建設資材データベーストップ > 特集記事資料館 > 建築施工単価 > 横浜市役所 新市庁舎整備 〜BCP対策と環境への配慮〜

 

1. はじめに

横浜市が,明治22(1889)年に誕生して以来,市庁舎はこれまで関東大震災や横浜大空襲の災禍による焼失等により,主に都心部の中で度々その位置を変え,旧市庁舎は7代目として昭和34(1959)年に建設,約60 年使用してきました。
 
旧市庁舎では,施設や整備の老朽化,執務室の分散化(図−1),市民対応スペースの不足,日々変化する社会状況への対応,災害対策等,さまざまな課題を抱えていました。これらの課題を解決するため,平成25(2013)年3月に「新市庁舎整備基本構想」,平成26(2014)年3月に「新市庁舎整備基本計画」を策定して新市庁舎を整備することとし(以下,本プロジェクト),平成28(2016)年2月に設計着手,平成29(2017)年8月に着工し,令和2(2020)年5月に完成しました。
 

【図−1 周辺ビルへの庁舎分散状況(部分)】




 

2. 事業スキーム

本プロジェクトを進めるに当たり,事業スキームについて「新市庁舎整備基本計画」で検討し,高度な技術力・ノウハウ等の採用,工期短縮,コスト縮減等の観点から,基本設計を含めた設計・施工一括発注方式(デザインビルド方式,以下,DB 方式)を採用しました。
 
DB方式による事業者の選定では,高度技術提案型総合評価落札方式を採用しました。事業者からの施工技術や金額だけでなく,設計者および施工者の高度な技術を一層引き出し,横浜市が求める新市庁舎像を理想的なかたちで実現するよう行いました。
 
本プロジェクトは工事規模によりWTO政府調達協定の対象工事となるため,入札参加資格として市内企業に限定するような地域要件の設定ができない状況でした。そのため,DB方式の事業に影響がなく,別事業者による施工が可能な中層部の内装および設備工事,また特殊設備工事を別途発注することにより,「横浜市中小企業振興基本条例」の基本方針に基づき,透明かつ公正な競争等に留意しつつ市内中小企業者の受注機会の増大を図りました。
 
その結果,合計17本の工事請負契約を締結し,本プロジェクトを実施しました。
 
 
 

3. 建築計画

計画地は,「みなとみらい21地区」「北仲通北地区」「関内地区」「桜木町・野毛地区」の4つの地区の結節点となる立地を生かし(図−2),各地区間のゲート性に配慮した動線計画と景観計画を行うことにより,周辺地区相互の回遊性を高めながら,街全体での魅力向上を図る計画としています。また,建物西側は大岡川に面しており,水辺空間を生かして,人々が憩い,回遊できる豊かな外部空間を創出しています
 

【図−2 ゾーン別に見た敷地周辺状況】


 
建物は高層の行政棟,中層の議会棟およびアトリウムが一体で建築され,みなとみらい21地区の高層建築群の一翼として,都市景観に配慮したスカイラインを形成しています(図−3)。
 

【図−3 左端に建物上部が見えるのが新市庁舎】


 

外装コンセプトとして,高層の行政棟では,群景観の中で際立つ,国際都市にふさわしい品位ある佇まいを目指すため,横浜の産業の一つであるシルクをイメージした白い透明な質感や,垂直性を基調とするデザインとし,外観は周辺の街並みと調和するよう,白を基調として圧迫感を抑えています。
 
中層の議会棟は,船をイメージした視認性の高いデザインとしています。アトリウムはガラス張りの3層吹抜けの大空間(図−4)で,市民に開かれた開放的な空間を実現し,演奏会やパブリックビューイング等のイベントが開催できるよう,270インチの大型モニターや昇降式ステージ,照明バトンも設置しています。
 

【図−4 天井高さ20mの大空間】




 

4. 建物機能

建物機能は,高層部,中層部および低層部の3層に分けて構成し,高層部は行政機能,中層部は議会機能,低層部は市民利用施設および商業施設を配置しています(図−5)。
 

【図−5 建物断面イメージ】


 

高層部では,免震層上部になる3階に受付を設け,1フロアで300〜400人が執務できるよう南北面に執務エリアを配置し,約6,000人の職員が業務を行っています(図−6)。
 

【図−6 執務エリアのオープンフロア・ユニバーサルデスク】


 
中層部では,5階に常任委員会室を配置し,6〜8階には3層吹抜けの本会議場を設けています。内装については,床や椅子は海をイメージさせる青の色彩とし,さらに波をイメージした木の壁面,船底の形状が特徴的な白い天井としています(図−7)。
 

【図-7 本会議場(傍聴席から)】


 
低層部では,人々を迎え入れる「街」のような空間を創出するため,1,2階に市民協働推進スペースや商業施設を配置することで,多くの人が集える空間を創出しています。また,3階には市民ラウンジを配置し,みなとみらい21地区を一望できます。ベンチには,横浜市の水源,道志川が流れる山梨県道志村の木材を使用しました(図−8)。
 

【図−8 市民ラウンジ】




 

5. ユニバーサルデザイン

ユニバーサルデザインとして,誰もがスムーズに建物内外を移動でき,安心・安全・快適に施設や機能を利用できるよう,ディスプレイを用いて情報発信するデジタルサイネージを採用しました。また,低層部の主要な案内表示は5カ国語を基本とし,議場等には難聴者等を支援するため,映像・音響設備等から音声を放送するヒアリングループ(注1)を設置する等の対応をしています。
 
 
 

6. BCP 対策

新市庁舎は,さまざまな危機に対処できる危機管理の中心的役割を果たすために,建物全体として免震構造と制振構造を採用し,十分な安全性を確保しています。具体的には,高い構造性能を有する中間層免震を3階の床下に設け,加えて制振装置を1,2,4〜7階に配置したハイブリッド免震を採用することにより,万一の大災害時における建物の損傷防止に加え,什器の転倒等も防止します。
 
さらに,電気室や機械室等の主要な設備機器を津波による浸水のおそれのない4階に配置しています。インフラの供給が途絶えた場合でも,7日間使用できる非常用発電機の燃料や,飲料水,トイレ洗浄水を確保することで,災害時にも市役所機能を維持し,業務を継続できるようにしています。また,最上階(PHR階)にはヘリポートを設置し,災害時の輸送経路を確保しています。
 

【図−9 BCP対策概要図】




 

7. 環境への配慮

新市庁舎では,環境に最大限に配慮した低炭素型の実現を目指しました。高層部の外装には,断熱性能の高いダブルスキンカーテンウォールを採用し,日射抑制と視線制御が必要な東西面のカーテンウォールにはセラミックプリントとアルミパネルを組み合わせる等,方位ごとの環境に応じた外皮負荷を低減するファサード計画を行いました。
 
設備面では,輻射空調システム,照明の人感・昼光センサー制御,RFID技術(注2)を利用した居住域の細かな計測による空調,照明制御など高効率な機器,システムを導入し省エネルギーと快適性の両立を図っています。また,太陽光発電,構造杭66本を利用した大規模な地中熱を利用した空調,高層部のほぼ全周にわたりダブルスキンカーテンウォールに組み込まれた自然換気パネルからの自然通風の取入れ,高効率に発電する固体酸化物形燃料電池,下水再生水を熱利用した上でトイレ洗浄に利用する等,自然エネルギーや新たなエネルギーを積極的に導入しています。
 
空調熱源は,プロポーザル方式で選定した熱供給事業者(東京都市サービス株式会社)により,本プロジェクトと並行して地域冷暖房の整備が進められてきました。地域に密着した地域冷暖房として高効率な熱供給ができるよう計画されています。
 
これらの取り組みにより,CASBEE(建築環境総合性能評価システム)「Sランク」,BELS(建築物エネルギー性能表示制度)★★★★★,竣工時のZEB Ready(注3)を実現しています。
 

【図−10 環境配慮対策概要図】




 

8. おわりに

このように新市庁舎は,ユニバーサルデザインやBCP 対策,環境に配慮して100年使い続けられるよう建築しました。国際都市横浜のランドマークの一つとして,市民に開かれ,末永く愛される市庁舎になることを願っています。
 
 


(注1) 補聴器や人工内耳に内蔵されている磁気誘導コイルを使って利用できる施設・機器
(注2) 電波を用いて,RFタグのデータを非接触で読み書きするシステム
(注3) ZEBを見据えた建築物として,外皮の高断熱化および高効率な省エネルギー設備を備えた建築物

 
 
【建築概要】



 
 

横浜市 建築局 施設整備課 新市庁舎整備担当

 
 
 
【出典】


建築施工単価2020秋号



 
 
 

 

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