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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 水災害対策 > 下水道による内水浸水対策に関するガイドライン類の改訂

はじめに

近年,全国で浸水被害が頻発しており,気候変動に伴う降雨量の増加等による水災害の頻発化・激甚化が懸念されていることから,これまでの治水政策を抜本的に見直す必要がある。
このため,河川管理者,下水道管理者といった管理者主体で行う従来の治水対策に加えて,上流から下流,本川・支川などの流域全体を俯瞰し,国・都道府県・市町村,さらに企業や住民等のあらゆる関係者が協働して取り組む「流域治水」の推進が求められている。
 
このような状況を踏まえ,流域治水の実効性を高めることが重要であり,本稿では,その一翼を担う下水道の取組として,「下水道による内水浸水対策に関するガイドライン類」の改訂などについて紹介する。

 
 

1. 気候変動を踏まえた下水道による都市浸水対策の推進について(提言)

近年,気候変動の影響等により内水氾濫が発生するリスクが増大しており,令和元年東日本台風においても,東日本を中心に15都県135市区町村の約3.0万戸で内水被害が発生し,併せて,下水道施設そのものも被災し,市民生活に影響を与えることとなった。
 
こうした中,気候変動を踏まえた下水道による都市浸水対策について,令和元年12月に「気候変動を踏まえた都市浸水対策に関する検討会」を設置し,「気候変動を踏まえた治水計画に係る技術検討会」(平成30年4月設置)による提言も踏まえ,令和2年6月に今後進めるべき施策について提言がとりまとめられた(一部改訂:令和3年4月)。
その概要を(1)~(5)に示す。

(1) 気候変動を踏まえた下水道による都市浸水対策に係る中長期的な計画の策定の推進

●気候変動に伴う降雨量の増加や短時間豪雨の頻発等の懸念や近年の内水被害発生状況等を勘案すると,計画的に「事前防災」を進めるため,下水道による都市浸水対策においても,気候変動の影響を踏まえた計画雨水量の設定が必要
 
●気候変動の影響を踏まえた下水道による都市浸水対策に係る計画雨水量の設定手法として,現在のハード整備に用いる計画降雨に,表-1で示す降雨量変化倍率を乗じて設定する手法を用いる
 
●気候変動の影響を見据えた事前防災を計画的に進めるために,下水道による都市浸水対策の中長期的な計画である「雨水管理総合計画」の策定・見直しを通じて,気候変動を踏まえた計画に見直すことが必要

地域区分ごとの降雨量変化倍率

表-1 地域区分ごとの降雨量変化倍率
※「降雨量変化倍率」は,現在気候に対する将来気候の状態を表すものであり,2℃上昇シナリオ(RCP2.6)では2040年頃以降の気温上昇が横ばいとなることから,2040年以降の目標としての活用が可能


(2) 下水道施設の耐水化の推進

●河川氾濫等の災害時においても一定の下水道機能を確保し,下水道施設被害による社会的影響を最小限に抑制するための措置が必要
 
●令和2年度中に施設浸水対策を含むBCPの見直しを行うとともに,令和3年度までに,リスクの高い下水道施設の耐水化について,対策浸水深(※1)や対策箇所の優先順位等を明らかにした耐水化計画を策定し,災害時における必要な下水道機能を早急に確保
 
(※1)下水道施設のハード対策(耐水化)において目標とする浸水深

(3) 早期の安全度の向上

●効率的・効果的なハード整備として,再度災害防止に加え,事前防災の観点も含めたハード・ソフト一体的な浸水対策を一層推進させる必要がある
 
●河川事業と一体的に実施する下水道整備や大規模な施設の整備・改築を推進
 
●既存施設の運用の工夫策として,ポンプ排水の効率化や樋門等の操作性の向上策の推進
 
●まちづくりとの連携による内水氾濫による浸水リスク軽減手法として,企業等と連携した流出抑制対策の促進や自助・共助の取組の促進

(4) ソフト施策のさらなる推進・強化

●下水道の整備過程や下水道の施設計画を超過する降雨時においても,被害を最小化させるためにも,ハード整備とともに,ソフト施策を推進・強化することが重要
 
●下水道による浸水対策を実施する全ての自治体等において内水浸水想定区域図の作成・公表を推進
 
●都市計画部局等との連携によるリスク低減策を進めるためにも,複数外力による多層的なリスク評価結果の公表を推進

(5) 多様な主体との連携の強化

●既存協議会も活用し,河川管理者,防災部局,都市計画部局,企業・住民など多様な主体との連携の枠組みを構築

 
 

2. 流域治水関連法による下水道法等の改正

法的枠組みにより流域治水の実効性を高め,強力に推進するために,特定都市河川浸水被害対策法等の一部を改正する法律(流域治水関連法)が成立した(公布:令和3年5月10日)。
 
下水道に係る主な事項としては,特定都市河川浸水被害対策法の改正により,流域水害対策計画を策定・活用する河川の拡大,流域水害対策に係る協議会の創設と計画の充実等を講じているほか,下水道法の改正により,氾濫をできるだけ防ぐための対策として「計画降雨の事業計画への位置付け」,「樋門等の操作規則の策定義務化」,「民間による雨水貯留浸透施設整備に係る計画認定制度の創設」,また,水防法の改正により,被害を軽減するための対策として「雨水出水浸水想定区域の指定対象の拡大」を講じている。

 
 

3. 下水道による内水浸水対策に関するガイドライン類の改訂

「気候変動を踏まえた都市浸水対策に関する検討会」提言及び「下水道政策研究委員会制度小委員会」報告等を踏まえ,気候変動の影響を反映した計画への見直しや内水浸水想定区域図作成・公表・周知の加速化等に向け,令和2年12月に「下水道による内水浸水対策に関するガイドライン類改訂検討委員会」を設置し,令和3年7月及び11月に流域治水関連法による下水道法等の改正内容も反映した上で,「下水道による内水浸水対策に関するガイドライン類」を改訂した。
以下,各ガイドライン類の主な改訂内容を紹介する。

(1) 雨水管理総合計画策定ガイドライン(案)

本ガイドラインは,下水道による浸水対策を実施する上で,当面・中期・長期にわたる下水道による浸水対策を実施すべき区域や目標とする整備水準,施設整備の方針等の基本的な事項を定める「雨水管理総合計画」を策定する際に適用するものであり,令和3年7月及び11月に前述の提言や下水道法改正等を踏まえて改訂した。
 

① 気候変動の影響を踏まえた計画降雨及び計画雨水量の算定

従来の下水道計画では,「再度災害の防止」の観点から過去の降雨実績に基づいて計画降雨及び計画雨水量を設定したが,気候変動に伴う降雨量の増加等を勘案すると,例えば,現在の5年確率降雨(※2)と将来の5年確率降雨は同様なものではなくなり,現行の整備水準のままでは安全度が低下することが想定される。
 
このような状況を踏まえて計画的に「事前防災」を進めるためには,下水道による都市浸水対策において,気候変動の影響を踏まえた計画降雨及び計画雨水量を設定することが必要である。
そこで,気候変動の影響を踏まえた計画降雨及び計画雨水量の算定に当たっては,当面は現在のハード整備に用いる計画降雨に,パリ協定等における政府としての取組の目標及び下水道施設の標準耐用年数を踏まえ,2℃上昇を考慮した降雨量変化倍率(表-1)を乗じて設定する。
 
(※2)5年に1回程度発生する規模の降雨

 
 

② 段階的対策計画の検討

段階的対策計画は,現在の全体計画に時間軸(中長期目標等の段階的対策方針)を考慮したものであり,そのイメージの一例を図-1に示す。
 
将来的(長期)には,気候変動の影響を踏まえ見直しを行った後の計画降雨に対して自由水面を確保できる施設の整備を前提としつつ,当面は浸水シミュレーション等により,圧力状態による能力を評価・活用することで,水位を地表面以上に上昇させない程度の排水能力を有する雨水排除施設を優先的に整備するなど既存ストックを効果的に活用するとともに,防災部局,河川管理者,都市計画部局,さらには民間企業や住民まで含めあらゆる関係者が協働する「流域治水」の考え方に基づき,多様な主体との連携により,例えば,自然環境が有する多様な機能を活用した地域づくりを進める手法である「グリーンインフラ」の導入や,学校,公園,駐車場,民間の貯留施設など流域全体での貯留・浸透による雨水流出抑制を促進することにより段階的に安全度を向上させる。

気候変動の影響を踏まえた整備目標,対策目標の達成に向けた段階的対策計画の例

図-1 気候変動の影響を踏まえた整備目標,対策目標の達成に向けた段階的対策計画の例
※「降雨量変化倍率」は,現在気候に対する将来気候の状態を表すものであり,2℃上昇シナリオ(RCP2.6)では2040年頃以降の気温上昇が横ばいとなることから,2040年以降の目標としての活用が可能


(2) 内水浸水想定区域図作成マニュアル(案)

本マニュアルは,内水による浸水被害が発生するおそれのある排水区域等において,内水浸水想定区域図等の作成を行う際に参考とするものであり,令和3年7月に前述の提言や水防法改正等を踏まえて改訂した。

 

① 簡易的な浸水想定手法の適用条件

水防法に基づく雨水出水浸水想定区域を指定する場合には,浸水シミュレーション手法により,降雨損失,表面流出,管内水理,氾濫解析の一連の解析を実施することを基本とするが,以下の条件に該当する区域においては雨水排水施設をモデル化せず,地形情報等を基に浸水想定を行う簡易手法(降雨損失モデルと氾濫解析モデルのみ)の適用も考えられる。
 
 ●管きょの断面形状,管底高,集水面積などの情報の把握が困難な(情報の把握に時間を要する)区域のうち,想定最大規模降雨等の内水による浸水における最大規模のリスク情報を提供することが目的であり,地形的な要因(例えば排水区を分断するような盛土等)による再現性への影響が懸念されない区域
 
 ●下水道の整備計画はあるものの,整備が途上で,既存排水施設の能力があまり見込めない区域
 
なお,適用に当たっては浸水実績等で必ず再現性の確認を行うことなどの留意点があり,公表の際には,浸水想定条件や簡易手法の特性などを丁寧に説明する必要がある。
また,早期に浸水シミュレーション手法による評価結果に基づく更新が行えるよう,排水施設情報を順次蓄積及びデータベース化し,次回更新に備えることが重要である。

 
 

② 浸水シナリオの設定

浸水シナリオの設定については,各地方公共団体の実情に応じてさまざまなパターンが考えられるが,想定最大規模降雨を対象として内水浸水想定を行う場合には,想定され得る最大のリスクが生じる条件とする。
 
また,想定最大規模降雨以外の降雨を対象とする場合には,浸水シナリオを設定して内水浸水想定を行うこととし,以下のように,多層的なリスク評価の観点から対象降雨や放流先河川水位等の条件が異なる複数のシナリオを設定することが望ましい。
 
 ●対象降雨を想定最大規模降雨,既往最大降雨,計画降雨等とし,それぞれの降雨に応じた河川水位等を組み合わせたシナリオ
 
 ●放流先河川等の水位が,下水道の排水に影響が出る程度まで上昇する,下水道の排水に影響しない程度までしか上昇しない,時間の経過に伴い水位が変動する,河川の水位上昇により樋門等の閉鎖や排水ポンプ場の運転調整の措置が取られるなどのシナリオ

(3) 官民連携した浸水対策の手引き(案)

本手引きは,公共下水道管理者が官民連携した浸水対策を実施する際,特に浸水被害対策区域制度を活用する場合の基本事項を示すものであり,令和3年11月に下水道法改正等を踏まえ改訂した。
 
浸水被害対策区域は,公共下水道管理者のみによらない官民一体となった浸水対策を実施する区域として,都市機能が相当程度集積し,著しい浸水被害が発生するおそれがある排水区域のうち,公共下水道の整備のみによっては浸水被害の防止を図ることが困難であると認められる区域を,公共下水道管理者である地方公共団体が条例で定めるものである。
 
流域治水関連法による下水道法の改正では,浸水被害対策区域における民間事業者等による自主的な雨水貯留・浸透に係る取組を促進するため,民間事業者等が行う一定規模以上の容量や適切な管理方法等の条件を充たした雨水貯留浸透施設整備に係る計画の認定制度を創設し,計画の認定を受けた事業者に対して施設整備費用に係る法定補助等の規定を適用できることとしている。

(4) 下水道浸水被害軽減総合計画策定マニュアル(案)

本マニュアルは,下水道の雨水排水施設の能力を上回る降雨に対して,重点的に対策を行うべき地区または行政と住民等が連携して効率的な浸水対策を図る地区について安全性を緊急に確保することを目的とした,下水道浸水被害軽減総合計画を策定する際に適用するものであり,事業制度の変更等に係る内容を反映するために令和3年11月に改訂した。
 
具体的には,令和元年度から下水道浸水被害軽減総合事業に効率的雨水管理支援事業を統合し,従来の下水道浸水被害軽減総合事業を「下水道浸水被害軽減型」,効率的雨水管理支援事業を「効率的雨水管理支援型」として,下水道浸水被害軽減総合計画については,地区ごとの計画を市全体の計画に集約するとともに,浸水対策実施の基本方針を明確化することとしている。

 
 

おわりに

浸水被害の防止・軽減に向け,改訂したガイドライン類に係る周知徹底を図り,流域治水関連法を核とした,気候変動に伴う降雨量の増加や短時間豪雨の頻発等を踏まえたハード対策の加速化とソフト対策の充実による総合的な浸水対策を推進する(図-2,具体的には以下のとおり)。
 
●地区ごとの浸水リスクを評価し,都市機能の集積状況等に応じてメリハリのある整備目標をきめ細やかに設定した上で,事前防災の考え方に基づく計画的な下水道整備を展開
 
●複数外力による多層的な浸水リスクの評価結果を公表し,防災,都市計画,建築その他の関係部局等に対し積極的に情報の提供を行うなど,水災害に強いまちづくりに必要な情報発信を強化するとともに,住民や地域の防災意識を高め,警戒避難体制を強化
 
●河川等から下水道への逆流を防止するための樋門等の操作規則を策定し,河川等から市街地への逆流を確実に防止

流域治水関連法を核とした下水道による浸水対策の展開

図-2 流域治水関連法を核とした下水道による浸水対策の展開



 

 
 

国土交通省 水管理・国土保全局 下水道部 流域管理官付 課長補佐
橋本 翼

 
 
【出典】


積算資料公表価格版2022年5月号
積算資料公表価格版

最終更新日:2023-06-26

 

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