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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 水災害対策 > 小規模河川における効果的な氾濫推定のあり方 ~水害リスク情報空白域の解消に向けて~

 

はじめに

近年,水害が激甚化・頻発化している。
洪水時等の的確な避難のためには,日頃より住民の皆さまに防災意識を高めていただくことが必要であり,水害リスクや避難に関する情報を示したハザードマップを周知し,さらに,これを十分に理解していただくことが重要である。
 
洪水ハザードマップに示される洪水浸水想定区域は,従前より水防法に基づき,洪水予報河川や水位周知河川の指定が進められてきた。
しかし,令和元年東日本台風では,洪水予報河川や水位周知河川に指定されておらず,水害リスクが示されていない小規模な河川(以下,「小規模河川」という)で氾濫が発生し,住民が犠牲になる痛ましい被害が発生した。
 
このような小規模河川では,水害リスク情報が十分に把握できていないため,水害リスク情報の空白地帯となっており,ハザードマップ等を確認した住民等に水害リスクに関する誤解を与えるおそれがあるという課題が明らかになった(図-1)。
 

  • 浸水リスク空白域での被害(丸森町の例)
    図-1 浸水リスク空白域での被害(丸森町の例)

  • 1. 従来の施策の課題

    水防法では,洪水時の円滑かつ迅速な避難を確保し,または浸水を防止することにより,水災による被害の軽減を図ることを目的として,洪水予報河川および水位周知河川において,洪水浸水想定区域を指定することとなっており,令和2年1月時点において,国および都道府県が管理する一級河川および二級河川は合わせて約21,000河川存在する。
    このうち,洪水予報河川または水位周知河川に指定されている河川は約2,000河川であり,それ以外の小規模河川については,その多くで水害リスク情報が把握されておらず,水害リスク情報の空白地帯となっている(図-2)。
     
    一方で,洪水浸水想定区域を指定することとなっていない小規模河川の水害リスク情報については,従前より国や都道府県においてさまざまな取組が実施されてきた。
     
    複数の都道府県において,小規模河川についても,洪水予報河川等と同様の手法や,独自に検討した手法を用いて,洪水時に浸水が想定される範囲を把握し周知する取組が行われている。
    そのほか,市町村長が洪水時の円滑かつ迅速な避難の確保が特に必要と認める河川については,過去の降雨により当該河川が氾濫した際の浸水実績等の把握に努めるとともに,これを把握したときは,当該浸水実績等を水害リスク情報として住民等に周知する制度が創設されている。
     
    また,平成30年12月には,国土技術政策総合研究所において,中小河川沿いの河川氾濫について,航空レーザ測量による三次元地形データ(以下,「LPデータ」という)を用いて一次元不等流計算等の簡易な水位計算により概略の浸水範囲を推定する手法と,既存の地形分類図を活用して水害リスク特性を整理する手法の二つの手法が開発されている。
    このうち,LPデータを用いて概略の浸水範囲を推定する手法は,表示方法が既存の浸水想定区域と異なるため,自治体のハザードマップに反映された例はなかったが,利用可能なデータが限られている河川において氾濫による浸水範囲を想定する手法としては有用な手法であった。
     

  • 浸水想定区域の指定状況等
    図-2 浸水想定区域の指定状況等

  • 2. 技術検討会の設立

    これまで都道府県管理河川においては,平成28年の台風第10号等で甚大な被害が発生したことを踏まえて,市町村の役場等の所在地に係る中小河川について,水位周知河川等の指定の促進に努めるよう,国土交通省から都道府県へ要請してきたところである。
    しかし,新たに水位周知河川等に指定する場合には,洪水浸水想定区域の検討に加えて,水位計の新設,水位データの蓄積,洪水特別警戒水位の設定や洪水時の水位情報の発信等,避難のトリガー情報発信に継続的な費用と職員の作業負担を課すことになる。
     
    このような状況を踏まえて,小規模河川において水害リスク情報を把握し,ハザードマップ等を通じて住民等に周知する取組を促進するため,より簡易な水害リスクの評価手法とその周知方法について検討し,それらをとりまとめた手引きを作成することを目的に,「中小河川の水害リスク評価に関する技術検討会」(座長:池内幸司東京大学大学院工学系研究科教授,地球観測データ統融合連携研究機構機構長)を令和2年1月に設置した。
     
    検討会では,氾濫の形態を3種類に分類し,それぞれの形態について,浸水が想定される範囲を推定する手法の案を事務局から示し,それぞれの氾濫形態における解析手法について活発な議論が交わされた。
    令和2年6月には,3回にわたる議論を踏まえて「小規模河川の氾濫推定図作成の手引き」(以下,「手引き」という)をとりまとめた(図-3)。
     

  • 浸水想定区域の指定状況等
    図-3 浸水想定区域の指定状況等

  • 3. 手引きのポイント(氾濫推定図の作成手法)

    本手引きは,小規模河川における水害リスク情報未提供区域の速やかな解消を目的として,既存の縦横断図,平面図等の現地測量データが存在しない河川でも,既存の地形データ(国土地理院5mDEMや航空レーザ測量から得たグランドデータ等)を最大限活用し,河道満杯流量を大きく超える想定最大規模の洪水時に応じた氾濫解析の条件・手法の導入によって,合理的かつ効率的に氾濫推定図を作成する手法を提示するものである。
     
    手引きでは,流下型氾濫,貯留型氾濫,拡散型氾濫の3種類の氾濫形態を示した。
    氾濫形態の分類に当たっては「中小河川洪水浸水想定区域図作成の手引き(第2版)」(平成28年 国土交通省水管理・国土保全局河川環境課水防企画室)における分類を踏襲した。
     
    このうち,流下型氾濫および貯留型氾濫の計算手法は,破堤を考慮しない一次元不等流計算により求めた水位,流量に基づき氾濫範囲および地点ごとの水深を推定するものであり,平面二次元計算を基本としてきた従来の手法と比較して,コストの削減が期待できる。
    一方で,拡散型氾濫の計算については,既存のマニュアルで示している手法等を活用することとした。
     
    なお,手引きで示した無破堤・一次元不等流計算による手法では破堤の影響を考慮していないため,破堤を考慮することで想定される浸水範囲等が大きく異なるような場合の氾濫計算には適さない。
    また,家屋倒壊等氾濫想定区域や浸水継続時間を表示することができないため,これらの情報も併せて表示する必要がある場合には「洪水浸水想定区域図作成マニュアル(第4版)」(平成27年7月 国土交通省水管理・国土保全局河川環境課水防企画室,国土技術政策総合研究所河川研究部水害研究室)に基づく手法で氾濫計算を行うとよい(図-4,5)。
     

  • 手引きのポイント①
    図-4 手引きのポイント①
  • 手引きのポイント②
    図-5 手引きのポイント②

  • 4. 水害リスク空白域解消に向けた今後の展望

    浸水リスク情報の空白域となっている小規模河川において,合理的かつ効率的に氾濫推定図を作成するための手法を検討し,現時点の知見を集約して手引きとしてとりまとめた。
    この手引きを活用し,水害リスク情報の一層の充実を図り,水害時における住民等の避難に役立てることが重要である。
     
    一方で,検討過程において「小規模河川の氾濫は土砂災害を伴って発生する場合が多いため,将来的には土砂の混入も見込んだリスク情報を発信できるように目指すべき」といった今後解決すべき技術的課題も確認された。
    また,今後膨大な数の河川に本手法が適用される中で不測の課題が確認されることも想定される。
    これらの課題については,適用事例の蓄積・分析を通じて引き続き検討が必要である。
     

     
     
     

    国土交通省 水管理・国土保全局 河川環境課 水防企画室 企画専門官
    大吉 雄人

     
     
    【出典】


    積算資料公表価格版2021年5月号


     
     

    最終更新日:2023-07-07

     

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