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はじめに

【図−1 東京港コンテナ貨物取扱量の推移】


東京港におけるコンテナ貨物の取扱量は堅調に増加している(図−1)。今後のさらなるコンテナ貨物量の増加に対応すべく,中央防波堤外側地区に新たな国際海上コンテナターミナルの整備を進めている。
 

この間,首都高速中央環状線や東京港トンネル(国道357号),東京ゲートブリッジといった周辺道路の整備によって後背圏とのアクセスは改善されている。しかし,有明・青海(あおみ)〜中央防波堤地区を結ぶアクセスは青海縦貫線(第二航路海底トンネル)のみとなっている(図−2)。


【図−2 臨港道路南北線位置図】




【写真−1 第二航路海底トンネル渋滞状況(中央防波堤地区出口付近)】


このような中で,青海縦貫線ではコンテナ車両等の集中により顕著な交通渋滞が発生しており,今後の国際海上コンテナターミナルの整備に伴う交通量の増加でさらなる渋滞が予想されている(写真−1)。
 
これからの東京港臨海部の港湾物流機能の確保を目指し,有明地区と中央防波堤地区を結ぶ新たな物流ルートとして東京港臨港道路南北線整備事業が計画された。


 

東京港臨港道路南北線整備事業の概要と特徴

東京港臨港道路南北線整備事業は,有明の10号地その2地区と中央防波堤外側地区を結ぶ事業で,2カ所の海上部分のうち,国土交通省関東地方整備局が施工する臨港道路南北線(以下,「海の森トンネル」)と,東京都が施工する東西水路横断橋(以下,「海の森大橋」延長約250m)である。
 
海の森トンネルの主な構成は,海上部(沈埋トンネル)約930m,アプローチ部・地上部(開削トンネル等)約1,500m,接続部(ニューマチックケーソン)35m×2カ所の総延長約2,500mとなっている(図−3)。
 
各施工部の工法の選定に当たっては,本施工場所の立地条件に大きく左右された。まず,海上部は,東京港第二航路が定期フェリーの重要な航行ルートになっていること,近接する羽田空港の制限区域にかかることから,橋梁は不採用となりトンネル構造とした。また,有明地区および中央防波堤地区は,すでに港湾関連用地として土地利用が過密であるため非常に狭い施工エリアとなる。よって,トンネル工法の中でもアプローチ部が深くかつ長く必要とされるシールド工法は物理的に困難であるため,沈埋工法を採用した。
 
そして,本事業の最大の特徴は,今後の交通量の増加に適切に対応することに加え,2020年に予定されていた東京2020 オリンピック・パラリンピック競技大会の期間中も円滑な港湾物流を確保できるよう,2016年度の着工から完成まで約4年という非常に限られた工事期間となっていたことである。これまで同規模の沈埋トンネルの工期が約8〜10年を要していたことを考えると,いかに工期を短縮して工事を進めるかが最大の課題であった。
 

【図−3 「海の森トンネル」の概要図】




 

沈埋工法における工程短縮と技術

【図−4 沈埋函施工手順】



沈埋工法はトンネル部となる場所の浚渫,基礎マウンドの築造,沈埋函の製作・沈設(据付),埋戻しの手順で行われる(図−4)。
 
これらを約4年の工期から逆算すると,7函の沈埋函の製作を約2年半,さらに沈設を約1年弱で終えなければならず,過去の工事実績である1年1函の製作・沈設のペースからすると,かなりのスピードで工事を進めていかなければならなかった。
 
それを実現するために,まず沈埋函の製作においては工期が最も短い鋼殻内部にコンクリートを充填するフルサンドイッチ工法を採用したほか,沈埋函1函の長さが国内最長となる134mとした(図−5)。
フルサンドイッチ工法とは,函体外面・内面すべてを鋼殻で造り,鋼殻の間にコンクリートを打設して一体にする方法である(図−6)。ドックで鋼殻の大組立が完了した時点で出渠できるため,先行函のコンクリート打設と並行して後続函の鋼殻の大組立を同時に行うことができる。
 

【図−5 沈埋函規模のイメージ】

【図−6 沈埋函(フルサンドイッチ工法)の構造】


沈埋函の鋼殻製作においては,鋼殻本体を約80ブロックに分割し,全国16カ所の工場で先行してブロックの製作を同時並行で行い,それらを東京湾内の2カ所の造船ドックに集約して大組立を行うことで工程短縮を図った(写真−2)。
 
また,鋼殻内部へのコンクリート打設・充填は,海上で行う浮遊打設工法を採用し,東京港と千葉港の岸壁で実施することにより(写真−3),後続函の鋼殻製作のため造船ドックを空けた。さらにその浮遊打設する岸壁も後続函で使用するために,一部沈埋函を海中仮置きすることで工程短縮を図った。
 

【写真−2 鋼殻製作状況】

【写真−3 浮遊打設状況】



2018年7月からの沈設工程に間に合うように製作された沈埋函7函は,134mの延長に対してわずか21mmの許容誤差内に仕上げられた。
 
沈埋函の沈設は,これまでの実績からウインチタワー1基,沈設ポンツーン2基のワンタワーポンツーン方式を採用,各種沈設装置を艤装した後,沈設場所に曳航し沈埋函の内部に設けられたバラストタンクに海水を注水し自重を加え,鉛直・水平方向の位置を修正しながら沈降,前進を繰り返し沈設する。沈埋函が基礎マウンドに着底した後,既設函の連結ジャッキを新設函に挿入し,新設函を引き寄せて沈埋函の両端面を密着させる。既設沈埋函と新設沈埋函の間の海水を排水することにより,水圧により沈埋函を接合(水圧接合)させるものである。
 
また,最終函についてはキーエレメント工法(台形型のはめ込み函)を採用することで工程短縮を図った(写真−4,図−7)。キーエレメント工法は,2007年に初めて適用された新しい技術であり,海の森トンネルが国内4例目である。従来工法では,全函沈設後の測量結果を踏まえて,最終継手工という,くさび型のブロックの長さを確定し製作していたが,今回は,最終函を長めに製作し,それまでの沈埋函の設置状況を確認・計測後,余長分を切断することで調整し,工程短縮を図った。
 

【写真−4 沈埋函沈設状況(最終6号函)】

【図−7 キーエレメント工法概念図】


沈設工程は海象条件(風浪)に大きく左右されるため,曳航〜沈設〜艤装品撤去まで連続して1週間程度,好天が続く必要があり,たびたび沈設日が延期された。しかし,各受注者の技術力や努力に加え,関係機関との調整・協力によって2018年7月26日の1号函沈設から,2019年7月6日の最終函沈設まで約1年弱,ほぼ当初の予定どおりの工程で全7函を無事沈設することができた。
 
さらに,沈設精度の面では,全函の計画法線からのずれの許容値は±75mm,また,最終函の設置に許された許容値は法線方向で±50mm,延長方向で±120mmであった。このミリ単位での高精度な沈設を実現するため,沈設を実施する各受注者と発注者が「沈設協議会」を設置して,基準値をニューマチックケーソンの接続部の出来型(位置・角度)をベースに定めるとともに,各函の沈設ごとに据付精度を確認しながら,最終函の沈埋函製作延長にも反映して精度を高めてきた。
 
しかし,5号函を設置した段階で各函の誤差が累積し,7号函で想定されているずれと当該函との相対的な法線ずれ量が許容値50mmを超える値となったため,国内では初めての外付けの方向修正ジャッキを用いた工法を採用し,わずか1日で方向修正を行った。その結果,最終函の沈設時には法線方向で17mm,延長方向で26mmの誤差に抑えられ,限られた工期の中で確実に沈設精度を確保することができた(図−8)。
 

【図−8 各函の沈設状況(法線ずれ)】




沈埋工法を採用した海底トンネルは,国内で30事例ほどあり,直近では約10年前の「那覇港臨港道路(沖縄県)」「新若戸道路(北九州市)」「大阪夢咲トンネル(大阪市)」となるが,その当時の技術に加え,新たな技術・工法も採用しながら遂行したことで,このような施工スピードと高精度での沈設を成し遂げることができた。
 
 
 

工事実施におけるその他課題

【写真−5 航行安全情報管理室の様子】


臨港道路南北線は東京港第二航路をまたぐかたちの計画となっているが,同航路が定期フェリーの重要な航行ルートになっていることから,船社や海上保安部との密接な調整が必要であった。そのため「船舶航行安全対策検討委員会」を設置し,港湾利用者や有識者を交えながら工事の情報を幅広く周知するとともに,航行ルートの変更や航泊禁止区域の設定などについて,了解していただいた。
 
また,「航行安全情報管理室」を設置し,24時間監視のもとで,工事船舶の情報を提供しながら,工事期間中の安全を図った(写真−5)。
 

陸上部の施工でも多くの課題が発生した。その1つが,陸上部の掘削開始直後,図面にも残っていない古い護岸と思われるコンクリートの残骸や松杭等の支障物が地中から大量に出現し(写真−6),これら支障物の撤去に多くの手間と時間がとられた。これは,2016年度の着工早々のことであり,当初の工程より約半年程度の工程遅延が想定されたが,オールケーシング工法による撤去作業を夜間も実施することや,工種全体にわたってのさまざまな工程短縮の取組を受注者協力の下で実施し,工程遅延を挽回することができた。
 
2019年7月,最終函の水圧接合が完了し,全函貫通した。その後も海上部(沈埋函内),アプローチ部,接続部(立坑)の内部構築,設備工および舗装工が厳しい工程のもと行われた。過去の事業では,最終函沈設から供用まで約2年の工程で行われてきたが,本事業ではわずか9カ月の工期で工事を進めなければならず,各工事の作業動線が輻輳(ふくそう)する中で全受注者と一丸になり取り組んだ(写真−7)。
 

【写真−6 陸上部からの支障物】

【写真−7 沈埋函内での作業状況(設備工)】


おわりに

2020年6月20日「東京港海の森トンネル」は「海の森大橋」とともに開通した(写真−8〜13)。
 
当日は12時に開通区間の両端となる中央防波堤外側地区および有明の10号地その2地区側の双方が同時に一般開放され,警視庁による先導に続き,一般車両が通行を始めた。中央防波堤外側コンテナふ頭方面へ向かう南行き線の最初の車列の中にはコンテナ車両も見受けられた。
 
この開通により,副都心(お台場)に流入していた都市交通と港湾物流交通が分散され,臨海副都心の交通混雑・沿道環境が改善されるとともに,物流機能が強化され,国際競争力の向上に大きく貢献することが期待される。
 

【写真−8 アプローチ部(10号地その2地区側)】

【写真−11 開通後の車両通行の様子(中央防波堤側)】

【写真−9 沈埋トンネル区間】

【写真−12 海の森トンネル出入口(中央防波堤側)】

【写真−10 沈埋トンネル自転車・歩道部】

【写真−13 海の森大橋】



 

国土交通省 関東地方整備局 東京港湾事務所

 
 
 
【出典】


土木施工単価2021冬号



 

 

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