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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 水災害対策 > 流域治水の本格実践に向けて

はじめに

令和4年も、全国各地で水害が発生しました(図-1)。
一級水系においても、上流や支川などでは氾濫が起こり、各地で浸水被害が発生しましたが、国が管理する区間においては、これまでの治水対策の効果もあって大規模な浸水被害を免れています。
ただ、国管理区間においても、複数の地点で氾濫危険水位や計画高水位を超過するなど、いわばギリギリで持ちこたえたような状態といえます。
 
気候変動の影響により、雨の降り方が変わっています。
今後さらに豪雨災害の頻発・激甚化が懸念される中、気候変動による降雨量の増加を踏まえた治水計画の見直しと、河川管理者のみならず流域の関係者が協働して洪水等に備える流域治水により対応していく必要があります。
令和3年には、いわゆる「流域治水関連法」が施行されて環境も整えられ、これを本格実践していくことが重要です。
 
図-1 近年,毎年のように大きな水害が発生
図-1 近年、毎年のように大きな水害が発生
 
 

1.気候変動を踏まえた治水計画の見直し

令和3 年度から、全国の一級水系において、気候変動による降雨量の増加を踏まえ、河川整備の長期的な目標を定める「河川整備基本方針」の見直しを順次進めています。
これまでに、十勝川、阿武隈川、新宮川、五ヶ瀬川、球磨川の5 水系について見直しを行い、現在、多摩川と関川について、見直しに向けて社会資本整備審議会のご意見をいただいているところです(令和5年2月中旬時点)。
 
この見直しにより、河川整備の基本となる洪水の規模(例えば年超過確率で1/100 といった規模)は維持した上で、将来の降雨量の増加を見込み、長期的な河川整備の目標流量である洪水の規模(基本高水)を変更しています(図-2)。
 
また各水系の状況等に応じて、沿川の土地利用と一体となった遊水機能の確保や遊水地整備、水田貯留の普及・拡大、災害リスクを考慮したまちづくりにおける立地誘導といった流域治水の考え方に基づく取組方針も盛り込んでいます。
 
引き続き、河川整備の基本となる計画である河川整備基本方針の変更を進めていきます。
 
図-2 気候変動,流域治水を踏まえた河川整備基本方針の見直し(十勝川水系,阿武隈川水系の例)
図-2 気候変動、流域治水を踏まえた河川整備基本方針の見直し(十勝川水系、阿武隈川水系の例)
 
 

2.流域治水型の河川整備の推進

こうした方針に基づいた具体的な河川整備の内容は、中期的な計画として「河川整備計画」に定めることとなりますが、河川整備計画についても、整備の進捗等に応じて見直しを行う際に、気候変動の影響を踏まえて目標設定等を行っている例があります。
 
例えば、河川整備計画で整備の目標としていた流量を令和元年東日本台風の洪水で大きく上回った信濃川では、令和4年に国が管理する区間の河川整備計画の見直しを行いました。
気候変動により降雨量が増加しても、それまでの計画で目標としていた安全度の水準が維持されるよう、令和元年東日本台風による洪水と同規模の流量などに目標を引き上げています。
 
また、河川整備においても流域治水の考え方に基づいて、流域全体で治水安全度を早期に向上させることが重要です。
例えば、河道の掘削や堤防整備といった対策のみでは、ある箇所を整備したことでその下流で新たな浸水被害が生じないよう、下流部の整備から順次進めていく必要があり、上流や支川での対策が遅れがちになります。
このため、特に上流部や支川において貯留機能を重視した河川整備を行っていくことが、上流部や支川を含めた流域全体を早期に安全にすることにつながります。
 
今後、河川整備計画の見直しにあたっては、こうした「流域治水型」の河川整備が実現されるよう、上流や支川とも一体的に計画を検討することが重要と考えています(図-3)。
 
図-3流域治水型の河川整備のイメージ
図-3流域治水型の河川整備のイメージ
 
 

3.流域治水の取組の展開

流域治水は、流域の関係者が協働して、①氾濫をできるだけ防ぐ対策、②被害対象を減少させるための対策、③被害の軽減、早期復旧・復興のための対策を、総合的かつ多層的に取り組むものであり、上で述べた河川の整備つまり河川管理者が行う取組以外の取組も重要です。
 
河川管理者、自治体、下水道管理者等の流域の関係機関が共同して流域治水に取り組む枠組である「特定都市河川浸水被害対策法」が流域治水関連法の一環として令和3年に改正され、特定都市河川に指定する対象の河川が、それまでの都市部の河川から全国の河川に拡大されるとともに、沿川の保水・遊水機能を有する土地の保全や浸水リスクがある地域で住宅や要配慮者施設等の安全性を事前確認する制度が創設されました。
 
法改正以降、奈良県の大和川、広島県の江の川等が特定都市河川に指定され、創設された制度の活用の検討が進められています。
流域における貯留対策やまちづくり・住まい方の工夫の実効性を高める上で重要な特定都市河川法の枠組を活用していくため、全国の一級・二級水系で、指定等のロードマップをつくり、計画的に進めていくこととしています。
 
また、「土地利用や住まい方の工夫」や「防災まちづくり」の検討などの取組を進めるには、地域の水害リスクを分かりやすく示すことが重要です。
国土交通省では、比較的発生頻度が高い降雨規模も含めた複数の降雨規模ごとに作成した浸水想定図(「多段階の浸水想定図」)と、それらを重ね合わせて、浸水範囲と浸水頻度の関係を図示した「水害リスクマップ」の作成・公表を進めており、令和4年12月には、それらの情報を一覧できるポータルサイトを開設しました(図-4)。
 
このほか、水害リスクを考慮した居住誘導や流域で水を貯める・被害を軽減するための様々な取組が進められています。
例えば、居住する地域の水害リスクに応じた火災保険の水災料率の細分化の取組を進めるための検討が金融庁の懇談会で行われ、留意点が示されました。
 
水田に降った雨水をゆっくり排出して浸水被害の防止軽減に寄与する「田んぼダム」の取組の推進にあたり、基礎となる情報や基本的な考え方をとりまとめた手引きが、農林水産省により作成されました。
文部科学省では、自治体が学校施設の水害対策に取り組むための参考情報となる対策事例集を作成、周知しています。
 
図-4 地域への分かりやすり水害リスク情報の提示
図-4 地域への分かりやすり水害リスク情報の提示
 
 

おわりに

気候変動の影響に適応し地域の安全を確保していくため、流域の多様な関係者が協働して治水に取り組む動きやその環境整備が進みつつあります。
河川管理者がその旗振り役となりながら、引き続き流域治水の取組を進めていきたいと考えています。
 
 
 

国土交通省 水管理・国土保全局 河川計画課 河川計画調整室

 
 
【出典】


積算資料公表価格版2023年5月号

積算資料公表価格版5月号

最終更新日:2023-06-23

 

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