はじめに
一般社団法人 農業農村整備情報総合センター(以下「ARIC」という。)では、民間企業等が開発した農業農村整備の推進に資する技術情報を広く一般に提供し、国、都道府県等事業実施団体への普及を促進することで、技術水準の向上を図り、もって農業農村整備事業の円滑な施行の確保と発展に寄与するため、「農業農村整備民間技術情報データベース」(以下「NNTD(Nougyou Nousonseibi Technical-information Databaseの略)」という。)を運営している。
NNTDは、民間企業等が開発した「農業農村整備に資する技術」の情報を登録し、ウェブサイト(https://www.nn-techinfo.jp)上で公開するもので、ARICのウェブサイトのトップページからもアクセスすることができる。
2025年6月末現在、登録技術件数約430※件、ウェブサイトには2012年2月に運営を開始してから48.4万回を超えるアクセスをいただいている。
※更新手続き中を含む
ARICのウェブサイトのトップページ(https://www.aric.or.jp/)からのNNTDへのリンクとNNTDのウェブサイトのトップページ(https://nn-techinfo.jp/)
1. NNTDの位置付け
農林水産省は「農業農村整備に関する技術開発計画」を策定し、農業農村整備に関する技術開発と普及を促進することとしている。
ARICは、NNTDがこの技術開発計画の中で重点取組事項として掲げられている“開発技術のデータベース化・活用”に資するツールの一つに当たると考えている。
農林水産省が公表している「調査・測量・設計業務等特別仕様書記載例」には、設計作業の留意点として「コスト縮減に関して新技術や新工法等の選定にあたっては、農業農村整備民間技術情報データベース(NNTD)および新技術情報システム(NETIS)等を積極的に活用しなければならない。」と記載されている。
また、土木工事共通仕様書第1編 共通編 第1章 総則 1-1-49 工事特性等への対応状況の報告の中で、NNTD等に掲載の新技術を活用した事項については監督職員に報告することができるとされ、工事成績評定の参考とすると記載されている。
2. NNTDの特徴
NNTDでは、民間企業等が開発した技術情報を可能な限り収集し、有益な形で農業農村整備事業の現場等に情報提供することとしている。
登録する情報は、新技術に限らず農業農村整備の推進に資する技術とし、技術の信頼性を確保するため、採用実績を有する技術を原則としている。
登録する技術分野として、土木工事、建築、機械設備、電気通信設備、調査・測量・設計のほか、施設の長寿命化対策(機能診断、補修・補強工法等)、環境配慮対策、施設の維持管理、自然エネルギー活用など、農業農村整備事業の分野全体を網羅するカテゴリーを用意している。
登録した情報は、素早く閲覧できるよう、施設別の分類や工種別に分類して掲載しており、技術情報の検索は分野別検索の他に、フリーワード検索、条件検索ができる。
検索条件に合致した技術は一覧表で画面に表示され、技術の内容、登録会社名、採用実績件数等を確認できるため、同種・類似の技術を比較することができる。
登録の有効期間(掲載期間)は、原則2年間としており、更新手続きを行うことにより、現場での採用実績の増加を踏まえた、新たな情報の追加等が適切に反映される仕組みとなっている。
3. 掲載する技術資料
NNTDには、統一様式の技術情報詳細等と添付資料を登録している。
技術情報詳細等には、開発年、開発者、技術の特徴、適用範囲、積算参考情報、特許情報、連絡先、サポート体制、図表・写真、採用実績、技術情報や建設コンサルタントが閲覧できるURLなど、行政機関側が求める情報をできるだけ網羅して掲載している。
統一様式のため、データベース内に同種・類似の技術がある場合、内容の比較が容易である。
また、採用実績には、発注者、施工年度、施工場所(都道府県名)、工事件名、実績報文の有無などが示されている。
この他に、添付資料として、登録企業等が独自に作成したカタログ、パンフレット、動画、機関誌等へ投稿した文献、単価、歩掛、設計・施工マニュアル等の掲載も可能である。
NNTDでは、これらの資料を自由に閲覧できるので、農業農村整備事業に携わる技術者が直接、技術情報を確認することができる。
また、登録企業等は、自信がある技術のPRをNNTDで行うことができる。
4. 登録技術の特徴と今後の展望
NNTDには、1970年代から2020年代までの間に開発された技術が新技術に限定することなく登録されている。
開発年代別の比率は、下図に示すとおりであり、2000年以降に開発された比較的新しい技術が約71%を占めている。
登録技術は、土木工事に関係する技術が最も多く、土木工事(施設別)の内訳としては、水路工 215件、農道93件、海岸・河川、干拓38件、ため池42件、頭首工26件、ダム28件(重複有り)の順に登録件数が多い。
また、土木工事で工種別に登録されている技術について、その内訳を見ると法面工・擁壁工69件、地盤改良工35件、石・ブロック積(張)工28件、コンクリート工34件(重複有り)の順に登録件数が多い。
登録件数が多い技術分野は、施設の長寿命化対策(コンクリート補修・補強工法)に関係する技術が138件、環境配慮対策(生態系保全、景観保全、水質保全等)に関係する技術が58件となっている。
これは、農業農村整備事業を取り巻く環境として、①基幹的農業水利施設の多くは、戦後の食糧増産時代から高度経済成長期にかけて整備されており、標準耐用年数を超過する施設が急速に増加する。
限られた財源で効率的に施設機能を維持していくため、施設の有効活用や長寿命化を図り、ライフサイクルコストの低減を図っていく必要があること、②土地改良法により、環境との調和への配慮が事業実施の原則として位置付けられたことを受け、自然と共生する環境創造型事業への転換を図るためのさまざまな取組みが行われていること、などが挙げられ、これらの課題(ニーズ)に対応した技術開発が民間企業等において進められ、NNTDに登録されている結果を示していると考えられる。
ところで今般、世界的な食料情勢の変化、気候変動、国内市場の縮小や生産者の減少・高齢化等の農業構造の変化を踏まえ、全ての農政の根幹である食料・農業・農村基本法が改正され、令和6年6月に施行された。
改正された基本法の柱としては、第2条から第6条において、「食料安全保障の確保」、「環境と調和のとれた食料システムの確立」、「多面的機能の発揮」、「農業の持続的な発展」、「農村の振興」があげられている。
農業農村整備関係については、第29条「農業生産の基盤の整備及び保全」において、「~前略~環境との調和及び先端的な技術を活用した生産方式との適合に配慮しつつ、農業生産の基盤の整備及び保全に係る最新の技術的な知見を踏まえた事業の効率的な実施を旨として、農地の区画の拡大、水田の汎用化及び畑地化、農業用用排水施設の機能の維持増進その他の農業生産の基盤の整備及び保全に必要な施策を講ずるものとする。」とされ、新たに「施設の保全」にかかる部分が明記された。
この基本法の改正を踏まえ、食料安全保障の強化、農業の持続的な発展、農村の振興、みどりの食料システム戦略による環境負荷軽減に向けた取組み強化、多面的機能の発揮など、農業の構造転換の実現に向けた施策を初動の5年間で集中的に行い、農林水産業の持続可能な成長を推進することとしている。
農業農村整備事業関係としては、スマート農業や需要に応じた生産に対応した基盤整備、農業生産の基盤の保全管理、防災・減災、国土強靭化を主な柱としている。
NNTDにおいても、今後、これらの動きを見つつ、対応を検討していく必要があると考えている。
5. システムをリニューアルしたNNTD
NNTDは2012年~2024年まで約11年稼働してきており2023年8月、利用者、管理者の負担軽減を図るためのシステムリニューアルを行った。
これによりNNTDは、次のような点で一層使いやすくなった。
・絞り込み検索が充実され、欲しかった内容をすぐ閲覧できる。
・新規登録や更新申請は予定者等が手軽に行える。
・内容詳細の記述が充実し、読みやすくなった。
おわりに
現在、高齢化の進行等に伴い農業の担い手不足が一層深刻化している。
他方で、気候変動に伴う災害リスクが顕在化しており、農業水利施設の機能保全対策のみならず、農業の効率化を促進する担い手への農地の集積や集団化、農業経営の規模拡大などの取組みが急務であり、農業農村整備事業に多様な技術を効果的かつ効率的に運用できる仕組みが求められている。
また、NNTDは官民の技術交流の場として、重要な役割を担っていると考えている。
多くの人が目にする「積算資料」への寄稿依頼をいただいた。
何よりのNNTDのPRの機会であり、深く感謝申し上げたい。
今後もARICは、農業農村整備事業の推進に有用な技術のNNTDへの登録を充実させるとともに、NNTDが農業農村整備事業に関わる多くの技術者にとって分かりやすく、必要不可欠なツールとなるようさらなる改善や普及啓発に努めてまいりたい。
【出典】
積算資料公表価格版2025年9月号

最終更新日:2025-08-20
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