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ホーム > 建設情報クリップ > 土木施工単価 > 定期点検要領の改定について

 

1. はじめに

平成25年6月の道路法改正を受け,平成26年7月より道路管理者は全ての橋梁,トンネル(シェッド・大型カルバート・横断歩道橋・門型標識等),道路附属物等の道路構造物について,健全性の診断をするために,5年に1回の頻度で近接目視を基本とする点検(以下,「定期点検」という)を実施している。その定期点検が平成30年度末で一巡目が終了することから,国土交通省では社会資本整備審議会道路分科会道路技術小委員会での議論を踏まえ,平成31年2月に定期点検の見直しを行った。
 
本稿では,定期点検要領の見直しの概要について述べていきたい。
 
 

2. 定期点検の見直し

(1)定期点検要領見直しのポイント
定期点検の見直しのポイントは,「①損傷や構造特性に応じた点検の着目箇所の絞り込み」,「②新技術の活用による効率的な点検」の2 点が挙げられる。①については,以下に示すように,損傷や構造特性に応じて,定期点検の質を確保しつつ作業量を低減させた合理的な点検を実施できることを示した。また,特徴的な変状に対して適切な健全性の診断ができるように,技術的な留意事項や付録・参考資料に参考情報を充実させている。一方,②については,近接目視による点検を基本としつつ,点検を実施する技術者が近接目視による場合と同等の健全性の診断を行うことができると判断した場合に,新技術の活用による状態の把握を可能とした。これにより,点検支援技術の導入を促進し,定期点検の効率化が期待される。
 
上記以外では,点検記録様式についての見直し等も行っている。法令においては,点検,診断,措置についてその内容の記録が求められているが,その具体的な項目について定めはない。活用の目的が明確であれば,道路管理者が必要とする内容や項目を記録すればよいということになる。そこで,記録の目的を「(A)最小限把握しておく必要がある情報の記録」,「(B)健全性の診断において特に着目した変状の記録」,「(C)措置に向けた調査や定期点検結果の比較に有用な情報の記録」,「(D)劣化傾向の分析等に必要な詳細な単位での客観的な情報の記録」に分類し,目的に応じた記録様式のメニューを用意することで,道路管理者のニーズに応じて,記録項目を選びやすくした。
 
次項から,橋梁,トンネルそれぞれの定期点検における点検要領の改定内容を解説する。
 
 
(2)道路橋定期点検要領見直しのポイント
今回の改定では,例えば溝橋については着目すべき箇所や変状箇所を特定し,内空の状態の把握にはカメラを活用するための留意点も示すことで,点検に要する作業負担を減らせることを具体的に示している。また,RC床版橋,H形鋼橋についても,現地での目視等の作業内容が減らせる場合があることを紹介している(図-1)。
 
一方で,定期点検の質の向上を図るために,特徴的な変状に対して技術的に参考となる資料を整備した。例えば,吊橋や斜張橋などケーブルを有する橋梁については,「引張材を有する道路橋の損傷例と定期点検に関する参考資料」を作成し,特に損傷が起きやすい箇所について留意点を示した。
 

図-1 変状や構造特性に応じた定期点検の合理化



(3)トンネル定期点検要領見直しのポイント
トンネルにおいては,健全性がⅢと診断された施設に発生した変状の発生要因を分析すると,材質劣化によるものが最も多く,さらに,材質劣化に起因する変状の種別ごとの発生割合では,うき・はく離,はく落で全体の96.2% と大半を占めていた。
 
また,点検で着目すべき箇所の明確化のため,うき・はく離,はく落に着目し,その発生位置について分析すると,「目地部」,「過去の変状箇所や補修箇所」の2つの箇所が大半を占めていることが確認された。
 
これらのことから,トンネルの定期点検の見直しにあたっては,点検の合理的な運用として,二回目以降の点検で最低限行うべき打音範囲を技術的留意事項として明示した(図-2)。
 

図-2 二回目以降の打音範囲イメージ図



(4)新技術利用のガイドライン(案)と点検支援技術性能カタログ(案)
道路管理者が定期点検を行う上で点検支援技術を円滑に活用できるように,定期点検要領(技術的助言)と合わせて活用できる参考資料として,新技術利用のガイドライン(案)および点検支援技術性能カタログ(案)を作成した(図-3)。
 
新技術利用のガイドライン(案)(以下,「ガイドライン(案)」という)は,業務委託等により定期点検を実施する際に点検支援技術を活用する場合を想定し,道路管理者である発注者と受注者双方が使用する技術について,確認するプロセスや留意点等について整理した参考資料である。点検支援技術の活用範囲や活用目的,技術選定の考え方,技術の性能を示す標準項目等が例示されている。
 
点検支援技術は,ガイドライン(案)で示された標準項目に基づき,その性能値が開発者等から明示されている技術を用いることが望ましい。そこで,ガイドライン(案)の標準項目に対する性能値を技術ごとに整理した点検支援技術性能カタログ(案)(以下,「性能カタログ(案)」という)を作成した。性能カタログ(案)は,これまでに国土交通省でNETIS(新技術情報提供システム)テーマ設定型等により技術公募し,国管理施設等の定期点検業務で仕様確認が行われた技術を対象に,標準項目に対する性能値を開発者に求め,開発者から提出されたものをカタログ形式でとりまとめたものである。
 
例えば,橋梁等を対象とした画像計測技術として,ドローンを用いた近接目視点検の支援技術のほか,トンネルを対象とした覆工画像計測技術では,走行型の計測システム等が掲載されている(写真-1)。委託業務等により定期点検を実施する場合,発注者・受注者の双方において参考とすることで,適切な技術の選定を支援するものである。
 
性能カタログ(案)は,平成31年2月時点の技術について整理したものであり,今後の技術開発の進展に応じ,性能カタログ(案)に掲載する技術は適宜見直しを行う予定としている。なお,性能カタログ(案)に記載のない技術についても,標準項目の性能値を受注者に求め,目的に適合するかを確認することで活用することができる。
 
二巡目点検では,点検支援技術の活用・導入により点検の効率化を推進していく予定である。そのためには,各県に設置した道路メンテナンス会議を通して講習会の開催等による技術支援を継続していきたい。
 

図-3 点検支援技術の活用プロセスの例


 

写真-1 性能カタログ(案)に掲載した技術の例




 

3. 地方公共団体への支援

現在,道路構造物の老朽化が進行する一方で,施設の大多数を管理する地方公共団体においては,技術系職員が少ないこと等が課題となっている。国土交通省では,メンテナンスサイクルの着実な実施に向けて,地方公共団体に対して財政的・技術的支援を実施している。
 
技術的支援として,都道府県ごとに設置している「道路メンテナンス会議」等を活用し,維持管理に関するさまざまな情報の共有等を図るとともに,市町村の点検・診断業務を都道府県等が一括で委託する「地域一括発注」や,特に社会的な影響が大きく構造が複雑な施設等については,国の技術者による「直轄診断」による支援を実施している。直轄診断については,平成26~29年度までに10箇所で実施している(写真-2)。
 
また,地方公共団体の職員
等を対象に橋梁,トンネル等の定期点検に必要な知識と技能の習得を目的とした研修を平成26~29年度までに約160回開催し,約850の自治体から約3,600名の職員が受講している(写真-3)。
 
今年度からは,地方公共団体や点検業務を受注するコンサルタント等を対象に,溝橋の点検講習会や点検支援技術活用講習会を開催している(写真-4,5)。
 

写真-2 直轄診断の様子

写真-3 研修の様子

 

写真-4 溝橋講習会の様子

写真-5 点検支援技術活用講習会の様子



 

4. 今後の課題とその対応

今後は,道路技術小委員会の意見を踏まえながら,市町村が管理する施設等において,定期点検の結果を踏まえた措置に関し,国等による支援体制の充実や,修繕に関する技術的なとりまとめ,定期点検の質を確保するための点検に関する資格制度や新技術に関する審査制度等について,引き続き検討する予定である。
 
加えて,定期点検の更なる合理化を進めるため,近接目視によらない新しい点検方法の開発を進める予定としている。本年度は,道路施設を構成する部材等において,耐荷力や損傷の進展状況等を直接計測し,近接目視を実施せずに健全性の診断が可能となる計測・モニタリング技術を公募し,技術検証を実施することとしている(図-4)また,検証を経た技術については性能カタログに技術情報を掲載し,定期点検業務での活用を推進する予定である。
 

図-4 近接目視によらない点検手法のベストミックスの取組




 

5. おわりに

定期点検の計画的な実施や予防保全を考慮した適切な修繕の実施にあたっては,地方公共団体に対する継続的な支援が不可欠である。
 
本年度からの二巡目点検にあたり,国として「道路メンテナンス会議」等を活用しつつ,地方公共団体への支援に引き続き取り組んでいきたい。
 
 

【参考文献】
1)第10回道路技術小委員会 配付資料
https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/road01_sg_000418.html
 
 
 

国土交通省 道路局 国道・技術課 課長補佐 大場 慎治

 
 
【出典】


土木施工単価2019秋号



 

最終更新日:2020-01-20

 

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