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国土交通省関東地方整備局 江戸川河川事務所 首都圏外郭放水路管理支所長
大須 栄一

 

1.はじめに

 
首都圏外郭放水路が位置する埼玉県春日部市周辺(中川・綾瀬川流域)は,東京通勤圏内として好立地条件にあり,住宅をはじめとする人口・資産が集中する地域である。しかし,この地域は地盤が低いため,これまで幾度となく広域的な浸水被害を被っていた地域でもある。
 
中川・綾瀬川流域では,ひとたび大雨が降ると慢性的に浸水被害が発生してきたことから,これ
までさまざまな治水施設の整備が行われ浸水被害軽減効果を発揮しているが,本稿では「地下神殿」とも称される世界最大級の地下放水路「首都圏外郭放水路」について紹介する。
 
 

2.流域の概要

 
中川・綾瀬川流域の主流である中川は,大落古利根川(おおおとしふるとねがわ)・元荒川など多くの支川を集めながら埼玉県東部を流下し,最下流で綾瀬川に合流して東京都江戸川区で東京湾に注ぐ流路延長約81km,流域面積約1,000km2の一級河川である。流域は利根川,江戸川,荒川といった大河川に囲まれた,お皿のような低平な地形を有し,河川勾配も1/4,000程度と非常に緩やかなため,水が集まりやすく流れにくい土地柄である(図− 1)。
 

【図−1 中川・綾瀬川流域図・断面図】


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
かつては水田,畑として利用され,地域全体が自然遊水池として遊水機能を有する地域であったが,昭和30年代より下流域から進展してきた都市化の波は,中流域から上流域に向けて進み,特に東京から20〜40km圏域の市街化率は昭和30年初めの頃に比べ約10倍の52%を超え現在も進展している。
 
このため,浸水のおそれがある区域への人口,資産が集中すると同時に,従来流域が有していた保水・遊水機能の減少により流域からの流出量が増大,被害ポテンシャルも拡大し,洪水による浸水被害が増大した地域である(写真− 1)。
 

【写真−1 平成3(1991)年の浸水状況(埼玉県春日部市)】


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

3..首都圏外郭放水路の概要

(1)総合的な治水対策

中川・綾瀬川流域においては,急速に進む都市化による浸水被害などの増大に対応すべく,治水整備を鋭意推進していたが,市街化の進展に伴う洪水流出量の増大などにより常に水害の危険に脅かされていた。
 
このような状況に対処するため,国,都県,関係市町村を含めた「中川・綾瀬川流域総合治水対策協議会」を設置し,流域が一体となって取り組むこととして,治水施設の整備を早急に実施するとともに,流域開発による洪水流出量などを極力抑制し,流域が従前より有していた保水・遊水機能の維持・増大を図るものとした「中川・綾瀬川流域整備計画」を昭和58(1983)年に策定した。なお,代表的な治水対策としては綾瀬川放水路,三郷放水路の整備などが挙げられる。
 

(2)首都圏外郭放水路の経緯

上記,放水路整備などによる治水対策の実施により浸水被害は軽減したが,その後続いた急激な都市化の進行もあり,まだまだ十分なものとはいえなかった。首都圏外郭放水路は,このような低平な流域の抜本対策,緊急的なさらなる浸水対策として昭和60年代に基本構想が策定された。
 
平成4(1992)年4月には本格的な調査に着手し,平成5(1993)年1月に都市計画決定を受け用地買収に着手し,同年3月には工事着手した。その後,平成14(2002)年6月には江戸川から倉松川までの3.3km区間において工事が終了し,早期に効果を出すことから部分的な供用が開始された。なお,部分供用後も連続した工事を実施し,平成18(2006)年6月には,大落古利根川までの全長約6.3kmの工事が完了し全川での供用を開始した。
 

(3)首都圏外郭放水路の施設概要

首都圏外郭放水路は,中川,倉松川,大落古利根川など中川・綾瀬川流域を流れる中小河川の洪水を,埼玉県春日部市を通る国道16号の地下約50mに建設された地下放水路に取り込み,これを江戸川へ排水することによって,流域の浸水被害を大幅に軽減することを目的とした治水施設である。
 
施設は大きく分けて下記の四つで構成されている(図− 2)。
 

【図−2 首都圏外郭放水路全体イメージ図】


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
1)流入施設
各河川の堤防に設けられた「越流堤」により,河川水位が上昇し越流堤を超えると自然に洪水を取り入れる施設5箇所(写真−2)。
 

【写真−2 流入施設(倉松川流入施設)】


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
2)立  坑
洪水を地下トンネルへ流入させる立坑4箇所,トンネルから排水機場へ洪水を導く立坑1箇所の計5箇所。建設時はシールドマシンの発進・到達や資機材の搬入・搬出坑として使用。
【第3立坑:直径約30m,深さ約70m】(写真− 3)
 

【写真−3 立坑(第3立坑)】


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
3)トンネル
地下へ取り込まれた洪水を流すシールドトンネル。
【全長約6.3km,直径10m】(写真− 4)
 

【写真−4 トンネル(第4工区トンネル)】


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
4)排水施設
流れてきた洪水を江戸川へと排水するための調圧水槽,排水機場,排水樋管からなる排水施設。
【排水ポンプ能力200m3/s】(写真− 5)
 

【写真−5 排水施設全景(調圧水槽,排水機場,排水樋管)】


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

(4)首都圏外郭放水路の特徴

首都圏外郭放水路における最大の特徴は,地下の放水路としたことである。一般的に放水路を地下に設置することはまれであり,当事務所が所管する綾瀬川放水路,三郷放水路も地上に開水路として設置されている。一方,平成4(1992)年度から事業化された首都圏外郭放水路では,すでに市街化が進んだ地域に建設するものであり,家屋移転を伴う用地買収については,難航が予想される状況であり,施設完成までに長期間を要することが想定された。
 
また,放水路を建設することにより既成市街地を分断することとなり,地域に悪影響を及ぼすことが懸念された。そこで,計画ルートに近接していた国道16号の地下を利用したシールドトンネル
による放水路を建設することとしたものである。これにより,短期間で施設が完成し早期の治水効果を発揮するとともに,放水路建設に伴う地域に与える環境の変化を最小限に抑えることができた。
 
 

4.首都圏外郭放水路の効果

 
首都圏外郭放水路は平成14(2002)年の供用開始から,これまでに100回(平成27(2015)年10月現在)稼動した。年平均で約7回を超える稼動状況である。また,今年9月の台風17 号・18号では約1,900万m3,東京ドーム約15杯分もの過去最大の排水量を記録し,地域の浸水被害軽減を図るとともに流入河川の水位低減に努めたところである(図− 3,写真− 6)。
 

【図−3 稼働状況】


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

【写真−6 浸水被害軽減効果(埼玉県幸手市)】


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
また,昭和55(1980)年,平成2(1990)年,平成12(2000)年を初年とする10年間ごとに,48時間における流域平均雨量100mm以上の出水を対象に浸水戸数を集計すると,1980年代に8万4,014戸であった浸水戸数は,各種放水路や排水機場等の治水施設の整備と総合的な治水対策の推進により,2000年代には5,745戸にまで減少し1980年代の1/10以下となり着実に効果を上げている(図−4)。
 

【図−4 浸水戸数と流域の世帯数の推移】


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
地元からは,浸水被害の軽減効果への感謝と今後の期待など,多くの言葉をいただいている。さらに,埼玉県春日部市では「水害に強い都市基盤“首都圏外郭放水路”」を持つ地域であることをパンフレットやホームページなどで広報し,企業誘致に取り組んでいる。
 
この結果,平成14(2002)年以降,28件の企業が進出し新たな雇用が生まれさらに,経済活動も活性化した。そして進出した企業からは「世界最大級の地下放水路である首都圏外郭放水路が通っているため,水害で倉庫が水浸するのを防ぎ商品を守ることができる」など首都圏外郭放水路の効果を実感する声が寄せられている(図− 5)。
 

【図−5 春日部市HPより】


 
 

5.首都圏外郭放水路の広報

 
首都圏外郭放水路の多くは地下にあり,普段人目に触れることはなく,洪水の危機に備えて,じっと地上の生活を見守り続ける施設である。このことから,施設の機能や役割,また,治水事業の必要性について理解を深めるため,建設当時よりさまざまな広報活動やイベントなどに努めており,その結果,平成26(2014)年度は年間約3万5,000人を超える方々が訪れる施設となった。現在実施している二つの見学会について紹介する。
 
「一般見学会」は毎週月曜日から金曜日に1 日3回(夏休みは1 日4 回),予約制で施設内の見学を実施している。見学コースは龍Q 館(展示室)にてビデオや模型を使った概要説明を行った後,116段の階段を降りて巨大地下空間に重さ約500tもある柱が59本立ち並ぶ調圧水槽(地下神殿)内を案内している。また,学校での社会科見学としても多く利用されている(写真− 7)。
 

【写真−7 調圧水槽(見学者からは「地下神殿」と呼ばれている)】


 
 
次に「特別見学会」は,毎年11月18日の「土木の日」前後の週末に行う事前予約不要な見学会で,一般見学会で案内する施設のほか,特別見学会のみ公開しているガスタービンエンジン4基を備えた「ポンプ室」も見学することができる。さらにこの見学会は,春日部市,地元市民団体との共同開催で各団体による街をあげてのイベントや物産市など多くの催しが行われる。平成26(2014)年度は約1万3,000人の方が来場された。
 
各種見学会では参加者を対象にアンケートを実施している。外郭放水路の必要性については,ほとんどの方が「よくわかった」と回答しており,自由回答では「地下に巨大な治水施設があることや巨大な施設に驚いた」「日本の技術力の素晴らしさに感動した」,「知人にも紹介したい」など,驚きや感嘆の声にあふれている。最近では海外からの見学者も増加傾向にあり,地域別でみるとアジア,アメリカ,ヨーロッパなどから見学に訪れている。
 
その他,新聞,雑誌,テレビ等の取材撮影も多く,年間を通して各メディアにて紹介されており,今の見学人気の一翼を担っているものと思われる。
 
 

6.おわりに

 
首都圏外郭放水路は,近年頻発する都市型水害に対応する治水対策として,地下空間を利用した巨大施設である。限られた都市空間の中で行う治水対策として地下を利用することは,事業効果の早期発現はもとより,地域分断や現在および将来の土地利用に影響を与えることがなく,計画どおりの効果を発揮し,将来にわたって流域住民より期待され続ける施設であると思われる。今後,必要となる補修・補強を含めた維持管理を行い,災害に備え,地域の安全・安心な社会に向けて貢献していくものである。
 
さらに,直接的な治水効果と地域の産業,経済の向上といったストック効果を含めたさまざまな効果を首都圏外郭放水路を通じて発信していきたい。
 
 
 
【出典】


土木施工単価2016冬号

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 

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