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建設資材データベーストップ > 特集記事資料館 > 建築施工単価 > 国宝建築を支える職人の方たちへの賛歌 〜迎賓館赤坂離宮における工芸美術の技〜

 

1. はじめに

迎賓館赤坂離宮本館は,明治42年に東宮御所(赤坂離宮)として建設された洋風宮殿建築で,当時の建築技術や工芸美術の粋が結集された文化財的に極めて価値の高い建築物であり,近代の建造物としては初めて,平成21年に国宝に指定されています。
 
昭和42年に赤坂離宮を改修して迎賓館に充てることが閣議決定されたことに始まり,それを受けて迎賓施設としての大改修(昭和の大改修)が行われ,昭和49年に完成し,迎賓館赤坂離宮が設置されました。
 
本施設は,文化財である迎賓施設として良好な状態で保存・活用することが求められており,昭和の大改修以降,国土交通省大臣官房官庁営繕部(以下,官庁営繕部)において内閣府から支出委任を受けて,改修を実施してきているところです。
 
改修に当たっては,職人の方たちに受け継がれてきた工芸美術の技が随所に必要となります。
 
本稿では,平成31年3月に完了した,最も格式の高い部屋である「朝日の間」の内装改修において施された,床に敷く「手織り緞通(だんつう)」の織り直しや「紋(もん)ビロード」によるドレープ・カーテンの更新,「石膏(せっこう)装飾」および「金箔(きんぱく)押し」の補修に用いられた工芸美術の技について,その一端をご紹介します。
 

【迎賓館赤坂離宮本館正面】




 

2. 工芸美術の技

1)手織り緞通

緞通とは敷物用織物の一種で,中国語の毯子(たんつ)の音訳。指先でひと目ずつ毛を結び植えた後,はさみや包丁で切って立毛する一連の工程を手作業で行っていきます。
 

【手織り緞通イメージ図】

【緞通織り上がり図(7.5m×13m)】


「朝日の間」の桜花を織り出した緞通は,昭和の大改修の際に初めて織られ,その後平成7年に織り直され,今回約20年ぶりに織り直され3代目となります。
 

【朝日の間】



[手織り緞通の制作工程]
①「線図」と呼ぶカラフルな設計図を見ながら,綿製の2本の地経糸(じたていと)に,ウールのパイル糸を8の字にかけて結んでいきます。
 

【パイル結び】



②結びつけたパイル糸を「ナタナイフ」で,すばやくパイル長15mm程度に粗切りします。
 

【ナタナイフによる粗切り】



③パイル糸を1段結び終えたら,からみ糸と地緯糸(じよこいと)を幅方向へ通し,金属の櫛形の「手打ち」と呼ばれる道具で叩き整えます。
 

【「手打ち」による叩き】



④粗切りしたパイル糸を「定規」の板を使って,「はさみ」で13mm程度にきれいに切りそろえます。最終的には,パイル長はシャーリング機で12mmに整えることになります。
 

【織り機の前の5人の織り手さん】





2)紋ビロード

紋様を毛羽(けば)と輪奈(わな)を組み合わせて織り出したビロード。ビロードとは,細かい毛を立て,柔らかで上品な手触りと深い光沢感を特長とする織物で,ベルベット,天鵞絨(てんがじゅう)とも呼ばれています。
 

【紋ビロードイメージ図】



「朝日の間」の紋ビロードのドレープ・カーテンは,昭和の大改修において昭和49年に織り直されて以来,40数年ぶりに1年8カ月かけての織り直しとなりました。
 

【ビロードの紋様】

【縫製されてカーテンに】


[紋ビロードの制作工程]
①絹糸である生糸を精練した練糸を赤,青,黄の染料を調合し,色見本のとおりになるよう,染色釜で染色していきます。絹糸の地経糸は緑色,パイル経糸は茶色に染めます。綿糸の地緯糸は緑色。
 

【染色釜による糸の染色】



②力織機(ジャカード織機)によって,経糸(地経糸およびパイル経糸)を紋様に応じて上下に開口を開け,地緯糸とワイヤーを通し,筬おさ打ちを行う一連の動作を繰り返し,織り進めます。地緯糸のほかに輪奈を作るためにワイヤーを緯方向に織り込んでいくことがビロード織りの大きな特長。この時点では,織表面は,銀色のステンレスのワイヤーが一面に織り込まれており,緑色の地緯糸は隠れています。
 

【力織機による織り】



③織り上がったものをワイヤーに沿って,特殊なカッターを緯方向に走らせパイル経糸の頂点をカット(紋切り)していきます。
 

【特殊なカッターで紋切り】



④カット後ワイヤーを取り除くと,カット部分が毛羽,カットしない部分が輪奈として残り,美しい紋様が浮かび上がってきます。
 
 


3)石膏装飾

石膏は微粉末で骨材を用いないため,細かな意匠表現が可能であり,日本では明治以降に洋風建築の内装に石膏装飾として使われてきました。
 
石膏装飾のひび割れなどは,「焼き石膏」(プラスターとも呼ぶ)にあらかじめ糊を混入したものに水を加えた「接着石膏」と呼ばれるもので補修します。迎賓館赤坂離宮では石膏装飾の上に金箔を押して仕上げている部分が多くあります。
 

【金箔を押した石膏装飾】



[石膏装飾の補修工程]
①石膏装飾(多くは金箔が押されている)のひび割れ部分をV字にカットします。補修後の収縮ひび割れが発生しないようにV字の幅を10mm程度に決定しています。
 
 
②糊を混入している焼き石膏に水を加え,撹拌し,粘度を確かめながら5分ほど置き,接着石膏を作ります。
 
 
③V字カット面に乾燥防止のために筆で水をつけ湿らせます。スパチュラー(細長い匙さじのような用具)を使い接着石膏をV字カット内に空隔なく丁寧に盛っていきます。
 

【スパチュラーによる石膏の盛り】




④接着石膏が硬化後,余盛り部分を彫刻刀や紙やすり等で削って平滑に仕上げていきます。オリジナルの形を尊重し,先人が残した指の跡やハケの跡も考慮しつつ,仕上げの金箔をきれいに押せるように滑らかになるようにしていきます。
 


4)金箔押し

金箔は,純金あるいは金と微量の銀や銅の合金を槌で叩いてごく薄く延ばし,箔状態にしたもので,紀元前1200年頃に古代エジプトで製造が始まったと考えられています。金箔の厚さは約0.1μmで,したがって,1㎤の塊から約10㎡作ることができます。
 
この大きな展性により,わずかの純金で広い面積の上質な輝きと光沢が得られることから,表面装飾に多く用いられています。屏風などの家具類,襖などの表具・建具類,漆器などの工芸品,仏像などの美術品,金閣寺に代表される建築物の外装・内装など幅広く利用されています。
 
金箔を貼ることを「金箔押し」ともいいます。かつては金箔押しの接着剤は「漆」が用いられていましたが,近年はかぶれにくくて扱いやすい樹脂系接着剤が使われることが多くなっています。ちなみに,現在,日本の金箔は99%が金沢産といわれています。
 
 

[金箔押しの補修工程]
①箔屋と呼ばれる工場で金箔は槌で打たれて作られます。1,000分の3mmほどの上澄(うわずみ)と呼ばれる小片を箔打ち用の紙に挟んでいき,束ねた小片を挟んだ箔打ち用の紙を革で固定し,10,000分の1mmになるまで機械の槌で打ち延ばします。
 
 
②選別した箔を竹製の枠で3寸6分(10.9cm)角に切りそろえ,保護和紙に移し,丁寧に挟み込んでいき,100枚単位で包装します。
 

【保護和紙に挟まれた金箔】



③押し直す金箔は,昭和の大改修と同じく,一号色(金97.66:銀1.35:銅0.97の合金)を使用しています。接着剤を筆で塗布し,塗布後2〜4時間までの間に,金箔を一枚ずつ保護和紙と一緒に箔箸(はくばし)でつまんで,押す場所まで運んでいきます。
 
 
④保護和紙を箔箸でつまみながら筆で,保護和紙の上から金箔を押していきます。金箔がある程度接着したら,保護和紙を剥がし,金箔の上から直接筆で押していきます。装飾の細かい部分には金箔を金箔の上で滑らせて筆で押して貼っていきます。
 

【筆による金箔押し】



⑤接着剤の上に乗っていない金箔は,筆で掃(はら)います。掃った金箔は箱に落として回収します。回収されたものは金泥などとして再利用されます。
 

【金箔の回収】



⑥接着していない金箔を掃いつつ,しっかり接着するように筆で擦ります。1日置いて,接着の状況を確認し,再度筆で擦るようにきれいに掃って仕上げます。
 
 



 

3. おわりに

工芸美術の技を受け継ぐ職人の数は年々減少しており,担い手の確保は重要な課題になっています。
 
これまでに,官庁営繕部では迎賓館赤坂離宮の改修工事に携わった工芸美術の技を受け継ぐ職人の方たちの「名簿」および代表的な工芸美術の技について,職人の方たちへのインタビューを交えて,国土交通省のホームページでそれぞれ掲載しています。
 
今後も工芸美術の技を要する改修工事を実施した場合,携わった職人の方たちの「名簿」を追加掲載し,紹介する工芸美術の種類も適宜拡充する予定にしており,工芸美術の技の魅力を広く発信し,将来の担い手確保につなげてまいります。
 
 


国土交通省ホームページ:
迎賓館赤坂離宮における建築に係る工芸美術の技の継承と担い手確保に向けて
https://www.mlit.go.jp/gobuild/syokuninwotataeru.html
 
 
 

国土交通省 大臣官房 官庁営繕部 整備課

 
 
 
【出典】


建築施工単価2020夏号



 
 
 

 

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