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建設資材データベーストップ > 特集記事資料館 > 積算資料 > 東名高速道路全線開通50周年〜果たしてきた役割と今後の目指す姿〜

 

1. はじめに

東名高速道路(東京IC〜小牧IC,347km)(以下,「東名」という)は,2019年5月26日に全線開通から50周年という大きな節目を迎える。東名は日本で初めての都市間高速道路として建設された名神高速道路(以下,「名神」という)とともに,沿線地域の活性化だけではなく,日本の物流を支える大動脈として日本経済の発展に貢献し,工業・商業・農業・漁業などさまざまな産業の変革に関わり,また人々の暮らしを支えてきた高速道路である。本稿では東名の計画や歴史などを振り返るとともに,これまで果たしてきた役割や,今後の高速道路の目指す姿について述べる。
 
 

2. 東名高速道路の概要

東名は東京都世田谷区にある東京ICを起点とし,愛知県小牧市にある小牧ICを終点とする全長347kmの高速自動車国道である(図−1)。東京都,神奈川県,静岡県,愛知県の1都3県(42市町)を通過しており,古くから経済活動の中心となっていた旧東海道に沿った路線として,日本の大動脈を形成してきた。東名が通過する1都3県は,日本の人口の約3割が生活し,国内総生産の約3割を占めるなど,経済活動の多くを担っており,日本の経済発展を支える極めて重要な地域である(図−2)。
 
現在の東名は1日当たり約41万台利用されており,道路を通行する往復の車両を観測する断面交通量では平日昼間の12時間交通量で,海老名JCT〜厚木間が全国の高速自動車国道で第2位(90,403台/12時間),横浜町田〜海老名JCTが同第4位(87,610台/12時間)となるなど,全国でも有数の重交通路線となっている(出典:平成27年度全国道路・街路交通情勢調査(国土交通省))。
 

【図−1 東名高速道路の位置と開通年月】

 
     
【写真−1 全線開通当時(1969年)の横浜町田IC周辺】   【写真−2 2018年現在の横浜町田IC周辺】

 

【図−2 東名沿線の人口と総生産】



3. 東名高速道路建設の歴史

東名の歴史は,1940年の東京〜下関間の予備調査から始まった。予備調査は戦況の悪化により一時中断されたが,終戦後の1951年に,東京〜神戸間の高速自動車国道の比較線調査および経済調査として本格的な調査が再開された。当時の日本は,明治維新以降,鉄道が優先的に整備されてきたこともあり,道路は劣悪な状態のまま放置されていた。そして1950年代後半に入り,日本は戦後復興期から急速な経済成長に伴い自動車輸送への依存度が増加すると,この道路事情が大きな足かせとなっていた。
 
1956年,ワトキンス調査団による「名古屋・神戸高速道路調査報告書」では,「日本の道路は信じがたいほど悪い。工業国にしてこれほど完全にその道路網を無視してきた国は,日本の他にない」と,日本の道路事情を痛烈に批判した上で,高速道路の必要性や財政手法がまとめられた(写真−3)。政府はこの指摘を受け高速道路建設を実行に移し,整備が進むこととなった。その後,日本初の都市間高速道路である名神の建設が1958年に始まり,1963年には,尼崎〜栗東間が初の開通を迎えることとなる。
 
一方,東名においても,1960年に「東海道幹線自動車国道建設法」が公布され,整備が始まった。整備にあたっては世界銀行からの合計3億ドルの借款に成功し,東名全体の建設費の約3割に充てることができ,建設推進の大きな支えとなった。課題となっていた事業費の問題が解決したことと,当時の世界水準の土木技術(施工機械の大型化,設計・施工の標準化,工事工程管理,安全管理など)を積極的に取り入れたこと,難工事の工程促進に努めたことなどにより,1962年の施行命令から約7年後の1969年5月26日に全線開通を成し遂げた。これは当時の水準からみても驚異的なスピードであった。
 

【写真−3 第二次世界大戦後の日本の道路状況】



4. 東名高速道路と中央自動車道

名神に接続する東京〜名古屋間高速道路の建設は,国土開発優先の中央自動車道(以下,「中央道」という)とするか,経済の枢要地区を結ぶ経済効率優先の東海道案とするかについては政治を巻き込む大きな問題となっていた。1950年代には国の財政に余裕がなかったこともあり,優先順位,必要性などについて政府,国会,世論を通じて論争が展開され,わが国の道路史上かつてない大論争を巻き起こした。名神の調査に来日したワトキンス調査団の報告書でもこの問題に触れ,「二つの案が決して比較すべき計画ではなく,それぞれに異なった根拠で有益である」とし,論争に大きな示唆を与えている。
 
論争はその後も両者相譲らぬ展開となり,1960年5月,二つの法案が第34回国会に提出されることとなる。一つは,「国土開発縦貫自動車道建設法」第3条の規定に基づく,議員立法による中央道の予定路線(東京〜小牧)を定める法律案で,もう一つは,東海道案を提唱する議員の共同提案によって提出された「東海道幹線自動車国道建設法」案である。この時も両法案の取り扱いをめぐって種々の議論や調整が行われたが,結局両法案とも同時に成立し,7月25日から公布施行された。これにより,東京〜小牧間には法律上,二つの高速道路建設が実現することになり,論争に決着がついたのである。
 
 

5. 東名高速道路の整備効果

東名は先述のとおり,戦後の復興から立ち直らんとする先輩技術者の弛まぬ努力とさまざまな議論の末にようやく全線開通を迎えたが,それ以降は,名神と一体となって,活発な経済活動を誇る関東〜中部〜関西地域を結ぶ都市間高速として,大きな整備効果を発揮してきた。本章では,東名が全線開通から50年間で発揮した主な整備効果について述べる。

①東名整備による経済波及効果

東京〜名古屋間の車による移動は,50年前の東名整備以前は約9時間30分かかっていたのに対し,東名整備により4時間30分で到着することができるようになった。東名は前述のとおり経済活動の中心地を通過する高速道路であることから,このおおよそ5時間の時間短縮効果により企業活動などの生産性は大きく向上し,日本経済に大きな影響を与えた。そこで,東名が日本全体の経済にどれほどのインパクトを与えているのかを定量的に把握するため,経済モデルである「空間的応用一般均衡モデル(以下,「SCGEモデル」という)」を用いて,東名の整備による経済波及効果を算出した。

 
1)SCGEモデルの概要
SCGE モデルとは,物流・人流両方を考慮した地域経済効果を計測するための代表的な経済モデルである。今回の分析では,高速道路とその他交通機関の競争も考慮する必要があることから,鉄道などとの機関分担も考慮したモデルとした。今回構築したモデルのイメージ図を図−3に示す。計算では,地域ごとに産業構造の違いが大きく異なることから,生活圏を考慮した207の地域に分類を行い,公的データに基づき整理可能な26産業区分(日本標準産業分類より(総務省))に分け,各地域間,産業間の経済取引を考慮した。
 

【図−3 経済波及効果算出モデルイメージ】



2)東名整備による経済波及効果の算出
東名の整備による経済波及効果を算出するにあたっては,現在の高速道路ネットワーク条件で算出される生産額と,東名が整備されていない場合のネットワーク条件で算出される生産額の差分をとることで得られる生産額の変化額を,東名整備による経済波及効果とした。
 
推計の結果,東名整備による経済波及効果は,供用開始から50年間で約60兆円(2010年実質価格)に達することが分かった(図−4)。また年間当たりの生産額変化額は2015年時点で1.5兆円/年となっており,東名があることにより毎年大きな経済効果を生んでいる。
 
経済波及効果を地域別に見ると,東京都,神奈川県,静岡県,愛知県の生産額変化額はいずれも1,500億円/年を超えており,東名沿線地域へ非常に大きなインパクトを与えたことが分かる。また,沿線地域に留まらず,関東地方・中部地方・関西地方の全域や,中国地方・九州地方の一部でも100億円を超える経済効果を生んでおり,東名高速道路が日本全体の経済に大きく貢献していることが分かる(図−5)。
 
産業別に見ると,サービス業が0.57兆円/年,鉱業・製造業が0.42兆円/年と生産額が大きく向上しており,関東地方〜関西地方の主要産業への効果が大部分を占めている。また高速道路整備による土地価格の上昇などにより不動産業の生産額が向上したり,経済活動が活発になったことにより卸売・小売業も大きく生産額を上げている(図−6)。
 

【図−4 東名整備による経済波及効果】


 

【図−5 地域別生産額変化額の分布】


 

【図−6 産業別生産額変化額】



②物流への貢献

東名が「日本の大動脈」と呼ばれる主な理由として,物流への貢献が挙げられる。
 
例えば,現在では当たり前となっているインターネット通販であるが,これを支えているものは,高速道路の速達性と全国に展開されているネットワークであるといえる。物流はより多くの商品を正確な時間に届けることが重大な使命であり,高速道路はそれを実現するインフラとして機能しており,その高速道路ネットワークの中心に位置する東名・名神が物流の多くを支えている。事実,東名・名神は高規格幹線道路のわずか7%の道路延長しかないにも関わらず,高規格幹線道路全体のトラック貨物量の約半分を担っていることがわかっている。
 
また東名の全線開通当時における東京〜大阪・愛知間のトラックによる貨物流動は,輸送機関全体の約7〜8割程度であったが,東名の全線開通以降に機関分担が変化し,現在では9割以上がトラック輸送にシフトしている(図−7)。その内,約7〜8割が高速道路を利用していることも分かっており(図−8),東名が東京〜大阪・愛知の物流に変化をもたらしてきたことがわかる。
 

【図−7 東京〜大阪・愛知間のトラック輸送分担率】


 

【図−8 京浜発着トラックの高速道路利用率】



③商業への貢献

高速道路の整備により,商業にも大きな変化が生じた。50年前と比較し,全国に高速道路ネットワークができたことにより配送網が格段に広がっており,新鮮な商品や一定の質の商品をどの地域へも運べるようになった。コンビニエンスストアはまさにその効果を利用したモデルとなる商業形態であり,実際に高速道路の延伸とともに店舗数は増加し続けている(図−9)。
 
商業における東名の整備効果としては,東名が通過する1都3県の年間卸売販売額が,全線開通時からの全国の伸び率の平均約7倍を上回り,約8〜9倍の増加率(図−10)となっている。これまでの高速道路整備は東名だけでなく全国各地で実施されている中で,東名沿線地域の商業関連指数の伸び率が全国平均を上回っていることは,東名がいかに沿線の商業の活性化に影響を与えたかをうかがい知ることができる。
 

【図−9 コンビニ店舗数と高速道路延長の推移】


 

【図−10 年間卸売販売額の推移】



④工業への貢献

東名沿線の神奈川県・静岡県・愛知県には,多くの自動車関連会社が立地する,工業が盛んな地域である。そして日本の自動車産業はわが国の製造業人口の約半数を占める巨大産業として,日本経済の成長をけん引してきたといえる。その自動車産業をはじめとする工業の活性化を表す指標として1事業所当たりの製造品出荷額等について,東名の全線開通当時からの推移を図−11のとおりまとめた。
 
1事業所当たりの製造品出荷額等を東名沿線とその他の地域で比較したところ,神奈川県において約21倍,愛知県においては約26倍の成長となるなど全国の平均増加率約13倍を大きく上回っている。東名整備により物流や企業活動の生産性が向上し,当該地域の主要産業である工業の成長を支えてきたことがわかる。また,図−12のとおり,製造品出荷額等の増加額および増加率を市町村別にまとめたところ,東名が通過する市町において製造品出荷額等が大きく増加していることがわかり,東名が沿線の工業分野に大きな影響を与えたことがわかる。
 

【図−11 1 事業所当たり製造品出荷額等の推移】


 

【図−12 市町村別製造品出荷額等 増加額および増加率】



6. おわりに

本稿では,東名が整備されてから50年にわたる整備効果を,主として経済的観点から述べたが,これ以外にも観光の活性化,ライフスタイルの多様化,医療・防災への貢献など,人々の安全,安心,快適な生活基盤を支える基幹インフラとしても重大な役割を果たしている。
 
先にも述べたが,東名高速道路の建設は当時の最重要国家プロジェクトの一つであり,世界銀行からの融資を受けたことからも,当時の先輩技術者達は,従来までの日本国内の技術,システムに縛られることなく,当時の世界最先端技術,新たな設計思想や調達方式などを大胆に取り入れ,従来の道路とは全く違う次元の新たな道路システムを創り出したのである。その過程の中で,道路自体の革新だけにとどまらず,土木技術,建設技術,調達システム,運営管理システムなど社会システム全般に影響を与え,わが国の社会経済の発展に多大な貢献を行った。また開通後も,増加し続ける交通量に対し,大井松田〜御殿場間の7車線化,厚木〜大井松田間の6車線化,横浜町田〜厚木間のピンポイント渋滞対策などの改良を重ね,時代の変化と共に日本の道路技術を常にリードし,進化を続けてきた。
 
そして現在,その東名の進化の遺伝子を引き継ぎ,「新たな国土の大動脈」の役割を担う新東名高速道路(以下,「新東名」という)が,御殿場JCT〜豊田東JCT,海老名南JCT〜伊勢原JCT間で開通し,伊勢原JCT〜御殿場JCT間で全線開通に向け建設工事を進めている。新東名はこれまでの高速道路におけるさまざまな課題を踏まえ,より安全で,安心・快適な高速道路として,道路本体や設備に革新的な技術を取り入れ,世界をリードする高速道路を目指して建設されている。また生産年齢人口の減少などの現代の課題に対し,物流分野の生産性向上や産業競争力の強化を図るために,自動運転・トラック隊列走行・ダブル連結トラックなど,次世代の物流システムを支える高速道路としても期待されており,物流の基軸としての機能を最大限発揮することを目的に,静岡県区間において6車線化工事を進めている。
 
東名・新東名がその機能を最大限に活かし日本経済に貢献し続けるとともに,新たな日本の未来を支え,今後も進化し続ける高速道路となるよう,会社を挙げて取り組んでまいりたい。

 
 
 

中日本高速道路株式会社 経営企画本部 経営企画部 経営企画チーム
椎野 修(しいの おさむ) 酒井 宏和(さかい ひろかず)

 
 
【出典】


積算資料2019年6月号



 

 

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