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ホーム > 建設情報クリップ > 土木施工単価 > 地域が主体となった「立野ダムインフラツアー」

1. はじめに

立野ダムは,県都の熊本市を流れる白川沿川の洪水被害を防ぐことを目的とした現在建設中の流水型ダムである。
また,立野ダムを建設している立野峡谷周辺は,国の天然記念物である北向谷原始林や,世界有数の巨大なカルデラを中心とした阿蘇ジオパーク,溶岩が冷却してできた柱状節理等豊富な自然環境,観光資源が存在している地域でもある。
 
そこで,「阿蘇・立野峡谷」のもつ観光資源と日本最大規模の流水型ダム建設事業を連動させた,新たな観光商品およびインフラツアーなどの商品化により阿蘇観光の幅を広げ,より多くの観光客を南阿蘇村に誘引し,地域振興に資することを目的とした「阿蘇・立野峡谷」ツーリズム推進協議会(以下,推進協議会)が設立された。
以降推進協議会は,継続的な取り組みを行い,ダムを利活用したさまざまな機会を通じて,事業の理解促進を図っている。

 
 

2. 地域が主体となったインフラツアーの仕組みづくり

推進協議会は,2019年度から今後のインフラツアーの継続実施を見据え,地域が主体となったインフラツアーの仕組みづくりを目標にし,見どころの多いダム工事中(写真-1)に以下の取り組みを行った。

現在の立野ダム建設工事進捗状況

【写真-1 現在の立野ダム建設工事進捗状況】


(1)阿蘇の自然とダム工事を見学するインフラツアー開発

推進協議会は,インフラツアーの魅力を最大限に引き出すための取り組みとして,立野ダムを建設している阿蘇カルデラの成り立ちや自然環境,普段は目にする機会のないダム工事現場見学などの非日常を体験するインフラツアーの開発を行った。
 
また,立野ダム工事事務所は,インフラツアー開発の取り組みの一環として,2019年9月にダム現場近くの旧立野小学校の一室に「あそ立野ダム広報室(写真-2)」をオープンし,洪水が起こりやすい地形的要因の一つである阿蘇カルデラの成り立ちや過去の水害,立野ダムを建設する目的などを学べる場を整備した。

あそ立野ダム広報室

【写真-2 あそ立野ダム広報室】


(2)ダムを説明できる地元ダムガイド育成

推進協議会は,地域が主体となったインフラツアーの仕組みづくりを行うために,ダムの説明を行うダムガイドの育成を行うこととした。
そこで立野ダム工事事務所は,南阿蘇村在住の阿蘇ジオパークガイドの方々を対象に,インフラツアーや治水,ダム建設の目的や工事の流れなどを学ぶ講義と現地研修を行った。
それらの研修を修了した方々に南阿蘇村長が「阿蘇立野峡谷(立野ダム)ガイド(以下,ダムガイド)」として認定した。
また,ダム工事現場は日々変化し続けるため,立野ダム工事事務所は定期的にダムガイド研修を実施し,現在の工事の進捗状況についてダムガイドと情報共有を行っている(写真-3)。

定期的なダムガイド研修

【写真-3 定期的なダムガイド研修】


(3)インフラツアーの運用体制の構築

推進協議会は,地域が主体となったインフラツアーの仕組みづくりを行うために,インフラツアーの運用体制の構築を行うこととした。
そこで,推進協議会の構成員である(一社)みなみあそ観光局がインフラツアーの運営体制構築・価格設定・営業活動を担うことで,無理なく継続できる体制の構築ができた。
インフラツアーでは,立野ダム現場内の説明を南阿蘇村から認定を受けたダムガイドが行っている。
また,(一社)みなみあそ観光局は,インフラツアーでガイドを行ったダムガイドに対してガイド料を支払い,有償ガイドとしてやりがいを確保しながらインフラツアーの質の向上を図っている(図-1)。

定期的なダムガイド研修

【図-1 現在の立野ダムインフラツアーの体制図】



 

3. 現在のインフラツアーの取り組み状況

現在のインフラツアーは,以下の取り組みを中心に行っている。

 
 

(1)民間旅行業者主催のインフラツアー

インフラツアーの運用体制の構築以降,立野ダム工事現場見学をルートに含んだインフラツアーが民間旅行会社より販売された。
これまで,9回民間旅行業者主催のインフラツアーが催行され,258名の参加があった(写真-4)。

民間旅行会社主催のインフラツアー

【写真-4 民間旅行会社主催のインフラツアー】


(2)国立阿蘇青少年交流の家と連携した防災学習プログラム

熊本県内の小・中学校をはじめとした学校や各種団体からの研修機関である国立阿蘇青少年交流の家は,推進協議会と連携して,2021年4月から「防災学習プログラム」の販売を開始した。
本プログラムは,あそ立野ダム広報室や建設中の立野ダム建設現場の見学を通じて,立野ダム建設の目的や水防災について学習することができる。
また,防災学習プログラムの中で,布田川断層・新阿蘇大橋・南阿蘇村内震災遺構・阿蘇火山博物館の見学も可能であり,阿蘇の地質や過去の災害からの教訓などについても学習することができるため,地域の特徴を活かしたプログラム内容となっている。
これまで,7回防災学習プログラムが催行され,814名の参加があった(写真-5)。
国立阿蘇青少年交流の家からは,「学校の先生達にとってもすごく学びの機会があって非常にニーズのある内容である」と意見を頂いた。
参加した先生や生徒達も防災学習に関して非常に高い興味・関心を示しており,来年度以降もプログラム受講に期待ができる結果となった(写真-6)。

防災学習プログラム

【写真-5 防災学習プログラム】

参加者からのお礼状

【写真-6 参加者からのお礼状】


(3)(一社)みなみあそ観光局販売「今しか見れない立野ダム工事現場見学プログラム」

(一社)みなみあそ観光局は,「今しか見れない立野ダム工事現場見学プログラム」の販売を行っており,団体旅行及び視察旅行向けのプログラムとして受け入れを行っている(写真-7)。
これまで,2回プログラムが催行され,83名の参加があった。

今しか見れない立野ダム工事現場見学プログラム

【写真-7 今しか見れない立野ダム工事現場見学プログラム】


(4)ダムガイド主催の見学ツアー

これまでのダムガイド活動をとおして,ダムガイドが所属する地元団体が主体的に立野ダム見学をルートに含んだツアーを実施するきっかけとなった。
これまで,ダムガイド主催の見学ツアーが2回催行され,67名の参加があった(写真-8)。

ダムガイド主催の見学ツアー

【写真-8 ダムガイド主催の見学ツアー】



 

4. 今後の取り組みについて

これまでの取り組みを通して,ダム見学だけでなく周辺の観光資源も活用することで,インフラツアーが防災学習の側面をもつようになった。
近年では,全国的に災害が多く発生しており,特に熊本県では「平成28年(2016年)熊本地震」や「令和2年7月豪雨」が発生していることから防災学習に関するニーズは非常に高くなっている。
こうした取り組みは地域特有のツアーであり,ダム完成後も継続性に期待できるものだと考えている。
今後は,ダムの効果を受けるダム下流域の方々を中心とした多くの方々に防災について知っていただけるよう,インフラツアーの広報活動に努めていきたい。
 
また,現在,立野ダム建設工事はコンクリート打設を実施しており,2023年中の事業完了に向けて工事を進めている(写真-9)。
今後は,ダムの完成を見据え,新たな魅力を発掘したインフラツアーを開発していく必要がある。
そのために,推進協議会で検討を進めていきたい。

コンクリート打設の様子

【写真-9 コンクリート打設の様子】



 

5. おわりに

これまでの推進協議会の取り組みで,ダム完成後も(一社)みなみあそ観光局を中心とした地域が主体となったインフラツアーの仕組みづくりを行うことができた。
また,2021年度には(一社)みなみあそ観光局が実施している「立野ダムインフラツアー」の地元密着の活動・自立運営の姿勢が評価され,地域づくりの優れた取り組みを表彰する「手づくり郷土賞」に国土交通大臣より選定された(写真-10)。
このことは,地域が主体となったインフラツアーの仕組みづくりについて,推進協議会が検討してきた結果であると考える。
今後も地域が主体となったインフラツアーをきっかけに,さらなる地域の活性化に繋がるよう努めていきたい。


(参考)みなみあそ info
(HP)https://minamiaso.info

令和3年度「手づくり郷土賞」国土交通大臣認定証伝達式

【写真-10 令和3年度「手づくり郷土賞」国土交通大臣認定証伝達式】



 

 
 

国土交通省 九州地方整備局 立野ダム工事事務所

 
 
 
【出典】


土木施工単価2022年秋号
土木施工単価2022年秋号


 
 

最終更新日:2023-02-27

 

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