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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 水辺環境の整備 > 東京都における河川事業のこれまでとこれから

はじめに

東京都では、水害や土砂災害等の危険から都民の命と暮らしを守るため、護岸整備等のハード対策と住民の避難に資する情報提供等のソフト対策が一体となった取組みを推進するとともに、うるおいのある水辺空間の形成や利活用などの取組みを進め、良好な河川環境を創出することを目的として河川事業を行っている。
本稿では、東京都が現在進めている事業の中から、特に都市部での中小河川の洪水対策や低地河川の高潮対策などの取組みについて紹介する。
加えて、これからの河川事業を見据えて新たに進めている気候変動を踏まえた取組みや、魅力的な水辺空間の創出に向けた取組みについても紹介する。
 
 

1. 東京都の地勢と河川

東京都の地勢は、東西に長くひらけており、西部の山地、中央部の武蔵野台地および東京湾に接する東部の低地により構成されている。
このような地勢から、東京の河川は概ね西側に源を発し、東の東京湾に向かって流下している。
 
東京都内には、127河川、890km(準用河川含む)の河川が流れており、そのうち都が管理する河川は、105河川、710kmとなっている。
水系別に分けると、主として多摩西部山地に源を発して丘陵部を流れながら水を集める多摩川水系、多摩丘陵の南部を流れる鶴見川水系、武蔵野台地の大半を流域とする荒川水系、東部の低地帯を南北に流れる利根川水系の4つの一級水系と、直接海へ注ぐその他の二級水系に大別される(図- 1)。

図-1 東京の地勢
図-1 東京の地勢

 
東京の河川は地勢によって性格が異なるため、地域の特性に応じた事業を実施している。
 
区部の台地や多摩地域の中小河川では、洪水による水害を防止するため、中小河川整備事業として、護岸等の河道整備に加え、洪水の一部を貯留する調節池、洪水の一部を別のルートに分けて流す分水路の整備を行っている。
 
東部低地帯の河川では、高潮や地震による水害を防止するため、高潮防御施設整備事業、江東内部河川整備事業、スーパー堤防等整備事業、耐震・耐水対策事業により、防潮堤や護岸、水門等の整備や耐震補強を行っている。
 
多摩地域の山地では豪雨による土砂災害を防止するための砂防事業、地すべり対策事業、急傾斜地崩壊対策事業を行っている。
 
 

2. 中小河川の整備

東京都では、人口や資産が集積する都市部などにおいて、台風や集中豪雨による水害から都民の命と暮らしを守るため、1時間あたり50ミリの降雨により生じる洪水に対して安全を確保することを目標に中小河川の整備を進めてきた。
 
しかし、近年はこれまでの目標整備水準を超える集中豪雨などが増加し、それに伴う水害が発生している。
そのため、現在は年超過確率1/20の規模の降雨に対応するため、優先度を考慮しながら水害対策の強化を図っている。
 
整備に当たっては、1時間当たり50ミリの降雨までは、河道整備により洪水を安全に流すことを基本とし、それを超える降雨には新たな調節池等により対処することを基本としている。
 

(1) 河道整備

区部の神田川や石神井川、白子川、多摩地域の野川や空堀川、鶴見川など都内46河川324kmにおいて、河道拡幅(川幅を広げる)や河床掘削(河床を掘り下げる)などの河道整備を進めている。
整備に当たっては、管理用通路を緑豊かな遊歩道として整備したり、川沿いにスペースがある箇所では、緩やかな傾斜の護岸を整備したりするなど、人々が水辺に近づける工夫を行っている(図- 2)。

図-2 緩やかな傾斜で整備した護岸(石神井川)
図-2 緩やかな傾斜で整備した護岸(石神井川)

 

(2) 調節池・分水路の整備

川沿いにビルや住宅が立ち並ぶなど、河道拡幅に長期間を要する箇所等においては、調節池や分水路を整備し、水害に対する安全性を早期に向上できるように努めている(図- 3)。

図-3 調節池イメージ
図-3 調節池イメージ

 
神田川や境川など優先度が高い10流域において、順次調節池等の整備を進めており、これまでの整備と合わせ、令和4年度末までに12河川27箇所で総貯留量約264万m³の調節池が稼働し、5河川8箇所で総延長約12kmの分水路が完成している。
 

(3) 神田川・環状七号線地下調節池

神田川・環状七号線地下調節池は、水害が頻発していた神田川中流域の治水安全度を早期に向上させるため、都道環状七号線の道路下に延長4.5km、内径12.5mのトンネルを設置し、ここに神田川、善福寺川および妙正寺川の洪水54万m³を貯留する施設である。
平成20年3月に完成した本調節池は、様々な降り方の豪雨に対して各河川から効果的に取水することが可能であり、神田川流域の水害軽減に大きな効果を発揮している(図- 4)。
全国各地で甚大な浸水被害をもたらした令和元年東日本台風(10月)では、区部においても総雨量300ミリを超える降雨があったが、神田川・環状七号線地下調節池では、総容量の9割にあたる約49万m³を貯留し、溢水の未然防止に大きな効果を発揮した。
この時の神田川の実測水位と調節池の貯留量を用いたシミュレーションの結果では、下流の中野区内において、最大約1.5mの水位低下効果があったと推測される(図- 5)。

図-4 神田川・環状七号線地下調節池
図-4 神田川・環状七号線地下調節池
図-5 神田川・環状七号線地下調節池による水位低下効果イメージ(令和元年東日本台風)
図-5 神田川・環状七号線地下調節池による
水位低下効果イメージ(令和元年東日本台風)

 

(4)環状七号線地下広域調節池(事業中)

環状七号線地下広域調節池は、都道環七通りと目白通りの地下空間を活用し、既設の神田川・環状七号線地下調節池と白子川地下調節池を新たなトンネルで連結する大規模なトンネル式の地下調節池である。
この延長約5.4km、内径12.5m、貯留量約68万m³の新たな調節池を整備することで、神田川、石神井川および白子川の3流域間で調節池容量の相互融通が可能となり、時間100ミリの局地的かつ短時間の集中豪雨にも効果を発揮する(図- 6)。
早期の稼働を目指し、現在、調節池本体となるトンネルをシールドマシンにより掘り進めている。

図-6 環状七号線地下広域調節池平面図
図-6 環状七号線地下広域調節池平面図

 
 

3. 低地河川の整備

東京の東部低地帯は、軟弱な地盤で構成されているうえに、明治期以降の地下水汲み上げ等による地盤沈下の影響で、ほとんどの地域の地盤高が海面下となり、高潮、大地震等の自然災害に対して極めて弱い地域である(図- 7)。
このため、東京都では東部低地帯を水害から守るため、低地河川の整備を行っている。

図-7 東京低地の地盤高平面図
図-7 東京低地の地盤高平面図

 

(1) 高潮防御施設の整備

東京都では戦前から高潮対策を進めており、昭和32年には東京の既往最大(大正6年)の高潮
(A.P. + 4.2m。A.P.(Arakawa Peil)とは、荒川工事基準面のことで、標高(T. P.)0mのとき、 A.P.+1.134mとなる)に対応できるよう、防潮堤や水門等の整備に着手した。
その後、日本で最大の高潮被害をもたらした昭和34年9月の伊勢湾台風を契機として、同台風級が東京湾を襲った場合の高潮(A. P. + 5.1m)に対応できるよう計画を改正し、整備を進めてきた。
現在、隅田川、中川、旧江戸川などの主要な河川については防潮堤等が概成している(図- 8)。

図-8 今井水門(閉鎖時)
図-8 今井水門(閉鎖時)

 

(2) 江東内部河川の整備

荒川と隅田川に囲まれた江東三角地帯は、地盤が特に低く内部に河川が縦横に走っているため、これまで多くの水害に見舞われてきた。
また、過去の地盤沈下に伴い、度重なる護岸の嵩上げを行ってきた結果、大地震に対して極めて脆弱な状態になっていた(図- 9)。
そこで、大地震の際に護岸崩壊による浸水被害からこの地域を守るため、昭和46年から江東内部河川整備事業を進めている。
 
この事業では、江東三角地帯を概ね東西に二分し、それぞれに適した方式で整備を行っている。
地盤が特に低い東側地域では、水門等で河川を締め切り、常に水位を低く保つ水位低下方式により整備を行っている。
昭和53年12月に第一次水位低下(A. P.0m)を、平成5年3月に第二次水位低下(A. P. - 1m)を実施し、その後、河川環境にも配慮した河道整備を進めている。
一方、地盤が比較的高い西側地域では、既存の護岸を補強する耐震護岸の整備を行っている。

図-9 江東内部河川の地盤高
図-9 江東内部河川の地盤高

 

(3) スーパー堤防等の整備

東部低地帯の主要5河川(隅田川、中川、旧江戸川、新中川、綾瀬川)については、大地震に対する安全性を高めるとともに、水辺環境の向上を図るため、コンクリートの堤防を順次スーパー堤防や緩傾斜型堤防に改築している。
 
スーパー堤防は、背後地の再開発事業等のまちづくりと一体となって幅の広い盛土を行うもので、令和4年度末までに約19kmが完成している。
また、隅田川では、親しみやすい水辺環境を早期に提供するため、先行してテラスを整備し、地震に対する安全性を高めるとともに、散策路として開放している(図- 10)。

図-10 スーパー堤防(隅田川・白鬚西地区)
図-10 スーパー堤防(隅田川・白鬚西地区)

 

(4) 河川施設の耐震・耐水対策

東京都では、これまでも東部低地帯の堤防や水門・排水機場について耐震性の確保に取り組んでおり、さらに、平成7年1月の阪神・淡路大震災を契機に、堤防や水門等の耐震補強を行い、河川施設の安全性を向上させてきた。
 
また、平成23年3月の東日本大震災を契機に「東部低地帯の河川施設整備計画」(平成24年度~令和3年度)を策定し、想定し得る最大級の地震への対策を進めてきた。
 
令和3年12月には、対象範囲を拡大した「東部低地帯の河川施設整備計画(第二期)」(令和4年度~令和13年度)を策定し、堤防約57km、水門等9施設において対策を進めている(図- 11)。

図-11 堤防の耐震対策イメージ
図-11 堤防の耐震対策イメージ

 
 

4. 親しみある河川を目指して

このような水害に対する安全性を高める取組みとともに、河川が密集した市街地の中で、人々の暮らしにゆとりやうるおいを与える貴重なオープンスぺ―スであることを踏まえ、都では、多自然川づくりや水辺の緑化、親水性に配慮した護岸整備を行うなど、人々が集い、憩える水辺環境の創出にも努めてきた。
特に、首都東京の更なる魅力向上を図るため、隅田川を中心に、人々が集い、親しめる河川空間の創出を進めている。
また、広く都民に河川事業の理解促進を図るために、施設見学等のイベントや積極的な情報発信等により、河川に関する普及・啓発を進めている。
 

(1) 隅田川等における水辺空間の魅力向上

隅田川等では、水質の改善やスーパー堤防、テラス等の整備により、水辺に親しむ環境が改善され、隅田川花火大会や早慶レガッタ、隅田川マルシェ等の様々なイベントが開催されている。
 
平成23年に河川敷地占用許可準則が改正され、都市および地域の再生等に資する目的で、民間事業者が営業活動で河川敷地を占用することが可能となったことから、東京都においても河川の利用促進に向けた取組みを進めている。
平成25年10月には、都内初となる民間事業者による河川敷地を活用したオープンカフェが台東区の隅田公園内に開店した(図- 12)。
また、民間事業者の誘導を促進するため、河川敷地に川床を設置する「かわてらす®」を推進しており、現在6店舗が運営している。
 
また、この規制緩和等を踏まえて、平成26年2月にとりまとめた「隅田川等における新たな水辺整備のあり方」に基づき、隅田川下流域を中心に恒常的なにぎわいの創出に向けた取組みを展開しており、テラスの連続化や夜間照明などの水辺の動線強化等を推進している。
浅草や両国においては、地元区や民間事業者等と調整・連携しながら、北十間川プロムナード(令和2年6月供用開始)や両国リバーセンター(令和2年11月全面開業)等の拠点整備を行っている(図- 13)。

図-12 河川敷地を活用したオープンカフェ
図-12 河川敷地を活用したオープンカフェ
図-13 官民連携によって整備した両国リバーセンター
図-13 官民連携によって整備した両国リバーセンター

 

(2) 河川に関する普及・啓発

都民の河川への関心や理解を深めてもらうことを目的として、7月の河川愛護月間を中心に、シンポジウム、フォトコンテスト、河川の清掃活動、施設見学、川を歩こう等の様々な行事を実施している。
また、ホームページにはイベント情報のほか、地下調節池等の内部が見られるVRや水辺のウォーキングマップなどの様々なコンテンツを掲載している。
 
さらに、神田川・環状七号線地下調節池では、旅行事業者と連携したインフラツアーや調節池の内部で行うコンサートやヨガ等のイベントを開催するなど、様々な機会を通じた施設のPRを実施している(図- 14)。
 
加えて、調節池等の防災上重要な役割を担う施設や川の魅力をより多くの方々に知ってもらうため、インフラカードを作成・配布している。
これまでに、都内29河川の「KAWAカード」、調節池26施設の「IKEカード」等を作成し、当該の河川や施設を訪れた方、イベントへの参加者等を対象にカードを配布している(図- 15)。

図-14 調節池内部で実施したコンサート
図-14 調節池内部で実施したコンサート
図-15 IKEカード
図-15 IKEカード

 
 

5. 「未来の東京」を見据えた河川事業

東京都では、令和3年3月に長期計画である「『未来の東京』戦略」を策定した。
この戦略では、目指す2040年代の東京の姿である「ビジョン」と、ビジョンを実現する2030年に向けた20の「戦略」を掲げている。

河川事業についても、「戦略8 安全・安心なまちづくり戦略」に水害から命と暮らしを守るハード整備等を、「戦略13 水と緑溢れる東京戦略」に河川空間を活用したにぎわい創出の取組み等を位置づけ、「未来の東京」の実現を目指した取組みを進めている。
これらの取組みにおいては、これまで進めてきた整備事業の着実な実施だけでなく、これから先の将来を見据えた取組みについても提示しており、気候変動によって激甚化・頻発化する水害への備えや、社会情勢の変化等を踏まえたゆとりと潤いを活かした水辺整備等を実施することとしている。
 
なお、この「『未来の東京』戦略」は、「時代や状況の変化に弾力的に対応『アジャイル』」することを基本戦略としており、これまでに3度施策のバージョンアップを行っている。
現在は、令和6年1月に策定した「『未来の東京』戦略version up2024」が最新の計画となっている。
 

(1) 気候変動を踏まえた取組み

気候変動の影響による降雨量の増加や海面上昇、台風の強大化により、風水害リスクの高まりが懸念される。
そこで都では、令和5年12月に今後の都の河川施設整備の方針として「気候変動を踏まえた河川施設のあり方」を策定した。
 
中小河川においては、目標整備水準を現行の「年超過確率1/20の規模の降雨」から、平均気温2度上昇時における降雨量の増加率1.1を乗じた「気候変動を踏まえた年超過確率1/20の規模の降雨」へ整備目標を引き上げた。
低地河川においては、気候変動を考慮した伊勢湾台風級の高潮と海面上昇に対応していくこととした。
 
今後は、同方針を踏まえて、気候変動に対応した取組みを進めていく。
具体的には、環状七号線地下広域調節池等を連結し、海までつなぐ地下河川の事業化に向けた取組みなどを行っていく(図- 16)。

図-16 地下河川の検討イメージ
図-16 地下河川の検討イメージ

 

(2) 未来に向けた魅力的な水辺空間の創出

隅田川等で進めてきた水辺のにぎわい創出等については、これまでの取組みや社会情勢の変化等を踏まえた「隅田川等における未来に向けた水辺整備のあり方」を令和5年6月に取りまとめ、水辺整備の今後の方向性と取組みイメージを示している。
 
このあり方を踏まえ、今後は「点」「線」「面」による水辺を基軸としたネットワークを構築し、「水辺のゆとりと潤いを活かした東京の顔づくり」を目指していく。
 
具体的には、これまで隅田川下流域を中心に進めてきた水辺の動線強化や拠点整備等の取組みを上流域に拡大することに加え、ウォーカブルな水辺空間の創出、まちづくりと連携した河川整備、オープンテラス等の恒常的な利活用の仕組みづくり等を進めていく(図- 17、18)。

図-17 水辺を基軸としたネットワークの構築
図-17 水辺を基軸としたネットワークの構築
図-18 オープンテラスの試行状況(隅田川・越中島)
図-18 オープンテラスの試行状況(隅田川・越中島)

 
 

おわりに

約1,400万人以上が暮らす首都東京において、ひとたび水害が発生すれば、人々の生活や社会経済に与える影響は甚大である。
未曾有の災害からも人々を守る、安全・安心で強靱な都市・東京を実現するとともに、良好な水辺空間を創出し未来へ引き継いでいくため、今後も着実な事業推進に取り組んでいく。
 
 
 

東京都 建設局 河川部 計画課長
渡辺 修

 
 
積算資料公表価格版2024年5月号
積算資料公表価格版2024年5月号

最終更新日:2024-04-19

 

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