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ホーム > 建設情報クリップ > 建築施工単価 > CLT関連告示と今後のCLT活用に向けて

1. はじめに

CLT はCross Laminated Timber(クロス・ラミネイティッド・ティンバー)の略称で,ひき板(ラミナ)を並べた層を,板の方向が層ごとに直交するように重ねて接着した大版のパネルを示す用語である(図- 1)。
 

【図-1 CLTのイメージ】




 
CLT は1990年代の中頃からオーストリアを中心としてヨーロッパで開発,普及が進められてきた。約20年前に誕生した新たな木質の構造材である。
 
2016 年4 月,国土交通省よりCLTを用いた建築物の一般的な設計法などに関して,建築基準法に基づく告示が公布・施行された。これまではCLTを利用する建物ごとに高度な解析により大臣認定を取得する必要があったが,この告示によりCLTを用いた建築物設計の容易性が拡大した。現在,具体的なCLT利用の動きが活発化し始めている。林野庁のCLTを活用した建物の設計や建設に対しての補助事業※ 1)では,約20件が採択され,取り組みが進行中である。
 
地方創生の観点からも注目されている。2015年8月には高知県 尾﨑正直県知事と,岡山県真庭市 太田昇市長が発起人となり「CLTで地方創生を実現する首長連合」(写真- 1)が,今年5月には自民党有志議員による「CLTで地方創生を実現する議員連盟」(会長:石破茂地方創生担当大臣(当時))が設立された。
 

【写真-1 「CLTで地方創生を実現する首長連合」設立(2015年8月14日)】




 
 
一方,海外では住宅への利用だけでなく中層建物や,中・大規模建築に利用されており,木材利用の可能性を広げている。新たな木材利用創出のためのCLT利用拡大への期待は大きい。CLTは国産材を中心に研究開発が進んでおり,地方にある木材資源を使い地方発の産業を生み出したいとの思いが関係者の意欲を向上させている。
 


 
※1) 木造振興(株)と(公財)日本住宅・木材技術センターによる「平成27年度 CLTを活用した建築物の実証事業」
   木造振興(株)と(公財)日本住宅・木材技術センターによる「平成28年度 CLTを活用した先駆的な建築物の建設等支援事業」
 
 

2. これまでの取り組み

日本においてCLTが知られるきっかけとなったのは,2007年に行われたイタリアのチームによるE‐ディフェンス(防災科学研究所,兵庫県三木市)での7階建て建物の震動台実験であろう。阪神・淡路大震災の揺れを再現した地震波などに対しても倒壊せず,CLTによる中層建物の可能性を広く示すものとなった。
 
CLTを利用するための日本における本格的な取り組みは,2011年頃よりスタートした。CLTの強度性能などに関する各種実験は, 国立研究開発法人森林総合研究所や国立研究開発法人建築研究所などの機関において取り組まれ,CLTについてのJAS(日本農林規格)が2013年12月に制定された。また,民間の企業などにおいても,部材性能・構造性能・防耐火性能の把握を目的として実験や検討が並行して進められてきた。
 
 

3. CLT関連告示

先述のとおり,CLT利用の普及を実現するための実験や検討が行われた結果として,2016年3月31 日と4 月1 日にCLTを用いた一般的な設計法,材料の品質および強度,燃えしろ設計の三要素について告示が施行された。
 
CLTパネル工法の設計法を確立する実験や検討は,2011年より足かけ5年間にわたり継続して進められてきた。推進された事業※ 2)の中には国産のスギCLTパネルを用いた5階建て震動台実験なども含まれている。5年間に得られた多くの成果が告示に反映されている。
 
CLTの製品・製造規格となるJASの工場認定については,2016年5月時点で,銘建工業株式会社(岡山),山佐木材株式会社(鹿児島),協同組合レングス(鳥取),ウッドエナジー協同組合(宮崎),西北プライウッド株式会社(宮城)の5社が取得している。近いうちに5社以外にもあと数工場がJASを取得する見込みである。銘建工業株式会社(岡山)においてCLT専用工場も今年4月に竣工しており,供給体制は整いつつある。新たに設置された製造ラインでは,3×12mの大版のCLTパネルが製造できるようになった(写真-2)。
 

【写真-2 大版のCLTパネル】




 
 


 
※ 2) (一社)日本CLT協会と(一社)木を活かす建築推進協議会と(株)日本システム設計による「平成26 年 CLT
を用いた木造建築基準の高度化推進事業」ほか
 

3.1 CLTパネル工法の構造の考え方

今回の告示で示された構造の考え方は従来の木造とは異なる(図- 2)。
 

【図―2 CLTパネル工法の構造の考え方】




 
 
従来の木造では鉛直力を負担する柱・梁と,水平力を負担するすじかいや構造用合板などが役割分担をしている。大地震時など大きな水平力がかかる終局時の破壊モードについては,すじかいや構造用合板が耐力機能を失った後,柱・梁とこれらの接合部が破壊する。
 
これに対しCLT壁パネルは鉛直力と水平力の双方を負担し,接合部やCLT壁パネルの破壊を避けるため,CLT壁パネルの浮き上がりを許容している。引張金物に取り付けるボルトは終局耐力時,1階壁脚部は4cm以上(40cm以上のボルトで10%),ほかは2cm以上(20cm以上のボルトで10%以上)伸び,接合部に靭性がある。
 
 

3.2 CLTパネル工法の構造計算ルート

告示で示された,耐力壁の構成(架構形式)は「小幅パネル架構」「大版パネル架構①」「大版パネル架構②」の3種類である(図- 3~ 6)。
 

【図-3 構造計算のルート・架構タイプ】




 



 
 
保有水平耐力計算(ルート3)については構造特性係数Ds(建物の変形能力を数値化したもので,変形能力が低いものほど数値が高くなる)が架構形式,耐力壁の最大長さにより異なり,表-1の値となる。
 

【表-1 構造特性係数Ds】




 
靭性の乏しい架構は高いDsが設定され,壁量は増加する。規定を超えた設計を行う場合Ds は0.75以上となる。許容応力度等計算(ルート2)についても,考え方は同じで,地震時応力に乗じる割り増し係数が設定され表- 2の値となる。
 

【表-2 地震時応力の割増係数】




 
許容応力度計算(ルート1)については,耐力壁の幅は90cm以上2m以下,架構形式も「小幅パネル架構」「大版パネル架構①」の2種類に限定し,靭性に乏しい架構は使えない。
 
 

3.3 CLT 材料の品質および強度

CLTの材料としての品質を確保するため,基本的にはJAS に適合するものを使用する。また,これまでの実験結果をもとにJAS規定が定められ,構造計算に用いる材料の強度も定められた。
 
今回の告示では,CLTパネル工法として利用する場合,CLTのラミナ厚さが24 ~36mmに限られている。ちなみに告示上でのCLTパネル工法の定義は「CLTを用いたパネルを水平力および鉛直力を負担する壁として設ける工法」である。
 
CLTパネル工法の定義で樹種については,スギだけでなくほかの樹種を利用することも可能である。ただしスギより強い強度等級に対する基準強度は,現在進行している実験結果がまとまった後の告示改正になる。
 
 

3.4 燃えしろ設計

建築基準法では,建築物の立地,規模,用途に応じて,防火上で求められる性能が異なっている。今回の告示に基づく部材を用いて構造計算を行うことにより,準耐火構造で建築可能な3階建て以下の建物については,せっこうボードなどの耐火被覆をせず現し(見える状態)でCLTが利用できるようになった。
 
ラミナの厚さと接着剤の種類によって必要となる燃えしろ寸法が定められており,例えば1時間準耐火構造の耐力壁に用いる場合,接着剤がフェノール樹脂等の場合で45mm(ラミナ厚12mm以上),接着剤がフェノール樹脂等以外では60mm(ラミナ厚21mm以上)の燃えしろ寸法が必要となる。
 
 

4. おわりに

日本CLT協会では公益財団法人日本住宅・木材技術センター(住木センター)と協力し今年6月末からCLT関連告示の解説書を発行,講習会を実施している。さらに,実際の建物の設計や施工の際に手元に置いて参照できる「設計・施工マニュアル」についても2016年10月に発行すべく,住木センターと現在作業を進めている。それに併わせて講習会を開催する予定である。
 
CLTについてはまだ一般の方の認知度が低いのが現状である。まず多くの方に知ってもらうために,一般の方に向けたアイディアコンテストの開催やホームページなどを通じた積極的な情報発信,セミナーの開催,会員向けには海外のCLT先進地視察やより専門的なセミナーの開催などを続けていく。
 
CLTは新しい材料であり,利用方法にはさまざまな可能性を秘めた材料・工法である。日本での木造の中層建築を目指すことももちろんであるが,多くの方からのさまざまな発想を取り入れながら,CLT の普及に努めていきたい。
 


 
お問い合わせ先
一般社団法人 日本CLT 協会
TEL:03-5825-4774
URL:http://clta.jp
 
 

一般社団法人 日本CLT協会       
業務推進部 次長 
有賀 康治

 
 
 
【出典】


建築施工単価2016秋号

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

最終更新日:2017-02-07

 

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