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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料 > 東京湾アクアライン開通20周年~ありがとう20年,そしてこれからも~

 

【開通から20年目の東京湾アクアライン】




 

東京湾の「夢の架け橋」

東京湾の「夢の架け橋」として期待された東京湾アクアラインは,平成29年12月18日に開通から20周年を迎えた。
 
アクアラインは,東京湾の中央部を横断し,神奈川県川崎市と千葉県木更津市を結ぶ延長約15.1kmの有料道路であり,首都圏中央連絡自動車道,東京外環自動車道等と一体となって東京都市圏の環状道路網を構成する。首都圏の発展に重要な役割を担ってきた道路である。
 
東京湾を道路で繋ぐこのプロジェクトは,調査に約20年,建設に約10年をかけ,総事業費約1.4兆円の大型プロジェクトであった。設計から施工まで,当時の最先端の技術とノウハウを集結し,数多くの新技術・新工法が開発,実用化され,その後のさまざまなプロジェクトに活かされている。また,建設にあたっては,海底の軟弱地盤,風や潮または地震等の自然条件,湾内の船舶航行,環境保全など多くの困難を乗り越えて進められた。
 

走行時間が大きく短縮周辺ネットワークも拡充

アクアラインに期待された役割は,京浜地区と房総地区を直結して両地域の交流を促進すること,東京湾を環状に連絡し,湾岸各都市の連携強化に貢献すること等であった。
 
神奈川県の京浜地区と千葉県の房総地区との移動は,従来は,東京湾沿いをほぼ半周しなければならなかったが,アクアラインの開通により,移動時間が大きく短縮された。羽田空港の最寄の空港中央ICから木更津JCTへ走行した場合,東京湾沿いの湾岸線ルート(宮野木JCT経由)とアクアラインルートを比較すると,走行距離で約60km,所要時間では約45分もの短縮となる。また,都心および神奈川方面と千葉房総方面を結ぶルートの選択肢が増え,リダンダンシー(多重性)が確保されることとなった。
 

  【羽田空港~木更津JCTの所要時間比較】




 
また,アクアラインの開通後には,館山自動車道,首都圏中央連絡自動車道,北関東自動車道,首都高速中央環状線等が開通し,アクアラインを含めたネットワークとしての機能が拡充されてきた。さらに,平成30年6月2日には東京外環自動車道の千葉区間が開通し,東京区間についても東名ジャンクションより北側に向かって,本線トンネルのシールドマシンが発進するなど工事が進んでおり,高速道路ネットワークのさらなる機能強化が今後も期待される。
 

 【首都圏の高速道路ネットワークの変遷】




 

高速バスが利便性の高い交通手段に

千葉と東京・神奈川間の移動時間が短縮されたことで,高速バス路線の運行状況にも大きな変化が現れた。アクアライン経由の高速バス路線は,当初,千葉県側では木更津・鴨川のみであったが,その後,勝浦・館山・東金・蘇我など各方面に拡充された。また,神奈川・都心側についても,当初の横浜・川崎・東京・羽田空港に加え,品川・新宿・町田への路線が新たに開業した。
 

【主要高速バス発着地点の拡大】




 
便数では,平成29年10月現在,1日当たり494便と,開通当初に比べて約4倍に増加した。木更津金田バスターミナルでは,午前7時台の東京・横浜方面の便は18便と,2~3分ごとにバスが発車している状況で,高速バスが通勤・通学をはじめレジャーや観光用にも利便性の高い交通手段として定着したことがうかがえる。
 

【通勤時間帯の木更津金田バスターミナル】




 
木更津地域では,若年層の転入・定住人口の増加も見られる。現在の少子高齢化と人口減少の趨勢(すうせい)の中にあって,木更津市および袖ヶ浦市の人口は増加傾向であり,木更津市では平成26年4月に33年ぶりに小学校が開校した。
 

【木更津市・袖ヶ浦市の人口の推移】




 
さらに木更津地域においては,居住地のほか,大型商業施設が次々と出店し,商業,流通,スポーツ・レクリエーション等の多様な機能を有する複合市街地整備が進むとともに,工業団地への企業進出が進展している。
 
 

利用状況の変化

アクアラインの開通後の交通量は,当初1日平均約1万台であったが,ETCの普及と合わせて,料金割引(社会実験)の導入や周辺の高速道路ネットワークの拡充,木更津エリアでの大型商業施設の開業等により,平成28年度には1日平均約4万6,000台と大きく増加し,この20年間の累計では1.8億台となった。また,休日の時間帯によっては,交通集中渋滞も発生する状況となっており,渋滞損失時間は,交通量の増加に比例して増加傾向である。
 

【交通量の推移(累計,日平均)】




 

【交通量と渋滞の推移】




 

計画段階から開通までの苦難の道のり

東京湾を横断する道路は,昭和41年に調査が開始された。当初の構造形式は,東京湾中央航路部は沈埋トンネル,その両側に人工島を築造し,橋梁で両岸を結ぶ計画であった。昭和40年代後半から環境問題に対する世論の高まり,東京湾を航行する船舶の問題もあり,計画は遅々として進まなかった。昭和54年に日本道路公団内に伊吹山四郎・日本大学理工学部教授を委員長とする「東京湾横断道路構造検討委員会」が発足し,トンネルを建設するための技術的検討が本格的に着手された。
 
 

《転機となったシールドトンネル工法の採用》

東京湾では,京浜港・千葉港などの大規模港湾への船舶航行に加え,漁業なども活発に行われており,特に川崎側では船舶の航行が過密状態であった。そのため,沈埋トンネルと橋梁による当初案では,トンネル工事に伴う海底掘削・埋戻し作業,沈埋函の曳えい航こうや沈設作業のための航行制限が必要となり,環境も含め多大な影響や困難が予想された。また,橋梁部については,川崎側は水深が25mと深く,海底から30mは軟弱地盤のため,経済的な基礎構造を選ぶことができなかった。そのほか,吊り橋も検討されたが,近接する羽田空港の離発着への影響から,川崎側の架橋は技術的に困難と判断され,川崎側はシールドトンネル工法へと舵が切られた。これにより,プロジェクトは大きく前進する。
 

【シールドマシン。手前の人と比べてその大きさがわかる】




 
昭和61年5月,「東京湾横断道路の建設に関する特別措置法」が施行され,同年10月には,同法に基づき,建設事業者として東京湾横断道路株式会社が設立された。ゼネコン・メーカー・金融業界・国・自治体・日本道路公団などから優秀な技術者が集まり,まったく経験のない課題に技術的な検討を加え,安全性・確実性を考慮した実験や試験工事を実証的に行った。昭和62年7月,環境アセスメントの手続きが完了し,平成元年5月に起工式を行って工事が開始され,平成9年12月に開通を迎えた。
 
 

世界最大規模の海洋土木工事

アクアラインは,人工島である海ほたるをはさみ,川崎側が約10kmの海底シールドトンネル,木更津側が約5kmの橋梁である。道路は片側2車線の合計4車線で,海底部ではトンネルを2本建設したが,将来の交通量増大に備えて,人工島や橋梁は拡幅可能な構造を採用している。
 

【東京湾アクアライン概要図】




 

《軟弱地盤を克服》

計画ルートは高水圧下であり,しかも,極めて軟弱な地質が海底下20~30mの厚さで堆積していたため,工事は地盤改良から始まった。トンネルは,川崎側の浮島取付部から斜路部を経由して海底に達し,風の塔を経て,再度斜路部を経由して海ほたるに達する。浮島取付部,風の塔および海ほたるの人工島がそれぞれシールドマシンの発進基地となった。
 
海底トンネル「アクアトンネル」の直径は13.9mで,外側から厚さ65cmのセグメントという外壁があり,その内側に厚さ35cmの鉄筋コンクリートを巻き付けた構造である。トンネル上半部が片側2車線の道路空間で,下半部は中央部が管理用道路兼避難通路,両側は通信,電力線などを収容する空間となっている。
 
施工にあたっては,高水圧,軟弱地盤での長距離掘進という条件下での切羽の安定と止水を確保するため,直径14.14m,長さ13.5m,重量約3,000tの円筒状の密閉型大口径シールドマシンが開発された。さらに,掘削,泥水の給排水,セグメントの組立は全て自動化された。
 

【自動セグメント組立マシン】




 

《人工島「風の塔」と「海ほたる」の築造》

トンネル換気施設を置く人工島「風の塔」は,海面下70mまで掘削し,大深度の地中連続壁を採用して築造された。トンネル換気塔は,吸気口のある高さ90mの大塔と排気口のある高さ75mの小塔からなり,排気機能を向上させるための空気力学的な配慮に加えて,量感ある視認性に優れた構造となっている。また,換気塔のデザインや景観設計は,平山郁夫氏・澄川喜一氏が手掛けたものである。
 

【人工島(風の塔)の地中連続壁の構築と平山郁夫氏デザインの原型モデル(右上)】




 
日本初となる海上休憩施設「海ほたる」を有する人工島は,木更津側着岸地点から沖合約5kmの水深約25mの海域に築造された。海上に現れている平坦部は長さ650m,幅100m,平坦部の護岸は,道路と並行する長辺を鋼矢板セル式,橋梁側は橋台と護岸を兼用した鋼管矢板井筒式とされた。
 
 

《多径間化を図ったアクアブリッジ》

【アクアブリッジ】




 
橋梁「アクアブリッジ」は,海ほたるから木更津側着岸地点までの延長約4.4kmの区間で,耐震性と走行性の向上を目的として多径間化を図り,9~11径間という大規模な連続桁構造とされた。海ほたる側約2kmの沖合部の橋梁には12基の鋼製橋脚が,木更津海岸側の浅瀬部の橋脚には30基の鉄筋コンクリート製橋脚が用いられた。
 
鋼製橋脚は,工場で製作したものを大型起重機船で吊り運搬の上設置し,沖合部の桁橋は,工場で大ブロックの桁に組み立てたものを海上輸送の後,大型起重機船で架設された。
 

【橋桁架設】




 
浅瀬部の中でも水深の深い区間の橋桁は,干満差を利用して大ブロックの桁を特殊台船により架設し,水深の浅い区間の橋桁は,小ブロックの桁を仮設桟橋上のクローラークレーンにより架設された。
 
 

安全・安心・快適・便利な通行を支える維持管理

《風の塔》

風の塔は,大塔・小塔の換気塔を備えるほか,内部には換気設備等の各種施設,外側に防災設備として船舶接岸施設を有している。付近には羽田空港発着の飛行機や京浜港などへ向かう船舶が頻繁に往来しているため,他の構造物と同様,慎重な維持管理を行う必要があり,航空障害灯および航行援助設備の点検・補修交換を定期的に実施している。
 
人工島の外側には波浪防護・船舶衝突に対する緩衝材の役割となる鋼製ジャケット式護岸があり,海中部に設置していることから犠牲陽極※を用いた電気防食を施している。鋼製ジャケット部は,海中点検・電位測定を定期的に実施しながら,陽極を交換することで防食機能を維持しており,開通から20年が経過する現在も電気防食が機能し,構造物の健全性が確保されている。
 


※犠牲陽極:イオン化傾向の大きさを利用して先に亜鉛が錆びることで鉄の腐食が防止される原理。
 

【電気防食】




 

《アクアトンネル》

トンネルの防水は基本的に一次覆工(RCセグメント)の止水シールで保持されているが,高水圧下であることから,二次覆工との間に防水シートを設置し,漏水は速やかに排水できる構造となっている。また,地震時の変位を吸収させるため,可とうセグメントや繊維補強ゴム製ワッシャーを設置し,定期的な点検・補修を実施している。これらの漏水対策や耐震機能を備えたアクアトンネルでは,東日本大震災時でも損傷や異常は生じなかった。
 
そのほか,トンネル施設に関しては,防災・換気設備等の設備群についても適切な点検整備や機能強化がなされている。20年間で,トンネル内での車両火災は8件発生しているが,いずれもトンネルに設置された水噴霧設備等により消火がなされ,避難通路まで使用されるケースは出ていない。
 
 

《アクアブリッジ》

橋梁部の塗装は,重防食塗装が施工されている。開通から20年経過した現在,上塗り塗装に一部劣化が見られるものの,中塗層以深は健全な状態である。また,橋脚部については,電気防食による維持管理を実施している。橋梁部の渦励振対策として設置された制振装置は,定期的に点検補修し,機能維持を進めている。
 

【制振装置】




 

20周年記念事業

NEXCO東日本関東支社および東京湾横断道路(株)では,この20年間の感謝の気持ちを込めて,「ありがとう20年,そしてこれからも」をキャッチフレーズに記念事業を展開した。
 
アクアラインという注目度の高い社会資本について,その役割や使命,地域にもたらす効果,それらを支える高度な技術力等の認知度をさらに高めるため,誰にでも分かりやすく,効果的な広報を念頭に記念事業を展開してきた。
 
主な例を挙げると,海ほたるからクルーザーに乗船し,アクアラインの橋梁部を巡り,風の塔に上陸するアクアライン初のツアーを企画・開催した。より効果的に事業理解を深めていただくため,東京湾の爽快な景観を楽しむとともに,実際の構造物の見学と合わせて,その構造や技術について解説を行った。ツアーは,設定した出発日4日間すべてにおいて乗船定員に達する応募があり,合計311名が参加し好評を得た。
 

【多くの参加者でにぎわうクルージングツアーの様子】




 
また,近年のスマートフォンやSNSの爆発的普及を踏まえ,アニメーション動画を製作した。アニメーションでは,アクアラインが東京湾の両岸をつなぎその交流を促進する役割を表現し,YouTubeをはじめ各種媒体で広報したほか,アクアラインを走る高速バスへのラッピングを行った。
 
昨年12月17日には,記念事業に関するほぼすべての情報を海ほたるに集結し,集大成となるイベントを開催した。当日は,テレビや新聞など報道機関が取材に訪れたほか,記念事業を通じて積極的にパブリシティ活動を展開した結果,多数のメディアでアクアラインの建設技術や地域への効果を取り上げる記事が組まれることになった。
 

【キャラクターが描かれたラッピングバス。20周年のロゴも】




 

海ほたるをリニューアル,さらなるサービス向上へ

平成30年2月から,海ほたるの店舗の一部および老朽化したトイレ等のリニューアル工事を実施しており,平成31年4月(中旬)に海ほたるが新たに生まれ変わる。リニューアルでは,1階のエントランスおよび5階の飲食店舗が全面改装される。5階の飲食店舗に通じる通路部は,屋内空間に生まれ変わり,荒天時でもゆったりとくつろげる工夫が凝らされている。
 
そのほか,実証実験としてアクアライン上り線のAI渋滞予知の導入など,安全・安心はもとより,利用者へのさらなるサービスの向上に今後も努めていきたい。
 

【海ほたるPAリニューアル】




 
 
 

東日本高速道路株式会社 関東支社

 
 
 
【出典】


積算資料2018年7月号


最終更新日:2023-08-02

 

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