このAIシステムの開発にあたり、雪氷体制の判断は、NEXCO中日本金沢支社の敦賀保全・サービスセンターの雪氷対策要領をベースにシステム開発を進めた。
体制の判断には、気温や降雪量、路面状況等が判断材料となり、それらの情報から体制及び人員・車両配置が決定する。
体制には「平常」、「警戒(監視)」、「警戒(準備)」、「警戒(散布)」、「警戒(除雪)/緊急」の5パターンある。
 

2.2概要

このシステムは、予報業務許可事業者から得られる気象予測データや、NEXCO中日本管内を巡回する車両に取り付けた、路面を測定できるセンサから得たデータ(以後、このデータを「Vaisalaデータ」と記載)をAIシステムに学習させ、過去の気象条件や路面状況を検索し、今後の天候に合わせた雪氷体制を提案するシステムである。
 
このシステムによって、これまで体制構築に必要であった知識や経験が豊富でなくても雪氷作業指示の支援を行うことができる。
また、様々な情報が整理されて提案されるため、作業準備の効率化や現場で作業される方の休息時間の確保といった、現場行程管理においても効果が期待できると考えられる。
 

2.3システム評価・検証

本システムを運用するにあたり、実際の精度がどれほどかを評価・検証した。
使用したデータは2020年から2022年の冬季の気象予報データとVaisalaデータ、両年度の実際に体制を組んだ際の雪氷体制実績データの3つである。
また、これらのデータは、NEXCO中日本金沢支社の敦賀保全・サービスセンター管内のものを使用した。
評価方法として、学習したAIシステムに各年のデータを入力し、出力された結果が実際の体制実績とどれほど一致したかを検証した。
まずはじめに、Vaisalaデータの利用が一致率に与える影響を評価した。
図-2は2020年から2022年のデータで学習・評価された際の予測の一致率である。
 
この結果を見ると、気象予測データのみの一致率は80.134%であるのに対し、直近のVaisalaデータを利用することにより、+10%向上することも確認できた。
 
また、最も高い一致率が「気象予測データ+直近30分以内のVaisalaデータ」で90.406%となった。
次いで「気象予測データ+直近1時間以内のVaisalaデータ」で85.305%となっているため、直近であればあるほど一致率も高くなることがわかった。
こういった直近のVaisalaデータの活用することにより、AIシステムが予測した結果と体制実績の一致率は90%を超える結果となった。
しかしながらAIシステムの一部の予測は体制実績が異なり、これが一致率の下がる原因となった。
 

図-2 Vaisalaデータの有無による予測一致率

 

2.4課題

AIシステムの予測と体制実績が不一致となった結果について解析したところ、いくつかの原因が判明した。
 
その1つが学習データの不足である。
2020年から2022年のデータを学習させたが、それらのデータには「警戒(監視)」や「警戒(準備)」の体制実績及びAIが予測するための学習データ数が少ないことがわかった。
そのため、学習時にAIシステムが対象体制の適宜状況の特徴を抽出できなかったため、推論時に他の似ている結果と取り違えた可能性がある。
図-3は天候が雨の場合の体制頻度を表した図である。
この時の体制実績は「警戒(監視)」であったが、学習データには、天候が雨の時の「警戒(監視)」データが無かったため、「平常」と誤判定した。
 
2つ目の原因として、AIシステムが誤った結果を出力したことがあげられる。
表-1は不一致だった結果の入力データである。
変数とは体制決定に重要と判断された気象予測データとVaisalaデータの項目で、値はその項目の評価値である。
重要度とは重要と判断された項目の中から重み付けした結果である。
この結果からAIシステムは「警戒(散布)」と予測したが、実際の体制は「平常」であった。
全体でみると最低気温値が-1.3であり氷点下を下回っているものの、路面状態が乾燥であるため凍結の恐れもないため平常と判断されるべきである。
しかしながら、重要度では最低気温が36.2%で、路面状態が4.9%となっており、路面状態の項目が判定に影響が少ないと判断され、反対に重要度の高い最低気温の値から「警戒(散布)」の体制が出力されたと考えられる。
 

図-3 不一致結果(学習データ不足)
図-3 不一致結果(学習データ不足)
表-1 不一致結果(AIの間違い)
表-1 不一致結果(AIの間違い)

 
 

3.対策と今後の展望

AIシステムの評価を行った結果、90%を超える一致率が得られた。
高い精度を得た一方で学習データの不足による不一致やAIシステムの誤った判別も見受けられた。
今回は敦賀保全・サービスセンターの1事務所だけで評価・検証を行ったため、学習データの不足といった問題が発生した。
今後は、NEXCO中日本金沢支社の他事務所(富山高速道路事務所・金沢保全・サービスセンター・福井保全・サービスセンター)にも展開し、学習データを増やしていく。
また、AIシステムから得られた予測を解析し、チューニング(プログラムの修正や改良)や再学習を行い精度向上につなげていく。
 
そうすることで雪氷体制構築にかかる負担を軽減し、業務の効率化となり、それが高速道路の安全・安心・快適性の向上につながるといえる。
 
 
参考文献
1)NEXCO中日本、安全性向上3カ年計画の取組み状況、「VOL.05冬季の安全な通行を確保する雪氷対策。」
https://www.c-nexco.co.jp/corporate/safety/torikumi/torikumi/vol05/
 
 
 

中日本ハイウェイ・エンジニアリング名古屋株式会社技術開発部施設技術開発課
永井 崇文

 
 
【出典】


積算資料公表価格版2023年7月号

積算資料公表価格版2023年7月号

最終更新日:2023-06-23

 

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