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災害対応の現場を支えるデジタル基盤~秦野市における「総合防災情報システム」の構築と成果~

はじめに

神奈川県秦野市は、丹沢山塊と渋沢丘陵に囲まれた県内唯一の典型的な盆地地形を有し、豊かな自然環境と良質な水資源に恵まれた地域です(写真- 1、2)。

写真-1 渋沢丘陵
写真-1 渋沢丘陵
写真-2 神奈川県立秦野戸川公園
写真-2 神奈川県立秦野戸川公園

 
市内には複数の中小河川が流れ、急峻な山地から市街地へと短い距離で水が集まる地形的特性を持つことから、豪雨時には河川の急激な水位上昇や土砂災害のリスクが高まる傾向があります。
また、盆地特有の地形により局地的な降雨が発生しやすい点も、防災上の重要な課題となっています。
 
こうした自然条件を踏まえ、本市では「名水の里の豊かな自然と共生し安全・安心に暮らせるまちづくり」を市政テーマの一つに掲げ、災害に強いまちづくりを進めています。
 
特に、気候変動に伴う豪雨災害の頻発化を受け、河川監視体制の強化、避難情報の迅速な発信、避難所運営の効率化など、実効性の高い防災・減災施策に力を入れています。
また、デジタル技術を活用した業務改善や住民サービス向上にも積極的に取り組んでおり、中心的な施策の一つとして防災分野におけるDXを進めています。
 
これらの施策をもとに、本市はさらなる防災力の向上を図るべく、令和4年7月に「総合防災情報システム」を運用開始しました。
これは市内の観測データや各種防災情報を集約し、現場の判断を支える仕組みを整えることで、災害対応の迅速化と職員負担の軽減を図るものです。
 
本稿では、本市における同システムの導入経緯と運用状況、そして水害対策を中心とした活用の成果について紹介します。
 
 

1.災害対応を支える「総合防災情報システム」

近年は全国的に豪雨災害が増加し、中小河川の急激な増水や土砂災害への備えがこれまで以上に重要になっています。
本市も複数の河川が流れ、地形的にも水害リスクを抱えていることから、災害対応のデジタル化は喫緊の課題でした。
 
こうした背景のもと、本市は株式会社YDKテクノロジーズと連携し、災害時に職員が使いやすいよう実証実験を重ね、操作性を重視しつつ必要な機能を段階的に整備・拡充しています(図- 1、2)。

図-1 「総合防災情報システム」の概要
図-1 「総合防災情報システム」の概要
図-2 運用フロー図
図-2 運用フロー図

 

(1)観測データと現地状況の“見える化”

市内には、水位・雨量・河川監視カメラを備えた観測局を7カ所、市独自の河川監視カメラを6カ所、さらに県設置の河川監視カメラを7カ所に配置しています。
「総合防災情報システム」はこれらの情報をリアルタイムに集約し、PCやスマートフォンなどの画面で、地図上に水位や雨量、雨雲レーダー、浸水想定区域などを層状に重ねて表示するため、災害の予兆を早期に把握しやすくなりました(図- 3)。

図-3 情報の一元管理
図-3 情報の一元管理

 
また、本市の災害対策本部では同システムのホワイトボード機能を活用し、関連部署と情報を共有しています。
事案の緊急度や内容が色別表示されるため、従来の手書きや電話連絡に比べて情報の正確性と即時性が向上し、状況判断の迅速化が可能となりました(図- 4)。
 
さらに、避難情報の発令に必要なデータも同一画面で確認でき、観測データや危険区域、住民情報などをもとに自動集計が行われます。
これにより、発令判断の精度向上と職員の負担軽減を実現しました(図- 5)。
 
情報が一元化されることで、担当者が変わっても同じ基準で判断しやすくなる点は、災害対応の継続性を確保する上でも有効です。

図-4 ホワイトボード機能
図-4 ホワイトボード機能
図-5 避難発令
図-5 避難発令

 

(2)避難所運営のデジタル化と住民サービスの向上

避難所では、従来の紙による受付とともに、「総合防災情報システム」の住民向け機能「避難者事前登録」を活用したデジタル受付を導入しました。
事前登録で生成された二次元コードを住民がスマートフォンなどで提示し、職員が読み取るだけで入退所が完了するため、これまで課題となっていた受付時の混雑が緩和されます。
また、住民向け機能として、避難所の開設状況や収容率、ライフラインの状態、ペット受け入れの可否などを公開することで、住民自身の避難行動の判断に役立ちます。
行政向け機能では、避難者数の自動集計や避難所の使用率の可視化が可能となりました(図- 6)。

図-6 避難所運営
図-6 避難所運営

 
令和8年度中にはマイナンバーカードによる受付を運用開始する予定です。
今後、より確実で効率的な避難所運営が期待できます。
 
避難所運営のデジタル化は、職員の作業負担を軽減するだけでなく、住民が状況を把握しやすくなることで、避難行動の促進にもつながっています。
 

(3)平時からの活用で防災力を底上げ

「総合防災情報システム」は、災害時だけでなく平時の業務にも活用されています。
 
物資管理機能は、備蓄品の賞味期限を同システムの画面上で色別表示し、職員が直感的に管理できるようにしました(図- 7)。
また、住民向け機能で備蓄状況を公開することで、住民の防災意識の向上やフードロス削減にもつながっています。

図-7 物資管理機能
図-7 物資管理機能

 
さらに、訓練機能の活用により職員の操作習熟度の向上やシステム改善点の抽出が可能となり、平時からの継続的な運用が災害時の確実な対応に
つながっています。
 
災害対応に特化したシステムではなく、日常的に利用できる仕組みであることが、運用定着の面においても効果を上げています。
 
 

2.今後の展望と広域連携への期待

本市では、今後も機能拡充を進めていく予定です。
マイナンバーカード受付機能の実装に加え、下水道の水位監視、樋門・樋管の監視、流域の浸水予測など、より高度な水害対策に資する機能を検討しています。
 
また、国や県の防災システムとのAPI連携についても継続して要望しており、広域的な情報共有体制の構築を期待しています。
自治体単独では対応が難しい広域災害に備えるためにも、システム連携は重要なテーマと考えます。
 
本市の「総合防災情報システム」は、現場の声を反映しながら必要な機能を段階的に整備し、進化してきました。
水害対策を中心に、災害の予兆把握から避難所運営、平時の備蓄管理までを支える同システムは、今後も市民の安全と安心を守る基盤として重要な役割を果たしてまいります。
 


参考
秦野市 総合防災情報 Webページ
https://iot.trims-cloud.net/hadano_bosai/deploy/html/index.html

 
 
 

秦野市くらし安心部防災課 主査
古関 一仁

 
 
 
【出典】


積算資料公表価格版2026年5月号


積算資料公表価格版2026年5月号

最終更新日:2026-04-20

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