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建設資材データベーストップ > 特集記事資料館 > 積算資料 > 新たな国立競技場 〜皆さまに愛され続ける競技場を目指して〜

 

1. はじめに

1958年の第3回アジア競技大会のために建設された旧国立競技場が56年間の歴史に幕を閉じ,2016年12月から新たな国立競技場(以下「新競技場」という)の建設が始まり,当初の計画どおりに2019年11月に完成しました。 
旧国立競技場は,1964年の東京オリンピックのメイン会場として使用されましたが,新競技場も2020年の東京オリンピック・パラリンピックのメイン会場として使用され,その後のレガシーにおいても過去の歴史を継承しつつ,新時代のスポーツや文化の在り方を国内外に発信し続ける競技場を目指しています。
 
本稿では,新競技場の特徴を紹介するとともに,整備事業への導入技術の概要を紹介します(図−1)。
 
 
図−1 事業の概要と工事スケジュール】


 

2. 新競技場の特徴

新競技場の主な特徴を紹介します。

(1)神宮の杜と調和する市民に開かれたスタジアム

明治神宮内苑から皇居へとつながる歴史的な神宮の杜。この豊かな自然と調和させるため,新競技場の敷地内には高中木および低木合わせて約4万7,000本が植栽されています。また,3・4階レベルの軒庇(のきびさし)上部や5階の「空の杜」には四季折々の花や葉色が楽しめるように,多様な低木や地被類が植栽されています(写真−1)。
 

写真−1 神宮の杜と調和する新競技場】



(2)日本の気候・風土・伝統を踏まえた木と緑のスタジアム

新競技場の外周には日本の伝統建築の特徴である縦格子の軒庇を,日本全国の力を結集する意味を込めて,46都道府県のスギと沖縄県のリュウキュウマツによって設けています(写真−2)。
 

写真−2 日本の気候・風土・伝統を踏まえた新競技場】



(3)国産木材の利用による世界に誇れるスタジアム

新競技場のスタンドを覆う大屋根の鉄骨トラスの下弦材・斜材には木材を取り付け,樹形状の立体的な構成とすることで,木材に包まれた「日本らしさ」を感じられる空間を演出しています。
 
また,観客席には,自然色の5色(濃茶,深緑,黄緑,グレー,白)の椅子をランダムに配置し,大屋根の木々から差す木漏れ日をイメージしています(写真−3)。
 

写真−3 国産木材を利用した新競技場内】



(4)自然の力を活用した観戦環境の向上

夏の暑さ対策として,大屋根により日射を遮るとともに,フィールドの上昇気流も利用して「風の大庇」や「風のテラス」から自然風を競技場内に取り込みます(図−2)。
 
また,弱風時等には,2層および3層スタンドの先端下部の各柱間に取り付けた「気流創出ファン」により観客席に送風が可能です。このほか,外部の入場ゲート付近の人だまり空間等の8カ所に,水の気化熱で周囲の気温を下げる「ミスト冷却装置」を設置し,競技場の1階から4階には,冷房のある休憩室を各階4カ所,合計16カ所設けています。
 

図−2 観客席とフィールドの温熱環境の改善イメージ】



(5)アスリートが最高のパフォーマンスを発揮できる環境

“アスリートファースト”を実現するため,選手がスムーズに移動できる専用動線と諸室配置にするとともに,選手と観客の一体感と臨場感を創出するため,3層からなるスタンドの勾配を上層スタンドほど急にしてすり鉢状にしています。
 
また,良好な競技環境を整えるため,大屋根の南側には冬期の天然芝に効率よく自然光を取り込むガラスのトップライトを設け,フィールドには「芝散水システム」や「排水システム」,通年で最適な天然芝の育成環境を保つ「地中温度制御システム」等の高性能なフィールド設備を整備しています。
 
 

(6)すべての人が安心に利用して観戦できるスタジアム

世界最高のユニバーサルデザインを目指し,さまざまな利用者へ細やかに配慮するため,障害者等の関連14団体とのワークショップを設計段階および施工段階を通して全21回開催し,すべての人が安心して快適に利用できる環境を整備しています。具体的には,障害者,高齢者,小児等のさまざまな利用者に細部にわたり配慮したトイレのほか,授乳室,託児室・キッズルーム,ベビーカー置き場や気持ちを静めるための部屋等を設けています。
 
また,サイン計画では,ピクトグラムによる表示やサイン表示面,表示内容が大きくコントラストを強いものとするなど,誰にでも分かりやすいユニバーサルデザインに配慮しています(図−3)。
 

図−3 サイン計画における基本方針】



(7)安心して利用できる車椅子使用者の観戦環境

外部から段差なくアクセスできる1階には多くの車椅子席を配置するほか,2階から5階までの各階にも車椅子席を分散して配置しています(図−4)。
 
また,さまざまな利用者を想定した5タイプのアクセシブルトイレ(車椅子使用者用トイレおよび男女共用トイレ)を全93カ所に配置しています。
 

図−4 1階からの車椅子使用者の観戦イメージ】



(8)すべての人をフラットに迎え入れるみんなのスタジアム

車椅子使用者や足腰の弱い方をはじめ,すべての人が周辺の道路から敷地内に快適かつ安全にアクセスできるように,緩い勾配でアプローチできる動線計画としています(図−5)。
 
また,新競技場内には,すべての観客席まで安全に移動できるように,全階に着床するエレベーターと2層および3層スタンドへつながる専用エスカレーターを設置しています。
 

図−5 敷地周辺から1層スタンドまでのアクセス動線イメージ】



(9)地球にやさしい低環境負荷スタジアム

風通しの良い環境とするほか,太陽光発電や植栽の散水設備に雨水・井戸水を有効利用するなど,自然エネルギーを積極的に利用しています(図−6)。
 
また,導入する高効率機器を効果的に運用するため,施設特性や稼働率・気象状況・過去の実績データをもとに最適な運用管理を支援する次世代型のビルディング・エネルギー・マネジメント・システム(BEMS)を導入しています。
 
これら環境技術の採用により,建築環境総合性能評価システム(CASBEE)による環境性能は,最高ランクのSランクを満たしています。
 

図−6 自然エネルギーの利用イメージ】



(10)地域防災力を高める災害に強いスタジアム

2階から5階の上層階は,スタンド下の斜め梁と鉄骨ブレースにより地震時の変形を抑え,1階から地下2階の下層階には,312基のオイルダンパーを各方向にバランスよく配置する「ソフトファーストストーリー制振構造」を採用しています。これにより,地震エネルギーを効率よく吸収して揺れを抑え,大地震後も大きな補修をすることなく安全に使用できる耐震性能を確保しています(図−7)。
 
また,災害時に観客がどの席からでも外部まで15分以内に安全に避難できる避難計画としています。このほか,東京都帰宅困難者対策条例に基づく帰宅困難者対策として,施設内に災害時待避スペースを設けるとともに,災害時の施設機能維持対策として,非常用・保安用の各発電機のほか,上下水道使用不能時でも利用可能な各種水槽や防災備蓄倉庫等を設置しています。
 

図−7 ソフトファーストストーリー制振構造】



(11)維持管理コスト縮減に向けた長寿命化の徹底

施設の長寿命化のため,構造体に制振構造と高耐久性の部材を用いるとともに,仕上げ材にも高耐久性の材料・仕様を採用しています(図−8)。
 
具体的には,大屋根の仕上げ材はステンレスとし,雨掛かりのある「風の大庇」には木調アルミルーバーを採用しています。外装材に多用する木材は,雨掛かりの少ない部位に採用し,大屋根トラスに取り付けた集成材および軒庇に取り付けた縦格子の木材には,防腐・防蟻剤を加圧注入しています。
 
また,日常のメンテナンスへの配慮の一例として,大屋根トラス内に設置されるトラス部材のほか,照明設備,音響設備,配管・配線等の目視点検等を安全かつ容易に行うため,大屋根下部に4台の移動式ゴンドラと点検用歩廊を設置しています(図−8)。
 

図−8 各種長寿命化対策】




 

3. 本事業への導入技術

本事業に導入された各種技術を紹介します。

(1)木材と鉄骨のハイブリッド構造

前述の大屋根トラスは,鉄骨フレームの下弦材には国産カラマツの集成材を,斜材のラチス材には国産スギの集成材を取り付けたハイブリッド構造になっています(図−9)。
 
構造的には,屋根の長期荷重および地震・風・積雪等の短期荷重により生じる力はすべて鉄骨で負担できる設計とし,風による吹き上げ等の荷重に対しては,鉄骨に加え木材の剛性も利用して変形を抑える計画としています。そのため,木材の剛性がトラス材の引張・圧縮ともに効くように,鉄骨と木材を材軸方向に引きボルトで一体化するとともに,両者を落下防止用ボルトで固定しています(図−9)。
 

図−9 木材と鉄骨のハイブリッド構造(部材イメージ)】



(2)コスト・工期を縮減するシンプルな架構の構成

スタンドは,同形式のフレームを周方向に繰り返すシンプルな架構とし,建て方では同じ作業を繰り返し展開することで,施工効率の向上を図っています(図−10)。
 
屋根も単フレームごとに自立できる片持ち形式とし,トラスを周方向に繰り返し架構することで,スタンド工事の進捗に合わせて効率よく建て方を進めることができました。
 

図−10 シンプルな架構計画】



(3)汎用型タワークレーン支柱を利用した大型仮設支保工

大屋根の建て方時に一時的に屋根部材を支える仮設支保工に,建築工事で汎用的に使用されている丸型断面のタワークレーン支柱(φ=1.9m,L=4.5mごとに分割可能)を活用した大型仮設支保工を採用しています(写真−4)。
 
従来の小型部材による組柱形式の仮設支保工では,施工条件に合わせて,使用部材を個別に製作するため,仮設支保工の計画,製作,繰り返し続く組立・解体,安全施設等の設置・撤去に多大な所要時間と空間的制約がありました。
 
本工事における仮設支保工では,汎用型タワークレーン支柱の利用により,仮設部材数量を削減し,支柱に沿って作業足場が昇降可能なため,効率的に組立・解体ができました。また,使用部材の転用率が大幅に向上し,安全設備等の仮設設備があらかじめ装備されているなどにより,トータルとして組立・解体日数および労務・資機材の大幅な縮減を実現しています。
 

写真−4 大型仮設支保工の架設状況(工事中)】



(4)高性能制振構造の採用

地上2階から5階までの上層階は,観客席下の斜め梁と鉄骨ブレースによるブレース構造として,剛性を確保しています。
 
一方,地下2階から地上1階までの下層部には,中小地震から大地震まで性能を発揮できるオイルダンパー312基をバランスよく配置し,地震エネルギーを効率良く吸収する制振構造としています(写真−5)。
 
本構造の採用により,屋根や建物本体の地震時の加速度を抑え,地震による揺れを低減することができ,高い耐震性能を実現しています。
 

写真−5 制振構造におけるオイルダンパー(工事中)】



(5)徹底したプレファブ(工場製作)化の促進

施工効率を高め短工期と高品質を実現するため,徹底して工場製作のプレファブ部材を使用しています。具体的には,鉄骨を基本構造としつつ,建物基礎,観客席段床・踏石等には積極的にPCa(プレキャストコンクリート)を使用(約1万4,000ピース)するほか,外周柱や斜め梁はSRC(鉄骨鉄筋コンクリート)のPCa,建物内および周囲デッキの床にはハーフPCaを用いるなど徹底したプレファブ化を図っています(写真−6
 

写真−6 プレキャストコンクリートによる観客席の段床(工事中)】



4. おわりに

新競技場の整備に当たっては,多くの関係各位のご協力をいただき,受発注者一丸となって2019年11月末に完成したところです。2019年12月から2020年1月にかけた各種イベントでは,たくさんの方々に足を運んでいただき厚く御礼申し上げます(写真−7)。
 
新競技場が2020年の東京オリンピック・パラリンピックにおける数々の感動のステージとなり,その後のレガシーにおいても長期にわたり,人々に利用され愛され続ける施設となるよう適切な運用に努めていきます。
 
〈参照文献〉
1. 新国立競技場整備事業〜もっと知っていただくために〜
2. 新国立競技場整備事業技術提案書(2015.11.16)
3. 大成建設(株)「T-CAPS」NEWS RELEASE(2019.1.29)
注釈: 掲載のイメージ図・図解等は,作成時点のものであり,実際と異なる場合があります。

 

写真−7 オープニングイベントの様子(2019年12月21日開催)】




 

(独)日本スポーツ振興センター 新国立競技場設置本部
大成建設・梓設計・隈研吾建築都市設計事務所共同企業体

 
 
 
【出典】


積算資料2020年4月号



 
 
 

 

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