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EV充電インフラ整備の現状と課題

現在、EV(電気自動車)の普及は社会全体の重要なテーマとなっています。
しかし、その実現には、充電インフラの整備が不可欠であり、多くの導入事業者がさまざまな課題に直面しているのが現状です。
 
EV(PHEV)普及への主な課題としては、「車両価格が高い」「バッテリーの劣化」「航続距離が短い」「充電スポットが少ない」「自宅に充電設備がない」「充電時間が長い」の6点が挙げられます。
これらの中で、EV充電インフラに関連する課題は、主に「充電スポットが少ない」「自宅に充電設備がない」「充電時間が長い」の3点です。
本稿では、これらの課題に焦点を当て、日東工業が提供する具体的なソリューションを通じて、EV充電インフラの経済性と導入効果を高める方策についてご説明します。
 
 

EV充電インフラ市場の変遷と日東工業の挑戦

日東工業は1948年の創業以来、高圧受電設備(キュービクル)や分電盤といった電路資材を提供してきたメーカーです。
EV充電器については、トヨタ自動車株式会社が「プリウスプラグインハイブリッド(PHV)」を初めて発売した2009年から、量産・販売を開始しました。
しかし、この事業の道のりは決して平坦ではありませんでした。
特に、2016年を最後に国の補助金制度が大幅に縮小したことで、国内における公共施設のEV充電器の新規設置数が年々減少し、2020年には設置数が撤去数を下回る事態となり、EV充電器の市場も大きく冷え込む事態となりました。
この市場環境の変化は、日東工業のEV充電器事業の計画に大きな影響を与えました。
このような状況下で、私たちは「補助金に依存しない、市場価値のある充電器」というコンセプトを掲げ、「Pit-2Gシリーズ」を開発しました。
OCPPやスケジュール機能などサービス機能を充実させ、同時に当時の市場価格の7分の1にあたる低価格で発売されたこのEV充電器は、瞬く間に市場を牽引する製品となりました。
 
 

EV普及を阻む3つの主要課題と日東工業のソリューション

1.「充電スポットが少ない」という問題

現在、日本国内の公共施設には約68,000口のEV充電器が設置されています。
この内、コネクタ付きEV充電器は47,000口、充電所の数は26,000カ所です。
ガソリン車の給油所が27,000カ所であることを考えると、市場を走る約30万台の電動車両に対して、一定の普及が見られるように思われます。
しかし、自宅に充電設備がないEVオーナーからは、「充電スポットが少ない」という不満が上位に挙がっています。
これは、EVの充電スタイルがガソリン車の給油スタイルとは異なり、毎日充電するという運用が一般的であることに起因します。
この問題を解決するためには、公共施設向けのEV充電器の設置台数を増やす必要がありますが、その実現には、設置事業者にとっての経済的なメリットを増やすことが重要となります。
 

日東工業のソリューション① 低価格で設置障壁を下げる「Pit-2G」

従来のEV普通充電器が約150万円という市場価格であったのに対し、2021年に日東工業が発売した「Pit-2G」は、発売直後で約20万円という画期的な価格を実現しました(希望小売価格、税抜、工事費別途)。
この低価格は、補助金に頼らない初期投資の償却を可能にし、EV充電インフラの導入を検討されている事業者の皆様の設置障壁を大幅に引き下げることに貢献しました。
これにより、多くの普通充電器メーカーがこの価格を意識して製品を発売するようになり、市場全体の価格競争を促すことにつながっています。
 

2.「自宅に充電設備がない」という問題

自宅での充電設備は、戸建て住宅か集合住宅かに分けられます。
EV充電のユースケースでは、夜間など車両を使用しない間にゆっくりと充電する「基礎充電」に該当します。
しかし、さまざまな理由から自宅に充電設備を設置できない、あるいは費用面から選択肢がない人々も少なくありません。
この問題は、個人所有の「一般車両」に限らず、フリート車両などの「商用車両」においても同様に重要な課題となっています。
 

日東工業のソリューション② 運用負荷を軽減し、電気代も削減する「Pit-2G」

「Pit-2G」は、運用面と経済性の両方で、自宅や事業所での基礎充電をサポートします。
 
●運用負荷の軽減と災害時の運用継続性
EV充電器の運用における大きな負担の一つが、会員サービスの管理です。
「Pit-2G」は、ICカードではなくPayPayやメルペイ、クレジットカードなど40種類以上のモバイルオンライン決済に対応した「CHARGE CONNECT」というサービスを利用することで、会員登録や会費徴収、カード発行といった業務をなくすことができます(図-1)。
また、災害時の運用継続性にも優れています。
「Pit-2G」に内蔵されている携帯電話のSIMは、大手3キャリアのネットワーク回線を利用できるため、災害により通信中の基地局に障害が発生しても、異なるキャリアの基地局に自動で切り替わります。
切り替え時間は約5秒程度であり、運用への影響はほとんどありません。
これは、災害時に公共施設のEV充電器を無料開放し、地域の復旧⽀援に貢献するといった社会的な役割を担う上でも、重要な機能です。

図-1 充電サービスにおける主な運用業務
図-1 充電サービスにおける主な運用業務

 
●電気代の削減とエネルギーマネジメント
EV充電器を設置する際、電気契約のアンペアを増やすと、電気代の基本料金が上昇する可能性があります。
「Pit-2G」は、「チャージスケジューラー」という充電スケジュール設定アプリを利用することで、電子レンジやドライヤーなど、瞬間的な消費電力が高い家電製品の使用時間帯を避け、充電出力を抑えることが可能です。
これにより、ブレーカーが落ちるのを防ぎ、電気代の基本料金上昇を回避できる可能性があります。
さらに、「Pit-2G」は「OCPP」や「REST-API」にも対応しており、複数のEV充電器の出力を制御することで全体の電力を抑えたり、蓄電池や再生可能エネルギーと連携させたエネルギーマネジメントシステムを柔軟に構築したりすることが可能です(図-2、図-3)。

図-2 スケジュール充電のイメージ
図-2 スケジュール充電のイメージ
図-3 充電割当容量を自動で均等配分する「パワーシェアリング」
図-3 充電割当容量を自動で均等配分する「パワーシェアリング」
出典:日東工業ホームページ
(https://www.nito.co.jp/quick/evstand/pit-2g/remote_communication/)

 

3.「充電時間が長い」という問題

EV充電のユースケースには、基礎充電、経路充電、目的地充電の3つがあります。
この内、経路充電においては、休憩時間中の継ぎ足し充電となるため、充電時間の短縮が求められます。
政府も、経路充電における急速充電器の出力を高める方針を示しており、各メーカーも高出力製品をラインナップに追加しています。
しかし、この問題は「商用車両」において、さらに深刻な課題となります。
最近では、車載電池容量が200kWhの商用車両(EVバス)も登場しており、これを一般的な6kWの普通充電器で充電すると、満充電までに33時間以上かかってしまうのです。
一晩で満タンにしたいという運用上のニーズには応えられず、商用車のEVシフトにおける大きな課題となっています。
 

日東工業のソリューション③ 商用車を支える「中速充電器」

日東工業は、この商用車分野の課題に対応するため、2025年8月に30kWの急速充電器「中速充電器単機能モデル」を発売しました。
この製品は、規格上は急速充電器ですが、急速充電器の市場の中でも比較的小さい出力であるため「中速充電器」と呼んでいます(図-4)。
この30kWの急速充電器であれば、200kWhの電動車両でもおよそ6~7時間で充電が可能となり、運用上の⽀障はなくなります。
さらに、基礎充電の利用を意識しているため、価格も従来型の急速充電器と比較して大幅なコストダウンを目指しました。
加えて、2026年には同じ出力で「中速充電器 通信モデル」の発売も予定しています。
このモデルは、「Pit-2G」の強みである「運用軽減」「災害時の運用継続性」「低価格」に加え、急速充電器が苦手とする「充電中の出力調整」(車種に依存せず出力制御が可能で、特許出願中)にも対応する予定です。
これにより、電気代の削減も実現できるようになり、商用車の運用に大きな助けとなることを期待しています。

図-4 中速充電器
図-4 中速充電器

 
 

重層的な充電インフラ整備の重要性

経済産業省の指針にもあるように、EV充電インフラは、自宅などでの普通充電と経路での急速充電を組み合わせた「重層的な充電インフラ整備」が重要です。
日東工業は、この考えに基づき、さまざまな充電シーンに対応するソリューションを提供します。
 
【基礎充電】
主に自宅や事業所で、夜間などにゆっくり充電するユースケースです。
3kW~6kW程度の普通充電器が主戦力となります。
 
【経路充電】
主にコンビニエンスストアやサービスエリアなどで、休憩中の継ぎ足し充電を行うユースケースです。
50kW~150kW程度の急速充電器が求められます。
 
【目的地充電】
商業施設やホテルなどで、滞在中に充電するユースケースです。
3kW~150kW程度の普通充電器や急速充電器が用いられます。
 
日東工業は、低価格と運用のしやすさを両立した普通充電器「Pit-2G」と、商用車の基礎充電を⽀える「中速充電器」により、これらの重層的なインフラ整備をトータルでサポートします(図-5)。

図-5 充電器における基本的な考え方(重層的な整備)出典:経済産業省「充電インフラ整備に向けた指針参考資料」
図-5 充電器における基本的な考え方(重層的な整備)
出典:経済産業省「充電インフラ整備に向けた指針参考資料」

 
 

未来のEV充電インフラに向けた日東工業のソリューションの取組み

EV充電インフラの普及には、「設置コスト」「運用負荷」「充電時間」といった複合的な課題が伴います。
日東工業は、これらの課題に対し、市場のニーズに真摯に応えることで、具体的なソリューションを提供します。
 
「Pit-2G」は、補助金に依存しない低価格と、運用軽減・災害時の運用継続性という強みで、普通充電インフラの普及を牽引します。
また、「中速充電器」は、商用車のEV化における「充電時間が長い」という課題を解決し、電気代削減といった経済性も提供することで、商用フリートの効率的な運用をサポートします。
 
日東工業は、電路資材メーカーとしての確かな技術力と、市場の課題を解決するという強い意志を持って、EV充電インフラの未来を拓いていきます。
今後も、お客様の事業に貢献するパートナーとして、より良いソリューションを提供してまいります。
 
 
・「Pit」は日東工業株式会社の登録商標です。
・「プリウス(PRIUS)」はトヨタ自動車株式会社の登録商標です。
・「CHARGE CONNECT」は南海電設株式会社の登録商標です。
・「PayPay」はPayPay株式会社の登録商標です。
・「メルペイ」は株式会社メルペイの登録商標です。

 
 
 

日東工業株式会社 EMS事業室
丸山 禎浩

 
 
 
【出典】


積算資料公表価格版2025年11月号


積算資料公表価格版2025年11月号

最終更新日:2025-10-30

 

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