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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 雪寒対策資機材 > 5G環境による除雪車遠隔操作および除雪支援システムの有用性の検討

1.はじめに

本村は県西部に位置し、村の総面積の9割以上を森林が占め、水稲や花きなどの農業を基幹産業とする、人口1,200人ほどの中山間地域の農村である。
 
少子高齢化、過疎化が著しい本村では高齢化率が55%を超え、人口の半数以上が65歳以上となり、地域社会の担い手確保が急務であることから、新規就農者や移住者の受け入れを推進し、諸産業の後継者育成と人口減少対策に取り組んでいる。
 
このような中で、主要産業である農業では高品質な「かすみ草」の一大産地として夏秋期の生産量日本一を誇り、出荷数約350万本、販売額は6億円を越えるなど、主要産地として全国各地の市場の評価を得ている。
 
また、越後上布などの生地原料となる「からむし(苧麻)」の生産地として広く知られるようになり、古来より受け継がれてきた生産加工技術は国選定保存技術に指定されるなど伝統文化の息づく村でもある(図-1、写真-1)。
 

図-1 福島県西部の奥会津に位置
写真-1 村を貫く国道400号と山塊に囲まれた村落を望む
写真-1 村を貫く国道400号と山塊に囲まれた村落を望む

 
 

2.雪とともに暮らす

本村の気候は、典型的な日本海側気候で冬期間は降雪が多く、最高積雪は2m超にもなり特別豪雪地帯に指定されている。
例年11月には初雪が降り、4月上旬まで雪が残り、6カ月間もの長い冬となる。
夏は冷涼で、その気候風土によりかすみ草などの農作物が育まれるが、半年間もの閉ざされた冬は過酷であり雪との闘いとなる。
 
特に冬期間の交通の確保は重要であり、公共交通はもとよりライフラインとなる主要幹線道路や地域住民の生活道路の安全・確実な除雪による道路交通の確保が求められている。
 
冬期間の国県道や村道の除雪作業は、村内の事業所に業務委託され、農閑期となる冬の貴重な産業の創出と雇用を生み出している。
しかし、一方で除雪作業は重労働であり、担い手不足と地域交通を熟知したベテランオペレーターの高齢化が進んでいることから、若手人材の確保と育成が急務となっており、新規就農者や移住者が担い手として期待されるところである(写真-2、3)。
 

写真-2 冬の村内の様子
写真-2 冬の村内の様子
写真-3 除雪作業の様子
写真-3 除雪作業の様子

 
 

3.先端技術の活用

本村の除雪体制は、村内の事業所4社と村委託オペレーターにより国県道5km、村道87.2kmを実施している。
車両は11t~14t級除雪ドーザー11台、ロータリー除雪車1台の運用体制である。
 
村道における除雪は、特に住宅地などでは狭隘な幅員と人家等に大型車両が近接しての作業となるため、オペレーターには高い技術が要求され、かつ地域住民からの細かな要望にも応え速やかに実施しなければならない、大変困難な業務である。
また、深夜早朝の出動が基本となり、拘束時間も長く、神経を使う大型重機の運転などストレス度も高く過酷な労働である。
 
このような除雪作業に従事する本村のオペレーターは4割が60代以上であり、従事者の高齢化への対応と担い手不足の解消、労力軽減が今後の喫緊の課題となっており、除雪体制の維持は全国的にも過疎地における深刻な社会課題となっている。
このようなことから村では、福島県とNTTドコモが取り組む社会課題解決のための先端技術を活用した協創案に賛同し、過疎地域の課題解決に取り組むため「5Gを活用した除雪作業の自動運転に向けた実証事業」として総務省の過疎地域持続的発展支援事業に応募、採択を受け実証作業やシステム開発に取り組むこととなった(図-2)。
 

図-2 システム構成図
図-2 システム構成図

 
 

4.道路除雪の新しいかたち

本村が取り組む実証事業は、遠隔操作と自動運転のためのシステム構築で、現在までに遠隔操作の装置を搭載した車両の配備と動作確認、除雪路線での走行・除雪作業を実施した。
村が所有し実際に道路除雪作業を担う除雪ドーザー1台を実証機として、遠隔操作を可能とする専用装置を取り付け、オペレーターは車両側に設置されたカメラからの映像を映すモニターとハンドルやレバーが設置された遠隔操作室から車両を走行させるものである(写真-4)。
 
通信回線としては、令和3年度にNTTドコモの4G環境を使用し、リアルタイムの映像とハンドルやレバー、アクセル、ブレーキなどの操作信号が即座に伝送されるシステムが開発され、走行作業のテストでは、実際に作業従事するオペレーターがレバー操作の反応や、除雪路線となっている公道の走行と除雪作業を試験的に実施した。
 
令和4年度の実証事業は、5G通信環境での走行試験にて、4G環境では送ることができなかった解像度の高い映像による遠隔操作および無線通信およびインターネット経由によるリモートエンジンスタートを実施し、さらなる有用性の確認を行った。
 
また、高精度GPS(GNSS)と連動したVR描画による除雪支援システムを構築し、積雪により見えない路上の障害物を視覚化、走行限界線の表示誤差を検証し安全性の確認を行った(写真-5)。
 
使用する車両は、昭和62年式コマツWA200を使用し、操作性の良い最新車両でなくあえて年式の経過した車両を使用し、遠隔操作による反応性や操作性を追求することとしている。
 
車両には7台のカメラが装着され、除雪支援システムを含む計8台のモニター映像がリアルタイムで遠隔操作室に送られ、車両内部はハンドル、レバー、ペダル等に制御装置が取り付けられエンジン始動を含め車両と連動している(写真-6)。
 

写真-4 操作室の様子
写真-4 操作室の様子
写真-5 除雪支援システム画面
写真-5 除雪支援システム画面
写真-6 遠隔操作車両
写真-6 遠隔操作車両

 
 

5.実証事業の成果と課題

令和3年度の実証では、車両の遠隔での操作性や4G回線での通信速度の実用性など、今後につながる各種データを蓄積することができたが、大型特殊車両の自動運転に伴う公道走行にかかる道路交通法上の制約や、緊急時の安全対策などの課題も確認された。
 
令和4年度の実証では、5G通信環境下による遅延が発生しない高解像度映像の有効性が評価され、操作装置の改良や映像モニターの増設による安全確実な除雪作業が確認できた。
 
さらに除雪支援システムによる走行限界線の表示誤差も、想定許容範囲内で高い有用性が確認された。
 
今後も自動運転による道路除雪の社会実装を目指し、有人路線と無人路線に区分し人手不足の解消と労働者の負担軽減を図り、障害物の位置をリアルタイムに車両内でモニタリングする除雪支援システムの実用化などオペレーターの技術向上のための操作支援の確立を目指していく(写真-7)。
 

写真-7 実証実験の様子
写真-7 実証実験の様子

 
 

6.おわりに

除雪の現場に限らず近年建設業界では、人口減少・高齢化が要因となって労働力不足が深刻化することが懸念されており、ICT技術やAIの活用などデジタル化を進めることで業務の効率化を図り生産性を向上させる取り組みを推進しようとしているが、道路の除雪は降積雪の状況により路面の状況が逐次変化し、障害物や排雪場所の判断や緊急時の臨機応変な作業対応など、人的対応が必ず必要となり、土木建築現場などでの対応とは異なる側面が多い。
また、実際に公道上で無人車両により作業する際には、より一層の安全管理や道路交通法の規定確認、保安基準などの緩和認定、作業精度などを考慮した路線の選定、サポート体制の構築などを検討しなければならないなど、課題も多い。
 
しかしながら、本村の最上位計画である第6次昭和村振興計画では、10年後に目指す将来像を「昭和村でここちよく暮らす」と掲げ、基本方針として「協創・共助」、「持続可能」と定め、基本目標のひとつに「先端的過疎への挑戦」としてテクノロジーの活用によって暮らしを豊かにするとしている。
今回の取り組みは、それらの目標達成に向けた第一歩であり国が推進するDXのあるべき姿を体現し、先駆けて類似課題を抱える他の自治体への発信となれば幸いである。
 
 
 

昭和村産業建設課建設係
五十嵐 邦明
昭和村総務課企画創生係
小林 勇介

 
 
【出典】


積算資料公表価格版2023年7月号

積算資料公表価格版2023年7月号

最終更新日:2023-07-12

 

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