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ホーム > 建設情報クリップ > 建築施工単価 > 完成した石垣市役所新庁舎 〜石垣島の原風景を目指して〜

1.はじめに

旧石垣市役所庁舎は昭和45年に建築され,50年以上にわたり行政機能として市の中心部にてその役割を担ってきましたが,施設の老朽化や狭隘(きょうあい)化,バリアフリーへの対応不足等多くの課題を抱えていました。
また,東日本大震災を教訓として,防災・減災のために安全・安心の確保に資する災害拠点施設が求められていました。
 
平成28年2月,新庁舎の建設地を決定する住民投票が実施され,旧石垣空港跡地の高台へと移転することが決定しました。その後,基本計画を策定し新庁舎を整備することとし,平成30年に基本設計・実施設計が完了。
令和元年7月に着工し,令和3年10月完成,11月15日から新庁舎での業務を開始しました(図-1写真-1,2)。
 
工事請負契約については,建築工事1工区,電気機械設備工事7工区,外構工事3工区,植栽工事3工区と工区分けを行い,地元業者への受注機会の増大を図りました。

位置図

図-1 位置図】


新庁舎 外観

写真-1 新庁舎 外観】

新庁舎 外観

写真-2 新庁舎 外観】



 

2.建築計画

新庁舎は,旧石垣空港跡地で西側に県立八重山病院,東側に石垣市消防署が隣接する立地条件で,建屋部分は旧空港のエプロン側に当たり,支持層は琉球石灰岩の強固な地盤であったことから,杭なしの直接基礎となっています。
 
また,新庁舎は50もの4寸勾配屋根が折り重なり,その上に12万枚の瓦を葺く特徴的な外観の建物です。
構造は「鉄筋コンクリート(RC)+プレストレスコンクリート(PRC)+一部鉄骨(S)梁」で,地上3階,地下1階建て,最高高さ18.35m,平面規模148m×64mで,PRCにはポストテンション工法を採用しています。
層間には31基の制振ダンパーが配され,外壁は柱と屋根,スリットで区切られています。
 
工事に当たって一番の難関は複雑形状の躯体工事で,従来の2Dによる平面図,断面図では建物形状をイメージするのは熟練者でないと困難と思われました。
また,構造種類には鉄筋コンクリートだけでなくPRC,鉄骨梁,制振ダンパー,外壁スリットが加わるため,施工順序の検討が非常に重要となりました。
そのため,着工してすぐBIMにて3Dモデルを作成し,複雑な建物形状を「見える化」したことで,不具合の早期発見や効率的な施工計画の立案につなげることができました。

 
 

3.設計コンセプト,建物概要

「石垣の風景を継承するみんなが集う石垣市の新たなランドマーク」を基本理念に,「石垣島が育んできた歴史・文化・自然に寄り添う,市政と市民の新しい活動拠点となる市役所」をコンセプトとして設計を行いました(図-2,3,表-1)。
 
誰もが気軽にユンタク(くつろいでお喋り)できる「市民広場」を中心に,窓口や食堂・売店,多目的に利用できるコミュニティルーム,議場などの各機能が分かりやすく,利用しやすい平面レイアウトとなっています。
また,利用頻度の高い窓口を1階に集約することでバリアフリーを徹底し,広さにゆとりあるロビーや動線を確保しています(写真-3〜5)。
 
障がい者,高齢者およびお子さま連れなど,誰もが利用しやすいように,屋根付き優先駐車場を含む十分に駐車可能な市民駐車場や,オストメイトやフィッティングボードを備えたバリアフリー多機能トイレ,キッズスペースや授乳室を配し,市民のニーズに対応できるユニバーサルデザインの庁舎となっています。
 
施設の中央に配置された3階までの吹抜けは,東西の各フロアへつながり,1,2階は各課の執務エリア,3階は石垣市議会や各行政委員会のエリアが配置され,議場は中央の吹抜け側がガラス張りとなっており,開放感のある空間が創造されています。
 
また,地域防災の中枢拠点として十分な耐震性やBCP(事業継続計画)能力を有していることはもとより,塩害を考慮した長寿命・高耐候性の構造や,全周に配したバルコニーによる台風対策や日常的なメンテナンス性にも配慮した外装としています(写真-6)。

1F 平面図

図-2 1F 平面図】

屋根伏図

図-3 屋根伏図】


建物概要

表-1 建物概要】


市民広場

写真-3 市民広場】

議場

写真-4 議場】


窓口

写真-5 窓口】

制振ダンパー

写真-6 制振ダンパー】



 

4.伝統と現代技術の融合

この新庁舎の一番の特徴となるのが,大小50もの複雑に折り重なった屋根です。
その上に葺いた約12万枚の赤瓦(アカガーラ)は,平瓦2枚と丸瓦が一体化したオリジナルの段付き瓦となっています(写真-7)。
 
従来の赤瓦は,しっくいで塗り固めた鮮やかな色合いが特徴ですが,経年劣化するしっくいは定期的に塗替えが必要となり,その維持管理が課題となっていました。
今回のオリジナル赤瓦は,丸瓦部分にしっくいのように見える釉薬で模様を付けたものとし,メンテナンス性の向上にもつながっています。
台風の襲来が多い気候にも配慮し,桟木へ1枚ずつビス留めし強度も確保しました。
 
また,石垣市の新たなランドマークとなる新庁舎を県内外にPRするとともに,赤瓦屋根の魅力を広く発信するため,クラウドファンディングを活用して寄附を募り,全国の多くの方々からご寄附と激励をいただきました。
 
赤瓦屋根の施工時期に合わせて,実際に屋根に葺く赤瓦の裏面へ希望者のお名前を記入するイベントも開催し,この新庁舎建設が多くの人にとって思い出に残るよう工夫しました(写真-8)。

折り重なる赤瓦の屋根

写真-7 折り重なる赤瓦の屋根】

裏面に記名した赤瓦の施工

写真-8 裏面に記名した赤瓦の施工】



 

5.島材の活用と挑戦

内装には貴重なリュウキュウマツをふんだんに使用し,トップライトからは光と風が抜ける,明るく温かみのある空間となっています。
 
1階窓口周辺に配置されたロビーベンチや,窓口を仕切るパーテーション等もリュウキュウマツを使用し,案内板やサインも木材で製作するなど,徹底的に内装との調和を図りました。
 
庁舎の外周には琉球石灰岩を積み上げて造られた石垣やヒンプン(沖縄の伝統的な魔よけ)を配し,大きくせり出した「アマハジ」(雨端)が訪れる人々を温かく迎え入れる,昔ながらの沖縄の風景を感じさせる庁舎となっています(写真-9)。
 
3階の議場にも多くの島材を使用しています。
リュウキュウマツの家具のほか,机の幕板には地元の織物である「八重山上布(やえやまじょうふ)」を,椅子には食用として全国にもファンが多い「石垣牛」の革を使用しました。
これまで県内でもあまり使用されることがなかった石垣牛革ですが,素材としての新しい使い方をこの新庁舎建設をとおしてPRすることができたと感じています(写真-10,11)。

正面玄関横の「アマハジ」

写真-9 正面玄関横の「アマハジ」】

議場机の「八重山上布」

写真-10 議場机の「八重山上布」】

石垣牛革の椅子

写真-11 石垣牛革の椅子】



 

6.おわりに

石垣市新庁舎の建設地は,先述したとおり旧石垣空港跡地の広大な場所に位置しており,これから開発が進んでいくエリアとなります。
伝統と現代の最新技術が融合した新しい石垣島の風景づくりが,未来に向けて開発が進むこの新庁舎周辺から始まることを目指しています。
 
今回の新庁舎建設工事に当たっては,離島であるが故の職人や材料調達の困難さ,台風襲来や高温多湿による過酷な施工環境に加え,未曾有のコロナ禍における工事となりましたが,さまざまな知恵と工夫を結晶し,皆さまのご協力のおかげで無事完成することができました(図-4
 
基本理念にある,「みんなが集う石垣市の新たなランドマーク」となるよう,環境にも配慮した100年使い続けられる庁舎として,他の構造物と比較しても遜色のない市民が誇れる庁舎として,末永く多くの皆さまに愛されることを願っています。

配置図

図-4 配置図】



 

“みんなが集う石垣市の新たなランドマークに”──令和3年11月12日落成式
落成式

オープニングセレモニーでのテープカットのようす。
来賓など約200人が出席

落成式

落成式後に行われた市民内覧会で,
設計コンセプトを説明する建築家・隈研吾氏


落成式

伝統の獅子舞を披露した真栄里伝統芸能保存会

落成式

石垣市出身の書家・茅原南龍氏が揮毫した石銘板の序幕も行われた


落成式



 
 
 

石垣市 総務部 契約管財課 新庁舎建設係

 
 
 
【出典】


建築施工単価2022年春号
建築施工単価2022年春号


 

最終更新日:2022-12-05

 

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