• 建設資材を探す
  • 電子カタログを探す
ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 上水・下水道施設の維持管理 > 下水道施設の維持管理における新技術の活用について

 

はじめに

(公財)日本下水道新技術機構(以下,下水道機構)は,「技術の橋わたし」をスローガンに,産学官連携のもと,下水道事業における様々な課題を解決するための調査,研究,開発,評価等を行い,その成果を下水道事業へ円滑な導入を促進することで,社会的に貢献していくことを目的として事業を進めている。
 
この社会貢献の取り組みを着実に推進するために,本年5月に平成28年度.32年度を対象とした中期事業計画を策定した。
 
この計画では,今後の技術開発の基本方針や取り組み姿勢を示すとともに,中期的な取り組みの考え方と主な研究項目を明らかにし,あわせて審査証明事業や研修啓発事業の取り組み等も含め中期事業計画として取りまとめた。
 
研究機関,地方公共団体,民間企業など関係者の皆様に事業運営の方向を明確に示すことにより,下水道機構の方針を理解していただくとともに,連携してより効率的な事業運営を進めることを狙いとしている。
 
 

1. 技術開発の基本方針と維持管理に関する取り組みに

1-1 技術開発の基本方針

中期事業計画では,下水道事業の課題を3つに整理し,それぞれの課題解決に向けた基本方針を以下の通り設定した。
 
①様々な制約の中で施設整備と再構築の最適化,健全化・老朽化対策,維持管理の効率化に向けた研究に取り組む「下水道機能の持続性確保」。
 
②安全安心な社会の実現に向け,地震・津波や浸水など高まる災害リスクに対応するための研究を進める「災害リスクへの対応力の向上」。
 
③豊かな水環境の創造や資源・エネルギーの循環など新たな価値を創出し,地域活性化に貢献する「新たな価値の創造」。
 
また,基本方針を着実に実行していくため,地方公共団体のニーズを的確に把握し,求められている技術を大学や民間企業へ提示・提案する取り組みなど,「橋わたし」機能の強化」をはじめとした視点を持って取り組むこととしている。
 

1-2 維持管理に関する新技術開発への取り組み

技術開発の3つの基本方針のもと,8つの技術開発分野においてそれぞれ中期的な取り組みについて明らかにしている(図- 1)。
 

図-1 中期事業計画における技術開発の体系




 
「健全化・老朽化対策」分野では,施設の調査・診断や維持管理,改築・更新の技術開発や,新規整備に加え予防保全を軸とした維持管理・改築・更新等までを一体的に最適化していくストックマネジメントに関する調査研究等に取り組む。また,中小市町村を技術的な面だけでなく,事業運営全般について支援するシステムを構築する。
 
「維持管理の効率化」分野では省エネルギー化技術やICT技術を活用し,質の高い管理を実現するとともに維持管理コストの低い下水道システムへの転換に向け研究を進める。またPPP/PFIを活用した施設管理手法を確立する。
 
「低炭素下水道システム・創エネ・再生可能エネルギー」分野では自然エネルギーの活用や,低動力化等による消費電力の低減に向けた技術開発に取り組むことにより,下水処理場の消費エネルギーの50%削減を目指す。
 
このほかの技術分野においても,維持管理に関する新技術開発に積極的に取り組んでいるが,以下に管路施設,処理施設それぞれについて当機構の主な取り組みを紹介する。
 
 

2. 管路施設の維持管理における新技術の活用

下水道機構研究第二部は,適正なストック管理,浸水対策,合流改善等に関する技術について,国交省や自治体からの調査業務委託,民間企業との共同研究を通じて検討を進めている。この民間企業との共同研究は,その成果を地方公共団体に広く活用していただけるよう分かりやすい技術資料として取りまとめ,資料の配布やホームページにおける公表などを行っている。また,公共団体との共同研究やニーズに応じた検討会の開催,国交省や国総研への政策支援,浸水対策に関する固有研究など様々な事業を実施しているところである。そうした二部事業の中で,最近実施した管路施設の維持管理に関する共同研究の取り組みを一部ご紹介させていただきたい。
 

2-1 民間企業との共同研究の取り組み

①非破壊検査法による管路の調査・診断技術の開発と長期改築計画の策定
 

小口径管(呼び径800未満)において非破壊かつ非開削で調査を実施できる劣化診断について,効果的な調査・解析・診断並びに利用方法等を明らかとすることを目的として,衝撃弾性波検査法による管路診断技術に関する技術資料を取りまとめている。管に軽い衝撃を与えることにより発生する振動を加速度センサ等により計測し,得られた波形や周波数特性等から対象物の状態(劣化により周波数が低くなる)を評価するものである(図- 2,図- 3)。
 

図-2 測定機器




 

図-3 劣化管のスペクトル




 
この技術の長所は,管の薄肉などの老朽化状況をより高い精度で確認でき,複合管の適用を検討することが可能となる。また,管の健全度を正確に反映させた長寿命化計画,改築計画を策定することができる。
 
健全率予測式を立てることで目標耐用年数を設定し,各施設の改築時期や改築費用を算定した上で複数のシナリオを設定する。その中から,費用とリスクのバランスを検討しながら事業費の平準化を踏まえた最適な改築シナリオを選定する。事業費の平準化にあたっては,関連計画(地震・津波対策,浸水対策等)の実施時期,投資額等を考慮する必要がある。
 
現在,地域特性を踏まえた効率的な長寿命化計画,改築計画の作成などを目的に,いくつかの自治体と継続的に実用的な調査・研究を行っており,計画策定手法のブラッシュアップを進めている。
 
 
②下水道用マンホールポンプの長寿命化に関する共同研究(平成28年7 月技術資料発刊)
 
近年,急速にマンホールポンプが普及拡大しており,今後の老朽化問題が懸念されている。また,改築基準や維持管理計画策定手順の整備が十分とは言えず,自治体から手順書の整備に関する要望もいただいていた。そこで,民間企業5社とともに,各自治体の維持管理の実態を考慮した計画・点検・管理方法を明確にし,維持管理計画および長寿命化計画の策定に資する技術資料を取りまとめた。策定に当たっては,平成27年11月の「下水道事業のストックマネジメント実施に関するガイドライン」(国土交通省)を踏まえた内容とするとともに,定期点検の項目や実施方法等をできるだけ分かりやすく整理した。改築計画策定の際には,これら定期点検の結果を活用することで,計画策定のための点検・調査の負担も軽減する。
 
また,長寿命化対策検討対象設備の選定フローを明示し,改築計画の検討フローについても各段階に沿ってわかりやすく解説するなど工夫した。
 
 
③下水道管路施設へのフラッシュゲートの適用に関する共同研究(平成28年7 月技術資料発刊)
 
下水道管路の伏越施設や標準勾配不足区間等で適切な流速が確保できない個所は,管路内に汚濁物や土砂等が堆積しやすく,臭気等の発生や維持管理の妨げとなっている。そこで民間企業3社とともに,現場の問題個所の機能強化と予防保全的な維持管理を目的に,自治体2都市の協力もいただきながらフラッシュゲートを設置し,様々な検証を行ってきた。実際に伏越構造やたるみが生じた箇所の手前にフラッシュゲートを設置し,汚濁物が減少していくことを確認することができた(図- 4)。
 

図-4 フラッシュゲートの外観(小型機)




 
今回は,こうした実証実験で得られた知見を踏まえ,計画から設計・施工,維持管理に至るまでの技術的事項を整理した。
 
 
④下水道用マンホール改築・修繕工法に関する技術資料(平成27 年7 月技術資料発刊)
 
管きょ,人孔蓋と同様にマンホールについても老朽化が顕在化しており,適切に改築・修繕していくことが重要である。本技術資料は,調査方法・判定基準,設計手法および工法の位置づけを明確にし,マンホールの長寿命化計画を策定する際に参考とすることができるよう工夫した。マンホールの点検・調査結果に基づき劣化状況を把握し,マンホール躯体全体の一体対応とするのか,あるいは止水等の部分的な修繕による対応とするのか等の判定を行う。こうした過程における調査項目や判定基準を明らかにし,長寿命化計画の策定の手順を解説している。また,更生工法,防食工法,修繕工法のそれぞれについて,耐荷,耐久,耐震,水理,維持管理等の要求性能を統一的に設定している(図- 5)。
 

図-5 更生工法と防食工法の分類




 
 
⑤管きょの長寿命化を目的とした部分改築工法の開発に関する技術資料(平成27年7月技術資料発刊)
 
管路施設の老朽化に伴い,道路陥没や下水道の機能に支障が生じる恐れが懸念されている。本技術資料は,管路施設の必要箇所のみを補修することで,自治体ニーズが高い安価で迅速な施工技術を開発し,取りまとめたものである。地震や地盤状況の変化等による管路変状に追随する止水性を長期間可能にする材料を採用することで,耐用年数20年を確保することを確認した。これにより,問題箇所のみを20年間延命化し,その後スパン全体の更生をかけるという考え方をとることで,ライフサイクルコスト低減を図ることも可能である(図- 6)。
 

図-6 新開発の水膨張止水材




 

2-2 研究第二部の今後の取り組み

研究第二部は,今後とも,管路管理の新技術の開発に力を入れていきたいと考えている。特に,昨年の下水道法の改正等に伴い定期的な管路の状態把握が重要となり,自治体にとっては効率的な管路の調査・点検手法のあり方が極めて重要な課題となってきている。引き続き関係自治体とともに,スクリーニング調査と詳細調査の効率的な組み合わせを検討するとともに,ICTの活用をはじめ,人工知能やロボット技術等の先端技術の利用も念頭に置きながら,積極的に新技術の開発に取り組んでいきたいと考えている。
 
 

3. 処理施設の維持管理における新技術活用

下水道機構資源循環研究部は,バイオマス,水処理,汚泥処理,エネルギー等の資源循環・環境に関する技術について,国土交通省や地方公共団体からの調査業務委託,民間企業との共同研究を通じて研究を進めている。民間との共同研究成果については,地方公共団体に広く活用されるよう技術マニュアルや技術資料として取りまとめ,地方公共団体への配布やホームページでの公表を行っている。
 
ここでは処理場施設の維持管理に関する新技術を取り扱った共同研究の成果を紹介する。
 

3-1 活性汚泥法等の省エネルギー化技術に関する技術資料(2014 年3 月)

 
省エネ運転管理技術には,①アンモニアセンサを利用した送風量制御システム,②反応タンクにおける攪拌機回転数低減による省エネ運転,③活性
汚泥モデルを利用した省エネ運転方法などがある。
 
 
①アンモニアセンサを利用した送風量制御システム
 
本技術は,反応タンク流入水および反応タンク出口のアンモニア性窒素濃度をアンモニアセンサで個別に連続計測し,それぞれをフィードフォワード信号,フィードバック信号として利用することで,最適な送風量制御を実現するものである。
 
制御ロジックを図- 7に示す。
 

図-7 制御ロジック




 
5池で処理能力40,600m3/日,日平均流入水量35,000m3/日の処理場の1池に本技術を適用した場合,図- 8に示すように,30〜40%の送風量削減効果が得られた。
 

図-8 送風量の推移




 
 
②反応タンクにおける攪拌機回転数低減による省エネ運転
 
従来,無酸素槽等の撹拌に用いられる水中攪拌機は,撹拌動力密度が10W/m3程度と高く,高度処理施設の消費エネルギーが大きくなる大きな要因となっている。本技術は,一般に攪拌機の動力が設計上試算した値に対し,電動機の規格上余裕を見込んだものを選定していることに着目し,仮設インバーターにより処理水質に影響を及ぼさない範囲で回転数を低減することで省エネ化を図るものである。
 
処理能力36,000m3/日,日平均処理水量16,000m3/日の処理場の1池(容量1,928m3)の第1槽と第3槽の水中攪拌機をインバーターにより回転数を低減させた場合(図- 9),電力量の低減は66%に達することが分かった。
 

図-9 実験系列の処理フロー




 
 
③活性汚泥モデルを利用した省エネ運転方法
 
活性汚泥モデルを活用した下水水質シミュレーターは,処理水質の予測と省エネを目的として開発され,処理場の維持管理を容易に行うひとつの方法として導入が進んでいる。
 
日平均処理水量14,930m3/日のAO法の処理場に適用した場合(図- 10),図- 11に示すように,処理水質を悪化することなく25%の送風量低減が可能であることがわかった。
 



 

3-2 オキシデーションディッチ法の省エネ技術に関する技術資料(2017 年3 月発刊予定)

本年4月より,下水道部門も温室効果ガス排出抑制の義務が課されることとなったが,小規模下水処理場の代表的処理法であるオキシデーションディッチ法については,省エネ技術に関するまとまった技術資料がないので,今年度取り組んでいる。
 
オキシデーションデイッチ法の処理場は,図-12に示すように,施設能力に対して処理水量の小さな,すなわち流入比率の小さい処理場が多く,図- 13に示すように,流入比率の小さな処理場は消費電力原単位が大きい。
 
 

図-12 処理場規模と流入比率0.5以下の割合

 

図-13 流入比率と消費電力量原単位




 
本技術資料で取り上げる運転管理による省エネ技術は,これらの特徴を踏まえて,①酸素供給量の調整,②撹拌運転の調整,③MLSS濃度の最適化,④汚泥の引き抜き制御,⑤アンモニアセンサ等を用いた管理技術について明らかにする予定である。
 
 

おわりに

以上,当機構の取り組みや成果について紹介したが,この他にも維持管理に関する調査研究に積極的に取り組んでいる。今後も引き続き蓄積してきた経験やノウハウを生かし,全国の地方公共団体の課題解決に向け,新技術の開発,既存技術の再評価,技術の標準化,さらに情報提供サービスの強化等に取り組んでいく所存である。
 
 

公益財団法人 日本下水道新技術機構 企画部長 渡邉  聡
    研究第二部長 下村 常雄
資源循環研究部長 石田  貴

 
 
 
【出典】


積算資料公表価格版2017年2月号



 

最終更新日:2023-07-10

 

同じカテゴリの新着記事

ピックアップ電子カタログ

最新の記事5件

カテゴリ一覧

話題の新商品