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1. はじめに

これからの公共施設は,地球温暖化対策に基づく国や自治体のロードマップに沿って計画され,脱炭素社会を目指す先導的なモデルとなる建築物が数多く出現するのではないかと思われる。最近建設された公共施設には,すでに効果的な省エネ対策と再エネ利用が行われており,その中の一つに地中熱利用がある。地中熱は様々なタイプの建築物に導入されてきており,公共施設で地中熱を利用したものは100を超える。
 
地中熱は10年ほど前までは,国の新エネルギー政策に入っていなかったために,太陽熱や雪氷熱など他の再生可能エネルギー熱と比べて,国や地方自治体の政策にのるのに後れをとってしまっていたが,2010年にエネルギー基本計画(第三次)で取り上げられると,翌11年から経済産業省の再生可能エネルギー熱利用の補助金の対象になり,13年からは環境省の補助金も使える状況になってきている。このような中で地中熱についての自治体の認知も進んできており,全国で28都道府県と7政令指定都市が地中熱利用を政策の中で取り上げている。
 
また,昨年は省エネ基準(非住宅)の一次エネルギー消費量の計算プログラム(WEBプログラム)に地中熱ヒートポンプがのり,建築確認申請時に地中熱ヒートポンプの省エネ性評価ができるようになってきているので,これから地中熱利用の導入件数は大きく伸びるものと予想している。
 
 

2. 地中熱は再生可能エネルギー

地中熱は地表近くにある再生可能エネルギーで,その大部分が太陽熱を起源にしている。太陽熱が地中に蓄えられたのが地中熱であるといってもよい。10mの深さの地温が全国どこでも,その地域における年平均気温と同じであることは,地中熱が太陽熱に起源していることを物語っている(図− 1)。
 

図−1 季節ごとの地中温度(地中熱利用促進協会原図)




 
地球は中心に向かうにつれ地温が高くなるので,地表付近においてもその地温勾配に起因する地下深部からの熱の流れがあるが,その熱量の占める割合はごくわずかである。この点が火山や温泉に起因する「地熱」と大きく異なるところである。地熱は発電などに利用されているが,地中熱は発電には向かない。しかし,年平均気温と同じ温度の地中熱は,夏冬で気温と地温との温度差を活用できるので,温熱としてだけでなく,冷熱としても利用できる。
 
 

3. 地中熱の利用形態

地中熱の利用にはいくつかの方法がある(図−2)。
 
 

図−2 地中熱の利用形態(地中熱利用促進協会原図)




 
 
その中でヒートポンプを用いる方法が世界的に見て最も普及が進んでいる利用方法であり,埋設した地中熱交換器を利用するクローズドループ(ボアホール方式,杭方式,水平方式など)と地下水を利用するオープンループがある。ヒートポンプを用いない利用方法には,熱伝導,空気循環,水循環,ヒートパイプを利用した方法がある。
 
 

4. 地中熱ヒートポンプの省エネ性と環境性

地中熱ヒートポンプのエネルギー・環境面で優れた点に,省エネ,節電(ピークカット),CO2発生量の削減効果とヒートアイランド現象の抑制効果がある。
 
再生可能エネルギーである地中熱の利用は,化石燃料を用いたボイラーなどのシステムに対して,大きな省エネ効果がある。また,地中熱ヒートポンプシステムの冷暖房では,空気熱源のヒートポンプと比較した場合も,気温と地温の温度差が利用できるため,夏の冷房と冬の暖房で消費電力が大幅に削減できる(図−3 左)。
 

図−3 IKEA福岡新宮ストアの空調での消費電力量削減効果とCO2排出量削減効果 2012年4月〜2013年3月実績値(新エネルギー導入促進協議会の2015年の資料に
基づく)




 
また,地中熱ヒートポンプは年間一次エネルギー消費量の削減に優れているということばかりでなく,電力需要が最大となる夏のピークカットにも大きな効果がある。したがって,地中熱利用は省エネと平準化という平成25年省エネ法改正の2つの目的に共にかなう再生可能エネルギーの利用法であるといえる。
 
地中熱ヒートポンプを使うと,空気熱源ヒートポンプ(通常の空冷エアコン)に比較して格段に少ないエネルギーで冷暖房ができる。冷房を例にしてその理由を簡単に説明すると,空冷エアコンで室内の排熱をするためには,室内機で冷媒が受け取った熱を室外機から大気中に放熱する際に,冷媒の温度を外気温より高くする必要がある。そのための仕事をするのがヒートポンプであり,外気温が高ければ高いほどヒートポンプの仕事量は大きくなる。一方,地中熱ヒートポンプでの放熱先の地中は,夏でも低い温度環境にあるので,たやすく熱が逃げてくれ,少ないエネルギーで室内からの排熱が可能になる。地中熱ヒートポンプは空冷エアコンより格段に少ない電力で冷房ができることになる。節電が求められている夏の暑い日にも効果のある優れた省エネシステムであると言える。
 
省エネで節電効果が大きいことから,当然CO2発生量の削減にも大きく寄与する(図− 3 右)。また,地中熱ヒートポンプの普及が先行している北海道などでは,石油代替で使われており,大きなCO2削減効果を発揮している。
 
地中熱ヒートポンプが環境性に優れているもう一つの点に,ヒートアイランド現象の抑制効果がある。大都市圏において顕著なヒートアイランド現象の主な要因の一つが建物からの排熱であるが,地中熱ヒートポンプは通常のエアコンのように排熱を大気中に放出しないので,ヒートアイランド対策としても効果がある。
 
 

5. 建築物への地中熱ヒートポンプの導入

省エネ性と環境性に優れた地中熱ヒートポンプであるが,導入にあたっては,はじめに立地と経済性の検討が行われる。地中熱交換器を用いるクローズドループは全国どこでも利用可能であるが,地下水を利用するオープンループについては,立地面でみると利用可能な帯水層の有無のほかに,条例等による揚水規制も考慮しなければならない。次に経済性の検討では,長く使う公共施設の場合は,ライフサイクルコストでの判断が重要である。熱需要の大きな施設ほど初期コストの回収年数は短くなるので,公共施設の中でも病院や福祉施設といった年間を通して熱需要の大きい施設に地中熱を導入するケースが近年増えてきている。
 
地中熱ヒートポンプシステムの導入計画が決まると,建物の基本設計段階で,地中熱ヒートポンプシステムが熱源システム全体の中に合理的に位置づけられた後,その詳細が実施設計段階で記述されることになる。基本設計では,建物の空調負荷計算が行われ,地中熱利用が空調負荷のどの部分を賄うかが決められる。小規模な建築物では地中熱で建物全体の空調を行うケースもあるが,規模の大きな建物では,建物全体の空調は複数の熱源機を用いたセントラル熱源方式で賄われ地中熱ヒートポンプがその中の1つとなるケースや,個別空調の一部に地中熱ヒートポンプシステムが採用されるケース等がある。地中熱ヒートポンプには,セントラル熱源方式で使用される水−水ヒートポンプと,個別空調で使用される水−空気ヒートポンプ(ビルマルチ方式など)がある。また,パッケージで空気熱とのハイブリッドのタイプのものも製造されているので,設計に合わせて機種の選択ができる。
 
基本設計ではあわせて地中熱交換器の検討が行われる。建物の構造や敷地面積を考慮して,ボアホール方式,杭方式,水平方式などが選択でき,建物の熱負荷,利用時間,ヒートポンプの性能,地盤の有効熱伝導率等から設計ツール(国内のものとして北海道大学で開発したGround Clubなどがある)を用いて,適切な地中熱交換器の長さと配置が求めることができる。
 
 

6. 熱応答試験(TRT)

ある規模以上の地中熱利用設備を導入する時には,必要な地中熱交換器の長さを求めるため,地盤の有効熱伝導率を求める熱応答試験(TRT:Thermal Response Test)を実施する。TRT にはボアホール等が必要であるため,工事のはじめに実施する場合が多い。しかし,TRTは本来設計時に実施すべきものであろう。
 
TRTは国の補助事業の対象になっており,設計時にTRTを実施することに対しても,国の補助事業の適用を受けることができる。公共施設の場合など,基本設計が実施設計と施工に先立って前年度の事業として実施されることが多いので,補助金の活用で本来の形での地中熱システムの設計ができる。なお,補助金を利用する場合は,年度により交付内容が異なる場合があるので,最新の情報を把握しておく必要がある。
 
 

7. 自治体の省エネ・再エネ仕様

公共建築物の新築,改築において最新の省エネ設備や多様な再エネ設備の導入を基本にしている自治体がいくつかある。東京都が2011年に改訂した「再エネ・省エネ東京仕様」(図− 4)では,再エネ設備として太陽光から地中熱まで多様な設備が取り上げられており,地中熱利用ヒートポンプは「施設の特性,立地状況等に応じて導入」となっている。東京都では新しい建物の基本設計の発注において,この「東京仕様」が適合基準になっており,これにより20年の東京五輪の2つの施設に地中熱が導入されることになった。
 
 

図−4 省エネ・再エネ東京仕様




 
 
地中熱ヒートポンプを導入するアクアティクスセンター(五輪水泳競技場)の基本設計資料を図− 5,図− 6に示す。
 
 

図−5 再エネ・省エネ技術の利用(アクアティクスセンター(仮称)新築工事基本設計)




 
 

図−6 再エネ,省エネ技術の効率的,効果的導入(アクアティクスセンター(仮称)新築工事基本設計)




 
 
この施設には地中熱以外にもいくつかの再エネ・省エネ技術が適用されており,温熱と冷熱の熱負荷想定に対して,再エネ熱が効率的,効果的に利用できるように設計されている。年間通して必要な温熱需要(暖房とプールの水温調整)には,太陽熱とコジェネ排熱が通年のベース熱源として振り当てられ,地中熱は暖房が必要な時期を中心に10月から翌年の6月までのベース熱源として活用される。温熱の負荷変動に対応する部分にはガスが使われる。一方,冷房では冷熱が一番必要な夏期の7月から9月のベース熱源として地中熱が利用される。また,五輪バレーボールの会場となる有明アリーナにも同様の考え方で地中熱ヒートポンプが導入されることになっている。
 
 

8. 施工の品質確保

地中熱ヒートポンプシステムの施工は,一括方式ではゼネコンあるいはサブコンの下での仕事となり,分離方式では地中熱システム単独の施工となるか,設備工事を担当するサブコンの下での仕事となる。施工の品質確保という視点からは,地中熱システム全体を同じ施工会社が担当することが望ましい。さて,地中熱交換器の設置は,ボアホール方式の場合,掘削,Uチューブの挿入,けい砂の充填という手順で行われ,水圧試験により地中熱交換器からの漏水が無いことを確認した後,ヒートポンプへの配管接続が行われる。なお,地中熱ヒートポンプシステムの省エネ運転を確実に行うには,性能評価のための最低限の計測装置の設置が望ましい。
 
すでに千件を超える地中熱ヒートポンプシステムの施工が地中熱利用促進協会の会員により行われているが,同協会では設置するシステムの品質確保のために,これまでの施工実績に基づき作成した技術基準を『地中熱ヒートポンプシステム施工管理マニュアル』(オーム社刊)として取りまとめている。また,このマニュアルをテキストにした地中熱施工管理講座のほか,基礎講座,設計講座も開講しており,人材の育成を行っている。さらに2014年には地中熱施工管理技術者の資格認定制度を創設し,施工の品質確保に努めている。資格認定制度では毎年一級と二級の試験が実施され,合格者は地中熱施工管理技術者として登録される。登録状況については協会のホームページで公表されているので,施工会社を選定する際の参考にしていただきたい。
 
 

9. 初期投資の軽減

地中熱をはじめ再生可能エネルギーの導入により,ランニングコストは大きく低減するが,そのための設備を導入する費用をどのように工面するかは頭の痛い問題である。この解決法として,初期投資を半分以下にする補助金の利用と初期投資を必要としないエネルギー・サービス・プロバイダー(ESP)事業/エネルギー・サービス・カンパニー(ESCO)事業の活用がある。
 
地中熱設備導入に自治体が利用できる補助金は環境省から出されており,2016年度から実施されている「再生可能エネルギー電気・熱自立的普及促進事業」(20年度まで最大5年間)がそれに該当する。この補助制度では地中熱利用設備の導入に,政令市で2分の1,政令市未満では3分の2の補助が得られる。また,事業化の計画段階での定額の補助もある。なお,民間事業者が地中熱を導入する場合の補助金としては,この環境省の事業と連携して実施されている経済産業省の「再生可能エネルギー熱利用事業者支援事業」があり,こちらは通常の場合の補助率は3分の1となっている。
 
民間会社によるESP事業/ESCO事業は,ランニングコストの減少分に注目して,長期で採算がとれるビジネスモデルをつくりESP事業者/ESCO事業者が初期投資を肩代わりするものである。地中熱クローズドループのESCO事業としては新潟県妙高市の公共施設「水夢ランドあらい」で,2015年から15年の契約で実施されているものがある。また,ESP事業は公共施設ではないが,長野県上田市の大規模店舗の新築で導入したオープンループのシステムで実施されている。
 
 

10. おわりに

これからの公共施設を省エネの視点からみると,ネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)の実現を目指す方向に大きく動いている。本文中でZEBについては触れなかったが,地中熱はZEBの実現において省エネの主な構成要素の一つである。また,パリ協定で目標としている民生分野での温室効果ガスの40%削減という視点からもCO2削減効果が大きい地中熱は注目されている。今後,地中熱の導入件数は大きく伸びるものと予想しており,公共施設において導入モデルになるような建物が増えることを期待している。
 
 

NPO法人地中熱利用促進協会 理事長 笹田 政克

 
 
 
【出典】


積算資料公表価格版2017年04月号



 

 

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