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建設資材データベーストップ > 特集記事資料館 > 建築施工単価 > 建築から眺める世界の都市 No.1 北欧 オスロ(ノルウェー)

北欧

北欧という圏域

まずは気の赴くままに,北欧から始めよう。
「北欧」という言葉は,心地よく響くのではないだろうか。
暮らしを大切にするイメージがある。
ナチュラルでセンスの良いインテリアや,福祉や多様性に重きを置いた国のありようが思い浮かぶ。
 
通常,北欧と呼ばれるのは,ノルウェー,スウェーデン,フィンランド,デンマーク,アイスランドの5カ国である。
これはスウェーデンとデンマークが過去に支配し,以後に独立した他の国にも強い影響を与えた圏域だからだ。
 
順にスカンジナビアの3カ国を歩いていきたい。
西には北海油田で潤い,福祉国家であるノルウェー。
隣にはイケアやボルボといった数々の世界企業で知られるスウェーデンが位置し,東側のフィンランドはムーミンやマリメッコの故郷である。
ある種,分かりやすく隣り合っているのだけど,訪れた感触は異なる。
このようなありようを建築が象徴している。
 
 

首都オスロの経緯

ノルウェーは,神話につながるロマンティックな建築への意志が鮮明なのだ。
背景にあるのは,国土のほとんどをスカンジナビア山脈が占め,耕作可能な面積は国土のわずか2.7%しかないという自然の強さ。
それと,9〜11世紀のヴァイキングの時代に隆盛を誇りながらも,後に衰退してデンマークやスウェーデンの力の下に置かれたことによる近代の自律した文化史の弱さだろう。
 
首都であるオスロは13世紀からノルウェー王国の首都だったが,14世紀にデンマークとの同君連合が成立すると州都に格下げになった。
1624年の大火では大きな打撃を受け,当時のデンマーク=ノルウェー王であるクリスチャン4世は,再建された都市を「クリスチャニア」と改名。
オスロの名を正式に取り戻すのは,独立後の1925年を待たなくてはいけない。
17世紀の都市再建の過程で完成したのが今の「オスロ大聖堂」(1697年)で,正面に1つの塔があり,天を突くように尖っている。
北欧やバルト諸国の都市は,こうした形式の教会堂が多く見られる。
 
オスロは歩きまわるのにちょうどよい大きさの都市だ。
近年はこだわりのカフェが多いことでも知られる。
19世紀の新古典主義の建築が,市街の骨格をつくっている。
ノルウェー王宮の前には,当時のスウェーデン王であるカール・ヨハンが馬に乗った大きな銅像が立つ。
ナポレオンがヨーロッパを席巻した後,ノルウェーは1814年から1905年までスウェーデンとの同君連合に入るが,どちらの地位が優勢だったのかは一目瞭然。
宮殿の前から延びるオスロの目抜き通りも,カール・ヨハン通りと名付けられている。

  • オスロ大聖堂
    オスロ大聖堂


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    新古典主義の街並み

    ノルウェー王宮」(1848年)の中央には,古代ギリシアの神殿のようなペディメント。
    バロック様式のような豪華な装飾ではなく,均整の取れた全体構成によって格式を示している。
    これらは新古典主義の建築の特徴だ。
    王宮の前から真っすぐに目抜き通りを延ばしたことも,理性の力を表していて,新古典主義的である。
     
    目抜き通りに堂々とした正面を表しているのが「オスロ大学法学部校舎」(1851年)。
    ドイツ(プロイセン王国)の有名な建築家であるカール・フリードリッヒ・シンケルの案をもとに,デンマーク生まれのノルウェーの建築家で,オスロ市の主任建築家として活躍したクリスチャン・ハインリッヒ・グロッシュが設計を行った。
    先の王宮はデンマークに生まれ,ノルウェーの建築家として大きな足跡を残したハンス・リンストウが設計した。
    設計者は異なるが,よく似ている。
    大学の建物のほうが,よりペディメントが強調されている。
    知と公正の殿堂であるから,新古典主義はいっそう似合っている。
     
    新古典主義の建築や都市は,国外から制度や学問が導入されて,近代化が進められた歴史を感じさせ,実際にこのコンパクトな都市に整った見晴らしの良さを与えて心地よい。
    しかし,そうした外在的で理性的な要素だけで,ノルウェーが成り立っているのではない。
    ロマンティックなものへの意志も,オスロには刻まれている。
    それは理性よりも感性に,普遍性よりも固有性に,古代よりも中世に,より重きを置く考え方だ。
    19世紀後半に確かな形を取り始める。民族自立との相性が良い。

  • ノルウェー王宮
    ノルウェー王宮
  • オスロ大学法学部校舎
    オスロ大学法学部校舎


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    自国の様式を目指して

    オスロ大学の裏手にある「オスロ国立美術館」(1882年)は,ノルウェー初の公立美術館としてつくられた。
    建築はノルウェーの歴史的建築に関わった建築家親子の共作である。
     
    父のハインリッヒ・エルンスト・シルマーはドイツのライプツィヒで生まれ,オスロ大聖堂の修復責任者としてノルウェーに赴いて,建築設計事務所を開設した。
    途中まで国立美術館の設計を担当したが,関係者との意見から,オスロで生まれた息子のアドルフ・シルマーがプロジェクトを引き継ぐ。
    完成した姿は左右対称性を重視し,軒装飾を仕立てたりといった点では新古典主義だが,赤れんがや石の本来の素材感を隠そうとしていない点では中世的だ。
     
    この息子が重要なのは,あったかもしれない過去を建築でつくり出す,ノルウェーで最初期の建築家になったことだ。
    「ドラゲスティル」(ドラゴン・スタイル)と呼ばれる様式を生み出し,1890〜1910年代に流行させた。
    壁に荒々しい木材を露出したり,大きな棟飾りや龍のモチーフを用いたりといった特徴を持つ。
    インスピレーションの源は,ノルウェーの中世木造教会やヴァイキング船だ。
    背景には,この頃から1979年に世界遺産に登録された「ウルネスの木造教会」(1130年前後)などの調査研究が進展したことがある。
    自国の文化を掘り起こす運動の一環である。
    奥には独立運動の高揚がある。
     
    自国の様式を創造しようというロマンティックな思いは,独立の翌年に完成した「旧ノルウェー銀行本社」(1906年)に一層明快だ。
    正面の外観は左右対称で古典的なまとまりを備えるが,外壁は荒々しい。
    設計者のイングヴァール・ヒョースはオスロに生まれ,れんが工から,オスロとベルリンの工芸学校で学び,旅行や海外滞在をとおして建築家としての作風を築いた。
     
    内部は出自にも由来する工芸的な造形で,渦巻きのような原初的なモチーフが目を引く。
    中世の木造教会などからの着想を,さらに古代的なものにつなげながら,時代を切り開くデザインを企図している。

  • オスロ国立美術館
    オスロ国立美術館


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  • 旧ノルウェー銀行本社
    旧ノルウェー銀行本社


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  • 工芸的な造形の内部
    工芸的な造形の内部
  • 原始を思わせる階段の装飾
    原始を思わせる階段の装飾


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    建築に対する期待

    文書記録の残らない自国のルーツを,デザインによって証明しよう。
    そんなロマンティックなノルウェーのあり方を最も示した作品が「オスロ市庁舎」(1950年)だと思う。
    完成したのは第二次世界大戦後だが,設計コンペの当選者は1918年に発表され,1931年に起工式が行われた。
    大戦後の完成とは思えないほどに豊かな装飾を備えている。
    高層部が2本の塔状に建ち,真ん中に海に抜ける軸線が通る。
    幾何学的な直方体で構成された形態でありながら,外壁にれんがを用いて素朴な風合いを感じさせる。
    風雪に耐え,部分的に斜めに張るなどして実用からの美を達成できるノルウェー的な素材として用いられているのだろう。
     
    市民に開かれた空間としてのホールは,工芸と美術で彩られている。
    華麗で素朴な大壁画からも,19世紀以来の中世主義の系譜が読み取れる。
    海に向かって堂々と建つ雄大な市庁舎は,海運と水産の国であるノルウェーのルーツを誇るようだ。
    国家としては20世紀に誕生したノルウェーが,まるで悠久の昔から確固として綿々と存在化したかのように感じさせてくれる。
    建築は,このように一体感を創造する力も有するのだ。
    市庁舎の入り口には設計者の胸像が飾られて,建築家への尊敬の念がうかがえる。
    それは建築という存在に対する期待の高さでもある。

  • オスロ市庁舎
    オスロ市庁舎
  • 2本の塔状の高層部
    2本の塔状の高層部


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  • メインホールの壁画
    メインホールの壁画
  • 海に面したホール裏手
    海に面したホール裏手


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  • 設計者の胸像
    設計者の胸像
  • 床面を彩る図像
    床面を彩る図像


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    ノルウェーらしさの現在

    最後に,オスロとニューヨークに拠点を置く世界的建築家,スノヘッタの「オスロ・オペラハウス」(2008年)を訪れたい。
    臨海の再開発地区に位置し,海辺から続くスロープの延長上に建物が建つ。
    ガラス張りの幾何学的な建物の中に,入れ子状にホールがあり,内装には地場の木材をふんだんに使用している。
    堂々とした幾何学的な形状とクラフトマンシップが現代的に融合し,人工的な形の中にも自然界の原理を彷彿させる。
    これもまた建築からのノルウェーらしさの試みである。

  • オスロ・オペラハウス昼
    オスロ・オペラハウス(昼と夜)
  • オスロ・オペラハウス夜


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  • ライトアップの様子
    ライトアップの様子


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  • 地場の木材を用いた内観
    地場の木材を用いた内観
  • 地場の木材を用いた内観


  • 北欧


     

    倉方 俊輔(くらかた しゅんすけ)

    1971 年東京都生まれ。建築史家。2021 年 10 月より大阪市立大学教授。早稲田大学理工学部建築学科卒業,同大学院修了。博士(工学)。近現代の建築の研究,執筆の他,日本最大の建築公開イベント「イケフェス大阪」実行委員会委員を務めるなど,建築の魅力的な価値を社会に発信する活動を展開している。著書に,『京都 近現代建築ものがたり』(平凡社,2021),『別冊太陽 日本の住宅 100 年』(共著,平凡社,2021),『東京モダン建築さんぽ』(エクスナレッジ,2017),『伊東忠太建築資料集』(監修・解説,ゆまに書房,2013-14),『吉阪隆正とル・コルビュジエ』(王国社,2005)など多数。日本建築学会賞(業績),日本建築学会教育賞(教育貢献)ほか受賞。



     
     
     

    建築史家・大阪市立大学 教授
    倉方 俊輔(くらかた しゅんすけ)

     
     
     
    【出典】


    建築施工単価2021秋号



     
     
     

     

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