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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 水災害対策 > 「流域治水」の推進と雨水貯留浸透施設の整備・活用

 

はじめに

近年の気候変動により激甚化・頻発化する水災害に対応するためには,治水対策の一層の推進が必要です。
本稿では現在進めている「流域治水」の取組みとその一翼を担う雨水貯留浸透施設の活用についてご紹介します。
 
 

1. 水害リスクの高まりと「流域治水」への転換

近年,平成27年9月関東・東北豪雨をはじめ,平成28年8月北海道・東北地方を襲った一連の台風,平成29年7月九州北部豪雨,平成30年7月の西日本豪雨,令和元年東日本台風,今年度は令和2年7月豪雨により九州地方を中心に球磨川や最上川で災害が発生するなど,毎年のように水災害が起こっています(図-1)。
さらに,気候変動により,20世紀末と比べて21世紀末には,全国の一級水系で治水計画の対象とする降雨量の変化倍率が約1.1倍,治水計画の目標とする規模(年超過確率1/100)の洪水の流量の平均値は約1.2倍になり,洪水の発生頻度の平均値は約2倍になると試算されています(表-1)。
 
このような水災害リスクの増大の中,気候変動や社会動向を踏まえた今後の水災害対策のあり方を総合的に検討するため,令和元年11月に社会資本整備審議会に「気候変動を踏まえた水災害対策検討小委員会」が設置され,令和2年7月に答申がとりまとめられました。
答申では,平成27年より進めてきた,「施設の能力には限界があり,施設では防ぎきれない大洪水は必ず発生するもの」へと意識を改革し,社会全体で洪水に備える「水防災意識社会」を再構築する取組みを,さらに一歩進め,社会のあらゆる関係者が,意識・行動・仕組みに防災・減災を考慮することが当たり前となる,防災・減災が主流となる社会の形成を目指し,流域の全員が協働して流域全体で行う持続可能な治水対策(「流域治水」)への転換が提案されました。
 

  • 近年の全国各地で発生している浸水被害例
    図-1 近年の全国各地で発生している浸水被害例

  • 気候変動シナリオ
    表-1 気候変動シナリオ

  • 2. 流域治水プロジェクトの推進

    「流域治水」とは,「河川,下水道,砂防,海岸等の管理者が主体となって行う対策をより一層加速するとともに,集水域と河川区域のみならず,氾濫域も含めて一つの流域として捉え,その流域全員が協働して,①氾濫をできるだけ防ぐ・減らす対策,②被害対象を減少させるための対策,③被害の軽減,早期復旧・復興のための対策,までを多層的に取り組む」ことと定義されています(図-2)。
     
    令和元年東日本台風によって被害が発生した7水系(阿武隈川,鳴瀬川水系吉田川,久慈川,那珂川,荒川水系入間川,多摩川,千曲川を含む信濃川)や令和2年7月豪雨で被害が発生した2水系(最上川,球磨川)においては,この「流域治水」の考え方を取り入れ,再度災害防止のための緊急治水対策プロジェクトとしてとりまとめ,流域関係者が連携してハード・ソフト一体となった対策を集中的に進めているところです。
     
    プロジェクトでは,河川における対策として,被災した堤防の復旧のみならず,河道掘削,遊水地の整備,堤防の整備・強化などといった改良復旧を実施しています。
    また,流域における対策として,雨水貯留施設の整備やため池の活用などにより雨水の流出抑制を図るとともに,家屋移転や住宅地のかさ上げ,浸水が想定される区域の土地利用制限など,土地利用や住まい方の工夫も併せて進められています。
     
    同様の災害はいつ,どこで発生してもおかしくなく,この流域治水を全国で推進するため,令和2年10月に関係16省庁による「流域治水の推進に向けた関係省庁実務者会議」が設置され,省庁間の緊密な連携・協力の上で,流域治水の取組みを充実させていくことが確認されました。
    さらに,全国の一級水系において,河川管理者のみならず,都道府県,市町村等の関係者が一堂に会する流域治水協議会が設置され,協議が行われており,令和3年3月末には,各水系の流域全体で早急に実施すべき流域治水の全体像を「流域治水プロジェクト」として策定・公表し,あらゆる関係者との連携のもと,事前防災対策を進めていく予定です。
    また,2級水系に関しても,同様の取組みを推進していきます(図-3)。
     

  • 流域治水のイメージ
    図-2 流域治水のイメージ
  • 流域治水プロジェクトのイメージ
    図-3 流域治水プロジェクトのイメージ

  • 3. 流域治水の一翼を担う雨水貯留浸透施設

    流域治水のうち,①氾濫をできるだけ防ぐ・減らす対策として,雨水貯留浸透施設の整備・活用が有用です。
    雨水貯留浸透施設は,その名の通り,雨水を一時的に貯留し,または地下に浸透させる機能を有し,河川への流出を抑制することで,浸水被害を軽減します。
    これまで,都市部を中心に整備が進められてきており,その施設効果は,令和元年東日本台風においても発揮されました。
     
    例えば,東京・神奈川を貫流する鶴見川流域では,急速な都市化に伴う流出量の増大などに対応して安全を確保するために,河川管理者,下水道管理者,地方公共団体および地域住民等が連携した総合的な治水対策を実施してきました。
    具体的には,河川管理者が河道掘削等を基本とした河道断面の確保や多目的遊水地整備などを行い,下水道管理者が貯留管や排水施設を整備しています。
    さらに,流域対策として,地方公共団体が河川への雨水の流出量を抑制する雨水貯留浸透施設を公園や校庭等の公共用地を活用しながら整備し,民間の開発者は,舗装工事等により低下した土地の雨水浸透機能を代替して雨水を貯留する施設の設置などを実施しています。
     
    これらの取組みにより,令和元年東日本台風では,戦後5番目となる雨量288mm2/日を記録したにもかかわらず,鶴見川多目的遊水地で約94万m3を貯留した他,4,900基を超える防災調整池等で雨水を貯留するなど,これまで協働して講じてきた対策が功を奏し,亀の子橋地点で約0.7mの水位低減効果を発揮したと推定されています。
    この低減効果がなければ,氾濫の危険性の目安である「氾濫危険水位」を超過したと推定されており,一つ一つの取組みの積み重ねにより浸水被害を軽減した好事例といえます(図-4)。
     

  • 令和元年東日本台風における鶴見川での効果事例
    図-4 令和元年東日本台風における鶴見川での効果事例

  • 4. 流域治水の実効性を高めるために

    このような流域治水の実効性を高める法的枠組みとして,氾濫をできるだけ防ぐための流域における雨水貯留対策の強化や,被害対象を減少させるための浸水リスクが特に高いエリアにおける開発規制・建築規制の導入,被害の軽減に向けリスク情報空白域を解消するためハザードマップ対象河川の拡大など,災害に強いまちづくりを強力に推進していくため,河川法,水防法,下水道法,特定都市河川法に限らず,都市計画法,都市緑地法,防災集団移転特別措置法,建築基準法,土砂災害防止法の9つの法律改正を束ねる流域治水関連法案が令和3年2月に閣議決定され,今国会に提出されたところです。
     
    この法案と併せ,雨水貯留浸透施設整備を計画的・集中的に実施するため,特定都市河川流域においては,令和3年度より個別補助事業制度を創設し,地方公共団体や民間事業者等による雨水貯留浸透施設の整備に対し,強力に支援(国庫補助率1/2)することとしています。
    また予算補助に加え,税制においても,民間事業者等により整備された雨水貯留浸透施設に係る固定資産税を減免する特例措置(課税標準を市町村の条例で定める割合(1/6~1/2)に軽減)が令和3年度より創設されるところです(図-5)。
     
    雨水貯留浸透施設の整備・活用により浸水被害の防止・軽減に益々寄与することを期待するとともに,取組みのさらなる推進を図っていきたいと考えます。
     

  • 流域の関係者による雨水貯留浸透対策の強化例
    図-5 流域の関係者による雨水貯留浸透対策の強化例


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    国土交通省 水管理・国土保全局 治水課 課長補佐
    大上 陽平
    国土交通省 水管理・国土保全局 治水課 減災技術係長
    山下 礎

     
     
    【出典】


    積算資料公表価格版2021年5月号


     
     

    最終更新日:2023-07-07

     

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